BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 リライズが地獄だったので初投稿です。


STAGE42 暗号のG

 ウツギという男との出会いはまたまたGBNβ時代に遡ることとなる。

 GBNのβ時代は残念ながらバランスの劣悪さやバランスの悪さが酷く、見つけては修正しを繰り返すというもぐら叩きじみた様相を呈していた。

 

 もちろん今は当時のようなひどさは影を潜めていたが一時期某スレッドにおいてはバグゲーだとかクソゲーだとかなんて声高に叫ぶ奴もいた。……いつの間にか消えたが。

 まぁそれは別にどうだっていい。重要なことじゃない。

 

 

 カドマツはバグの除去などの対応に追われており、カナタ個人に構っていられるほどの暇はなかった。

 その代行としていたのがウツギだった。

 彼もまたハイム・ソフトウェアの優れたスタッフであり、カナタとしてもよく世話になっていた。

 

 

 久々に会ったということと自分の正体の兼ね合いもあり、アヤには店番を任せてカナタとウツギは店の外を出て近所の公園に足を運んだ。

 ベンチに腰掛け、ウツギは胸ポケットからタバコ箱とライターを取り出し流れるように火を点け、紫煙をくゆらせ始めた。

 

「いやぁ、数年ぶりだねぇイズミ君」

 

 少し間延びした喋り方と言い当時と何も変わっていない。

 そのマイペースっぷりに少しの安心感を覚えながらカナタは続けた。

 

「えぇ。マスダイバーの存在について教えてもらってから……でしたね」

 

「僕もGBNの危機には黙ってはいられないし、運営のやることにも限界があるからねぇ……カドマツ君は反対していたけど」

 

 ハハハッとオチを付けて笑うウツギ。

 事実運営が処理できないのならユーザーが処理するしかない。ウツギの発想は正しかったのだ、結果的に。それも承知でカドマツはずっとカナタに情報提供をしていた。

 この男はすべての始まりと言っても過言ではない。

 

「まぁそれも祟って、情報提供止めましたよ」

 

「ふーん……ようやく自分の意見を通し始めたというのかな?」

 

 その含みのある物言いに思うところはないことはない。物腰柔らかい物言いから出る棘の怖さは兄のナユタの物言いから嫌と言う程味わっている。

 だからカナタは呑み込みながら続けた。

 

「まぁソードマン呼ばわりされた挙句自警団を生む原因となっちゃそうおいそれと使えたもんじゃァないでしょう」

 

 マギーも言っていた。これ以上深入りすればリアルにも響くと。

 その気になれば社会的生命を抹殺することだってできる人間がこの広大なネットワークには潜んでいるということも。無論引き際を誤るほどカナタとて馬鹿ではない。そして――今はまだその時ではない。

 

「勿体ないなぁ……君そこそこ強いだろうに。コックピットも狙えるし」

 

 暗黙の了解として、GBNにおいてコックピットを重点的に狙うのは周りからあまりいい顔をされないとされている。

 それ故に目を付けられてしまったのはある。となればその代理を取るとなれば結局そのしわ寄せが第二のソードマンに来るだけだ。

 マスダイバーがマスダイバーたる証拠が取れない。ただそれだけの事実がどれだけこの事態を拗らせているかこれで分かるだろう。

 

 わざとらしく嘆くウツギにカナタはぼんやりと空を見上げた。

 

 この空の下にいる誰かが第二のソードマンとしての咎を背負い始めているのか。

 それとも、それがいらない切り札ができたのだろうか。

 

「そう言えば、何か聞いてませんか。対ブレイクデカール用の装備が整ったとかそういう――」

 

 ふむ、とウツギは顎に手を当てて考え込む。……この様子では多分ないのだろう。

 暫くの長考から、公園の時計台がベルを鳴らす。――17時だ。カラスの鳴き声がよく聞こえてくる。

 

 ベルが止まったところでウツギは口を開いた。

 

「ないなぁ。このままでは誰かが第二のソードマンになるしかないだろうねぇ……」

 

「そうっすか」

 

 GBNを守るという点では正しい選択肢なのだろう。

 既に自分という失敗例があるし、状況も変わってきている。きっとカドマツなら上手くコントロールをしてくれるはずだ。……そう思いたかった。

 

「だがこのままでは誰かがまた自称自警団の餌になることだろうねぇ」

 

「ッ」

 

「誰もが正しい方で在りたいと願っている。どんな形であろうともねぇ。だからこそ分かりやすい悪を捜す、裁きやすい悪を。弱きを助け強きを裁く名目をもとに強きを助け弱きをくじく。ソードマンを倒せ! GBNを守れ! さぁ悪魔を見つけた刈り取れ! 奪え! 殺せ! と。あまり気分のいい話ではない。それを別の誰か、そして次の誰かへと変わって行く。誰もが君のようにメンタルの強い人とは限らないのだから」

 

 自分が情けないばかりに誰かに咎を背負わせるというのならどんな手を使ってでも自分が背負い続ける。奪い取ってでも。

 自分の好きを犠牲にして誰かの好きを守るなんて頭のおかしいことをやる必要なんてない。間違っているのだ、そうやって第二第三のソードマンを生むなんてことは。

 

「つったって、俺にやれることは限られてくる。口コミ如きでは多少限界というものが――」

 

 カナタの語調が少しばかり弱気になる。

 そうだ。幾ら情報が集まったとしてもそれを処理するだけの目は持っていない。あれから何度無駄足を踏み続けたか。愉快犯の流すガセネタに振り回されている。

 というかビルドダイバーズ連中のエンカウント率がコナン君と殺人事件じみてきている。その一般人からしたら地味に嫌な運くらいこっちに分けて欲しい。上級ダイバーと渡りを付けられるそのコミュ力と運は別にいいから。

 

 するとウツギの眼鏡が心なしかきらりと光った。

 

「何、心配はないよ。僕が一体何者なのか、知っているハズだよ?」

 

「……カドマツさんの代わりをやると――そう言いたいんですか」

 

「そうさ。但し、一つだけ条件はあるけどねぇ」

 

「なんです?」

 

 それなりに重い条件を覚悟してカナタは身構える。この男はほんわかとした顔とは裏腹にえぐいことを言って来る。今先程の誰もが正しい方で在りたいと(以下略)発言だってそうだ。

 しかし――

 

「僕と遭ったこと含めてカドマツ君には内緒にしてくれると嬉しいなぁ」

 

 意外にも意外というか――当たり前な条件であった。

 

「……それだけ?」

 

 完全に鳩が散弾銃を喰らったような顔になっていたカナタに、ウツギが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「おやぁ? もしかしてもっと重めの条件が必要だったかい?」

 

「いえ、滅相もありません!」

 

 ここで余計なことをしてこんな美味しい条件を逃す程カナタも愚かにはなれなかった。なればこそそのまま貰った情報で全力をもってマスダイバーを狩るだけだ。

 次からはどうしたものか。マスダイバーを狩る為の新しい装備を思考しながら、予定をくみ上げようとした矢先だった。

 

「ウツギさん。時間です」

 

 見知らぬ女の声が割り込んだ。我に返ったカナタは顔を上げると、そこには流砂のように流れ煌めく金色の髪が視界に入った。

 

「――え」

 

 身長はアヤとどっこいだろう。見た所年齢も大差ないくらいだ。きめ細やかな白い肌が茜色の夕陽を受けて奥行きのある彩りを見せている。腰まで伸びる金色の髪も輝きを増しているような気がした。

 蒼く深い双眸が、カナタを見下ろしていた。

 

 こんな過疎気味の街とはあまりにも不釣り合いな少女が、ウツギを呼んでいた。

 

「おっと、すまないね。フィオナ」

 

「……?」

 

 突然の外国人の登場と立ち上がるウツギを前に制止の言葉も、問いかける言葉も出なかった。

 言葉を失うとはこういう事を言うんだろうか、なんて妙な感慨に浸りながら、二人を見上げた。

 

「ここで失礼するよ。――さて君の健闘に期待しよう、では。アデュー」

 

 演技掛かった物言いと共にフィオナと呼ばれた少女共々この公園から去って行く。二人が見えなくなるまでカナタはベンチから立ち上がれず呆気に取られたまま茫然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また置いて行かれた気がする。

 アヤは一人、頬杖ついてぼんやりと自分以外誰もいない古鉄やという空間で溜息を吐く。

 

 あのウツギという男は何なんだろう。あとからあとから……自分の知らない縁が出てくる。自分が見ているカナタはきっとごく一部でしかないのだ。

 だがそれを全て知るということなどおかしな話なのは理解しているし男に嫉妬してどうするんだと思う。ここ最近タガが外れてきていないか――なんて。

 

 あぁ認めよう。どうしようもない程に彼のことが好きなんだということを。

 

「――馬鹿なやつ」

 

 ぼそりと口元から零れ出る自嘲に、アヤは笑う。

 一つ知ればもっとと求めている。貪欲な自分の醜さを垣間見て、ついた頬杖に力を込めていた。本当にこれで良かったのかなんて思いもする。

 今なら引き返しがつくだろう。けれども――

 

――わたしは本当に馬鹿だ。

 

 帰って来たカナタを前にして馬鹿な自分が勝ってしまう。

 そんな浅ましさに呆れるもう一人の自分(アヤメ)が脳裏を横切った。

 

「おかえり。…………カナタくん」

 

 少しの躊躇いから吐き出された名前は、カナタの表情を驚愕の色に帰るのに充分過ぎた。

 

「…………あぁ、ただいま。アヤ……さん」

 

 戸惑いながらもそう返してくれたことが嬉しくて、どうしようもなく涙が出そうだった。

 さっきのウツギのせいで中断されたものの続きがしたいと、もっと近くにいたいと。醜く訴える自分を抑え込みながら帰ってきた彼を迎えた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 ハードコアディメンションというものをご存知だろうか。

 GBNにおける、上級者向けエリアとされそこで得られるアイテムは莫大だが撃墜された時のペナルティも重く、ペナルティが発生する根本にあるフリーバトルという行為も互いの同意なしで始められるのだという。

 

 となれば迂闊に入り込むようなダイバーは皆無と言えよう。

 そんな中でシバは、アカウント無しで入る事ができるゲストダイバーを改造したローブの男の姿を使って廃墟の中を歩く。護衛には3名の傭兵とアヤメを引き連れているが油断はできない。

 

 一応警戒済みとはいえ何が起こるか分からないのがGBNなのだ。

 

――合流ポイントはこの辺か。

 

 脚を止めて周囲を見渡す。在るのは廃墟だけ、他のダイバーの気配は全くない。が――その時、世界が歪んだ。

 水面に石を投げ入れるが如く揺らいだ世界はやがて、廃墟から基地のモビルスーツ格納庫へとその様相を変えた。

 

 辺りを見渡すと別のローブの女、エージェントが待ち構えている。

 

「シバさん遅いですよ。デートの約束を守れない男は嫌われちゃいますよ?」

 

「チッ」

 

 ローブの女の軽口にシバは舌を打つ。

 別にこいつに好かれたくて行動を起こしている訳ではない。不愉快だ、とあしらいながらシバを口を開いた。

 

「会議を開く前に学級会でも開こうじゃねぇか、エージェント」

 

「おやおや、遅れてきた男が委員長気取りですか」

 

 エージェントの茶化しに構わずシバは続ける。

 

「一度やられたクライアントを使って偽ソードマンとして活動させようとした馬鹿がいるとなれば文句の一つや二つ言いたくもなるだろうが。足取りを掴まれたらどうするつもりだったんだ? えぇ?」

 

 あの偽ソードマンのダイバーは過去にブレイクデカールを利用しそのまま撃墜された。

 シバがこれまで足取りを掴まれなかったのは、過去にブレイクデカールを購入し撃墜。効力を無力化された者に2度目の購入や接触を許さなかったことに尽きる。

 

 一度使った奴が目を付けられるリスクは当然高い。そのまま尾行されて取引現場を抑えられでもしたらそれこそジ・エンドだ。自称協力者連中にもそのことは伝えているハズだが――

 すると、エージェントが口を開いた。

 

「貴方が手ぬるいからですよ。ソードマンにはもっと悲劇が必要だ。正義の味方ごっこをした果てに恨みを買い最終的には足元をすくわれ破滅する、中々ドラマティックで面白いじゃぁありませんか? それに加えて痛烈な教訓を与えてあげる必要もある。子供が大人に逆らうとどうなるか、ね」

 

「面白半分でこっちの計画をおじゃんにされちゃ困るんだよ」

 

 エージェント側の人間はローブの女のみ。だが情報攪乱などを成し遂げているのは彼の力があってこそだ。とはいえど遊び半分で無軌道なことをされるとなるとそのアドバンテージを捨ててまで斬り捨てた方がマシというものだ。

 

「まぁそう言わないで。最初から瞬時にGBNを完全崩壊させるようなものを作らない貴方にも問題があるのですよ」

 

「GBNの規模を分かってんのか……文句があるならテメェで作るんだな」

 

 必要あれば有用な人間でも斬り捨てる必要がある。

 返答次第ではそのまま手を切るつもりだった。そんな中でローブの女が口を開いた。

 

「やめなさい。ソードマンをズタズタにするだけのお膳立てはこっちがしてあげるんだから結果は同じでしょう? エージェント」

 

「あぁそうだ。あのディオキア? での演説、見事だったよ。ソードマンって知ってますか? 昨日わたしはそのソードマンに突然襲われました。何もしていないのにも関わらず突然……なんて」

 

 エージェントの芝居がかったキャピついた物言いにイラつきながらもシバは思考する。

 

 ソードマンがカナタであることは知っているのはこの場では自分だけ。

 そしてソードマンを目の上のたんこぶと思っているSSSの連中が個人ではなく企業ぐるみでの犯行である以上へたすればカナタが消されかねない。

――腐ってもあの野郎の弟だ。やらせるかよ。

 奴が殺られる前にこっちが殺る。そのための力が今この手の中にある。

 

「問題のあの野郎を叩きのめす新型なら作っている」

 

 エージェントやローブの女……そしてアヤメも、傭兵トリオもまた驚愕していた。当然だ、この新兵器の話をするのはこれが最初なのだ。

 手を挙げて指を鳴らすと真後ろに白いガンダムタイプと思しきモビルスーツが姿を顕した。

 

「ほう……コイツもガンダムですか」

 

「ガンダム……かその呼び名はあまり気に食わねえな。コイツは――『G』だ」

 

「ジー?」

 

 珍しく怪訝な表情を見せるエージェントを他所に、アヤメの方を向く。

 

「まさかこのモビルスーツ……ユニコーンの」

 

 察しが良い。アヤメの察し通りこのモビルスーツはRX-0の特性を内包したモビルスーツだ。シバは続けた。

 

「Gサイファー。こいつがお前の新しいモビルスーツだ。こいつでソードマンを殺れ――必ずな」

 

 Gサイファー。アヤメの操縦の癖を反映させたリアルタイプのG。

 ユニコーンの贋作の設計図をもとに創られた、贋作の贋作という設定を持つ。加えてブレイクデカールの性能を最初から十全に引き出すために創られた――

 

「あの人斬り野郎にはこっちも散々な目に遭っている。ケジメはこっちでつけるぜ」

 

 肝心の使い手を見るとぼんやりと、アヤメはGサイファーを見上げている。

 あの傭兵共とエージェントやGtuberと比較すれば一番巧く使えるのはこの女だけだ。それに一番肝心なのがこの女は絶対に裏切らないという自信があった。

 

 何故ならばシバの手には彼女が持っていた()()()()()()()があるのだから。

 

 

 STAGE42  暗号のG

 

 




 シバ側も一枚岩じゃない。
 がっつりと伏線回収をしながら終わりに進んでいく予定とかナントカ。

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