後半。××××××という場面転換から胸糞要素あり。
ご注意ください……
STAGE43 ブレイク・フォース
この単語にピンと来ないダイバーは今やいない。
その名の通り、ブレイクデカールを使うフォースの事を指す。以前はチーター軍団など呼ばれ方はばらけていたが公式の声明でブレイクデカールという単語が世に広まったことで一気にその呼び名が浸透した。
マスダイバーで構成されたフォースの噂はカナタ自身もちょくちょく聞いている。勿論証拠はないし、自分に向けられているマスダイバー疑惑と同じで事実無根というオチもありえるのであまり胸張っては言えないが。
あの連戦ミッションで出て来たジェガン3人衆もブレイクフォースに類する存在といえるだろう。
ここからが本題だが、今回大物の存在に突き当たった。
フォース・月明の7人。
当初は弱小フォースだったが、ここ数か月頭角を現してきているという。
たまに負けてはいるが、勝利している試合では敗北時とはくらべものにならない性能を発揮しており、知名度が低いながらもごく一部から疑いの目を向けられている。
「ここにいる連中、全員マスダイバーの疑いが掛けられている」
「……え」
ウツギに提示されたタブレットに表示されたダイバーリストを見てカナタは目を丸くした。
メンバーはフォース名の通り7人。それら全員にその嫌疑がかけられている。性能の大小こそあれど、おそらく単騎で連中を殲滅せしめることは多分無理だ。
今のマスダイバーはあの連戦ミッションの事件の非ではないのだ。
「だが、一つ朗報があるんだカナタ君」
「何です」
「それはね。ビルドダイバーズと対戦予定にあるってことさ」
「──っ」
──あー、またか。
コナン君とよく出くわす目暮警部はきっとこんな気分だったのだろうと勝手に思う。
それにべアッガイランドで色々衝突したのもあって今会うのはひどく億劫だった。
とはいえ便乗する相手として考えればそれなりに有り難い存在でもあるのには違いない。あのガルバルディ・リベイクの男やリクの腕前は良く知っている。だがまた巻き添えを喰らわせるのもまたいい気分でもなかった。
「……俺は何をすればいいんです?」
「フォース戦の真っ最中となると、介入は困難だろう。観戦とシャレ込むのもいいんじゃないかい?」
「もしブレイクデカールを使わなかったら?」
結局使わなければ意味がない。このまま嫌疑があやふやなまま襲撃をかまして無実だったなんてオチは殴られた側からすれば気の毒が過ぎる。それに時間の無駄でもある。
カナタとしては連中がブレイクデカールを起動したタイミングを狙いたかった。
「そこは安心していただきたいな。これまでの行動からして彼らは二連敗はしない。そして先日の試合では彼らは惨敗した……となれば」
「次は勝ちに行く……そういいたいのか」
カナタの問いにウツギはパチンと指を鳴らした。
「オフコース! 彼らは勝ちに行く。そして君はよく知っているハズだ。ビルドダイバーズの実力って奴を」
確かに彼らは荒削りながらも新興のフォースとしては有り得ない程の力を発揮している。
それはある意味ではブレイクデカールとの戦いがそうさせたと言える。多分、上位フォースより連中の処理には慣れている説はあろう。
彼らが奮闘すれば猶更ブレイクデカールの起動率もあがるというもの。
だが今回の標的が7人となれば話は別。
一気に処理出来る分返り討ちに遭うリスクもあろう。
「さて、ここで逃せば恐らくはGBNに大きなダメージを与えるだろうね複数機のブレイクデカール搭載機となれば自動的にバグの規模も大きくなるというものだ」
退路を奪われたカナタは、重い腰を上げざるを得なかった。
問題はGBNのことだけではない。
言わずもがなアヤの件だ。距離が近くなりすぎて次に何をすればいいのかよく分からないでいる。
多分それは彼女自身も同じようで、ただひたすら無言でこの古鉄やの品物を整理し直しつつ埃を叩き落としていた。
「……」
というか、あのウツギの乱入が無ければ下手してたらキスまで行っていた可能性は高い。
のぼせてやがる。と自己嫌悪しそうだ。
壁に頭を打ち付けて気を落ち着かせようとしてもただただ心がささくれるだけだ。
相手の事を考えましょうなんて小学生で散々っぱらいわれてそうな事を上手く実践できない自分自身の浅ましさを呪いながら切り出すべき言葉を考える。
ようやくまとまった所で口を開いた矢先──
「な──―」
「あのっ」
──はい被ったー!
アヤもカナタ同様何か言いたい事があったらしいが、おずおずと引っ込んでいく。
こちらも見事なまでにタイミングが駄々被りしたおかげで言おうとした事が一気に喉の奥まで引っ込む。こういった状況で話をするのにはRPGで言うMPみたいなものが削り取られる。その上相手の言葉を遮るのはあまりよろしくない気がしてカナタは完全に出鼻をくじかれていた。
「どうぞ」
と、カナタは投げる。
ぶっちゃけこっちの言いたい事はあまりにもしょうもないことだ。相手が仕事の話をしようとしていたとするのなら完全に空気が読めていないオチとなる。
「カナタ君が先にどうぞ」
と、アヤは投げ返した。
ここからは最早泥仕合だ。遠慮が遠慮を呼びラリーのようなナニカが始まった。
「いやアヤさんが先」
「そこはカナタ君が」
「アヤさんが」
「カナタ君」
そんなやり取りが5ループほど続いた。
押し合いへし合いが無駄だと察した所でアヤが口を開いた。
「──じゃんけん、しよ」
「それな」
「「さーいしょはぐー! じゃーんけーん──」」
「「ぽん!!!」」
「「あーいこでー」」
「「しょ!」」
「「しょ!」」
「「しょ!!」」
「「しょ!!!」」
「「しょ!!!!」」
「「しょ!!!!!」」
嗚呼、なんという不毛な争いか。延々と繰り返されるじゃんけんが幕を閉じたのは8回目のじゃんけんだった。疲れ切ったカナタは机に突っ伏し、「負けた……」とぼやく。
そう、このあまりにも不毛なじゃんけんを制したのはアヤだった。
「別に大したことじゃねぇんだよ……ほらあの夏祭りの時も色々ゴタゴタがあったしちゃんとした形でどっか行けたらって」
正直先ほどの勝負で毒気も緊張感も何もかも抜かれてしまったカナタはつらつらと述べながら、おもむろに取り出したスマホの画面を見せた。
横浜赤レンガ倉庫付近に立つ実寸大エールストライク像。
GBNが公式サービスを開始して間もないタイミングで完成したものだ。お台場のユニコーン然り、日本各地には実寸大ガンダム像が配置されている。
ある所ではゼロカス、ある所ではVガンダム。ある所ではAGE-1……なんて。
多少距離こそあれど、今は連休だ。
普段よりは時間に余裕がある。
「ちょっと距離はあるけどこういう夏休みだからこそって所あるし、さ……」
あの夏祭りは正直言って忘れたい。
いわゆるカナタ流の強がりだ。けれども──
当のアヤは完全に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。そして目をぱちくりさせながら、同じくスマホを取り出して大きく溜息を吐く。
まずったか。一瞬不安になるものの、彼女がすぐ見せて来た画面で全てを察した。
「なになに……実寸大エールストライク……あっ」
さっきまでの苦悩はなんだったのか。カナタは完全に徒労だったことを思い知らされてがっくり項垂れつつも同時に安心もした。
「言おうとしたこと同じだったね……」
「さっきの緊張はなんだったんだ……?」
「さぁ?」
お互い肩を落としているとなんだかおかしくなってくる。
耐え切れずアヤはくすりと笑う。
「ンだよ……」
不貞腐れ気味にカナタが言うとアヤは応えた。
「ちょっと嬉しいかも」
「なんで」
「だって、多分色々考えてること違うと思ってた好きな人と考えがちょっとでも一緒だったなら嬉しいっていうか……嬉しくない?」
言葉尻に近づくほどに声がか細くなっていく。
そんな上目遣い気味に不安げな声を出されると首を横に振れはしなかった。本来なら首を縦に振るべきだし、カナタの本心としてもそうなのだが、縦に振れるほど強気にはなれなかった。
彼女いない歴=年齢の軟弱な思考回路の限界である。
「ないしょだ」
「……いじわる」
拗ねたアヤは少し膨れっ面になり、カナタは明後日の方向を向いてすっとぼけた。
これを付き合っていると言えるかどうかはさておいて、昔ならこんな話なんてしていなかっただろう。以前より距離が近づいているのは確かだった。
無論、今の状況に甘えていい理屈はないし弱音を吐くことは間違ってるはずだけれども。少しだけ、休んでいたかった。
◆◆◆◆◆◆◆
「もう大丈夫なんですか」
ステアがアークエンジェルスに戻った。
その報せを聞いたことでリクとゴーシュはステアのもとに訪れたが、彼女を見た感じあのディメンションを彷徨している時の所在の無さはもう何処にもなかった。
「うん。……話してきた皆と、色々」
話さなければ分からない事もある。ということか。
全てが終わった跡を前にリクは微笑んだ。
「見つかったか。ここじゃない何処かは」
ゴーシュとしても多少なりと面倒を見た身だ。彼女がどうなったのかは常々気にしていた。皆と話に行って来ると告げ去ってからしばらく見ていなかったのでようやく一息吐けた気がする。
「うん。いっぱい怒られた、いっぱい泣かれた。でも──自分たちがほんとは何がしたくて
もちろん元通り──とはいかない。
ステア自身が背負った罪は消えない。皆が許してもステア本人が許しはしない。
そんな今から前に進めるのであればもうゴーシュから言う言葉はなかった。
「こうしてここにいられるのもアークエンジェルスの皆とゴーシュとリク君のおかげだよ」
そう語るステアの瞳は過去に戻れない事への一抹の寂しさと、前に進むことの決意が混ざり合って見えた。多分今この瞬間、自分よりきっと凄い娘になっている。そんな確信がある。
徐々に迫るゴーシュに課せられたタイムリミット。否が応でもゴーシュもまたステアのように向き合わなければならないのは明白であった。
結果、それが和解敵対どの結果を齎そうとも。
でも今はそんなことは忘れて喜ぼう。顔見知りのダイバーの問題が一つ解決したのだから。
「そう言えば話変わっちゃうけど──明日だっけ。月明の7人と戦うのって」
月明の7人。
確か、ビルドダイバーズ同様の新進気鋭のフォースと言われている。
いずれはぶつかるとは思っていたがこんなにも早いとは思いもしなかった。
「俺たちと同じように第七機甲師団の支部、第七士官学校とフォース戦をし圧勝したそうだけど……」
負けられないと、リクは拳を固める。
第七士官学校とビルドダイバーズは暫く前に交戦、勝利を収めている。
それに対して月明の7人は圧勝したのだという。ゴーシュは端末の戦闘ログを見ながら口を開いた。
「彼らが言うにはこちらの地形戦術がまるで通用しなかった、と。……確かにあちらは地形に対応する迷彩を使用しミノフスキー粒子を散布。その辺の雑魚レーダーを使い物にならなくしていた」
迷彩というものは実際に見れば分かるが周囲の地形に合わされば、思った以上に捉えることは難しい。
いつ撃たれるかわからない切迫した状況下でウォーリーをさがせをやらされることの難しさは多分、当事者にならなければ分からない。
リアルなら迷彩衣装でやるサバゲーか、時間制限を設けて残り時間を見ずにウォーリーをさがせ! をやれば擬似的にではあるが分かるかもしれない。
「それをジムスナイパーⅡの改造機で隠れている機体を狙撃。想定外の攻撃で混乱しているところを別働隊が高高度から下駄で飛行。クロスボーンガンダムのピーコックスマッシャーで盤面を荒らし、地上のビーム耐性を持つガンダムで各個撃破……かなりの強敵だな、これ」
構成は狙撃のジムスナイパーⅡ、砲撃のバスターガンダム。
空からビームのシャワーを止め処なく降らせるクロスボーンX1にサザビー
そしてトドメのグシオン、アカツキ、V2アサルト……
いずれも微細な調整が加えられており、トドメ役の3体はビーム耐性を持っており下手なビーム兵器では通用しないように見える。
上手くやるなら、グレネードや格闘戦で装甲に亀裂を入れてビーム兵器を叩き込むのが王道か。
恐らくあの対ビーム持ちのフォワードを狩るのはコーイチとリク、アヤメになるはずだ。
狙撃と砲撃、空の連中は現状ユッキーとゴーシュが散らして時間を稼ぐことになるだろう。
そしてモモは川を通って背後から狙撃機を刈り取る。
思った以上に難物だと、頭の中で盤面を整えながら舌打ちする。
それにこっちは数が足りていない。
リク、ゴーシュ、ユッキー、モモ、アヤメ、コーイチ。6人だ。勿論サラを含めれば7人だがいかんせんサラの場合はガンプラを持っていないし戦っている姿ら見たことがない。
そんな彼女に無理強いは持っての他。
こんな状況でやれるとは言えない。けどやるしかないのも事実であった。こんなハンデで負けるようであればこの先生きのこれないというもの。
「あの……私でよかったら」
そんな中でステアが手をあげる。そんな彼女にリクもゴーシュも目を丸くした。
「いいんですか?」
「いいも何も。わたしじゃ弱っちいし弾除けにしかなんないだろうけど……」
「いや、助かる」
そう言ったゴーシュ自身もビルドダイバーズのフォワードであるリクもステアも隠れた実力者ことコーイチもアヤメも誰もが皆弾除けの役割を持っている。
戦いにおいて大事なのは誰かが攻撃を受ける数を減らして、こちらの攻撃のチャンスを増やすこと。
戦いは数だよと誰かが言ったがゴーシュはそれを聞いた時縦に首を振った。戦力差を覆すことは不可能ではないが、その為に割くリソースを考えれば頭数は必要だ。
だが、一つ。
ゴーシュには懸念事項があった。あの月夜の7人には良からぬ噂がある。
杞憂だ。そんな噂を前にそう無意識的に楽観視してしまった結果一波乱産もうなど。この時彼は思いもしなかった……
××××××
朝だ。
いつも通りの最低な目覚めをしながら、時計を見る。時間は昼間の12時。太陽が一番高い位置にいる時間だった。
重い上半身を起こし見慣れた部屋を一瞥した。
乱雑に散らかった漫画、雑誌やゲームソフト、衣類。一度寝てしまえば異世界なんて甘い展開になるわけがなかった。
そんなことを繰り返し続けて何年になるだろうか。……覚えちゃいない。
気を落ち着かせようとスマホに手を取る。
するとドアを叩く音がした。鬱陶しい。苛立ちを抑えながら静かになるのを待つ。
だが静かになるどころか男の声がドア越しから飛んできた。
「おい、また仕事を辞めたんだってな? 今年で何度目だ? おい」
またじゃない。今年に入ってまだ4回だけだ。
「いつまでそうやってしている? 大学も途中で辞めてお前は何がしたい」
そんなもん今のご時世で決まるわけがないだろう。
大学に行った所で別に人生薔薇色になるわけでもない。今時東大卒でも路頭に迷うって話だ。
ならその辺の私立行った所で何にもならないだろう。
昔のバブルの残り香でのし上がってきた奴にどうこう言われたくはない。
吠える父親の声に男は「しょーもね」と溢す。
もちろんこっちだって考えている。次はちゃんとしたバイト先を引き当ててその傍らプロゲーマーになってこれまでの負債を取り戻す。
一発逆転をしてやる。
父親が離れていく足音を聞きながらGBNのダイバーズギアに手を取る。
その為のチャンスはまだ手元に残っている。
子供の頃友達にゲームがうまいと褒められたことがあるし、勝率も高い。
加えて俺は裏技を知っている。
男は裏技を持っていた。それはGBNにおいて必要なガンプラにICチップを練り込んだデカールを塗り込むだけで自機が圧倒的力を手に入れる。そんな裏技だ。
アングラな通販で手に入れたそれはブレイクデカールなんて呼んだか。
物の試しにと、近くの弱そうなダイバーに勝負を挑む。素組のガイアガンダムに乗っていたが、物の相手ではなかった。
ブレイクブースト。ブレイクデカールを発動させ、素組のガイアが放つ攻撃から発生するダメージを上回る自動回復能力で受け流し、いくら重装モビルスーツとはいえ連続で斬り刻まれれば死あるのみのガイアの両翼のビームブレイドを受けてもなお悠然と立つグシオンは男の気をよくした。
そして極限まで高めたグシオンの機動力はまるでGを無視した動きでガイアを翻弄する。
少女の綺麗なアバターの顔が絶望に歪むのが手に取るようにわかった。
そして一頻り遊んだ所で、グシオンハンマーを振り上げガイアの装甲は──ぶっ飛んだ。
いや、正確には弾け飛んだ。最早原型を留めないほどに分解されたそれはバラバラと雨のように地に降り注ぎ転がり落ちる。
そしてコックピットブロックだけ放り出された少女は怯えた目でこちらを見上げていた。
男は確信した。
この女は「覚悟」がなっていない。どうせ今はやりのガンプラ女子ともてはやされて中身のない連中だと断じた。
故に教育してやらねばならない。
「素組みなんておたく、ガンプラに向いてないよ。そんなんでガンプラに触らないで貰いたいね。ガンプラ女子とか囃し立てられて良い気になんなよな」
言ってやった。
今この女はわたしは被害者ですって顔をしている。
男は心中で主張する。被害者なのはこっちだ。このGBNを汚しているのはお前たちみたいなにわかどもだ、と。
その力さえあればあのスカしたクジョウ・キョウヤなるいけすかないチャンピオンも瞬殺出来る。
初めてブレイクデカールを使ったときはそう確信できた。
本当に強いのはいかにして力を手に入れることができるかを知る情報強者である。
その点において男は絶対の自信を手に入れていた。
「しっかりしてくれよな。俺たちこれ以上連敗しちまったらフォースが自動解散しちまう」
何も知らないフォース月夜の7人のリーダーががたがた言ってくる。
先の戦闘では何度もやられてきた。それは全て調子が悪かっただけなのだ。男はリーダーに聞こえないように舌打ちしながらグシオンのブレイクブーストのボタンを押すのを今か今かと待ち続けていた。
さていざ実戦となったとき、乗機のグシオンの装備であるハンマーが炸裂したとき、敵モビルスーツは弾け飛んだ。
一撃必殺。会心の一撃。
次々と敵モビルスーツを粉砕していくその姿にフォースの連中は未来のチャンピオンを見たことだろう。
「お前すごいな。そんな力を隠してたのかよ」
「一体何を食ったの」
「さっきまで無視してごめんな」
自分の隠された力があったのだ。フォースの中でやんややんやと囃し立てる連中をよそに真に評価されるべきは俺だと。男は確信した。
それが、人斬りと遭遇するまでの出来事だ。
いつものようにクズどもを狩る。
アカウントを秘匿し、カラーリングを変えたグシオンでGBNを荒らす奴と戦い続ける。
まずチュートリアルで苦戦するような奴は必要なかった。見ていてイライラする上その手のがGBNの質を落とす。それが男の主張である。
その問題のZガンダムに乗っていた男も酷かった。機体に完全に振り回されており、明らかに他人に作ってもらったような他力本願の性質を持っている。
潰してやる。
勇んで乱入を掛け、Zガンダムを追い詰める。
だが、その時現れたのだ。奴が。ソードマンが。
ふと、あの上着付きのアストレイが脳裏を過ぎる。
あの日本刀を持つ機体が装甲の疲弊を衝いて3連続で刺突をたたき込む瞬間。
今思い出しても腹立たしい。
あの人斬り野郎はきっとダークヒーローを気取って気持ち良くなっている偽善者だ。あの度重なる醜態は奴が俺を貶めようとしているがゆえのものだ。
ブレイクブースト時に撃墜されればブレイクデカールはその効力を失う。
物言わぬ物体と化したブレイクデカールを前に男は焦った。このままではこれまでの苦労がパーだ。
あのブレイクデカールのおかげでこれまでの運営の執拗なアカウント制限やらBANからしばらく逃れられたというのに。
フォースで培ってきた勝利も無駄となってしまう。
だが、ブレイクデカールを売っていた男と連絡は一切取れなくなっていた。
どうやら敗者に何の用もないらしい。
気が狂いそうだった。
そんな時、見知らぬダイバーが声をかけてきた。奴はエージェントと名乗った。隣にはGtuberの一人であるはずのネネコがいた。
一瞬目を疑ったが、目の前で起こっていることは紛れもない現実であった。
「私と契約しませんか? 契約すればかつてのように格安でブレイクデカールを手に入れることができる。勿論、アルバイトはしてもらいますがね」
「キミなら出来る! キミはすごいマスダイバーだって聞いているわ!」
そうのたまうエージェントの提案に男は乗った。それにネネコがまさか自分を買っているとは思わなかったのだ。
その時手を両手で包まれ近づかれたときにほのかな香水の匂いがした。
この女は俺のことが好きらしい。
で、エージェントが提示したアルバイトとは……ソードマンとしてダイバーを狩ることでだった。
エージェントから買い受けたブレイクデカールはこれまで以上のパワーを出していた。なんせ無から新しい武器を呼び出したりしたのだ。
その気になれば強靭、無敵、最強のモビルスーツを生み出すこともできた。
が。
それもここまでであった。
口止めに元マスダイバーであるガイアガンダムの乗り手を始末しようとした矢先、まずはSDガンダムと白いゼータ、ダブルオーに阻まれる。
その結果エージェントとそれを取り巻く連中の態度が一変した。
ネネコも苛立ったように、エージェントの対応もあっさりとしておりアレが営業スマイルであることに気づかされた。
ハニートラップ。俺は嵌められたのだ。
汚名挽回*1にと連中の要求通りにギガフロートを荒らしていたらソードマンとあのSDガンダムが出現。
結果的にソードマンの気持ち悪いマニューバを前に、偽ソードマンのアストレイはあっけなく破壊された。
自分が思考するよりも先にソードメイスで殴りかかるその姿は最早恐怖以外の何でもなかった。
何が奴をそうさせるのか。不条理が手足を生やして鉄塊を振り回しているような現状に男はイラ立たずにはいられなかった。
俺が何をしたんだ。と。
親の叱責、バイト先で事あるごとに怒ってくる奴ら。
何が挨拶しろ、だ。何が連絡しろ、だ。
新人なんだからこっちは右も左も分からないのだ。それを理解せずに上から目線でガタガタ言ってくるな。
こっちだって色々考えているのに何故キレる。
ふざけるな。
二度目の撃墜を食らったときにはもう。エージェントからも連絡が取れなくなっていた。
そしてネネコもまた。
「ごめんねー! 弱いし態度でかいしぶっちゃけもう……声かけてくんな」
邪剣におしのけられてブロック。
完全に連絡手段を奪われてしまった。
俺が何をした。
度重なる理不尽に耐えかねた男は自問自答する。一発逆転はまだ出来る、と。
力を失い意気消沈しているところ、久々にフォースを訪れるとそこには──
リーダーは言った。
「なぁ、◼️◼️。お前の力の理由わかったよ。お前、ブレイクデカールを使っていたんだな。
彼らの機体から発せられる「歪み」は確かにブレイクデカールユーザー特有のものだった。そう、とどのつまり。
自分を囃し立ていた奴らが全員ブレイクデカールを手に入れていたのだ。
立ち塞がるGサイファー、新装備を携えたオルタナティブは何も知らないまま戦いを続ける。
そして得られぬ者の慟哭、怒り、絶望。
その声を知らないフリをしながら刃を振るう。
次回、『セブンエッジ』
全ては、未来と言う名の過去を守る為。