「えっ! アヤメさんがリアルの急用で休みだって!?」
さて、フォース戦当日。
リクがギョッとした顔で声を上げた。ビルドダイバーズのメインメンバーであるリク、ユッキー、モモ、コーイチ、そしてバンドで例えるならサポートメンバー同然のゴーシュとステア。そして応援係のサラという7人が揃う中、アヤメだけが欠けている。
いやまぁリアルなら仕方ない。というか世の中リアルの用事に勝るものはないのだから。
とはいえ困った。アヤメの実力は確かなもので彼女が欠けた穴をどうにかして埋めなければならない。
納まりが悪いが6on6で我慢して貰うか、6on7の劣勢でどうにかするしかないだろう。
ん? ちょっと待った。7人じゃないぞ。
「一つ二つ……あれ、8機いるぞ」
コーイチが眼前に並び立つ対戦相手のモビルスーツが7機ではなく8機いることに気づき声を上げる。
増えている。その事実にリクの頬に冷や汗が流れ出た。
事前にゴーシュとコーイチの提案で対戦相手の対策会議を開いたのだが、その時点で行ったシミュレーションでは7機しかいなかった。
そして情報にないモビルスーツに視線をやる。
ガンダムタイプか。
ユニコーン系とGレコ系を足して2で割ったような意匠だ。
差し詰め、ガンダムじゃなくて『G』か。事実ステータスに開示された機体の名前は『G-サイファー』だった。
サイファーは0、暗号を意味している。
RX-0の系統であることは明白だった。
ゴーシュとコーイチが酷く頭を抱えていた。こんなの想定外だ、とかボヤき倒している。
「昔、ユニコーン3号機の再現機がリギルドセンチュリーに出現するアニメがあったんだ。その時はGフェネクスって名前やカラーリングを変えてたけど。もしかして同じように……」
いつものユッキーの知識が炸裂する。一体全体何処からそんな知識を調達してくるのやら。
彼の言から察するにターンエーガンダムに出てくるボルジャーノンとかカプルとかの系譜ということか。直系ではないとしても親戚程度には関係がありそうだ。ナラティブとかあの辺くらいには。
作った当人がどう考えているのかは分からないが見ただけでも威圧感を剥き出しにした作りで完成度も高く見える。
あの機体を見上げながら、あの機体がどう動くのかを頭の中でシミュレートする。もしアレがサイコフレーム搭載機の系譜だとしたらデストロイモードめいたフル稼働モードがあるはずだ。
最初の動きをちゃんと捉えられないようではきっと、撃ち落とせない。
「リク……」
「どうしたの? サラ」
ふと、リクの後ろで隠れるようにサラが肩を小さくしていた。白色の髪が震えている。
「あの機体……怖いよ……」
「怖い?」
「怖い……悲しい……憎い……? わからない、ワカラナイ」
サラでも形容し切れないナニカを、あの機体は孕んでいる。それがリクの奥底に眠る恐怖心を刺激する。
不思議なことにサラの直感というものはよく当たる。そのお陰で疑う余地もなかった。
悪意、恐怖、憤怒、憎悪、絶望。それらを綯い交ぜにして、一体何を求めてここにきた。
応えてくれ。
問い掛ける。同然の物言わぬ機械が応えるわけがなかった。
「あらぁ、お困りのようね」
この女性的な男の声。
振り返るとマギーが「はろー」と手をひらひら会釈していた。
面々が口々に彼の登場に驚く中、マギーは今日この場にいる面々を一瞥し瞬時に状況を把握してみせた。
「
「えぇ。どうもこのタイミングで隠し球を出してきたようです。加えて主力1名がいなくなっている現状、予定とは違う立ち回りをさせられる。そんな予感がしますね」
何故か野球選手みたいなインタビューをしているゴーシュの傍ら、コーイチは考え込んでいた。なんせこのビルドダイバーズで最も戦略を重視する男だ。
不確定要素は戦略を重視する者たちにとって忌むべき存在であることは言うまでもない。
「そういうことなら……!」
何やら色々ツテがあるのか、懐からPDAを取り出す。そして──
「もしもし、アタシよアタシ。ちょっとお願いがあって……」
そのお願いされた者は間もなくしてやってきた。
「助っ人、ミスターケンドーよ」
ふとリクの脳裏で何処かの芸人の顔が過ぎる。
いや違う、絶対に違う。即振り払うが、マギーのすぐ横に現れた男は珍妙奇怪ないで立ちをしていた。
学校の武道場にでも置いてそうな剣道の防具めいたものを身に纏い、顔は明らかにガンダム00に登場した変た……ミスターブシドーのものを被っていた。
不審者だ。右から見ても左から見ても、上から見ても下から見ても、斜め45度から見ても不審者だ。
マギーを今更疑う理由なんてないし、彼……じゃなくて彼女の見立てからして相当な実力者だろう。
クジョウ・キョウヤの変装以上の不審者っぷりだが──ん?
こんな展開どっかで見たことあるような……
「彼はミスターケンドーよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
リクの思考を読んだのかカミーユ・ビダンに
そしてサラの場合──
「この人ってカタ」
「「あー! あー! あー!」」
サラの悪意なき天然からきた指摘にケンドーとマギーが揃って大声をあげて遮った。
「カタ……?」
「あぁ片倉小十郎か。私の尊敬する偉人の一人だ」
ミスターケンドーは明らかに挙動不審になった挙句、話題を逸らした。
というか片倉小十郎って誰だ。名前からして日本の偉人なのには間違いないけれど──誰?
歴史の教科書に出る名前でもないし出てもテストに出るようなものでもなかったのでリクには知る由もない。
意外とサラは歴史オタクな所があるのかなとか思いもしたが、そもそもこんな話の流れで出てくるものなのかと言われたら完全に首を傾げるようなものだった。
明らかに様子のおかしい雰囲気についてこれ以上考えても仕方がない。それに──
「やっほ。ステア、あたしも来ちゃった」
ミスターケンドーの後ろからステアのフォース仲間のカナリが手をヒラヒラしながら出てきた。
意外なゲストにステアが声を上げた。
「カナリ⁉︎ どうして……」
「いやぁ、何というかウチのステアがお世話になったし恩返しというか何というか」
うはは……と変な笑いを浮かべるカナリ。そんなやり取りを見てステアが戻れたことに安心すると同時にリクの胸中には別の不安だけが残った。
相手の隠し玉……Gサイファーに対して今はリクの背中に隠れて落ち着いているようだが、サラの異様な怯えようが一体なんなのか。彼女の勘は元々よく当たるのも相まってリクの不安はこれまでになく膨らんでいた。
◆◆◆◆◆
完全に読まれていた。
カタナが遠距離からビルドダイバーズの動向を監視していた矢先にマギーに呼び出しを喰らったのだ。完全に付けてきていることを読まれている。当然、月夜の7人がマスダイバーであるという疑惑も当然掴んでいた。
どうも、メインメンバーの1人が急用で離脱したとかで、自分が乱入する猶予は出来ているということらしい。
「それに参加しておかないと、ブレイクブーストをしたとき乱入できるかの保証はないでしょ? それに、試合の後を追っても全部倒せるって自信はあるのかしら?」
「……それは」
事実マスダイバーが分かった所で、フォース戦に割り込むことはシステム上困難だ。となれば試合後に殴り込むことになるがそんなことでは全員刈り取ることは困難だ。
特にブレイクフォースとなれば猶更。
マギーの指摘は正鵠を射ていた。
「俺を──止めないんですか」
「止めても止まらないのならもうやることは一つ。そうでしょ?」
止めても止まらない。その物言いには諦観もあった。けれども絶望もなく。
カタナとしては正直自分の戦う理屈にマギーも誰も巻き込みたくはなかった。元々これは自分の未来という名の過去を守る為にここにいるのだ。
「アナタ一人の戦いじゃないんだから、他の皆に甘えちゃいなさいな」
けれども、こっちがやめろと言った所でマギーが止まる訳じゃない。先のマギーの発言然り、根っこからのお節介なのはGBNサービス開始からの筋金入りだ。それにマギーの提案にのれば効率がいいのもまた事実。
通信を切り、カタナはオルタナティブの操縦桿を握りしめマギーの指定した座標に向かいながら一人ぼやく。
「まったく性格が悪い……」
それはマギーに対しての言葉じゃない。どちらかと言えばマギーの提案に乗る自分自身であった。
巻き込みたくないと言いながら合理性も同時に追求してしまっている。いつも通りアカウント情報を非公開にし、ダイバーとしての外見も切り替えていく。
ありあわせの装備しかないが、ビルドダイバーズやマスダイバーを欺くには充分だった。とそう思っていた時期がカタナにもあった。
◆◆◆◆◆◆◆
ビルドダイバーズと合流し、挨拶を済ませてから月夜の7人の状況を確認する。
見た所、普通のチームが傭兵を雇った、それだけに見える。ビルドダイバーズと然したる差はないような──
機体構成は全体的にバランスは悪くはない。
そのため単独で彼らを殲滅することは冷静に考えて不可能であった。なんせ、全員マスダイバーだとすれば全方向からゲームシステムから外れた戦略兵器を撃てるということだ。
いずれこうなることは薄々気付いていた。
それに納得がいくかとか個人的感情はさておいて。
一人、コックピットの中で戦闘開始を待つ中でカタナは大きく溜息を吐く。
巻き込みたくないと言っても巻き込まなければ勝てない試合だ。
俺は今、小賢しいことをしている
何も知らないし関係もない上に、なんなら被害者である彼らを巻き込もうとしている。
……真っ当にGBNをやっている彼らからすればとんだ厄介者だ。
カタナは「へっ」と吐き捨てるように笑う。
偽装した灰色のガンダムエクシアの改造機はツインアイを鈍く光らせ対戦相手を威嚇しながら、ライトアームに装着されたされた大剣型複合兵装、《GNソード》の刀身に月夜の7人のモビルスーツを映した。
そんな中、ビルドダイバーズの誰かから通信が投げ掛けられる。
流石に無視するのもアレなので応答するとコーイチの声がコックピット内のスピーカーから飛んできた。
「久しぶりだね、ソードマン。その様子ならマスダイバーか……」
ここで嘘を言ってもしょうがなかった。なんせあちらの推理力はバカにならない。そんな気がする。
その洞察力でふとコウイチの姿が脳裏を過ぎる。名前や喋りも似ているお陰で過ったものが中々消えなかった。
「多分。もしそうじゃなかったら俺は消える。邪魔はするつもりはない」
「随分と他人と壁を作ろうとする。うちの何処かの誰かとそっくりだ」
一体誰なのか訊くつもりもなかったのでそれ以上返さなかった。
他人と壁を作っている自覚は、ある。
こうでもしなければいざと言う時に自分を切り捨てることだって出来まい。
もしもの時切り捨てても誰も文句は言わないし言うつもりもない。
余計なお世話だろうが、これがミスターケンドーもといカタナなりのリスクマネジメントであった。
他人を燃やす奴は近くにいる人間にだって平気でガソリンを撒くのだから。話題を戻してコーイチが作戦内容を伝え始めた。
「……今回は相手の陣形を崩すことを念頭に入れて行動をする。あのチームはポジションや戦術がはっきりしている……だからこちらから先手を打つ」
初手はバスターの砲撃とジムスナⅡの狙撃。そしてSFSに乗ったサザビーとクロスボーンX1が上空からビームの雨を降らせてその隙に地上からV2アサルトとアカツキ、グシオンが突貫。
このチームの巧い点は
一人殴ったところで相方が役割を果たす。
となればこちらも同様の条件で数を合わせて、足止めをさせるのが定石。
まずコーイチのガルバルディリベイクとステアのガイア、そしてモモのモモカプルが前衛。
上空の敵はリクのダブルオーダイバーとカナリのムラサメが蹴散らす。
ユッキーのジムⅢビームマスター並びにゴーシュのゼータは狙撃でバスターとジムスナⅡを黙らせる。
「そしてソードマン。君は僕たちと一緒に……」
今回の戦闘は8on8
あの追加で増えてきたGサイファーとやらが戦闘に入っても取り逃しは出なくなった、
イレギュラーで増えてきたモビルスーツも同様にマスダイバーなら笑うしかないが千載一遇のチャンスとも言えよう。
だが、期待するな。欲張るものじゃない。
二兎を追うものはナントヤラだ。
納まりの悪さに落ち着かない心を納得させながら、カタナは口を開いた。
「俺は弾除けをやる。奴らのヘイトを集めればお前らもやりやすい筈だ。特にエクシアは分かりやすく接近戦対応機、狙撃機の格好の餌だ」
「その実、そのエクシアは恐らくいつものアストレイのようだね」
「芸がないが、別の機体を使うと正直安定しない」
「なるほど。それで……これまでの傾向から鑑みるに近接戦主体のジャケットか」
「企業秘密だ」
「SEEDにW風に鉄血風に今度は00風……もしかして最近のGジェネを」
「エー、ナンノハナシデスカネ」
明らかに様子のおかしいカタコトが喉奥から出た。
別に
色々看破されまくってて、正直カタナ的にはコーイチが苦手で仕方がなかった。カミーユを拒絶したハマーンってこんな気分だったのか。……多分違う。
話を戻すが今回の偽装について、オリジナルのエクシアとは違って背中の太陽炉が飾りなのでセンサーをよく見たらGN粒子は出ないし基本的に地上戦が得意なのは相変わらずだ。
なので今回のコーイチが提示したポジションは適切としか言いようがなかった。その点でのコーイチの慧眼は目を見張るものがあった。
「もしマスダイバーなら僕らも戦うよ。連中を止めなきゃならないのは同じだからね」
マスダイバーを見て見ぬふりをされるよりは良い。それに彼らの技量ならちゃんとやっていけるはずだ。
だが、それでも。それに自分が絡むとなおも拒否反応が出てしまうのは何故なのか。
自分一人で十分なんてものは思い上がりも甚だしいし身の丈に合っていない。
でもこんなことに付き合う必要もないと思うのも確かなのだ。
「お前たちはお前たちでやってくれ。俺は俺でやる」
「そうするよ。君を助けるのも勝手にやることにするよ」
「またそう言うか……」
跳ね除けるようにカタナはボヤく。
GBNを救うのはカタナではない。ビルドダイバーズやマギー、キョウヤ、カドマツをはじめとした善意。
GBNガーディアンズのようなどういう形であれ不正を憎み正しい側でありたいという誰もが持つ願いだ。
自分の場合外道なら外道らしく最後は倒されて終わればいい。咎なら受ける、マスダイバーを倒した後で。
「なんでそう、不器用になったんだ。あいつと言いまったく……」
コーイチの呆れ全開の一言に「性分だ」と返しカタナは通信を切った。が、一瞬だけすぐ切ってしまったことを酷く後悔してしまった。
不器用になった。その物言いが妙に引っかかってしょうがなかった。まるで──
そうなる前を知っているような物言いじゃないか。
いつもの鉄血風タイトルはおやすみ
あ、因みにコーイチはとっくに気付いてます。
シバもコウイチもカナタの師匠みたいなものですから。