BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 初投稿……だったと思う


STAGE46  セブンエッジⅢ

 まるで悪夢でも見ているような気分だった。

 グシオンのコックピットで、男は悪態をつく。

 二度もブレイクデカールを失った男にはもう代替のものを手にすることは叶わなかった。

 ただ一人だけチームメイト連中がブレイクデカールを持つ中で、一方的にガルバルディリベイクなるベージュ色のモビルスーツに殴られまくっていた。

 

 どうしてこうなった。

 と男は叫ぶ。

 

 こんなはずじゃなかった。

 と男は叫ぶ。

 

 こんなグシオンもどき、ブレイクデカールがあれば一瞬でバラバラに出来るのに。

 あの騎士ガンダムとアストレイのせいだ。そしてここにいる有象無象。どいつもこいつも俺の邪魔をする。

 お前らのせいだ。お前らのせいで何もかも滅茶苦茶になったんだ。

 

 呪詛を撒き散らしながら男は回想する。こうしてみると昔から苦難の日々だった。

 

 

 過去を遡ること数年前。

 そもそもこの集まりが成立したのは数年前のことだった。

 まだ男は立場上は一応学生であった。

 

 一応、というのは察しの通りこの時点でろくすっぽ講義に出ていなかったことに尽きる。

 なんとなく高校に行って何となく大学に出た。

 

 これじゃない。

 そう思った。自分はもっと華々しい世界にいるべきなのだと。故に長続きせず、当然単位も取れず留年。

 自分に相応しい舞台じゃなかったのだ。

 出てもしょうがない。

 大学をバックれてから、数えるのもアホらしくなってきた頃、いつものように11時に起きて母親が作った冷め切った朝飯を食う。

 

「学校、行かないの?」

 

 これで何度目だ。

 まるでbotだ、同じことを毎度毎度。飽きないのか。

 

「しょうがないだろ。あんなの行ったって。なんとかなるから」

 

「なんとかなるって……何が」

 

「俺、イラストレーター目指してるから。そしてラノベの表紙飾って一気に売れっ子になれば一発。母さんも楽できると思うんだよな」

 

「……は?」

 

 絶句し塞がった喉から無理矢理ひり出したような声が母から出てくる。

 多分こいつも俺をバカにしている。俺は大器晩成型なんだ。

 

「じゃ」

 

 適当に冷めたパンを牛乳で流し込むと、そのまま2階に早足で上がった。これ以上問答したって時間の無駄だった。

 俺は俺の人生を行くのだ。

 

 自室に入るといつも見慣れた風景が視界に広がる。大穴の開いた押し入れの襖。大股で足元に散乱した本やゲームソフト。それらを跨ぎ小学生時代に買ってもらった勉強机の奥底からスケッチブックとテキトーに引っ張り出したシャーペンを引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駄目だ。上手く行かない。

 ぐちゃぐちゃな絵を前に男はなんの感慨もなくスケッチブックを雑に放り投げた。

 一瞬煮えたった意欲は消え失せ、MMORPGを起動するといつもの面々がチャットで会話していた。 

 

 

 

 嘘鋭敏:あ、そうだ(唐突)。GBNのβテスター応募した? 

 

 低速後退:新型のVRゲーのアレ? してない。どーせ当たらんと思ってる

 

 コーグ人:応募するのはタダだからやっとけやっとけ。

 

 万足めサンダー:TGSでのカツラギさんのインタビューだとGPDのノウハウガン載せらしいからβでも満足できそう。

 

 嘘鋭敏:VRゲーも作り手特有のクセが出るから慣れるまで時間かかるしな。事前に慣らしとけば経験補正でトップランカー行けると思うやで。その後は知らんけど。ちなワイ応募した(隙自語)

 

 コーグ人:大型ニッパーで暴れ倒したい。あらかじめ作った特製ノベガンが火を噴くわ

 

 万足めサンダー:俺のヒュッ◯バインは……駄目ですかね(震え声)

 

 低速後退:駄目でしょ。

 

 万足めサンダー:(´・ω・`)そんなー

 

 嘘鋭敏:残当

 

 万足めサンダー:じゃあ俺はエクスバインで行く

 

 コーグ人:GBNで見かけたら必殺ニッパーの餌食にしてやろう

 

 万足めサンダー:GBNをR-18Gにする気かよォ!? 

 

 嘘鋭敏:因みにゲーム報酬も実体化したりするしやりようによっては一攫千金も狙えるらしい。(夢が)広がってないか? 

 

 低速後退:応募するだけしとくか……

 

 嘘鋭敏:やったぜ。

 

 

 

 フレンドのMMORPGプレイヤーによるGBNβテスター募集の話。

 そう、それが全ての始まりだった。

 心の全てを持っていかれた男はスマホを開き応募フォームに繋がるURLをタップした。

 

 GBNの出現とそのβテストの告知は天啓に等しいものだった。

 こんなはずじゃない自分の人生を塗り替えられるだけの可能性が秘められているように思えたからだ。

 

 当然応募した。

 そして──βテストの応募で勝ち取った時は勝利を確信した。

 元々ゲームの腕前には覚えがあった。ガンプラさえなんとかなれば上位ランカーなど造作もないことだ。と。

 ゲーム雑誌にはガンプラの腕前が影響してくると言うがそんな細かいものを認識する

 

 GBN用のギアが届くと、早速ネット接続などの設定を始めた。

 そして間もなくして男のGBNライフが始まった。

 

 

 その時男が選んでいたのは∀ガンダムだった。

 なんせ最強のモビルスーツ議論ではしょっちゅう呼ばれる機体だ。

 負けるイメージが無い。

 

 

 

 ある日、同じβテスターたちが集まって試験的に1対1のガンプラバトルトーナメントを行うこととなった。

 対戦相手は大したことはない奴ばかり。MMORPGやFPSで鍛えた腕で瞬殺した。

 

 雑魚が。こちとら年季が違う。

 ガンプラの出来栄えがなんだ。大破したモビルスーツの残骸を踏みつけながら男は優越感に浸る。

 この勢いならプロゲーマーになれるに違いない。

 男は夢想する。雑誌の一面を飾るカリスマガンプラビルダーとして名を馳せ、散々馬鹿にしてきた父親と、しつこく絡んできたバカ共に詫びを入れさせる姿を。

 

 が────男の天下はすぐ終わりを告げることとなる。

 

 数名倒した所で次の対戦相手に流れる。

 βテストなだけあって簡素な演出の中で、眼前に現れた対戦相手、それは黒いガンダムAGE-1だった。

 機体そのものはカラーリング特段カスタマイズはされていないようだ。

 

 しかし手持ちの武器が妙に異彩を放っていた。

 ビームローリングランサー。長いポールの先端にビーム刃を付け、それを高速回転させる差し詰め風車か芝刈り機のような武器をAGE-1は持っていた。

 

 男は鼻で笑う。

 どうせガキが作ったモビルスーツだ。厨二病拗らせて黒く塗っただけのもの大したことない。

 

「ガキはさっさと帰ってろって言うんだ」

 

 ∀のビームライフルの銃口を、AGE-1に向けると──

 AGE-1の姿が消えた。

 否、断じて否。消えたのではない、その場からただ素早く動いたのだ。それを男は捉えきれなかっただけのこと。

 

 すぐ横で迫るAGE-1はビームローリングランサーを∀に叩きつけた。

 

 理不尽な強さだった。

 絶対こいつはバグとか壊れを使っているに違いない。ありったけの罵倒と怒りをぶつけるが対戦相手はどこ吹く風。

 

 ぶつけても空振る怒りの中で男の∀はナノマシンによる自己再生で回復しながら、距離を取りつつビームライフルを撃つも、当然のように避けてみせる。そして執拗にビームローリングランサーで装甲をガリガリ抉り、削り取っていく。

 

 こちらは一撃も与えられなかった。まるで幻影と戦っているようだ。

 完封という単語がよく似合う試合の終わりだった。

 

 

 あぁ馬鹿じゃねえの。

 一気に冷めた。

 たかがこんなゲームごときにマジになっている。なんてダサい奴なんだ。AGE-1の搭乗者を見下すだけ見下しながら無理やりログアウトした。

 

 それが男にとって最後のβテストであった。

 

 

 

 やることがなかった。

 食っては寝て、ゲームをして、日々が過ぎる。いつもの日々に戻る。

 このままでは良くないと一瞬だけそんな思いが過ぎるが、諦観と惰性が呑み込み台無しにする。

 気づけば大学生という肩書は剥奪されていた。金を出していた両親が意味がないと判断したのだろう。

 

 それからGBN公式サービス開始から1年の時が経った。

 一応正式版のプレイ権を貰っていたのもあって久々にログインをしてみると、世界はあの頃よりずっと広くなっていた。

 

 

 あの日の苦い思い出を吹き飛ばすほどに様変わりした世界を前に男の野心がふつふつと煮えたぎる。ここまで広ければ自分に相応しい居場所が見つかるだろう、そう思っていた。

 それからだ。グシオンに乗り始めたのは。

 重装甲かつ高機動なそれは男の性格にはあっていた。基本避けて当たっても効かない。

 この機体でなら簡単に強くなれる。俺はだれも知らない近道を見つけたと得意になっていた。

 

 

 近道を駆使して、自分より格下の雑魚を狩り1年の鬱憤を晴らす。日に日に強くなる父親からの当たりと募り募るフラストレーションを発散させる。

 思い通りNPCはあっという間にハンマーで粉々になっていく。

 

 そんな中で苦戦しているサザビーを筆頭とした6機のモビルスーツ隊を見かけた。彼らの相手はブルーデスティニー1号機。

 一見ただの青いジム、量産機に見えるそれは頭部のゴーグル型カメラは元々緑色だった。が、今は一転してまるで血の色のように染まっており禍々しい残光を残し獣のように、戦場を駆ける。

 挙句、地面に転がっているモビルスーツの残骸を投げつけたり、執拗にサザビーの四肢を引きちぎるなどあまりにもモビルスーツ離れした戦い方をしていた。

 

 6機がかりで応戦しているがまるで歯が立っていない。

 

 助けてやろう。

 

 燃え上がる正義感が男を突き動かす。

 男には勝ち筋しか見えなかった。あのBD-1は何故かサザビーを執拗に狙っている。恐らくファンネルを発動出来るNT技能を持っているから特別狙われているのだろう。なんせあの機体はNTを殺すマシーンだ。あの赤いゴーグルはその本性を著しただけ。

 で、あれば動きはある程度読める。

 

 まず手始めにグシオンの装甲を盾にする。

 BD-1は狂気混じりのサーベルさばきでサザビーに襲いかかる。

 だがここでグシオンが割り込み、パワー全開でグシオンハンマーカウンター気味にたたき込んだ。

 

 本来なら同時にBD-1の狂刃がグシオンの装甲を切り裂いていただろう。そしてこのグシオンの完成度ではナノラミネートアーマーも発動できない。

 

 だが偶然。偶然にもビームコーティングのスキルを購入、余ったスロットを埋めるように付与していたお陰でロクなダメージにならず装甲表面が焦げ付くだけに留まった。

 その一方でハンマーで思いっきりブン殴られたBD-1は派手に吹っ飛んだ。

 装甲片と頭部のガラス部分をまき散らしながら。

 

 地面に叩きつけられた機体は最早起き上がることも叶わなかった。先に6機がありあわせの武器を使って一斉射撃を叩き込む。

 最早過剰めいた光景に男はドン引きしながら壊れていくBD-1を見る。そして……6人の逆転勝利が確定した。

 

「ありがとうございます。貴方がいなければ危ないところだった」

 

 サザビーのパイロットが降りて、礼を述べる。

 短い黒髪の少年。まるでモブみたいなダイバールックだなと思いながらも男は気をよくしていた。

 

「表をあげろ。俺は近くにいたやつを倒したに過ぎない」

 

 優位性。

 あの6機でBD-1号機を倒せなかった素人集団相手に男は優位性を感じていた。

 下がいるということは俺は弱くないということだ。その事実があの黒いAGE-1の記憶を遠ざける。

 そして──

 

「突然無理は承知の上でお願いがあるんです! 俺たち、もっと強くなりたいんです! だから、強くなる方法を教えてください!」

 

 彼らの懇願を聞いた時男の中の善意が目覚めた(と錯覚した)。

 可哀想だからこいつらを教育してやろうと思ったのだ。

 

 

 

 

 この連中が自分合わせて月夜の7人となったのはしばらくしてのことだった。

 

 

 

 

 

「しっかりしてくださいよ。アレだけ前線に出るなって言ったでしょう」

 

 あれから2年ぐらいは経ったか。気づけばとうに教えていたはずの連中に追いつかれ、自分は敗北の戦犯として汚名を着せられていた。

 お前らがちゃんと援護しなかったからだろう。というか喉から出かけた言葉を飲み込みながら。

 

 当初こそ男がリーダーだったものの、流れるようにサザビーに乗っていたアランが事実上のリーダーとなっていた。

 徐々に砕けていく敬語。

 俺が馬鹿にされていて介護されているということに気付いた時には男の苛立ちは頂点に達していた。

 

 教えてやったのは俺だというのに。

 調子に乗りやがって。

 

 現実世界でのあり様が仮想世界に侵食していく。

 奴らも不当に俺を虐げるのか。

 

 ならば練習をするしかない。

 初心者が多いとされるエリアで初心者を装い、戦いを挑む。

 

「あの、僕も初めてなんでお手柔らかに……」

 

 すると初心者連中はあっさりとバトルに承諾。愚かにもこちらに戦いを挑んできた。

 マヌケが。

 覚束ない動きで迫る初心者ダイバーが操るガンダムを一撃で殴り砕く。

 

 まだ俺は強い。そう無意識下で安心を得ていく。

 練習とバカに現実を教えるという大義名分らしきナニカでその醜さをコーティングしながら。

 

 しかし。

 

 その果てに関西弁を喋るシャイニングガンダム乗り*1に殴り倒されたことで全てがご破算となったが。

 

 初心者を狩り続けてなおも味わう屈辱。徐々に仲間たちにバカにされていく。

 GBNが苦痛になりかけた時、くノ一衣装の女とローブを目深に被った男と出会った。

 

 

 それが、男にとってのブレイクデカールとの出会いであった。

 それからというもの、ブレイクデカールを手に入れてから男は無敵だった。何も知らない初心者たちは怯える姿は平和ボケした無能どもが戦争を知るその様はいい気味だった。

 

 女性型ダイバーがキャピキャピしながら、戦場でキャーキャーほざくその姿が不愉快だった。

 戦場にアバズレ共は必要ない。奴らはキャーキャー言う自分自身に酔っているだけだ。

 悪貨は良貨を駆逐するようににわかが神聖な戦場を腐らせる。だから教育してやらねばならない。

 

 先達として。戦場の恐ろしさを。

 

 表向き冴えないが、裏ではGBNを守る戦士である自分自身に酔いしれていた。

 

 

 が、全てをソードマンが台無しにした。

 それだけじゃない騎士ガンダムが、今この瞬間好き放題してきているグシオンリベイクもどきが。

 まるで理不尽な暴力そのものだ。

 

 ふざけるな。そんなインチキ武器を振りかざしてイキリやがって、お前ら如きブレイクデカールがあれば瞬殺出来る。

 お前は運がいいだけだ。相応の実力なぞ持っちゃいない。

 

 呪詛を吐きながらも、現実はあちらこちらを駆け回るガイアのグリフォンで装甲を焼き切られ、ガルバルディリベイクにタコ殴りにされていく。

 

 あの時の雑魚ガイアとグシオンリベイクもどきに俺はやられるのか。

 

「おい、援護しろ! おい!」

 

 声を上げても無駄だ。

 あのグシオンリベイクはV2アサルトの攻撃を重装甲で片手間で受け止め、レフトアームに装備された盾型の滑腔砲で接近すら許さない。

 度重なる打撃と斬撃がグシオンの装甲を削り取り、ビーム兵器耐性が奪われていく。

 

「誰かちゃんと俺を援ご──ッ!」

 

 そして最後に男が見たものは、ガイアの両翼に展開された光の刃だった。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 グシオン乗りの男は最初こそ行き詰まったアランたちに打開策を教えてくれたが、今となってはフォースの和を乱す癌でしかなかった。

 

 報酬の徴収やら何やら。まともに仕事しないと思ったら勝手にポジションから離れて独断先行。我が物顔でビルドコインを徴収。

 これでは自分たちは奴隷と変わらないでなはいか。

 

 だが彼を放逐出来ない事情があった。

 なんせ月夜の7人を結成しようと考案したのはあの男であり、自分たちがここまで来たのは彼のおかげだったのだ。

 

 

 しかし。ここ最近フォース戦で勝てずにいる。

 再びあの男に出会う前の袋小路に叩き込まれたようだ。何度も何度も陣形を見直しても先読みされて完封されてしまう。

 あの男はそれに対してふんぞり返るだけ。チームの空気が悪くなっていくそんな中でフォースの一人がふと口を開いた。

 

「アラン、聞いたことある? あのグシオンのあいつ、マスダイバーだって噂らしいよ」

 

 それを聞いた時はグシオン乗りの男に怒りを覚えたと同時にブレイクデカールの噂を思い出しもした。

 最近初心者に出回っている違法強化ツール。どうも、ログにも残らないのでバレることはないのだと言う。運営もログがないことでその存在を公式に認めることが出来ないとも。

 

 ふとした邪念が過ぎる。だが違法ツールだ。そんなことをすればタダでは済まないと咎める理性と、バレるわけがないと理性を一笑に伏す欲望がせめぎ合う。

 多少使ったところで知らなかったと通せば問題ない。それに最悪別の誰かがバレたとしても、すぐ使うのをやめればいい話だ。

 

 思い立ったが吉日、ブレイクデカールのディーラーを探すこととした。

 どうもディーラーにも種類があるらしく、アランが目をつけたのは最近出現した格安で寄越してくれる奴だ。

 

 彼に連絡をつけ、指定の場所へ向かうとマジシャンのような風貌の男が待っていた。

 

「ようこそ! 可能性の入り口へ!」

 

 その物言いは胡散臭かったが、約束通りさしたる出費もなく、グシオン乗り以外全員分を寄越してくれた。そもそもブレイクデカールが法的に証拠がないだけでバレれば黒そのものだ。

 一応情報共有としてチームメイトに報告はした方がいいだろうと、あの男に声を掛け全てを話した時。何故か彼の表情が絶望に染まった。その理由はアランには未だ分からずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ……ブレイクデカールを使わなかったのか」

 

 爆発四散するグシオンを空の上から見下ろしながら、ドダイに乗ったサザビーを動かす。

 呆気にとられながら、空を自在に飛び回るダブルオーダイバーエースを睨みつける。

 

 このまま負けるわけにはいかない。

 もうこの際だ。この試合で勝ってあの傍若無人な男を追い出して月夜の7人をやり直そう。

 ちゃんとしたやつを新しくチームに呼び込んで。そして──

 

 そう思案する男を前に、両肩部にマウントされた大剣を抜刀し迫るダブルオーダイバーエースの斬撃をビームトマホークで受け鍔迫り合いに入る。

 

 負けるものか。

 拮抗するパワーに、もう一押しとアランはコックピットのコンソールを叩き、迷いなくブレイクブーストを起動した。

*1
彼も後にマスダイバーハンターとなったのはまた別のお話




 横を見ると、誰かに嫉妬して、自分も欲しくなるだろう?
 下を見ると、今の自分で助けてあげられる人がいて、彼等に必要とされてりゃ気持ちはいいけど
 本心は自分より弱い者がいなかったら……って思う。その時、自分は何をやるんだろうって


 ってセリフからグシオン乗りの男は生まれたようなもの。
 2年前の執筆開始当初、あのグシオン乗りがここまで生々しいモンスターになるとは思っていなかったけれども。

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