BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 初投降です。


 ナチュラルの捕虜なんて要るかよ!(突然のザフト兵)


STAGE49 絆、その代償Ⅱ

 あの新SDガンダムの性能はその凹凸の外見以上のものだった。初めて見た者たちは侮り、最後には後悔して帰って行く姿を何度も見て来た。

 それだけの力があのガンプラにはあったのだ。

 

 あの絆の証の力もあってこれまで以上の連勝を重ねて来た。

 かの個人運営の大手情報サイトGBNトゥデイで取り上げられるほどだった。【期待の新生フォースle chat noir(ル・シャノアール)脅威の快進撃! 閉塞気味の現環境を変えるか!?】なんて。

 

 気付けばフォースのメンバーは6人どころではなくなっていた。コージー自身がSDユーザーなら来るもの拒まずの姿勢でいた事も相まって10人を超える大規模なフォースへと様変わりしていた。

 もちろん、この時点で勝ち馬に乗りたかった者も少なからずいたということは付け加えて置こう。その結果何が起こってしまったのかは──あとで語ろう。

 

 気付けばランキングも30位台の大台に乗ってきた。

 それがどれだけ凄いのか。現行フォースでマギーのいるアダムの林檎がランキング12位であることと、当時でも1000万越えのアクティブユーザーが存在している現状を考えると驚異的な結果であるのは言うまでもない。

 

 その影には──あの男もいた。

 

「流石傭兵を謳うだけのことはあるな。助かったよ」

 

 いつものコテージ前で祝勝パーティーが開かれ、お祭りムード一色の空間に一人だけ異彩を放つ男がいた。そいつは赤焦茶のローブを纏い、フードも目深にかぶっていることもあって素顔は見えず。

 かの国民的RPGで言う黒魔導士モチーフかと思えばそうでもない。そんな彼はコテージに置かれた椅子に腰かけて一人一服していた。

 コージーが声を掛けるとなにがおかしいのかにやりと笑った。

 

 

 この男はいまでもそうだが何を考えているのか分からない。傭兵であるとはいえちゃんとこちらに合せてSDガンダムを使っており、武者○伝Ⅲの破牙丸を操り次々と敵を倒して見せている。それだけの技量をあの男は持ち合わせており、ここまでこのフォースが来れたのも半ば彼のお陰でもあった。

 何かけれども必ずと言ってもいいほど含みのある言葉を残していくのだ。

 

「アンタら、いつまでSDオンリーで行く気だ? 上位ランカーになればなるほどSDの利点弱点を熟知している。今まで通りにいかなくなるぞ」

 

 今日も同じように含みのある言葉を投げかける。もう慣れてしまったがどこか引っ掛かるような物言いは好きにはなれない。

 しかしコージーはいつもの穏やかな口調で投げ返した。

 

「──かもね。でも今のところ、ポリシーを変えるつもりはないよ」

 

「俺はガンプラの提供(レンタル)もやっている、リアルタイプやモビルアーマーも取り扱っているぜ。その気になったらいつでも言ってくれ」

 

 まるで試すような物言いだった。

 何を試していたのか2年経った今でもアヤメは知る由もない。けれどもここで提案に応えようならこのフォースである意味がなくなる。

 それは敗北宣言に等しい行いだ。その時居合わせていたアヤメ、スー、コージー。誰もがそう思っていた。

 

「気が向いたらね」

 

 その時、提案を蹴った。アヤメ自身がコージーの立場なら同じように蹴っていただろう。

 返答についてはあの男は「そうかい」と短く返すだけで深追いはしなかった。その結果コージーは自らがした返答について思い悩むこととなる。何故ならば──

 

 

 

 

 

 ……その男の予言は当たっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 急転直下という言葉はきっとこの瞬間のために神様が用意した嫌がらせの言葉に違いない。アヤメ──いや、アヤは学校の現代文で出て来た単語を見ながら思った。

 一時期は勝率一か月刻みで80%以上という驚異的な数値を叩き出していたle chat noir(ル・シャノアール)の戦績は一転して50%、30%と減少の一途を辿っていた。

 最初こそただのスランプと思っていた。けれども、それだけじゃない。

 

 ──完全に研究されている。

 

「えー、この登場人物の心境を説明しろという問題の解答だが──フジサワ、君はどう答えた」

 

「えっ──」

 

 我に返る。いつもの教室でいつもの気難しい教諭が問題をブン投げてきたらしい。ここで答えられなかったら機嫌を損ねかねない。慌てて起立して答えて見せる。

 

「正解だ。まったく……ボケっとしおってからに……」

 

 教諭のボヤきを尻目にアヤは着席しながら、再び思索に耽る。

 SDガンダムはその無軌道さと初見殺し同然のアビリティが魅力だ。特に絆の証である絆ガンダムはその傾向が強く、その力で戦えたのだ。

 そして自分たちはそれに甘え過ぎていた。

 

 気付いても時すでに遅し。

 ワンパターンと化していたle chat noir(ル・シャノアール)の戦術はことごとく看破され、連敗は止められない。時々勝ってもそれは紙一重の勝利に等しい結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!!」

 

 誰かが、ネストの暖炉を蹴り飛ばす。蹴ったのは連敗続きになる直前に入って来たメンバーだった。居合わせたアヤメはそそくさと離れる。

 彼はかなり血気盛んであり、特にこのフォース末期に入って来たメンバーは勝ち馬に乗ろうとした──口悪く言えば民度はひどく低かった。

 このままでは自分も彼の矢面に立たされる勢いだ。しかしどうも、矛先は違っていたらしく別の誰かが声を荒げて返した。

 

「なんだよ、何か言いたいことがあるなら言えよ!」

 

「普通、あんな所でヘマするかよ……戦犯がやらかさなきゃこうはならなかった!」

 

「あぁん!? なんだとテメェ!!」

 

 取っ組み合いの喧嘩が始まり、一番初期メンで荒事慣れしていたホークが止めにかかる。

 ……次々とネスト内部の備品が──思い出が壊れていく。あの時のアヤメは遠巻きにその惨状を見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 当然ここまで状況が悪くなればテコ入れという提案が出てくるのは自明の理。

 リアルタイプの導入を叫ぶ者も現れた。事実SDガンダムを導入するならリアルタイプの連携が最も安定して強いと言われていた環境だ。

 コージーに直談判をかけるフォースメンバーも現れる。特に勝ち馬に乗ろうとしていたメンバーが殆どだったのは言うまでもない。

 

 自分たちはただ楽しめればそれで良かったのだけれども。

 その頃に戻るには力を得過ぎていたし、それを望まない者も増えすぎていて──最早出口の見えない袋小路に陥っていた。

 

 喧嘩続きで荒れ切った部屋の中、一人アヤメは地面に叩き付けられた絆ガンダム完成時の集合写真を拾い上げ、きつく、抱きしめる。

 夢であってくれ。もし夢ならそろそろ目覚める頃だ。

 当然──そんな都合のいいことにはなりはしなかった。

 

 現実はアヤメが思う以上の闇を突き付ける。

 

 

 最早le chat noir(ル・シャノアール)の士気は最低値をぶっちぎっていた。

 どうせ次も負ける。戦う気力すら萎えている始末。なんせ、先日は全盛期の自分たちより圧倒的にランクが下のフォースに一方的に完封されたのだ。

 以前試合したかの治安劣悪な世紀末エリアことハードコアディメンション、ヴァルガ統一を謳うワンマンアーミーで暴れ狂笑を撒き散らしながらエンジョイしている狂人率いるフォース*1の方が羨ましく思えるほどには状況は悪くなるばかりである。

 

「さぁ、今日は絶対勝つぞ! 皆、元気出して行こう!」

 

 しかし──コージーだけは瞳に希望を残していた。

 いや、今思えば燃えカスを無理矢理焼いていただけだろう。立ち並ぶメンバーの機体が乗るモビルスーツデッキの手前には──絆ガンダムの姿はなかった。

 

 代わりにあるのはV2アサルトバスター。

 宇宙世紀でもトップクラスのパワーを持つと言われているモビルスーツがそこにいた。見ただけでも本物と見紛うような作り込みに一瞬見惚れたがよくよく考えれば何故こんな所にそんなものがあるのか。

 

「これは──」

 

 本来いるべき絆ガンダムを押しのけて何故こんなものがいるんだ。

 

「これからは俺たちもリアルタイプを入れていく。それでガンガン勝つんだ! 目指すはトップ10じゃない! ナンバー1のフォースだ!」

 

 違う。何かが──おかしい。

 メンバーを鼓舞するコージーにアヤメは軽いめまいを覚える。コージーはアレに乗るというのか。絆ガンダムを棄てて、アレに。

 

「どうして──あのガンプラは!?」

 

「交換条件だったんだ。この機体と引き換えにあの男に渡した……すべては勝つためさ」

 

 コージーの瞳には昏い光が宿っているような気がした。

 もし、フォースを勝利に導くのであればあの男が提供するハイレベルなリアルタイプを導入するのは戦略的に正しい。衝撃を受けたとはいえ、自分がコージーの立場ならやってしまっていたんじゃないかと思うと彼を責める気にはなれなかった。

 それにあの男があの時点でブレイクデカールを提供していたとしたら──多分手を伸ばしていた。

 

 V2アサルトバスターの姿が、ふと新外伝のナイトガンダム物語の幻魔皇帝アサルトバスターの姿とダブって見えた。

 

 

 

 

 STAGE49 、その代償Ⅱ

 

 

 

 

 そんな不吉な幻視は直ぐに結果となって現れた。

 SDだけでやってきた人間が突然リアルタイプとの連携を取れと言われればそれは困難だ。加えて士気は上がってもギスギスし切った関係性が戻るわけでもなく。再起を目指して始まった第一戦で──惨敗。

 

 

 最早試合は試合として成立していなかった。フォースランクは凄まじい勢いで落ち、話題にも最早上がらなくなった始末。一発芸人だったと評する者まで現れる始末。

 悪い流れはもう──止められない所まで来ていた。

 

 ことあるごとに諍いは起き、連敗は続き、勝利ももぎ取れず。

 悪くなる空気に嫌気がさした次々とメンバーが抜け始め、最初こそ勝ち馬に乗ろうとしていた連中がいなくなるだけだったが、コージーと意気投合した同じSDガンダムファンのメンバーが抜け始め最後には──

 

「どうして……!」

 

 昔からいたはずのテラがフォースを抜けると言いだした。

 追加メンバーがいなくなったらまた一からやり直せるだろうと思っていた自分の見積もりが甘かった。修復不能なレベルにまで亀裂が生じ、コージーも一人でいる時は何かぶつぶつと独り言をつぶやいている始末。

 あの頃花咲かせていた会話も今は枯れ、フォースネストにいるだけでも息苦しかった。

 

 ──なんでこんな所まで来ちゃったのかな。何処で間違えたのかな……

 

 そんな疑問に答える者は誰もいやしない。去ろうとするテラを追うものの彼女の歩みは止まらなかった。

 

「ごめん、あたしが皆を上手くフォローできなかったから」

 

「テラが責任を感じることなんて──」

 

 あれはフォロー以前の問題じゃないか。そうは言っても彼女自身の気持ちの問題にあれこれを言ったところで無意味だった。

 彼女の後を追うように、ホークも、ヒロも。次々と離れていく。

 

 ──行かないで。

 

 心の底が叫んでも、3人の歩みは止まらなかった。

 ガンプラをやっていられるような空気でも、精神状態でもなかった。ゾンビの行進じみたフォースに誰が付いて行きたいと思うのか。アヤメとて分からない人間ではない。

 

「悪い。今のフォースの雰囲気には俺、ついて行けそうにもない」

 

 そう、言い残して去る彼らを引き留めることはアヤメにはできなかった。

 

 

 

 

 最後に残されたのはアヤメとコージー、スーだけで。

 もう、フォースはおろかGBNを続けることすらもままらない惨状で空中分解するのは時間の問題だった。そして──

 

「ごめんね……」

 

 スーは憔悴し切ったコージーの手を取り──フォースネストから姿を消した。

 ただ一人。残されたアヤメは全身から力が抜けきった状態で、諍いで亀裂の入った写真立てに視線を移した。その亀裂はまるで今のフォースの状況を顕しているかのように一人一人が分断されている。

 

 あれから──

 

 皆がいつか帰って来ていないか、毎日のようにフォースネストに顔を出した。

 けれどもコージーも、スーも、テラも、ヒロも、ホークも誰一人戻っては来なかった。

 それから1か月。待ってもどうしようもない事実をようやく受け止められた。けれどもアヤメにはこれで終わりになんかしたくはなかった。

 もう一度距離を置いてからならゼロからやり直せるはずだ、と。

 

 その為にとっかかりが必要だこのフォースにとっての錦の御旗に等しいもの──それは。

 咄嗟にPDAを取り出す。あの男とのコンタクトなら一応取れるはずだ。返事は思ったより速くきた。

 

 

 

「あのガンプラを返して。お金なら幾らでも払う、アサルトバスターも返却するっ! だから──っ」

 

 藁にも縋る想いだった。

 渋谷をモチーフとした夜の街の片隅に待つあの男に訴えかける。なんだってする気でいた。何千万借金しようがかならず取り返す。それだけの覚悟があった。

 自分の人生の一つや二つくれてやる、と。その想いを汲んだのかあの男はその重い口を開いた。

 

「返してやっても良い。金もガンプラも不要だ。但し条件がある」

 

 一縷の希望がアヤメに差す。

 

「俺の手足となって働け。きっちり働いたらあのガンプラは返してやる」

 

 何を働けばいいのか。あの頃は皆目見当もつかなかった。けれども、この時のアヤメに迷いなどなかった。

 どんな手を使ってでも、皆と笑い合える日が戻れるのならば幾らでも自分を──

 

 

 

 

 それからは知っての通りだ。

 ブレイクデカールの販売やユーザーの護衛、運営の目を欺くための偽装工作。邪魔なフォースを崩壊させるための潜入スパイまでやっている。

 薄汚い欲望を満たすためにブレイクデカールを買い求めるような人間もいた。

 そして今、あの男と同じ立場で半ば崩壊寸前のフォース、月夜の7人と出遭ったのだ。

 

 

 

 彼らの境遇は細部こそ異なったが似たようなものだった。

 最初こそ同好会形式でわいわいやっていたのが、いつの間にか勝利を求めるようになっていた。アヤメが彼らにコンタクトを取ろうとしていた時にはもうle chat noir(ル・シャノアール)が空中分解する寸前の状態を思い起こさせるものとなっていた。

 

 彼らほどブレイクデカールを熱望していた連中もいなかった。

 もし、le chat noir(ル・シャノアール)の活動がもし2年ズレていたら、コージーは同じ選択を取っていたのだろうか。自分だったらきっと──

 

 リーダーのアランがコージーと重なって見える。彼もまたフォースを守ろうと自分なりに抗っているように思えてならなかったのだ。

 

 

 彼らが勝利を重ね、今ではカモフラージュの為の偽装敗北まで演じられるほどに回復していた。

 一人だけグシオン乗りの男だけが空気を悪くしていたが、次第に彼らは気にしなくなっていた。あの連敗から負けじと復活するle chat noir(ル・シャノアール)のもしもの幻が、アヤメの前で形作られていた。

 

 けれども──長く続かなかった。

 

 

 

 

 

 ソードマン。

 マスダイバーハンターで最も危険でかつ最低最悪の人斬りと評されるそれがこの場に現れ、月夜の7人を斬り倒そうと仕掛けてきた。

 アヤメの任務は、ソードマンから彼らを守ること。

 

 ブレイクデカールの危険性は分かっていても、彼らを守らずにはいられなかった。月夜の7人は──le chat noir(ル・シャノアール)の影なのだから。

 

 Gサイファーという新たな力を得てもなおもソードマン操るアストレイが抗い続ける。

 コックピットを剥き出しにしてでも狩りに行くその姿は最早狂気すら覚えるほどだ。Gサイファーに仕込まれたアビリティなのか、強化されていく力をもってしても強引かつ破壊するという意志のもとに生まれた狂気には勝てはしなかった。

 

「──く」

 

 手を、伸ばす。

 戦闘不能になったGサイファーはまるで錆びの入ったブリキ人形のように覚束ない動きで月夜の7人を斬りに走っているオルタナティブを掴もうと限界まで手を伸ばす。

 届かないことが分かっていても、le chat noir(ル・シャノアール)の影が彼に無情に八つ裂きにされるのを見てはいられなかった。

 

 

 そのアストレイは過去まで浸食するどころか破壊していく悪魔のように見えた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 突然大気圏内でファンネルを使ったサザビーにリクは目を剥いた。

 本来、ファンネルというものは宇宙で使うものだ。もちろんGBN内で手に入る専用のアイテムを使えばその限りではないが、今回の相手である真紅のモビルスーツ、サザビーはブレイクブーストするまで使う素振りは一切なかったのだ。驚きもする。

 サブフライトシステムで飛んでいた機体はそのまま飛び降り、リクが操るダブルオーダイバーエース同様に空の上で飛び回り始める。

 

 

 確かに。戦う前に噂はきいていた。

 彼らがマスダイバーじゃないか、なんて噂だ。

 

 警戒はしていた。けれども心の何処かで信じたかった。実は杞憂なんじゃないか、と。対戦前に挨拶をしたときはそういった後ろ暗さは感じられなかった。その時は「お互い全力で戦おう」と握手を求めて来たのにまさかほぼ全員がマスダイバーだったなんて。

 

「アランさん。それはまさか──」

 

 リーダー機であるサザビーのパイロット、アランに問いかける。

 

「知っていたのか。そう、ブレイクデカールだ」

 

 滔々と語る彼にリクは俯く。

 この物言いは完全に慣れ切ってしまっている者の声だ。まるで自身の身体の一部であるかのような、そんな──

 

「なんでそんなものを……あなたは!」

 

 失望と悲しみだけがリクの感情を支配する。

 

「なんで? 当然勝つために決まっているだろう。それ以外になにかあるというんだ?」

 

「ブレイクデカールを使っているならこんな噂だって知っているでしょう!? その力はGBNを侵食して──!」

 

 運営もその存在をほのめかす告知は投げている。加えてGBNに触れる者なら誰でも利用するであろうBBSではその話題で持ち切りだ。

 マスダイバーに対する危機感がGBN全体に伝播し始めている現状、彼らの何がそうさせるのか。

 

「そんなことか」

 

「え!?」

 

 過去何度も詰られたのか、慣れきったような口調でそう言った。

 

「俺たちにとってはそんなことでしかないんだ。この力は繋ぎ止めたんだ」

 

「繋ぎ止めたって何を!」

 

「このフォースをだ!」

 

「……ッ」

 

 ブレイクデカールがフォースを繋ぎ止めた。

 どうやって繋ぎ止めたというんだ。混乱する頭を鎮めながらリクは空中を飛び回るファンネルを、GNダイバーソードで切り裂き、破壊して回る。

 

 幸いファンネルの強度は大したことはなかった。

 スーパーGNソードⅡのライフルモードで狙い撃っても弾かれるだけで終わったものの、直接の斬撃には弱いらしい。

 

「俺たちはそこまで強いフォースじゃなかった。部活のメンバーで集まって一緒にやってきた。当然それでは限界が来る……才能という限界だ。最初こそある程度勝ち進んだが、直ぐに限界はきた。色んな方法を試してみた、このフォーメーションだって成果の一つでもあった。それでも研究され──仕舞いにはフォースランクの低下で空中分解寸前にまで至ったのさ。チームの雰囲気も最悪でね、そこで出会ったのがブレイクデカールなんだ。俺たちはブレイクデカールに救われたんだ!」

 

「そんなの……おかしいですよ!」

 

 歪んでいる。何かが歪んでいる。

 問題を先送りにしただけじゃないか。喉から出かけた言葉をリクは呑み込む。

 彼らもまた苦しんでいる。ステアのように苦しんでいたのだ。けれどもここで折れようならGBNが壊れていくのもまた覆しようのない事実。

 青空は淀み、風は唸り、木々をしならせる。空間も徐々に歪みを作り始めている。

 

 一方で反射的に出た言葉にアランは鼻で笑っていた。

 

「おかしい? 耳が腐るような正論どうもありがとう!」

 

 サザビーの腹部に装備された砲口が光を集める。

 メガ粒子砲だ。収束型と拡散型と撃ち分ける機能を持っているが、ダブルオーダイバーエースとサザビーとの距離はやや離れている、となれば撃って来るものは収束型のはずだ。

 

 と思ったのも束の間。

 飛んできたビームは拡散型だった。もしユッキーなら「散弾ではなぁ!」とか無理に作った低い声でパロりながら耐えてみせるのだろうが、今回の散弾は散弾にあるまじき動きをしていた。

 

 一昔前のSTGのような二次元的に表現するなら扇状にビームを飛ばす武器なのだ。散弾は。

 今回の場合、扇状に飛んだと思ったら突然内側に向かって軌道修正かけた挙句リクのダブルオーダイバーに向かって飛んできたのである。

 

 曲がるビームなんてガンダムSEEDのフォビドゥンガンダムじゃないんだぞ。

 それに散った弾丸全てがこちらをミサイルのように追尾するなんて誰が想像するものか。

 

 派手に曲がるビームに、リクは機体のスラスターを全開にしてビームより前に回り込もうとするもそれを追ってビームも曲がる。

 下手すればファンネル以上の脅威だ。

 

 完全に一つに収束するまで距離を取り、GNダイバーソードの刀身で受ける。

 避けられないなら無力化するしかない。だが一撃のノックバックはひどく機体のコックピットを揺らした。

 

「うわっ!」

 

「アレが無ければ俺たちは空中分解してGBNを続けられなかった。それを否定する権利はお前たちにはない!」

 

 それを歪んでいると言うんじゃないか。

 

「そんなことを続けたってGBNが続けられなくなるでしょう!」

 

 ベアッガイランドで泣くステアの姿を思い出す。自身どころかそれを他人に押し付けていい理由なんてない。本末転倒もいい主張にリクは抗う。

 GBNをやりたい他の人たちはどうなる。そんなのおかしいだろう。

 

 空間に穴が開き始め、遠くでは竜巻が暴れ狂う。

 ダブルオーダイバーエースのすぐ横で落雷が落ちる。この光景には見覚えしかなかった。

 ベアッガイランドの惨劇だ。

 

 負けてはならない。そんな想いが強くなる。

 ステアが立ち直って、かつての仲間たちとやり直そうとしている。それを邪魔する権利など誰にもありはしないんだ。

 

「それでGBNが終わっても笑顔で終われるなら俺は!」

 

 それはエゴだ。完全に閉ざされた世界が全てに牙を剥くというのなら抗うしかない。

 

「オレは引き下がる気なんてありませんよ……!」

 

「無責任にブレイクデカールを悪と断じる馬鹿どもと一緒だ、君は!」

 

「何とでも言ってください。それでも貴方たちをオレは放ってはおかない! オレはまだ、皆とまだ何もやれちゃいない! 貴方だってそうでしょう!」

 

 まだGBNでやりたいことは沢山ある。多分きっとキョウヤもシャフリも、ステアも。もしかしたらソードマンだって。

 だからそれを壊させやしない。奪わせやしない。

 逆上したサザビーは手持ちの射撃武器である、ビームショットライフルの引き金を何度も引き続ける。ビームは依然として様子のおかしい追尾をかけてくる。だったらそれも受けて耐えるしかない。

 GNダイバーソードで受け止めつつ前へ進む。進み続ける。

 

「こんなことをやっても時間を先延ばしにしているだけじゃないですか! なんで、なんで向き合い直さなかったんですか!」

 

 アークエンジェルスがなり得た可能性の一つだ。もしステアがブレイクデカールを使ってそれを良しとした場合の可能性。

 勿論そんなことをやれば今を凌ぐことはできただろうが、結局問題を先延ばしにしただけだ。

 だが現実彼女らは向き合い直すことを選んだ。

 

 現実逃避を悪とは言わないが、選択肢の一つくらいはあったんじゃないか。今この瞬間だってそんなチャンスは残っているはずだ。まだ引き返しがつく。

 もう何もかもが手遅れになって、取り返しのつかないことになる前にもう一度。

 願わくは繋ぎ直して欲しかった。けれども

 

「強者の理論を振りかざす者と話す舌など持たない!」

 

 アランは吐き捨てる。

 彼は余程強者が嫌いなのだろう。弱者であることが彼を支える杖のようなものだ。

 なら今この瞬間、オレが折って仕舞えばどうなる? 

 

 ふと、リクの脳裏にあらぬ思考が過ぎる。

 オレがやれば彼らを取り返しのつかないところまで持っていってしまうんじゃないか。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 その時コックピットに向けられた斬撃が僅かに逸れた。

 縦に振るわれた一刀の刃は本来コックピットであるサザビーの頭ではなくライトアームを切り落とし、もう一撃とレフトアームももう一本のGNダイバーソードで叩き落とした。

 

「くそっ……まだまだぁ!」

 

 それでもアランは止まらない。サザビーのロストしたアームが一瞬で生え変わり、ビームサーベルを抜き放ち反撃をかける。

 両アームのGNダイバーソードで切り返すにしても時間がかかる。その間にビームサーベルの錆になって終わりだ。なら──

 

「このっ!」

 

 最後の武器。それは脚だ。

 脇腹に一撃。勢いの乗った一発はサザビーを派手にひるませるには充分だった。今この瞬間なら奴にトドメを刺せるはずだ。

 

 

 いいのか、本当にこれで。

 

 一瞬の逡巡が命とりだった。

 

 背後のクロスボーンガンダムX1改・改……スカルハートがカットラス状のビームサーベル、ビームザンバーを持って襲い掛かる。発振されたビームは瞬時にカタチを変え、ハイパービームサーベルも真っ青な光の奔流を生み出す。

 

「――ッ」

 

――やられるッ!?

 

 完全に直撃コースだ。遠距離から振り下ろされるトランザムライザー級のそれを茫然と見上げ、撃墜を覚悟した次の瞬間――

 

 2方向から同じ形をした蒼を基調とした大剣がスカルハートのコックピット突き刺した。

 

「――誰が」

 

 脱兎のごとく離脱するサザビーの攻撃をいなしながら大剣を飛ばした者を捜す。

 あんなことをするのはビルドダイバーズにはいない、となれば自動的にミスターケンドー……いや、ソードマンのオルタナティブだけだ。

 当然ブレイクデカールを積んでいる様子は見受けられないので専用のアビリティでも積んでいるのだろう。

 

「踊れ――ドラグーンシステム:ソードダンサー!」

 

 地上からまるで、印を切るようにライトアームを動かし二つ指を下に振り下ろすと――

 

「や、やめっ……うわああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 応えるように突き刺さった状態の無情の刃がスカルハートを真っ二つに抉り飛ばす。

 その容赦ない立ち振る舞いにリクは言葉を失った。

 

 

 

 

*1
きっとそいつは満足という言葉が好きに違いない




 ソードマンの戦闘が悪役じみているのは仕様。
 そもそも彼は本作において正義の味方でもありませんので……
 リクの場合は相手のものも何もかも全部しょい込もうとしているが故の弊害だったり。


 サザビーの鬼畜ホーミングメガ粒子砲でトラウマが蘇った諸君、それは気のせいだ。気のせいだ(迫真)

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