BUILD DIVERS ASTRAY   作:ヌオー来訪者

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 気付いたら年末になっていたので初投稿です。


 ナズェダ……


STAGE53 幽霊

「カタナ、大丈夫だった?」

 

 ……最早逃げるようにと言った方が適切だっただろう。

 バケモノを破壊した後、即座に撤退をかけた。

 何せ、マギーが通信を投げかけて来たのだ。「倒したら逃げなさい」と。

 理由は分からずにいたが、大人しくそれに従った。

 

 その答え合わせの時間だと言わんばかりにマギーから通信が飛んできた。

 

「えぇ。一応は。で、逃げろと言った理由は何かあるんですか」

 

「不審なダイバーを見かけたのよ。実際あの戦闘に乱入しようとしてもいた。それも──乱入防止のバリアを破って、ね」

 

「バリアを?」

 

 本来フォース戦や1対1の対戦においてフィールドの一部を完全に貸し切りにする事ができる。今回のフォース戦はそのような作りだ。

 本来ならば遮断フィールドを突っ切ることなぞ正規のダイバーでは不可能だ。

 カドマツならまだわかる。運営としての介入権限を持っている。

 

 なれば本件の不審なダイバーから導かれる答えはただ一つ、相手がマスダイバーであること。ただそれだけだ。

 逃げるべきじゃなかった。そう後悔したものの、その心情を汲み取ったかマギーはふふんと鼻を鳴らして笑って返した。

 

「そこはこっちが全部退治しておいたわ。実際問題あの騎士ガンダムとアナタが倒したモンスターほどでは無かったから……ただ」

 

「ただ?」

 

「今後ブレイクデカールと戦う上では用心した方がいいわね。以前ベアッガイランドで暴れたエピオンだったのよ」

 

 あのエピオンをしれっと倒してみせるマギーも大概だが、またあのエピオンとなればギガフロートのアレと同一犯か。

 あのエピオンは以前の交戦でもうはっきりしている、アレはシバではない。また別の誰かだ。

 運営サイド、一般ダイバーサイド、ブレイクデカールのディーラーサイドの三つ巴状態の現状でアヤメがディーラーサイドにいるのではないかと言う疑惑が浮かぶ。

 

「恐らくまた違う手を打ってくる、そんな気がするわね」

 

 でなければあのGサイファーなんて普通じゃない機体を一般のダイバーが用意できるものか。ビルドダイバーズの中に内通者がいる疑惑が喉奥から出掛かる。

 

 ──駄目だ、無駄に混乱を増やそうとする真似をするな。

 

 内なる己がカタナの思考を押しとどめる。

 単に偶然の可能性だってあるはずだ。河童がネイビーハロの組成を好物としていたように偶然あの機体のデータがブレイクブーストの余波と相性が良かっただけだ、と。

 そして偶然月夜の7人と面識があったんだ、と。

 

 ──そんな偶然があってたまるか。

 

 同時に切り捨てるもう一人の内なる己。

 だが、あの月夜の7人共々エピオンに誑かされた可能性も否定出来ず黙り込むことしか出来なかった。

 そんな中でマギーの顔持ちが、あのいつでも余裕を崩さないオトナのオネエさまであり続けたマギーらしからぬものになっていた。

 

「気をつけて。今GBNガーディアンズも不審な動きをしているって言うし、こっちはこっちで色々頑張ってみるから」

 

 不審な動きってなんぞ。

 その言葉に少し引っかかりを覚えカナタは次の言葉を紡ごうとした矢先、画面外から野太い女口調が聞こえてきた。どうやらマギーを呼んでいるようだ。

 

「あっ、はぁい? 呼んだかしらァ〜? ごめんね。呼び出し入っちゃった。じゃ、またね」

 

 まったく間の悪い話だが自分で裏取ればいいのだ。

 手をヒラヒラさせるマギーをよそにカタナは口を開く。GBNガーディアンズなぞよりずっと重要なことだ。

 

「ちょっと待った! 最後に一つだけ頼みがある!」

 

「アラ、アナタが頼みごとなんて珍しいわね」

 

「あいつら……今回のマスダイバーについて気にかけてやってくれないか。リクたちについても」

 

 この戦いで一体誰が得をしたというのだ。

 胸糞悪いだけの斬り合いで。その胸のつっかえが取れなくて。けれども自分ではどうしようもできないのには間違いない。

 これは無責任だ。自分のケツも拭けないのかと詰られても何の文句も言えやしない。

 けれども、マギーに頼むしかなかった。彼女(?)にしか頼めなかったのだ。

 

 するとマギーは一瞬目を丸くした所で、柔らかい笑みを浮かべた。

 

「そういうことなら任せてちょうだい。それじゃあねぇ」

 

 その言葉がどれだけ救いだったか。マギーはそそくさと通信を切り、誰にも聞こえないコックピットの中で「すみません……」と呟く。

 また一人になったところで、カタナは再び機体を飛ばす。背中を引っ張るような重くどんよりとしたものを引き摺るように。

 

 

 

 

 

 暫く山岳地帯をやり過ごすと、広大な海にたどり着く。このまま真っ直ぐに進めば中心地のノーペナルティでログアウト可能なセントラルエリアに辿り着く。

 

 到着まで大雑把に3分くらいか。

 ノーカスタマイズのコックピットは立ちっぱなしだが、カタナのオルタナティブは従来のアニメと同じ座席形式だ。

 背もたれに全身を預けて大きくため息をついた。

 

「壊れちまえ……か」

 

 反芻するように自分が吐き出した呪詛を己の口でリピート再生する。

 よくもまぁそんな言葉が吐けたものだ。

 未だに過去に引き摺られている。過去の絆が呪いとなっているのに。

 

「シバさん、俺はアンタを……」

 

 ナユタの過去を追う程に、シバの憎悪とぶつかり合う。

 シバの憎悪もまたナユタの死から来るのだとしたらお互いが妥協するなんてことはありえない。確かめてもいないのにそんな気がしたのだ。

 それは何故か? ノーネイムと2回やり合った時の感触がそう伝えているのだ。

 

 どちらの心が折れるか。それが全てだ。

 ガンプラバトルをもって相手の分身を破壊(ひてい)するのが最終条件ならばやるしかないのだ。

 

 ──ガンプラバトルって殺し合いじゃねェんだぞ。

 

 そんなカタナの自問自答から生まれ落ちたツッコミも空虚に消えていく。

 セントラルエリアまで着地した所で機体から飛び降りた。もうとっくに陽は沈み、NPDばかりの人混みの中を歩く。

 

 誰もいない空虚な箱の中を歩いている気分だった。

 NPDには意志はない。ゲームマスターや開発が指示した意外のアクションは取ることはない。肩がぶつかったとしても謝ることもないし、厭な顔をすることもない。

 

 人形たちをかき分けて中心地のターミナル街まで進む。

 いつも思うが、新宿か渋谷のようだ。忙しなく車やNPD、他のダイバーが行き交う交差点まで差し掛る。

 空を見上げると僅かに空を描写するグラフィックがほつれていた。

 

 

 

 

「やっと見つけたよ。ソードマン」

 

 誰かに声をかけられた。

 交差点にはただ一人を除いて誰もいない。金色の髪をたなびかせた肌の白い青年が、そこにいた。身に纏うその騎士の鎧はあまりにもこのセントラルエリアの都市的な風景にミスマッチで、何処か浮世離れしているように見えた。

 

 ──お前は、誰だ。

 

 誰だって抱くであろう疑問のように見えるが、カタナのそれは他とは少し意味合いが違った。

 髪の色やら違えど、何処か見覚えのある面影はまるで……ナユタだ。あのSSSをスポンサーに持つプロガンプラファイター。

 

「いや、カナタ」

 

「……ッ!」

 

 マナー違反だという言葉が喉から出るより先に驚愕と苛立ちの方が勝った。

 相手のことを知っておいて何故自分の前でわざわざ現れたのか。おちょくっているつもりなのか。

 

「お前は……誰だ」

 

「あぁ、自己紹介が遅れた。僕は……ナユタだ」

 

 そう言うと思っていた。居直りに近い名乗りにカタナは己の拳に力を込める。

 お前は、誰だ。

 お前は、誰なんだ。

 

 

 その問いに応える者はいない。

 代わりにナユタは腰から、刺突剣(レイピア)を引き抜いた。

 

「僕と()()戦ってくれないか?」

 

 有無をも言わせぬ圧めいたものを感じた。

 それが余計にカタナを苛立たせるのだ。

 

「対戦は受け付けると言っていたと聞く」

 

「チッ、覚えてやがるか」

 

 ギガ・フロートでの狂言で言質を取られていた現状、応戦せずにはいられない。

 互いの背後にはそれぞれのアストレイが姿を見せる。この戦いを止める者誰一人、居やしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は間も無くして始まった。

 セントラルエリアの市街地は閉鎖され道ゆく人々がビルの窓から、屋上から、その戦況を見守っている。

 数十キロにも渡る空間を限界まで機体を飛ばしながらドッグファイトを仕掛けるモビルスーツが2機。先頭はファンタズマ。追うのはオルタナティブ、ジンバージャケットだ。

 

 ──速い

 

 追えない訳ではないがあちらは旋回性能がオルタナティブの上をいく。

 この手の市街地のビルを潜り抜けることだけを考えるならファンタズマだ。

 

 追うと忽然とファンタズマの後ろ姿が消える。否、急ブレーキを掛けて()()()()()。ムーンサルトだ。バック宙を大袈裟にしたような動きであっという間に背後に回り込んだ所で間髪入れず回し蹴りを隙だらけの背中に放つ。

 無論、そうやすやすと蹴り抜かれるほどカタナも案山子ではない。機体の上半身を捻り極力衝撃が機体に行き届かないようにする。

 

 加えてわざと派手に吹っ飛ぶことで追撃を回避する。ビルに接触する寸前でスラスターを全開にして衝突を防ぎ、機体を着地させる。

 ほぼ即興でやってみせた一連のダメージコントロールにナユタは舌を巻いた。

 

「流石ソードマンをしているだけある。技量は並以上か」

 

 ソードマンをするって動詞か。

 それはそれとしてわざわざこちらに喧嘩を売ってくる理由が知りたかった。わざわざナユタを名乗ってこちらのリアルネームを看破しておいて何が目的だ。

 

「俺の首でも欲しいのか。リアルごと叩き落とそうってのか」

 

 だがここまで知られているとなると次に思い浮かぶ可能性はこれだ。来るところまで来たと自嘲気味に笑う。

 ほぼ心臓を握られているに等しい状況下、プライベート回線でジャブ代わりの言葉を投げつけ、ナユタはカウンター気味に口を開いた。

 

「それは違うな。兄として君に会いに来たのさ」

 

 ──こいつ、何を言っているんだ? 

 

 カタナ、否カナタの脳裏には名状し難い感情が蠢く。記憶の奥深くに眠る欠損した兄の遺体、酷くズタズタにされた家族の遺体。アレが偽物の筈がない。

 そもそも今時偽装死体など出来るものか。るろうに剣心じゃないんだぞ。

 

「ざけんな。何処の馬の骨だか知らないが不愉快って奴だ……! イタコのつもりかよ……えぇ?」

 

 カタナの苛立ちを顕すようにオルタナティブが振り被るソードメイスの切先は乱暴にビルの窓ガラスを引っ掻き割る。

 たしかに声色は近い。死人の記憶で一番忘れやすいのは声だというが、それでも本人に近いとカタナは思う。

 

 嫌がらせか慰めか。どっちにしても不愉快なのには変わりない。

 死人を弄ばれていることには変わりないのだ、カタナにとっては。

 

 

 アスファルトを蹴り抜き、飛びかかるオルタナティブ。

 それにファンタズマは肩部のホルスターからリボルバーを引き抜き、迎撃をかける。サイドアーム程度で止まるほどオルタナティブはヤワではない。ソードメイスの刀身を使って弾き飛ばす。斜め左右に弾かれた弾丸が道路に、ビルに、次々と刺さる。

 

 6発。リボルバーの弾数は6発だ。

 ちょうど全部弾き切った所でソードメイスを振り下ろす。風を巻き、唸りを上げるこの一撃。仮に相手がフェイズシフト装甲だろうが中身のパイロットは脳震盪でスタン状態待ったなし。

 そんな一撃がファンタズマに炸裂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しなかった。

 

「なっ……」

 

 ガンっ、と鈍い音を立ててソードメイスが少し離れた所で落ちた。

 オルタナティブの手元には持っていた筈の得物が消え失せている。落ちたものがその得物だというのは明らかだ。

 そしてファンタズマは脚を高く上げていた。まるで何処かのロックミュージシャンのように。その脚は脚というにはあまりにも物騒だった。言うなら死神の鎌のようだ。

 ヴィダールのハンターエッジ並びにブルーフレームのアーマーシュナイダーを参考にした下手な人間では決して真似できない再現困難な脚部。そしてそれを利用した正確無比の回し蹴り。

 

 

 拭い難い敗北の記憶がカタナの脳裏を走った。

 ブレイクブースト? 否、それなら兆候が見られる筈だ。そんなそぶりは一切なかった。データ参照にしたってナユタがGBNに触れることは一度もなかったので参照すべきものはない。

 

 ぞわりと、カタナの背筋に寒気が走る。

 なんだ、こいつは。

 

 怒りと恐怖が入れ替わる。

 こんなオカルトが介在しないであろう世界にホラーな状況が出来上がっている今、カタナはただ機体の体勢を立て直し、ライトアームでその拳をファンタズマに放つ。

 

「甘いな」

 

 そこからは最早一方的な試合だった。鎌となった脚を地面に突き刺さし、レフトアームでそのオルタナティブの拳を受け止める、そしてそのまま捻る。

 世界が360度回った頃にはコックピットのカメラがリロード済みのリボルバーをコックピットに突きつけている絵面を捉えていた。

 

 ファンタズマは決してパワータイプの機体ではない。それどころか力での押し合いだけなら下から数えた方が早いまである。それだけのディスアドバンテージを覆し得るのは搭乗者のセンスによるもの。見事なまでにコピーアンドペーストされたような戦術にカタナの思考は止まっていた。

 

「あのソードマンをあっという間に……」

「流石は新進気鋭のプロダイバー! このままあのクソ野郎をやっちまえええええ!」

「このまま二度とGBNに出入りできないようにしてやれ!」

「あの不届き者に正義の鉄槌を!」

 

 野次が聞こえる中で、リボルバーの銃口だけがカタナの視界を支配していた。

 何度も何度もナユタと手合わせをしていたから分かる。この動きは正真正銘ナユタのものだ。

 本物……なはずはない。なら誰だ? お前は一体誰なんだ。

 

 野次の中でいつ撃たれるとも分からないその銃口をカタナは睨みつけるしかなかった。しかし──

 

「やめだ。興が乗らない」

 

 突き付けられた銃口が離れそのままホルスターに仕舞い込んだ。

 何のつもりだ。機体を起こし、突然の行動にカタナは機体をいつでも対処できるように応戦姿勢を取るものの、当のファンタズマはどこ吹く風。殺気めいたものは一切出ていない。まるでお開きの空気だ。

 

「やれーやれーと言われればNOと言いたくなる性分でね。それに本調子ではない相手と戦っても面白くはない。いずれまた会う時がある筈だ、その時にはまた」

 

「帰る前に教えろ、そのファンタズマは何処で手に入れた!」

 

 上がった死体からファンタズマが上がらなかったのは誰かが持って行ったからであろう予想は出来たがまさかナユタを詐称してくるとは思いますまい。だがこの眼前にいる男はその質問に答えることはなかった。

 

「それじゃ。無粋な連中には気をつけてリアルに帰るんだ」

 

「おい待てよ……!」

 

 踵を返して退散するファンタズマ。それをカタナは追おうとした矢先、グレイズがビルの影から踊り出た。

 

「トドメだ! ソードマン!」

 

「チッ!」

 

 騒ぎを聞きつけてGBNガーディアンズがしゃしゃり出てきたか。グレイズの他にも様々なモビルスーツたちが現れオルタナティブを囲い始める。

 これ以上追っても危険なだけだ。追跡を諦めてログアウトポイントへただただ一直線に駆け出した。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 悪意ある人間によるウイルスやチートへの対策をしていないネットゲームなぞ今時存在していない(運営を放棄したようなものはさておいて)。

 だが、ブレイクデカールというものは異彩を放っていた。

 

 あの高過ぎる隠匿性と性能は常軌を逸している。

 カドマツはGBNの開発チームリストを紐解くことにした。あまり思い出したくない記憶も引っ張り出しながら。

 

 最初期、開発においてのいざこざもあり内部分裂などドロドロとした話も沢山ある。

 特にGBNに痛覚の概念を与えるべきかを検討したとあるスタッフは開発中期に離脱してしまったとかの騒動は多分関係者の大半は知っているだろう。

 

 まぁそんなことはさておいて。

 

 GBNの対ウイルス防衛、並びに迎撃システムの基礎理論の構築をしたのはSafety Security Software。通称SSS。彼らのリストを洗うことにした。

 何故わざわざこんなことをしているのかには理由がある。

 

 

 

 

『方針を変えることにしてな、内部のシステムを再確認することにした。外部からの状況が見えず捕まえられない以上、内側を固め肉を切らせて骨を断つしかあるまい』

 

 ある日、カドマツが切り出したのはここまで後手に回ってしまっている原因についてだった。

 確かにブレイクデカールを作っていた側の開発力は相当なものだ。下手すれば天才と呼ばれるカテゴリに属するんじゃないかと思ってしまうほどに。

 

 だがここまで運営が機能しないほどに後手に回ることがあるのかという疑問に突き当たる。

 完全無欠なプログラムなぞ存在はしない。故に現実におけるコンピューターウイルスとはいたちごっこの戦いを繰り広げているのだ。

 これでもGBNの保守スタッフはその辺の技師とはくらべものにはならない程の優秀な人材で取りまとめている。故に不可解なのだ。今の状況は。

 

『試しに防衛システムを洗うことにしたのだが、外側は確かに良くできたものだった。しかし妙なことに隠し扉があった。それもゲームマスター権限で侵入することすら叶わない特殊権限を要する開かずの領域だ。用途も不明、設計者も不明……なぜこんなモノがあるのか我々ですら分からないという始末だ』

 

『ブラックボックスってことか……』

 

 不穏な報告にカドマツは眉を顰める。バックドアの類か、それとも。

 セキュリティ畑の人間ではないにしても、普通そんな不審なものを入れることはない。

 ミリタリー関係でも兵器は信頼性が物を言うようにセキュリティも信頼性がものを言う。開示も碌すっぽされていないような得体の知れないものを採用するものか。

 下手すればゲーム全体のプログラムにも影響が出てくるようなものを何故上層部は。

 

 対ウイルスの為という大義名分から開示されなかったそれが余計に不気味さを加速させている。

 

『先日状況説明をし閲覧権限の許可を上層部に投げたのだが、不可の返答が返ってきた』

 

『こんな状況でか……』

 

 これは崩壊する一歩手前まで認めないか最悪手遅れになっている奴だ。

 じゃあSSSに問い合わせるね……と思ったが、既にカツラギはその辺も洗っていたらしくいずれも『当社製品に問題はない』と言う返答だった。

 はいそうですかと引き下がれるものか。これでサーバーが破壊される寸前まで追い込まれるような非常時に隠匿したとしてもメリットはほぼないのだ。加えてこのままおいそれと放置すればそっちも汚点を残すことになる。GBNを守りきれなかったセキュリティなどと言われて。

 本当に問題がないならその責任は自分たちが取る。だがここで何もせず長年かけて様々なものを犠牲にして作り上げてきたものがブチ壊されるのを見るよりはリスク背負った方がマシだった。

 カドマツにとっても、カツラギにとっても、そしてこの場にいないスタッフたちにとってもこのGBNは自らの生きてきた証なのだ。そろそろもういいだろう。己の立場を賭け金にしても。

 なんて思った矢先──

 

『今後も掛け合ってみるがおそらくまともな返答は期待出来ん。ここで仕事が増えることになるが頼みごとがある。頼めるか?』

 

 

 で、カツラギの依頼もあって今に至る。ついでに有給休暇もふんだくってきた。

 月夜の7人の件のようにマスダイバーをプチプチ潰したところでいなくなることがないのなら当然根本を断つしかないのだが、業務が余計に増えることにカドマツは頭の天パをわしゃわしゃしながら「これエンジニアの仕事か?」とぼやく。

 別口、つまり開発者から侵入経路を探れというが最早犯人探し。刑事か探偵のやることだ。とはいえ、こんな諸行に乗れるような奴など限られている。特にリスクの多い行為で悪役になるのは少数が一番いい。

 

 資料室の埃にゲホゲホ言いながら、あれじゃないこれじゃないと項目を読み進める。

 すると、初期セキュリティシステム開発チームの面々の名簿が出てきた。

 

 いずれもロクに顔を合わせず業務連絡で話を進めてきたのでその人となりについて詳しくは分からない。

 彼等の情報や連絡先、仕様など目ぼしいものをメモに纏め、資料を元あった場所にぶち込んだ。

 

「ホバにシノハラ……と。さてと……」

 

 あとは確認を取るだけだ。

 割とグレーな手段だし探偵まがいの事をすることになる。深呼吸をしてから、資料室を出た。

 その先に何があるのか、つゆほども知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、ありとあらゆるコネを総動員して手がかりを探し求めた。

 ありとあらゆる情報を捌きながら動き回ったせいで、些かカドマツも気が滅入りそうにもなった。しかも最終的に行き着いた結論があまりにも酷すぎたのもあり、瞳からハイライトが消え失せかけていた。

 

 ひとり、自室で纏めた資料の束と化したファイルを雑に放り投げ、スマホの通話を開く。

 番号はカツラギのものだ。繋ぐと1コールで出てきた。

 

『私だ。……どうした』

 

「色々探った結果碌でも無い結果が出ましてね」

 

『そうか……』

 

「その様子だとそっちも碌でも無い結果が出た……ということですか」

 

『……あぁ。再三確認を持ちかけたがやはりガードが入る。別口で私なりに辿ろうとしたが、必ずSSS関係でブレーキが入る。営業レベルの人間とのコンタクトは取れるが、それ以上や開発関係は辿れない。まるであの会社そのものがブラックボックスだ』

 

「……そうでしょうね。なにせ、当時の防衛システムの開発チームの大半が────

 

 

 

 

 

 もうとっくにこの世に存在していないんですから」

 

 

 

 

 

 

 STAGE53 幽

 

 

 

 SSSはクロだ。

 そう言えるのにも関わらず、確実に潰しに行くための術を持たないのがあまりにも不甲斐ない話だが。

 ある程度察していたカツラギの反応はさもありなんとばかりに酷く深いため息をついた。

 

『この世に存在していない、と言ったな。具体的にはどうだった』

 

「ハイム・ソフトウェアや佐成アーキテクト、SSSが開発に着手したタイミングで既に亡くなっているって事です。中には1979年没の爺さんだっている始末。もちろん、開発時に存命の人間も混ざっていますがそいつも今では退職して行方不明か、死亡している……これでは話の一つや二つも聞けやしない。だが、幽霊が開発しているなんて頭の可笑しいことを言うつもりはない……クロですよ、アレは。身分詐称までしでかしている現状、手加減してやる義理ももうないでしょう」

 

『となれば上層部も味方とは言い難いな。あまり下手な立ち回りできん、か……』

 

「社会人失格っちゃ失格ですけど、上も既に解決方法碌に渡さずこっちに丸投げしているのだからおあいこですよ。タイムリミットまでにサーバーのコア部分を探りその原因となるものをピンポイントでぶっ壊すか引っぺがすか、取っ替える。力技になりますがこれしかないでしょう」

 

 もちろん、もしかしたらそのブラックボックスには何もないのかもしれない。その時はもうお手上げだ、おそらく何しても間に合わない。

 あまりにも分の悪い賭けになるが、これでカナタが後ろ指刺されずに済むのなら安いものだ。

 加えてあの顔も知れない連中の掌で踊らされるのにもうんざりして来た。

 

 ついでの連絡も済ませてカツラギとの通話を切ると、大きく溜息を吐いた。

 

 SSS、ナユタの亡霊を抱えて何をするつもりなんだ……

 墓地で再開した女の顔がふとよぎる。

 

「……早まるんじゃないぞ。坊主」

 

 誰かの手で丁寧に舗装されているような地獄への道。

 嫌がらせのような巡り合わせにカドマツは舌打ちせずにはいられなかった。

 





今日のまとめ

カタナ&カドマツ「お前は死んだんだぞ?ダメじゃないか!死んだ奴が出てきちゃあ!死んでなきゃあああ!!」
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