「よっ。元気か坊主」
古鉄やに一人の男が見知ったような顔で訪ねて来た
その男はややウェーブの掛った髪をしており、無精髭を生やしており、その身にベージュのズボンに首元を緩めたネクタイを巻いたワイシャツの上に白衣を纏っていた。
少し眠たげな表情なのは単に生来のものだろう。
「カドマツさんいらっしゃい。ま、ボチボチやってます」
カナタはいつものようにレジカウンターの傍に置かれた椅子に座って、週刊少年ジャンプをパラパラと読んでいた。カドマツは店内に他の人が居ないことを確認してから口を開いた。
「早速本題に入るがマスダイバーの目撃件数が増えつつある。情けない話だが俺たちGBNサーバーのエンジニアでもマスダイバーの足取りは碌に掴めちゃいない」
「……そう言えばマスダイバーってログでデータの異常とか分からないモンなんですかね。幾らなんでも運営の対処が後手に回り過ぎている」
マスダイバーが姿を見せたのは半年くらい前からだ。もしかしたらそれより前に水面下で存在していた可能性も否めない。それなのに運営は目立った対応の一つもしていない。このままではGBNそのものに異常を来たす可能性もある。
「それは依然つかめて居ない。事実としてあのグシオンの搭乗者のログからは異常は一切検知されていなかった。証拠がない以上罰する事は不可能だからな……ったくよく考えてやがるよ。あのチートツール開発した奴、絶対性格が悪いね。断言するよ。しかも中途半端に無敵じゃねえし」
カドマツは参ったように頭をわしゃと掻く。
このカドマツなる男。かつてGBNの創設期のメンバーの一人だった男だ。今はGBNサーバーの現役エンジニアをやっている。
数年前に「世の中の遊びが変わるぞ!」と声高らかに語っていたのをカナタは今でも鮮明に覚えている。
「マスダイバーも一度倒したら再度チート発動する確率は抜群に低くなる、しかし直接倒すしかないってのが面倒なもんだな……」
チートで法外に強化されたマシンを真正面から排除するには相応の技術が必要だ。ただでさえ1機でも面倒なのに30機、300機、3000機とゴキブリのように湧かれては、想像するだけ背筋が凍りそうだ。
バグが大量発生してたちまちGBNそのものが確実に終わる。
「まぁなんであれ真正面から斬り倒します。俺に出来るのはそれだけですし、それになんかチャンプも動いてるって話だし?」
「おっ、耳が早いな。そう、あのGBN界最強の男――クジョウ・キョウヤが独自に調査に動いてるんだってよ」
「確かにあの人ならマスダイバーを狩るのは容易だろうが……もっと戦力が欲しいっすね。こっちはマスダイバーが出てから調査してから処理にあたるから後手後手に回り切っている。ならば数を増やさないと増加数に追いつかない」
「とは言ってもコンスタントにマスダイバーに遭遇して処理出来る奴なんてそうそう居ないし、態々バグ状態の中チート持ちとやり合おうって奴も居ないだろう。それに増えたら増えたで誰かがバカやらかして気に入らないダイバーを寄ってたかって叩く魔女狩りってのも起こりかねない。別の意味でGBNが終わっちまうぞ」
「……大元突き止めるまで待つしかないってか」
ジャンプをカウンターの上に放り投げ、カナタは力なく椅子に凭れた。
マスダイバーのログに異常が検知されないという隠ぺい能力に、異常なまでの機体性能。使用者が口を割らないこともあって、詳細は未だ不明。このままGBNの異常が大きくなって滅んでいくのを待つしかないのか。
――否、断じて否
「カドマツさん。……今回ここに来たのはそれを言うだけじゃないですよね?」
カナタは笑みを浮かべて問いかける。笑うとは原来攻撃的なものであり、獣が牙を剥く行為が原点であると何処ぞの漫画で見た事がある。今カナタが浮かべているのはそういった攻撃的なものを大いに含んでいた。
「あぁ。今回見つけたマスダイバーと思しきヤツはフォースぐるみでチートを使ってやがる。少しばかり手こずるぞこいつは」
フォースというのは所謂ソシャゲで言うコミュニティーのようなものだ。複数のダイバーが集まり、その専用のミッションの受注も可能である。
因みに一人でも一応フォースを名乗れる。――ワンマンアーミー、たった一人の軍隊にもなれるのだ。
で、今回の場合はチートを複数人で同時使用しているというかなり悪質なタイプだ。
「何人?」
「3人だ。使用機はジェガンタイプ。一応俺の同期が追跡をかけているが……どうする?」
「……追います。でもその前に――」
カドマツの問いにカナタは姿勢を正して頷いてから――眼下のカウンターにちょんちょんと指さした。カドマツ「あーなるほどね、大体分かった」と呟いてから続けた。
「店番だろ? しかしお前んとこのばーさん本当にアグレッシブだな……またゲートボールかカラオケか?」
カドマツは呆れ交じりにカナタを横目で見ながら問うとしれっとした顔で答えた。
「いえ、今日は少年に混ざって草野球っす」
「お前のばーさん何モンだよ……」
信じられないものを聞いたように額に手を当てる。
これくらいの年齢になったら昼間にワイドショーでも見ているものだと思っていた。カラオケやゲートボールなら多少理解は出来るが子供に混じって草野球とはどういう事なのか。
いかにもよぼよぼな婆さんが機敏に打って走って守って投げる姿を想像すると現実離れした光景がカドマツの脳裏に映った。
「バケモンです」
何故かその返事に納得してしまった。
◆◆◆
――ターゲットは連戦ミッションで乱入をかけてくる。
連戦ミッションとは移動しながら順番に敵を倒していくミッションだ。幾つもあるステージを連続して攻略する為、ダメージと弾薬消費は最低限に抑える意識をする必要がある。
面倒だが、その分貰える報酬は良いものとなっている。
チートを使えば当然途中からの乱入も出来るだろう。しかし乱入は本来許されていない行為だ。これを放置するわけにはいかない。
既に被害者は複数現れており、突然現れた3人組に妨害ミッション遂行を滅茶苦茶にされてしまい、心折られたプレイヤーも居るという。
胸くそ悪い相手だ、とカドマツは唾棄した。
それはカナタだって一緒だ。
GBNの楽しさを知り始めたプレイヤーをチートで故意に心を折るような行為は許しがたいものがある。
店番の時間は終わった。
カドマツも既に店から出ており、一人自室に戻ったカナタは勉強机に置かれたガンプラを見やった。重装甲を身に纏う、ガンダムアストレイタイプの改造機――手には得物のソードメイス。左腰には日本刀型ブレードを携えている。
それを無造作に手に取り、GBNのアクセス手段であるダイバーギアと専用端末のセットを引っ張り出してから端末にギアをセット。その上にアストレイタイプのガンプラを乗せる。
そしてヘッドセットを兼ねるゴーグル型デバイスと、操縦桿型のコントローラー2つ両手で握り締めた。
「よっし。やるか」
ログインすると、カナタ改めカタナは取り敢えず要らない面倒を減らすために先ずは変装をすることにする。
今のところソードマンとして知られているのは乗機のアストレイタイプであってアバターは一応知られていない。
ではこの現状でするべきことは自機に偽装工作を行うことだ。アバターも少し変装を付け、後々の面倒を減らす。前者は既に用意してはいる。
後者はGBNで直ぐに出来る。
今回は眼鏡をかけ、洋服としてスーツを着る。そして髪の色はブラウンにする。これで多少は別人に見える筈だ。
準備をしてから、丁度良く受付で連戦ミッションを受注しようとしている4人組に声をかけてみた。
「どうも。そこの4人方。今から連戦ミッションですか? 俺ちょっと初心者なんで一緒に戦って貰えません?」
「あ、仮面の人の次はサラリーマンっぽい人だ」
正しくは5人だったらしい。
冒険者風衣装の少年2人と西洋の騎士を思わせる鎧とマントを纏い目元に仮面を付けた男。そして青みの掛った白髪で純白のワンピースの少女に抱えられたピンク色の猫耳を生やした球体《ハロ》。
猫耳ハロにサラリーマンと評されて、カナタは変装の効果を実感した。特に他の人間にも警戒めいた色は見受けられない。
――それにしてもこの仮面の男何処か見覚えがあるような……
妙な既視感を覚えながらも5人は快諾してくれた。
「勿論ですよ! 一緒に戦ってくれる人が居ると心強いです!」
青い冒険者風衣装の少年が言うと相方であろう緑の冒険者風衣装で頭に帽子と眼鏡をかけた少年も同意するように頷く。仮面の男は特に異論を言わず微笑んでおり、少女と猫耳ハロはよく分かっていないのか目を丸くしていた。
「そう、ありがとう。俺はカタナだ。宜しく」
青い服の少年はリク、緑の服はユッキー、少女はサラ、猫耳ハロはモモカと名乗り、最後の仮面の男は――
「僕はキョウヤ、宜しく」
「……あっ」
何となく察してしまった。カドマツが言っていた、チャンプが独自に調査をしていると。そのために変装をしているのだろう。
そのために仮面を被って変装をしているつもりなのだろうが……大丈夫なのかコレ?
一抹の不安が過り、口元を引き攣らせる。
こんな時どんな顔をすればいいのだろうか。笑えば良いのか、悲しめば良いのか。
「この人はチャンピオンに憧れてGBNを始めたんですよ!」
リクはそうフォローしてくれてはいるものの、バレバレだ。やっぱり不安と心強さが同居したナニカがカタナの胃の中でぐるぐるとのたうちまわっていた。
◆◆◆
ミッション開始エリアまで行くにはまず機体で飛んで行かなければならない。
カタナ操るオルタナティブは視覚ジャミング装置で偽装を施してあり、他者からはガンダムバルバトス第六形態にソードメイスと刀を取り付けたアレンジ機にしか見えないだろう。
機体特性と比較的一致しているのでこの人選となった。
勿論このジャミングは一定のダメージを負うと化けの皮が剥がれて正体がバレてしまうので被弾は避けることは必須だ。
『カタナさんはガンダムバルバトス第六形態にソードメイスを装備させてるんですね!』
何一つ疑いの色も見せず言うユッキーにカタナは「ま、まぁな。俺の好きな得物だからなー」と返す。
嘘は言っていない。事実、ソードメイスの鉄塊であり剣でもあるこの得物をいたく気に入っていた。ぶん回して叩く。それだけのシンプル極まりない鉄塊に等しい得物は如何なる頑丈な装甲であれども強度を奪う。盾にもなるしリーチもある。
ちょっと重いのが玉に瑕。けれどもそんなデメリットがデメリットに感じない。
長々と講釈垂れてみたが一言で言えば「ソードメイスは最高だ」
「あぁ。ソードメイス……アレはイイものだぞォ。ユッキー君もソードメイス使ってみなァい?」
「僕の機体、射撃主体なんで遠慮しておきます……」
「えー」
情けない声を上げて布教は即終了。リクは既にキョウヤと取り込み中で布教する間すら与えられなかった。
某チャンプを彷彿とさせる男キョウヤが操る機体はガンダムAGE-2・ダークハウンド……のように見えるナニカだった。よく見ると胴体のカラーリングが違うし肩部のウイングの形状も違うように見える。4枚羽が原型機のAGE-2ノーマルそのままだ。
リクとの会話を聴く限り「AGE-2をベースに改造した」ものらしいのだが、既にクジョウ・キョウヤが水面下で動いているという情報を聞いているカタナには変な笑いが込み上がった。
――
物も言いようである。
◆◆◆
『もう直ぐ
廃墟と化した東京の空を4機は飛行していた。ユッキーの言葉通りここが今回の戦いの舞台となる。
青空一つ無き曇天。
雨が降りそうで降らない光景は現実だったら恐らく湿気で息苦しさを感じていただろう。
目下には見慣れた光景が広がっていた。遠方には煤だらけの東京タワーも見える。
廃墟と化した見慣れた光景は少しばかり面白さを覚えたと同時に少しばかり複雑な気分でもあった。もし――見慣れた景色が何かしら惨劇に侵食されたらこんな風になるのだろうか。
嫌な想像をしたと、カタナは溜息を吐く。
そもそも今考えるべきことじゃない。
ふと我に帰るとセンサーが警告音を流して眼下の道路に3点マークしていた。
「センサーに感。――多分地中に3機隠れている。多分他にもそこそこ居るぞこいつァ」
恐らくこの東京は敵の巣だ。
意識外からの攻撃も警戒しなければならないだろう。
『僕が囮になってちょっかいを出す。奴らが顔を出したら皆で叩いてくれ』
返事を待たずしてキョウヤはダークハウンドを降下させ、センサーに反応のあった道路にランス型兵装ドッズランサーに取り付けられた兵装ドッズガンで弾丸をばら撒き、粉塵を巻き起こす。その中から生物的な単眼の黄色い鬼を思わせる異形の巨人が姿を現した。
デスアーミーだ。
単騎では大したものではないが、数だけは多く物量の暴力で攻め立てる厄介な機体だ。地中から這い出たそれは金棒型の武器を銃のように持ち、その先端から黄色い閃光――ビームライフルを放った。
それを読んでいたかのように無造作にダークハウンドのようなナニカは戦闘機形態ストライダーモードへと変形し、ハイパーブーストを発動。並々ならぬ推力でその場から離脱。
茫然とするその隙を狙って、追うようにリクのダブルオーダイバー、ジムⅢビームマスター、擬装バルバトス第六形態が降下。
ダブルオーダイバーは携行していたビームライフルで、滞空しながら狙撃。ジムⅢビームマスターはオリジナルの複合兵装《チェンジリングライフル》の通常バレルをバルカンバレルに切り替え、ビームマシンガンを発射。
そして最後に擬装バルバトス第六形態がソードメイスを横薙ぎでデスアーミーのどでっぱらに炸裂。勢いよく廃墟のビルに叩き付けた。
「はィッ次ィ!」
キョウヤは既に他のデスアーミーの燻り出しに入っており、次々と湧いてくる。
デスアーミー、1機見たら30機居ると思え。
それを裏付けるように湧き出るデスアーミーとその派生機を前にカタナは深呼吸をした。――焦るな、落ち着け。今はマスダイバーのことは考えるな。
【視覚ジャミングユニット……外ヅラだけは完璧だが、機体性能は化ける前のままだし数発だけでも貰えばジャミングも
ログイン前に言われたカドマツの忠告を脳裏で反芻する。
カタナにアウターパーツという選択肢は最初からなかった。というと、そもそも重装甲の擬装前の機体にそれ以上の負荷を掛けると重量過多で戦闘に支障が出る恐れがあった。
それにアウターパーツだって相応の被弾をすれば化けの皮が剥がれるのは一緒なのだ。
故に高難易度ミッションの報酬の一つである視覚ジャミングユニットを組み込むのが適切と判断した。
無論、このジャミングユニットも手放しで褒められるものではなく、カドマツの忠告通り強度はアウターパーツ以下だ。
実体武器主体にはほぼ関係のない話だがエネルギーの消費も激しい。
「簡単に言ってくれるよな……!」
デスアーミーの金棒型ビームライフルの弾をソードメイスの刀身で弾きながら、道路の上を滑るようなホバー走行で接近を掛ける。
そして射程距離に入った所で縦にその得物を振り下ろした。
轟音、そして爆音。
煙と火の粉を浴びながら擬装バルバトス第六形態はゆらりと振り下ろした得物を持ち上げ、次の獲物をその緑に鋭く光る双眸で睨み付ける。
その様はどちらが鬼か分かりはしなかった。
次にビルの上から飛び降りながらビームライフルを放つデスアーミーが襲いかかる。それをうねる様な軌道で後退しつつ、ソードメイスを投げ付けた。
ガィン、と金属と金属が弾け合う音を立てて着地失敗、道路を転げたデスアーミーを擬装バルバトス第六形態は飛び上がり落下の勢いで踏み潰した。
今回のNPCはAI精度こそ良くないが数だけはいる。極力被弾を避けるという目標を果たすにはあまりにもハードなゲームだった。
別のガンプラを出せば良かったか
否、別のガンプラだと使い勝手が変わるので別の問題が発生する。ゲームシステムを逸脱したマスダイバーに勝利するという最終条件も満たさなければならないのだ。であれば一番使い慣れた機体の方が確実だ。
――他の味方機はどうしている?
カタナは安全を確認してから他の場所で戦闘を行なっている味方機を探す。
すると曇天の下、ビルより高い空で巨大なウイングを生やした飛行型デスアーミーことデスバーディが風を切り裂き飛び回っていた。
それを追うようにダブルオーダイバーがバックパックに背負った対艦刀で一刀両断にし、同じくダークハウンドは変形し、尋常ならざる細やかな動きで追い縋るデスバーディを撹乱。背後に回り込みドッズガンで蜂の巣にする。
地上ではジムⅢビームマスターがチェンジリングライフルで並び立つデスアーミーを薙ぎ払うような掃射で撃破していく。
「――タイマン特化じゃ、この手のミッションで向かないか」
デスアーミーを大量に狩る
『あの人……武器を使いこなしている』
最早鉄塊と言っても差し支えないその得物一本で次々となぎ倒すその姿に何を思ったのかリクの感嘆の声が聴こえてくる。
そんなに賞賛されるとむず痒くなるし、尚の事ソードメイスを布教したくなる。
ユッキー相手に失敗した現状どう切り出そうか。
――ハァイリクゥ! ソードメイスって使ってる?
――うん、馴れ馴れしいわ。
などと考えていると遠方からのビームを擬装バルバトス第六形態の装甲を掠め、ジャミングが
「ったく馬鹿じゃねェの……」
先程の自分自身に向けて吐き捨てつつ、センサーを一瞥する。
それはそうと先程の射撃で位置は掴めた。後は近寄るだけだ。元の心の持ちに戻ったカタナは、機体のレバーを引き、機体を跳躍させた。
◆◆◆
ガンダムカフェだった廃墟があった。隣にはAKB48カフェ&ショップだったテナント。そしてその近くに広がる広場や駅。
秋葉原駅電気街口前交通広場。見慣れた光景が廃墟として眼前に広がっていた。
広場には先ほどまで暴れていたダブルオーダイバー、ジムⅢビームマスター、ダークハウンドらしきもの、そして擬装バルバトス第六形態が並び立ってオート修理状態に入っている。
ここはインターミッションエリアだ。ちょっとした小休憩が行える安全地帯である。
PHASE3を完遂し、一息ついた操縦者4名は自分の愛機の修理を待ちながら削げた集中力が補てんされるまで妙に作り込まれた街を観察したり雑談をしたりしていた。
下の広場でモモカとサラが追いかけっこをしている姿が見える。
「こうやって戦闘中は修理されるんだ……」
ジムⅢビームマスターの姿を見て感慨に耽るユッキーに「まぁ応急処置だけどね」とキョウヤが付け加える。彼の言う通り応急処置では大掛かりな修理は不可能で、仮に片腕をバッサリと欠損した場合その腕は失敗リタイア成功含めミッション終了まで戻らない。
「それにしてもユッキーの新武器、良かったね! ビームとガトリングの切り替え、巧く行ってたし」
「ありがとう! 苦労して作った甲斐があったよ! リッ君のも良かったじゃない!」
「……うん。まぁね」
お互いの新武器を讃え合いながらも少し歯切れの悪い返事をするリクの姿にカタナは少し気掛かりに思いながらも飽くまで無関心を装い、カタナは少し離れて再び視界を秋葉原駅周辺に向けた。
「――何を、考えているんだい?」
キョウヤは何かに気付いたか声を掛け、カタナは少し鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてから口を尖らせ、小声で口を開いた。
「べっ、別に何も。つーかチャンプだって何を考えているんですか。バレバレっすよ」
「あ、あははは……ひ、人違いだよ。僕はチャンピオンに憧れた、ただの新人ダイバーさ。君も何処ぞのマスダイバー斬りに似ているような気がするが?」
「うははは……とんだ大型新人も居たもんですな。あの人はアストレイを使ってて俺はバルバトス、別人です別人」
「……ここはお互い、詮索しないようにしようか」
「……ですね」
仮面の男と紳士服の男の間に妙な空気が流れ、すぐ近くにはモモカハロがユッキーの顔面に体当たりして追いかけっこが始まるというシュールな光景が繰り広げられていた。
そんな中何を思ったのか、リクはこの場から離れていく。
その姿にキョウヤは妙な空気を払って踵を返した。
「ん? キョウヤさん、何処へ?」
「彼と話をしてくるのさ。今の彼を放っておけなくてね」
「貴方らしいや……」
だからこそクジョウ・キョウヤはチャンピオン足りえるのだ。それだけの実力と度量を持ち合わせている。しかし当の本人は本人じゃないと必死で否定しているが
「僕は別人だよ。チャンピオンとは。僕はただのチャンピオンに憧れた男、それ以上でもそれ以下でもないさ」
振り返りモロバレな訂正しつつ、リクを追うキョウヤにカタナは苦笑いした。