インターミッションエリアから出た時には既にリクの表情は晴れていた。キョウヤがどんな話をしたかはカタナには知る由もない。けれどもこうして晴れ晴れとGBNを楽しんでいるその姿が少し眩しく思えた。
さて、本題に入ろう。
インターミッション明けのこのフェイズにはウォルターガンダム、そしてラスボスとしてデビルガンダムが控えている。
初心者用に低性能に落としているとはいえ、油断は禁物だ。そして
モモカとサラは地上で観戦に入っており、その前には4機のモビルスーツが並び立ち、敵の出現を待つ。そして――
「来た……っ」
カタナの声と同時に雷門の前に巨大な鉄の塊のようなものが落ちた。
砂煙を巻き上げ、収まった所には3本の細長い脚で立つ肥大化した胴体と触手状の2本腕、それに付いた円盤状のユニットとそこから更に伸びる触手とクローアーム。
その姿は文句なしのゲテモノと言えるその名も――
ウォルターガンダム。
馬に蹴られて地獄に落ちたガンダムがそこに居た。
頭部のフェイスアーマーが動き、生物的な牙を晒す。
最早機動兵器ではなく生物兵器とも言えようそれに警戒、咄嗟に4機は得物を構えた。
が、
ウォルターガンダムは突如先ほどの威圧感と禍々しさが嘘のように轟音を立てて崩れ落ちた。
『あれがこのフェイズの相手なのに……どうして』
倒すべき相手が居なくなった。その事実に困惑するユッキーの声が通信越しで聴こえてくる。リクも同様どうすればいいのか分からずGNソードⅡライフルモードの銃口を下げあぐねている。
しかし――キョウヤとカタナは違った。
倒すべき敵が今この瞬間、眼前に居る。
崩れ落ち、電子片となって消失していくウォルターガンダムの後ろには3機のジェガンが並び立っている。中心に要るのは黒いジェガンだ。ガンダムUCのエコーズ仕様に一見見えるがただのジェガンにゴーグル型強化センサーが付いているだけの別物だ。その左右には紫色のジェガンが並び立っており、そのいずれにも共通するものがあった。
『来たか』
『4機か、まぁ大したことないか』
『さっさと片付けよう。面倒は嫌いだ』
ジェガン3機の操縦者の声が聴こえる。恐らく彼らが件の乱入事件の犯人か。擬装バルバトス第六形態はソードメイスを握り直し、いつでも戦闘に入れるように構えを取る。
『注意して、リク君、ユッキー君。彼らはマスダイバーだ』
『マスダイバー……?』
当然、知らないリクが疑問符を浮かべる。
無知は罪とは誰かは言ったが、こればかりは寧ろ知らない方がいい。厨二じみた物言いだがこれはGBNの闇だ。
『不正にガンプラデータを改ざんし、機体性能をシステムの範疇から外れたものにしている連中だ。まだ数は少ないけれど、初心者や下位ランカーを中心に増え始めている……出現からGBN内に色んなバグが見られるようになった。君たちも何か心当たりはないかい?』
これだけならまだ別に良い(不正操作なので良くないが)。これの最大の問題点はバグだ。
『……そう言えば』
何か心当たりがあるのか、リクが声を上げる。彼も何かしらのバグに遭遇しているようだ。
カタナが知る、既に確認されているバグと言えば規定ダメージを越えたNPC機体が突然復活、ゾンビ状態になったという報告をカドマツから聞いた事がある。
他にも設定された天候が突然豹変、竜巻が発生したり、ステージレベルが設定にそぐわないものに突如豹変したりしたという。
他にも空間に穴が空く《クラック》なるものが発生しているという。
リーダー格であろう中心に立つ黒いジェガンはバイザー型センサーを鋭く光らせ、通信を送って来た。
『オイ、お前たち。このミッションは俺たちがクリアしとくから、君たちはご苦労さん』
『はぁ?』
小馬鹿にしたようなその男の声にユッキーがお前何言ってんだと言わんばかりに不満の声を上げる。当然だ、これまでの4人での頑張りはなんだったのか。突然チートで乱入をかましてきた奴に帰れと言われた挙句横取りされるなど冗談では無い。
『連戦ミッションなんて途中めんどくさいでしょう? ランクポイントを稼ぐには最後の美味しい所だけをいただくのが効率的ってオハナシ』
「チッ」
取り巻きの紫色のジェガンの女搭乗者が小馬鹿にするような声色で言い、カタナは露骨に――というか相手に聴こえるように舌打ちした。
『何その舌打ち』
反抗的な態度に逆上したか女の苛立った声が返ってくる。しかし構うものか。カタナは苛立ちのあまり言葉を連ねた。
「真面目にプレイしている奴がチート野郎に水差されちゃぁ、舌打ちの一つや二つしたくもなる。ふざけるんじゃないよ」
『ハッ、お前らの意見なぞハナから聞いていない、そろそろしてリタイアしてしまいな!』
リーダー格が一蹴し、黒いジェガンがバイザー型センサーを持ち上げゴーグル型カメラを露わにし、手始めに一番近くにいたリクのダブルオーダイバーに接近する。
直線的な動きだ。それでいて既に得物を構えている相手にその立ち回りは迂闊過ぎる。
ダブルオーダイバーは即座にGNソードⅡでビームライフルを発射。
が、その弾丸はいともたやすく弾かれた。
『気を付けて! 装甲の耐久値も高くなっている!』
キョウヤの言う通り、黒いジェガンの装甲には傷一つ付いていなかった。腕部に仕込まれたビームサーベルを発生させて、それで突きを放つ。
刹那、擬装バルバトス第六形態が割り込み、ソードメイスでその突きを防いだ。
「連戦ミッションに挑んだダイバーたちが次々と謎の異常な性能を持つモビルスーツの乱入でリタイア、失敗している事件が起こっていた。……それはてめェらか」
『それの何が悪いんだ?』
あくまでも開き直るような態度を貫くマスダイバー。これは幾ら言葉を尽くしても意味はないだろう。そもそもアレは常習犯だ、であれば躊躇ってやる道理もない。
『不正に手に入れたデータで力を得るだなんて、そんなの卑怯だッ!!』
吠えるリク。彼にも彼らには許しがたいものがあるのだろう。
ユッキーとキョウヤも僚機の攻撃を躱し続けており、カタナはリクに通信を送った。
「リク。ユッキーの援護に入ってくれ。この黒いのは――俺がやる」
『大丈夫なんですか?』
「この手のあしらい方は慣れている。キョウヤも多分――ほれ」
カタナが示した先には僚機のジェガンの攻撃を軽々と避けながら、ダークハウンドらしきものが背後に回り込んでいる姿だった。
技量差は最早雲泥の差だった。チート依存の戦い方ではあのチャンピオンを出し抜くことなど到底叶いやしない。
次に左膝関節のジョイント目掛けてドッズランサーを突き刺し、追撃のドッズガンをありったけ叩き込んだ。高い防御力を持っていたとしてもここまでやられれば限界は来る。左足を破壊され、バランスを崩したジェガンは前のめりに転げ落ちた。
そこに何かを掴んだかリクは「こいつはお願いします、気を付けて!」と言い残してユッキーの援護に回った。その姿にカタナの口の端が持ち上がる。
さぁお仕置きの時間だ。
「あいよ。お願いされたッ!」」
ひとまず長い鍔迫り合いから脱する為に黒いジェガンを蹴り剥がした所で、すかさず地表のアスファルトを抉るように蹴る。初動、加速、得物の構え。全てにおいて完璧な状態で蹴り飛ばされ体勢を立て直したジェガンに肉迫し、勢いよくソードメイスで斬りかかる。
普通のモビルスーツなら貰えばひとたまりもない一撃だ。が、しかし。
黒いジェガンは避けずに腕一つで受け止めた。
そうだ――相手はもう普通じゃない。
『渾身の一撃のつもりだったか? 残念だったな、無駄だ。無駄無駄ァッ。俺にはな、お前みたいな糞真面目にやる奴が滑稽に見えるぜ!』
ジェガンの操縦者は嘲るように吐き捨てる。
不正をやっておいて自身を正当化する為に他者を嘲る。その行為に尚の事カタナの心が冷めていく。
「じゃあなんでお前そこにいんだ」
『さてはお前、苦労の果ての結果にこそ価値があると勘違いしているクチか? 失せな、老害。年寄りの時代は終わったんだよ』
鼻から笑いが出た。
怒りの沸点はそこじゃない。的外れな男の指摘にカタナは鼻で笑った。
黒いジェガンは片腕でソードメイスを受け止めた状態で、空いた腕でビームサーベルを振るい、後退するも擬装した装甲を掠めた。
このダメージでついにジャミングが完全にほつれ切った。
装甲にテレビの砂嵐のようなノイズが走り、ガンダムバルバトス第六形態だったそれはそのシルエットを消す。そして黒と赤と基調とした陣羽織型のアーマーを纏うアストレイタイプが姿をあらわした。
『ソードマンかよ!』
その名も――ガンダムアストレイ・オルタナティブ。
代替品、二者一択の名を冠する
それを見た黒いジェガンを操る男の声に怯えが混じる。それなりに自分の名は売れているようで、反応からして擬装して正解だったようだ。初心者と勘違いしてホイホイ現れてきたのが運の尽きだ。
全力で叩き潰す。
そう決意したカタナは力強く操縦桿を握りしめた。
『だが、そんなヘナチョコな一撃でやられるかよ!』
虚勢混じりの威勢と共に左腰にマウントしたハンドグレネードを引き抜き投げつける。――が、無造作にグレネードを腰から引き抜いた日本刀型近接ブレード《千子村正》で切り捨てられ後方で爆ぜた。
後ろからの強烈な逆光でアストレイ・オルタナティブの姿が黒く染まり、千子村正を納刀し再びソードメイス一本に戻りながらゆらりと幽鬼の如く前に歩み出る。
「そうか――じゃァ
『何……』
ジェガンの操縦者が困惑の声を上げている間に、カタナは口の端を持ち上げながら操縦席でコンソールを操作する。画面には2択の選択肢が表示されていた。
《CAST-OFF READY?》
【GO】
【NO】
【GO】をタッチすると機体に変化が生じた。陣羽織型の装甲の各部が浮き上がり、カタナは小さく呟いた。
「
声に応えるように浮き上がった装甲はジェガン目掛けて弾け飛んだ。勢いよく飛ばされた装甲はそれそのものが凶悪な兵器と化す、装甲のパーツをぶつけられたジェガンは大きく怯み、操縦者が気付いた時には拘束具から解き放たれたアストレイ・オルタナティブが接近。ソードメイスを振るう1秒前だった。
一閃、ジェガンを殴り飛ばす。
ビルにその身を叩きつけられたジェガンは咄嗟に立ち上がろうとするものの、オルタナティブの掌から射出されたワイヤーでその片腕を掴まれ、引き寄せられ再びソードメイスで一閃。曇天に向かって再び吹っ飛ばす。
『なんだコイツ! 速いッ!?』
先程の陣羽織型の装甲を纏っていた状態でもそれなりに速かったが今のパージした状態ではそれ以上のスピードを持っている。
外見は通常のアストレイのプロトタイプシリーズをベースにしたもので、白を基調とした装甲に黒い剥き出しのフレームを持つ。陣羽織型の追加装甲《ジンバージャケット》を解放し、得物こそソードメイスと千子村正と変わりはないが、防御力を犠牲に圧倒的機動力を獲得した。
助走を付けて、地面を蹴り飛ばす。
大きく跳躍したオルタナティブはトドメにジェガンをソードメイスを振り下ろし、地面に叩き付ける。
『ごふぅあッ』
大きくクレーターを作って道路の上で磔になるジェガンを見下ろしながら、スラスターをカットした。
「――こいつでシメーだ……!」
重力に従い、オルタナティブが自由落下を始める。この落下の勢いに乗せたソードメイスの一撃を受ければ幾ら強固な装甲だろうがお陀仏だ。
「クソッ! リタイアだ! なんでリタイア出来ねえんだよッ!!!」
リタイアしようとしても何故か出来ないらしい相手の声を耳にしながら、ソードメイスを逆手持ちに切り替え、落下の勢いに任せて先端をコックピットに――
突き立てられなかった。
「何っ!?」
落下中、センサーが反応すると同時に横から何か黒い鳥のようなものが邪魔をした。咄嗟にソードメイスの刀身で防ぎ、ダメージこそ免れたが攻撃は完全に無効化されてしまった。落下の軌道は先ほどの攻撃で逸れ、やむなく道路上に着地。
その横槍を入れた鳥を見据えた。
「黒い……鳥?」
赤と黒のボディと赤色の入った翼。金色の爪。
モビルアーマーかこいつは。ビーム砲を撃ちながら再び体当たりを仕掛けてくるそれをいなしながら、舌打ちした。
「まァだ居たってのか……!」
ソードメイスを地面に突き刺し腰にロックしていた千子村正を外し、手に持つ。
いつでも抜刀できるように黒い鳥を睨みつける。幸いあちらはマスダイバー特有の黒いオーラのようなものはなく、普通に戦えば勝てるのが分かり内心ほっと胸を撫で下ろす。
とはいえマスダイバーに加担する割には力を使っていないのが少し意外だ。
再び体当たりを仕掛けようとするそのタイミングで斬り捨てればこの鳥は排除できるはずだ。構えを取り、意識があの黒い鳥に集中した刹那。
その時――音を立てて空が割れた。
何の比喩でもなくその言葉の通りだ。割れた空には得体のしれない空間だけがあり、そこから機械仕掛けの触手が伸びた。
その大きさはモビルスーツと同じ、場合によってはそれ以上のものでその特徴的なものにキョウヤとカタナには心当たりがあった。
「『デビル……ガンダム』」
触手は東京の街に突き刺さり、ひときわ大きな穴からはぬらりと巨大なガンダムの頭が姿を見せる。そのガンダムの顔は顔であって顔にあらず。頭頂部からは脊椎のようなものが伸び、ガンダムタイプの上半身があった。
『……なんか、ヤバそうな雰囲気。撤退した方がよくね?』
リクとユッキーが対峙していたジェガンの搭乗者が言うも、ソードメイスで一頻り殴り倒されたリーダー格が叫んだ。
『クソッ! さっきからやってるが撤退出来ねえ!』
バグの影響でエラーが出ているのだろう。で、あれば一度撃墜されなければこの場から出ることは不可能だ。
地面から生えるように現れた触手の先端にもガンダムの生首が現れる。ガンダムヘッドと呼ばれる子機だ。おびただしい数のそれが東京の地面から生えるように現れていく。
一番ダメージのないジェガンはシールドランチャーや得物のショットランサーでガンダムヘッドを撃つも、ダメージらしきものはなく射出されたショットランサーの先端はガンダムらしからぬクラッシャーを展開したその口でかみ砕かれた。
駄目だ。これでは勝てない。そう悟ったそのジェガンは一目散に逃げようと背を向けると、ガンダムヘッドは口から黄色いビームを撃ち出し逃げるジェガンを焼き払った。
『あっ、待って。私は……ッ あああぁぁっぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!』
次に片足を破壊されて道路の上で転がっているジェガンだ。こちらは別個体のガンダムヘッドにそのクラッシャーで四肢を噛み千切られ、コックピットをかみ砕かれ爆散。
これが仮想空間でなければ相当グロテスクな光景だっただろう。下手したら中身もかみ砕かれ圧死、死体もミンチより酷いことになっていたに違いない。
ふらりと立ち上がったリーダー格のジェガンもまた――
『おい、助けてくれ。ソードマン!』
縋るように助けを請うジェガンに、カタナは頭を掻く。あそこまで悪行かましておいて助けてくれると思っていると本気で思っているなら厚顔無恥も甚だしいものだ。
あの突然現れたデビルガンダムは初心者レベルで湧くような強さでは無い。恐らくバグの影響で上級者向けの難易度のエネミーデータが出現してしまったもの。要は身から出た錆だ。
あの黒いモビルアーマーが助けに来るんじゃないかと思ったが、いつの間にかセンサーから消え去っている。どうやら連中は見捨てられたようだ。
「チート使って妨害行為やら好き放題して、自分でこの
ガンダムヘッドの群れが口を開き、口内のビーム砲をむき出しにする。ジェガンとオルタナティブ諸共消し飛ばすつもりなのだろう。咄嗟に跳び避けたオルタナティブを他所にジェガンはビームに焼かれ、僅かな破片を残して消し飛んだ。
「ったく野郎……!」
乱入者が全滅し、リク、ユッキー、キョウヤ、カタナの機体が集まり、眼前に聳え立つデビルガンダムという名の巨体を見上げる。
彼我の体格差は圧倒的だ。子猿が像に挑んでいるようなもので、今の手持ちの火器で沈められる程の火力はいずれの機体も持ち合わせていない。これがもし、石破天驚拳やらトランザムライザー級のトンデモ火力があれば別だが。
ない物ねだりしても時間の無駄だ。こうなればチマチマダメージを与えていくしかないか。
カタナは思考しながら、このデビル包囲網の隙をセンサーで必死に探し回る。
駄目だ、単騎では困難だ。
バグの原因が切除された現状、リタイアも出来る。とはいえ――何だか癪だ。ここまでやってきて置いて逃げるのは腹が立つ。
『皆離れて。こいつは僕が何とかする』
キョウヤのダークハウンドらしきものが3人の前に出る。確かにチャンピオンの腕前なら勝てるだろう。とはいえこのデビルガンダムはまがりなりにも協力を前提にしたミッションのボスキャラだ。単騎で勝利するのは相当骨が要るのは目に見えていた。
『そんなの無茶だよ!』
『オレも戦います! ここまで一緒に戦って来た仲間じゃないですか!』
ユッキーとリクが口々に名乗り出、最後にカタナも同じく機体を前に出す。
乗りかかった船という奴だ。
「俺も一緒に行く。幾らあんたでもアイツ相手じゃ相当時間が掛かるでしょうキョウヤさん。確かにあんた程の腕前こそないけれども弾除けくらいにはなります」
『……有難う。皆』
さて、引き続きこの4機で戦うことになったものの、いかにしてあの化け物に勝利するかが問題だ。
チャンピオンが居るだけでも相当なアドバンテージだとはいえ、ガンダムヘッドの群れが邪魔で中々攻撃が出来ないのが現状。
右向けばガンダムヘッド、左向けばガンダムヘッド、前向けばデビルガンダムとガンダムヘッドという地獄絵図。数えるのがバカらしくなるような数のガンダムヘッドがビームを放ち、即座に4機は散開、回避行動に出た。
噛みつきにかかるガンダムヘッドを千子村正で両断しながら、どこから攻略したものかと思考しているとモニターがモモカを抱えたサラの姿を映した。
「ッ!!」
大量発生するガンダムヘッドからこの広大な街中を逃げ回っている。ビルとビルの間を駆け、外に出たら最後、無数のガンダムヘッドが口を開け鎌首を擡げて待っていた。
獲物を見つけたと言わんばかりにそのツインアイを禍々しく光らせる。
「――拙いッ!!」
慌てて庇いに出ようとしたが、別方向のガンダムヘッドが放つビームが行く手を阻み、カタナは苛立つ。このままでは――やられる。
サラは即座に踵を返して逃げ出すが、人間の脚でガンダムヘッドのビームから逃げるのは絶望的だ。このままモモカごとサラが消し飛ぶのを待つしかない。
カタナが歯噛みし、庇いに行く余裕も距離も無いリクとユッキーが叫ぶ。そして――
唯一ダークハウンドだけが割り入った。
サラを庇う形で着地し、防御姿勢も取れないままおびただしい数のビームをその身に受ける。黒いボディがビームに焼かれ、崩れ落ちていく。装甲が割れ落ちていく。
あれだけのビームを受ければひとたまりもない。が、キョウヤのダークハウンドの崩壊は途中で止まった。
巻き起こる爆煙を払い、炎の中立ち上がる一つの陰。
その機体をカタナは、リクは、ユッキーは知っていた。ガンダム型の頭部、明るめの黒と白を基調とした装甲。ブレードの付いた4枚の肩部ウイング。その姿はまさしく――
ガンダムAGE-Ⅱマグナム
チャンピオン、クジョウ・キョウヤ操る愛機だった。
『怪我はないか二人とも! 早く安全な所へ!』
キョウヤは何とか一難を免れたサラとモモカに逃げることを促しつつ、機体の体勢を立て直す。
『やれやれ……折角のアウターパーツが壊れてしまった。……ダイバーを直接狙うなど言語道断ッ!! その悪しき機体、僕が討ち取るッ!!!』
圧倒的な数のガンダムヘッドと自身より何倍ものサイズのあるデビルガンダムを前にしても威風堂々と立ち向かうその姿。まさしくチャンピオンの出せるものだ。その光景を前にリクとユッキーもまた確信する。彼はチャンピオン『クジョウ・キョウヤ』だと。
肩部のブレードの付いたウイング型ファンネル《Fファンネル》を外し己が剣として、飛翔。迎撃しようとガンダムヘッドがビームを放つと、それを最低限の動きで回避、手に持ったFファンネルで弾き返し、ガンダムヘッドに返して破壊していく。
強い。
カタナ自身にもビームを弾くという発想はあってもここまでの成功率はない。リクたちにもあの絶望的な弾幕の中で平然としている彼の姿に目を奪われていた。
今のキョウヤ操るAGE-2マグナムは一切の被弾もなく、デビルガンダムへ有効射程まで接近し、Fファンネルでデビルガンダムの下半身の巨大な頭を支える触手を斬り裂き、バランスを崩させた。
そして、Fファンネルを全て手元に集めて合体。それを天目掛けて射出した。
雲が――裂けた。Fファンネルは曇天を突き破り跡には黄金の光の刃を残す。溢れんばかりの陽光が降り注ぎAGE-Ⅱマグナムの装甲を神々しく照らし出す。
この技を知っている。チャンピオンが必殺技を撃とうとしているのだ。それを察したリクとユッキーは邪魔をしようとするデビルガンダムの肩部から生えた腕から射出された爪をGNソードⅡライフルモードとチェンジリングライフルで撃ち、迎撃。
別方面で襲い掛かるガンダムヘッドの残党はカタナが千子村正で通り抜けざまに斬り捨てた。
オルタナティブが通り過ぎた跡にはガンダムヘッドの長首が斬られ、倒れていく。
これでお膳立ては出来た。
AGE-Ⅱマグナムの手には天空に伸びた黄金色の剣が出来上がっている。刀身はデビルガンダムの全身を真っ二つに斬り裂けるほどに大きく、長い。
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
叫びと共に振り下ろされたそれは雲を裂き、デビルガンダムの装甲をいとも簡単に切り裂き、焼き切った。
EXカリバー。かのアーサー王が持っていたとされる聖剣エクスカリバーの名を借りた必殺の一撃はありとあらゆる装甲を斬り裂き焼き尽くす。
それが――クジョウ・キョウヤの必殺技であった。
雲が祓われた蒼穹の下、大地に立つその機体に王者の風が吹いた。
◆◆◆
このままさっさと退散しようと思った。
これ以上悪評のある人間と一緒に居るのは初心者であるリクとユッキーにとっては得じゃない。それを無視して自ら関わろうとしているマギーたちのような例外はあれど二人は関わる事は望んじゃいないのだ。
だというのに――
「済まなかった。騙すような真似をして。この通りだ」
受付エリアに帰還するや否やキョウヤと一緒にいつもの衣装に戻って謝らされていた。
いや確かに、自分が初心者と偽って初心者に混ざってあれこれしていたのは確かに良くはないしキョウヤの言うことは尤もではある。
とはいえ、リクたちは一つも怒ってはおらず謝るキョウヤとカタナに少し困り気味であった。「何故謝るのか」と言わんばかりの困り様だ。
「最近、下位ランカー向けのミッションにマスダイバーたちによる乱入事件が起きていると聞いてね。その調査に出ていたんだ。彼も同じくマスダイバーを倒し続けていて偶然一緒になってね。この姿だと少し目立ち過ぎるからね、少し変装をしたのさ」
チャンピオンとなるとそのアバターは広く知れ渡ることになる。いくらチート持ちでも態々チャンピオンの前に現れる間抜けもそうそう居ない。加えて初心者用ミッションにチャンピオンという構図はあまりにも不自然に思われる。
その為の変装であり、アウターパーツなのだ。今のキョウヤは黒い外套を着た金髪の青年だ。
「仮面の人でも充分目立ってたけどね……」
「あぁっはは……」
ユッキーのツッコミにリクが苦笑いする。流石にあの変装では無理があるというものだ。ダークハウンドに機体を化けさせてもあの卓越した操作技術を誤魔化せてはいない。
「でも結果的に君たちを危険な目に遭わせてしまった」
「気にしないでください! チャンピオンのバトル、間近で見られたし!」
「凄かったです!」
ユッキーもリクも全く気にしていない様子で、喜色満面の笑みで返す。良い子で良かったとカタナはホッとした。
「見て貰った通り、マスダイバーたちの影響でこのゲーム内でバグが生まれ始めている。僕はそれを何とかしたい。カタナ君、彼もまた同じ思いだ。GBNの世界を守りたいんだ。また何かあったら協力してもらえるかな?」
「「はい!!!」」
ほぼ即答だった。チャンピオンの影響力、恐るべし。
キョウヤの言ったバグは今後とも増えていく見通しだ。これを放置してはGBN存亡の危機となる。それをチャンピオンとして看過できないのだろう。
カタナもいちユーザーとしてこのGBNの世界を壊させたくはない。だからひたすらマスダイバーを斬り続けている。
「オレもGBNの世界が大好きです! いつか――貴方と戦いたい! 戦えるようになれますか!」
「……待ってるよ」
「はい!」
正しく強くなろうとするリクに期待が湧く。いつかこの少年が強くなり、チャンピオンに肉迫するほどの強さを得られたとしたら。それはきっと戦い甲斐のある相手になるに違いない。
そんな強い相手と斬り合えるようになれるのならこんなに嬉しいことはないのだ。
カタナはさりげなく少し離れ、楽しみだと思いつつ退散しようとした矢先リクに呼び止められた。
「カタナさんも凄かったです! オレもいつか、カタナさんみたいに巧く剣を使えるようになりたいです!」
リクのワクワクした表情にどうしたものかと思い後頭部を掻く。こうやって真正面から憧れられるのは初めてなのもあって反応に困る。
こんな時どういう顔をすればいいのだろう? えっ笑えばいいの?
必死にあれこれ考えた結果、少し苦笑いで振り向いてみた。
「買いかぶんな。お前さんにもお前さんの戦い方ってのがあるはずなんだから。無理に真似せず、自分のスタイルを見つけな。それに知らないのか? 俺は人斬りソードマンだぜ?」
自分で自分を傷付けるような言葉がいつの間にか口から出ていた。
正直ソードマンなるあだ名も敵意が籠っていて好きでは無いし名乗りたくも無かった。それを自分から名乗ろうとしているのは多少参っていたのかもしれない。
「噂では聴いてます。でも違うんですよね」
「……っ」
リクの返しに言葉に詰まった。その言葉には疑念は一つもなく確信の籠った言葉が尚の事カタナを怯ませる。
「少なくともオレはそう思います。噂が本当ならチャンピオンと一緒に戦ったりはしない。オレたちと一緒に戦ったりはしない。そうでしょう?」
「……気のせいだ。もしかしたら演技かもよ?」
あまりの持ち上げように気恥ずかしくなる。寧ろ怯えられる方がマシなまである。しかしキョウヤがカリスマ特有の笑みで後ろから容赦なくトドメを刺して来た。
「それにしては手が込み過ぎているけどね。照れ隠しで壁を作り過ぎだよ、全く」
「…………」
ブルータスもといクジョウ・キョウヤ、お前もか。
フリーズしたカタナは心の中で恨み言を言いつつ、ログアウトポイントを見つけるや否やそこ目掛けてダッシュを始めた。
――えぇい! ずけずけと人の中に入りおってからに! これ以上こんなとこに居られるかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
「あっ、逃げた」
後ろからユッキーの辛辣なツッコミをものともせず走る走る走る。
その様にサラが曇り一つない澄んだ瞳で更なる追い打ちをかけた。
「照れ屋さん?」
「うるせえええええええええええええええええええええッ!!!」
「お前がうるせえよ!」
通りすがりのパトリック・コーラサワー似のダイバーのツッコミを受けながらカタナはログアウトした。
名称:ガンダムアストレイ・オルタナティブ
型式番号:MBF-P02ALT
身長:17.7m
概要:イズミ・カナタが制作したガンプラ。ベースは型式の通りレッドフレームであり、それを無数のジャンク品及びパーツを使って製作している。そのため、オリジナル以上の機動力と跳躍力を獲得している。
特筆すべきは素体の形状こそ大きな差異は無いが追加装甲の装着が容易なようハードポイントが幾つか設けられている点。
ジンバージャケットと呼ばれる追加装甲を纏い、アストレイらしからぬ防御力を獲得。索敵性能も向上している。
他にも様々な機能が隠されているようだが……
武装
1《イーゲルシュテルン》
:言わずと知れた頭部バルカン。使用機会がまるでない現時点では未使用武器。
2《ソードメイス》
:メインウェポン。元々アストレイの武器ではなく、斬るというより殴る用途の剣であり強度もある為シールド代わりとしても機能する。
3《千子村正》
:日本刀型近接ブレード。早い話がガーベラストレート。
4《ワイヤーランチャー》
:掌に仕込まれたワイヤーを射出する機能。遠方の相手を捕縛しこちらの距離に引き寄せることが出来る。更には相手を拘束し必殺仕事人紛いの事も可能。
5《???》
:???
6《???》
:???