基本的にガンプラを組むのは深夜だ。早めに寝て、深夜中に起きて外に隠したガンプラの箱と製作キットを家に持ち込み組み上げるのが日課になっている。
あれからというもの、ガンダムMk-Ⅱを一度分解して組み直した。
ゲート跡の処理や簡単な塗り直しとスミ入れを施す。
これで少しはマシになるだろうかと思いながら初心者特有の不器用な手つきで深夜の時間帯を縫って作業を進めていく。
「……ふぅ」
四肢の再構築がひと段落した所で、時計を見ると6時を回っている。窓もやや明るみ始めておりそろそろ潮時だろう。
今日は土曜日とはいえ深追いは禁物だ。特に母に見つかれば何をされるか分かったものではない。
かの初心者狩り事件から数週間ほど経った。
自分は僅かでも進歩しただろうか?
作業を終え、机に一旦置いたガンダムMk-Ⅱを見てシュウゴはふと思う。
結果的にどう動けるのかは実際に動かして見なければ分からない。いつものように図書館で自習しに行くふりをして模型店にでも行ってみることにしよう。
今抱えているこの感情を「楽しみ」と言うにはあまりにもその3文字はあまりにも物足りないものだった。
◆◆◆
朝は母に都合のいい存在を演じて昼は外に出て好きにする。休日そんな行動パターンが最近出来上がりつつある。いつものように離れた街の模型店でログインすると、受付広場でリクたちに偶然出くわした。どうやらリクたちはある場所に向かおうとしていたようだ。
「ゴーシュさん、お久しぶりです」
「あぁ……お前たちか。久しぶりだ」
リク、ユッキー、サラと見知った面々の中に見ない顔が1人。ピンクの長い髪をたなびかせ獣の耳、としっぽを生やした少女型ダイバーの姿があった。
「えっとこの人は?」
ピンク色の髪の少女が訊くと、リクが彼女の方を向いて応えた。
「ゴーシュさん。オレたちと同じぐらいに始めたダイバーだよ」
「ふーん……」
見ない顔が見知った顔で友人とやり取りしているのであまり状況を掴めていないのだろう。リクのちょっと後ろからまじまじとゴーシュの顔を見てくる。その辺の免疫の無さもあって少し居たたまれなさを感じていると、ようやく少女は凝視を止めた。
どうやら、自分が凝視していることに気付いたらしい。気を取り直した少女は佇まいを直して名を名乗った。
「あ、わたしモモk……じゃなくてモモです!」
「……ん。改めて、俺はゴーシュです」
自己紹介を終えた所で、ユッキーが思い出したように切り出す。
「あ、そうだ。ゴーシュさんも一緒にペリシアエリアに行きませんか?」
「……ペリシア?」
初めて聞く地名だ。某色鉛筆とは多分関係ないだろう。そもそもGBNの地理に疎いので要領を得ず、ゴーシュは首を傾げるとユッキーが懇切丁寧に教えてくれた。
「世界中のガンプラが見られる所なんです。製作者から直接話も訊けるしもしかしたらこれからのガンプラ作りのヒントになるかも……」
他人の機体を参考にして今後のMk-Ⅱの強化に繋げられるなら願っても無いことだ。雑誌の作例を見るのも良いが、GBN内で公開されている方が自身に合った作例を見つけ出すのもまた違った発見というものがあるかもしれない。
「それは興味深い。皆が良いなら是非連れて行ってくれ」
彼らに誘われるがままに出発。
そしてそのままペリシアでガンプラ作りの極意を作り手たちから教わる――
はずだった。
「――所で何キロ歩いたんだ……俺たちは」
不毛の地をひたすら徒歩で進んでいた。見渡す限り砂、砂、砂、砂、砂。オアシスの一つすら見当たらない。
当初はモビルスーツに乗ってひとっ飛びと思っていたし、事実出発時点ではモビルスーツの自動飛行で移動していたのだ。だというのに――どうしてこんな徒歩で砂漠を歩いているのだろう。
「……中立地帯だから戦闘は禁じられているし一定のランクが無いと機体の呼び出しすらも出来ないし……」
リクがぼやきながら駄目元で試しにダブルオーダイバーをコールするとエラーが出るだけ。
エリア管理者が設定したシステム上、ここでのモビルスーツ使用はプロテクトが掛っていて不可能だ。
「何でなの? 地図だとこんなに近いのに……」
歩行距離にうんざりしたモモが何気なくマップを展開する。見た所、人差し指と親指を伸ばしてちょっと余る程度の、彼女の言う通り距離は大した事が無いように
「これ、何?」
サラが地図に指し示したのはアイコンだった。モモはそれをタッチすると地図のステータスが確認出来た。どうやらこの図面は収縮させたもののようだ。その度合いは――
「いち、じゅー、ひゃく、せん、まん……ひゃ、100まんんんんんんんん!?」
本来の距離を100万分の1に縮小したものをこれまで見て来たのだ。モモは0の数を数え終えて絶叫した。それを聴いたリクとゴーシュが次々と後ろから問題の地図を覗きこむ。
地図に於ける1㎝が10㎞。とどのつまり伸ばした人差し指と親指の間の距離が10㎝とちょっとで――
10×10+10α。
最低100㎞オーバーを歩かないと目的地にたどり着けない計算となる。
このペリシアエリアの地形を考えたヤツは相当性格が悪いに違いない。リアルなら余裕で死んでいる。というかこんな所に自分たちを案内した責任者は誰だ。誰なんだ。
「こんなの歩いて行ける距離じゃないよ……」
「どうするのよぉ……」
リクとモモが口々に不満の声を上げ、一番ペリシアのことを知っているであろう、前で歩いている責任者のユッキーに問い詰める。――と、ゆっくりと彼は振り返った。
その目はやや半泣きに見えた。
「ど……どうしよう」
返って来た言葉はまさかの匙のぶん投げだった。
「まさかのノープラン!?!?」
引率者にあるまじき発言にゴーシュは思わず突っ込み、現状に眩暈がした。
元よりバーチャルリアリティーで肉体的疲労こそないが、精神的疲労は誤魔化しようがない。100キロに渡る距離をどうして歩けようか。
モビルスーツに乗っていれば余裕で渡れる距離だろうが、管理者が下位ランカーはモビルスーツに乗れないというふざけた設定をしたお陰でそれすら叶わない。
「……か、帰った方が良いんじゃないか……ログアウトポイントはこの辺にないぞ」
ログアウトポイント以外での強制ログアウトはペナルティが課せられる。下手に歩いて帰れない所まで来てしまうと強制ログアウトをせざるを得なくなってしまう。そうなる前に引き返した方が賢明だ。ゴーシュがそう提案した矢先だった――
サラが何かに気付いたのか後ろを向いて口を開いた。
「? 何か来る?」
僅かにエンジンの音がした。目を凝らすと、何か豆粒のようなものが砂を巻き上げている。
車か。この砂漠を車で渡ろうとしているダイバーがいるのか。
渡りに船――ならぬ車だ。これに飛びつかない理由はない。
虚ろな目になっていたリクとモモの瞳に再び生気が戻り、その方向に向けて手を大きく振り、声を上げた。
「おーーーーーーーーい!」
「助けてくださーーーい! っていうか乗せてくださーい!」
その豆粒が大きくなるにつれてそれが車ではないことに気付いた。……バイクだ。これでは乗れないではないか。とリクとモモが落胆したところ、それに乗っている人間が見知った顔なのに気付き、「「あ」」と短い声を上げた。
「カタナさん!!」
「おう、リクじゃねェか。なんでお前ら徒歩でそこに居んだ。まさかペリシアに徒歩で行くのか? 何の罰ゲームだよ……正気の沙汰じゃァない……」
カタナがバイクを5人の前で停車させゴーグルを上げ「よっ」と会釈しつつ吐いた何気ない一言が、ユッキーにドスドスと刺さって行く。ユッキーが片隅で膝を抱えてシクシク泣いているのを他所にカタナは「参ったな……」と呟いた。
このカタナなる男はどうやらリクの知り合いらしい。ゴーシュは大人しく事の成り行きを見守る。リクが一通りいきさつを説明し終えると、あからさまに困った顔になった。
「こうなるならジープなりホバートラックなりに用意すりゃァよかったな。お前ら今日は帰ろうぜ。歩いても1日余裕で持ってかれるし。まだエリア外までは幸い近いから一人ずつ後ろ乗せて送ってやっから……」
カタナはエリア外を指さしてそう提案した。
確かにカタナの言う通り、今ならまだ引き返せるだろう。それにバイクに乗せてもらえるなら直ぐに戻れるはずだ。とはいえ――
「……何してるの、こんなところで」
今しがた新たに誰かが乗ったジープがやってきて近くに停車。声を掛けてくれたお陰で、引き返す必要が消え失せかけていた。
ジープに乗っているのは黒掛った紫色の忍者装束を身に纏った吊り目気味の少女だった。口元は口当てで隠れており、長い髪は斜め線の入った0の形状をした髪留めで一つに纏められている。
「遭難です」
彼女の質問にゴーシュが真顔で答えると「ふーん、そう」と少女は流し――
「なんだー」
と、カタナが余計な付け加えをした直後、クナイが飛来。そのままカタナの額に突き刺さった。
クナイの直撃を貰い、白目剥いて敢え無く倒れたカタナを前に少女が「昼の砂漠にしては肌寒いわね」と白々しく呟き、ジープのアクセルを踏んだ。
「ちょっと待ってください!!」
「乗せてくださーい!!」
この広大な砂漠の中、リクとモモの必死の叫びが木霊した。
「砂漠を歩いてペリシアに行こうとした……? 呆れる……ペリシアまで何キロあると思ってるの?」
有り得ねえよ。と言わんばかりに運転中事情を訊いた少女が後部座席に乗せて貰った面々に問い詰める。カタナと同様正気を疑われ、言い出しっぺのユッキーが更に凹む。
バイクでジープと並走しているカタナは苦笑いしていた。
「よく……地図を見てなくて」
「わたし達、初心者なんです……」
リクとモモの釈明に少女は更に呆れ果てたか、溜息を吐いてから続けた。
「言っとくけど、この砂漠地帯はガンプラに乗っても横断が難しいの。防砂仕様に仕上げておかないと、ガンプラの関節部分や精密機器に砂が入って最悪動けなくなるわ」
「詳しいんですね」
助手席に座ったゴーシュが言うと「まぁ、そこそこね」と返って来る。どうやらこの忍者装束の少女はそこそここのGBNをやり込んでいるクチらしい。
「ありがとうございます。えっと……」
モモが言葉に詰まる。名前を呼ぼうとしているようだった。
そうだ、今ジープに乗せてくれている忍者装束の少女のネームをまだ知らないのだ。
「アヤメ」
そっけない返答だった。
中々辛辣で冷たい印象をゴーシュには受けた。しかし、何やかんや言ってジープに乗せてくれる辺り悪い人間ではないのだろう。
リクは彼女の態度に怯むことなく礼を口にした。
「助かりました、アヤメさん。ありがとうございます」
「良いのよ。運賃はしっかりと貰うから」
――訂正しよう。中々がめつい所があった。美味しい話には裏があるとはこのことか。
ゴーシュは慌ててGBN内の仮想通貨を確認する。まだ初心者なので所持金はたかが知れている。5000ビルドコインで足りるだろうかと目が泳ぎに泳ぎ、他4人は「えーっ」と驚きの声を上げた。
「……冗談よ」
――訂正しよう。意外と冗談もイケる口らしい。
所持金を確認していたゴーシュは脱力、シートに凭れて安堵した。
◆◆◆
ジープに乗ってもそこそこ時間が掛かった事実を前にすると、このまま歩いていたら確かに1日じゃ足りなかっただろうと思える。
ペリシアの街は中東をイメージした街並みとなっており、その広場には幾つものモビルスーツが並び立っていた。なお、ゴーシュは名前は一切知らないので未知の巨人が並び立っているように見えた。
あの羽の生えたヤツ2体は一体何なのか。アレもガンダムなのか。片や血の涙を流しているように見える。
中には戦闘機タイプのものも見かけられる。
ユッキー曰く、このペリシアはガンプラビルダーの聖地と呼ばれる場所であり、世界中のビルダーたちが自分の作った機体を展示しているのだという。彼らがここに集まる理由は、ガンプラ制作技術を高めるためだ。互いの作品を見せ合い、技術を盗み合い、情報交換したりして自身が納得のいくものの完成を目指しているのだという。
「ガンプラを見せ合うならリアルでやった方が良いんじゃないの……?」
広場の中、展示品を見て回りながら、ペリシアに至る距離にうんざりしたモモが指摘する。確かにそっちのほうが手軽に見えはする。但し、交流できる範囲が圧倒的に狭まるが。
カタナは近くに展示されている同じ形状でいて色が違う2機の頭頂部の長いガンダムタイプを見上げながら「んなこたァないぞ」と返した。
「リアルでのやり取りだと近郊の人間だったり相手が限られたりするからな。態々外国のオタコンに飛んでまで見せに行ける奴なんて限られている。……で、GBNの美味しい所ってのは気軽に海の向こうにある人間とコミュニケーションを取ることが出来るって事だ。特にこのペリシアではその目的の為だけに集まっている人間が多数いることで、その土壌が既に出来上がっているっていう点が聖地と呼ばれる所以だな。見るもよし、技術を盗むのもよしってこった。まぁこの地形というか砂漠入ってからの距離はどうかと思うけど。……あのーすんません! このジェミナス01と02作った人居ますかー! ちょっとお話訊きたいんですがー!」
言い終えたカタナは、2機のガンダムタイプに何か思うところがあったのか製作者の所まで走って行く。彼も一端のビルダーか、こういった出来の良いモノに飛びつかずには居られないようだ。ゴーシュもまた、興味のある機体を幾つか見つけて候補をメモする。
「僕、この場所をリッ君に見せたいと思ってたんだ。最近、ガンプラ作り頑張ってるから……まぁ、僕も見に行きたかったっていうのもあるんだけどね」
ようやく気を取り直せたユッキーがリクに言う。今日の本当の目的はリクの為だったようだ。リクも自身の機体を強化させるために試行錯誤をしているようだ。
気を抜けばすぐに距離を開けられてしまうのは目に見えていた。
「……あれ? いない」
「どうしたの?」
サラが周囲をきょろきょろしている。何事かと思ったモモが問いかけると、ある人間が居ないことに気が付いた。――アヤメがいない。
カタナは現在進行形で2機のガンダムタイプの足元で製作者と色々談笑している姿が見えるが、アヤメらしき姿はどこにもない。一体何処へ行ったのか。多分まだペリシアには居るのだろうけれども。
それから一頻り探してはみたものの、アヤメの姿はなかった。
◆◆◆
世界各地の人間が集まっているだけあって展示されているものは多種多様だった。
見れば見るほどゴーシュは自身の未熟さというものを思い知って行く。プラを削ることでバランスをよくしたり装甲内部にLEDを仕込んで煌びやかに仕立て上げたものもある。
中には最早戦闘が出来ない程に破損した機体が膝をついており、その装甲一面には色とりどりの花が咲き誇っている明らかに戦闘を前提としていないものまである。
リクたち曰く、これはガンダム00のEDであった奴らしい。
「ねぇ、あのガンプラは何?」
モモが要領のいかない表情で大破したダブルオーを見た後、次に視界に入ったものも不思議に思ったらしく指さした。それはゴーシュでも知っている、初代ガンダムだ。
「これって最初期に発売された1/100ガンダムだね」
恐らくこの面々の中では一番詳しいのであろうユッキーが説明を入れる。因みに同じく詳しいであろうカタナは現在ジェミナス製作者と未だに話し込んでおり、現在この場には居ない。
最初期というだけあって、プロポーションもやや歪に見える。それでいて可動域らしきものが見られなかった。
「こんなんじゃマトモにバトル出来ないんじゃない……? あの花の付いたダブル王? って奴も凄いボロボロだったし」
モモの抱いた感想と同じ物をゴーシュは持っていた。可動域が無いのでは照準も合わないし、まともな試合にはならない。瞬く間に撃墜されてしまうこと請け合いだ。
だとしても、敢えてこの時代にそれをつくる事に何かしらの意味があるのではないのかとも同時に考えてしまう。懐古か、それとも――裏があるのか。
「嘆かわしいねぇ。この作品のすばらしさが分からないとは」
誰かの嘆く声が聴こえた。誰だ、と一同振り返ると褐色の青年が背後に立っていた。白く長い髪が褐色肌なのもあって映えており、頭にはモモ同様の獣の耳を生やしている。
中性的な佇まいで一見すると女性に見えてしまいそうだ。
「僕には分かるよ。このガンプラはバトルをするために作られたものではないこと。そして、これを制作したビルダーがこのガンプラにどれほどの愛を込めているのかを!」
――何故そこで愛?
訳が分からず、ゴーシュは「愛?」とやや間抜けな声が喉の奥から出て来た。
「そうさ、愛さ」
嬉々として高らかに。その語る様はまるで舞台役者のように見えた。
「古いキットを最小限の改装に留め、そのままの姿で限りなく美しく仕上げるという思想と拘りッ! これを愛と言わずしてなんだと言うんだい!?」
訳が分からないモモは「はぁ……」と目に見えて呆気に取られており、サラは終始無言で何を考えているのかさっぱりで、リクはやや引き気味だった。ゴーシュも必死にこの青年の言葉を理解しようと旧キットのガンダムを観察する。
しかしユッキーは違った。食い気味に真正面から青年の主張に応えていた。
「つまり! 古いキットの味を活かしているっていう事ですね!」
「その通り! あのガンプラの魅力は古いキットの味を損なうことなく磨き上げていることだ。古いモノも新しいモノも、それぞれの良さがガンプラにはある。バトルで勝つことだけが目的じゃない。自分の理想を体現していく。それもまたガンプラの、その気持ちを共有できるGBNの魅力なのさ」
GBNの台頭で忘れていたが本来模型というものはバトルをするためにあるものではない。自身の理想を体現させるためにあったのだ。その点では本来の目的に回帰しているのだ、あの古いガンダムは。
納得のいく答えを見つけたゴーシュは肩の力を抜いて、笑みがこぼれた。
「あのガンプラ、あったかい」
古いガンダムを見上げ、サラは溢す。彼女の感性は分からないが、ゴーシュにもあの古いガンダムには並々ならぬ意志と過去に対する想い出のようなものを感じていた。
「あぁあの! 良かったら僕らのガンプラ見てもらえませんか!?」
「……よければ俺のも見てもらえませんか?」
ユッキーが名乗り出る。
ゴーシュもまた便乗するように挙手した。この際だ、今の自分の立ち位置をはっきりとさせておく必要があった。
「いいよ。君たちの愛の尺度測ってみよう」
青年は挑戦的な笑みを浮かべながらも快諾してくれた。
◆◆◆
「成程。ジムⅢとダブルオーの場合こうしよう、こう創ろうという思想と理想を感じる。愛があるね。しかし、その理想を体現させるには制作技術が足りていない。少し背伸びをし過ぎかな。Mk-Ⅱの彼の場合少し違って、背伸びこそしていないけれども少し作りに迷いがある。逆に理想をはっきりさせる必要がある。原作の再現をしたいのか、それとも単純に強い機体を目指したいのか、美を追求したいのか、新たな機体を生み出したいのか――だね」
案外ズバズバとモノを言うタイプだったようだ。
機体情報を閲覧した褐色の青年の言葉に凹むリクとユッキー。ゴーシュは深刻な表情で自機のステータスを見直した。
迷いを振り切れば、次の段階に進めるのであれば、今抱えているゴーシュの理想――それはもう決まっている。
「んー何か偉そうに言っちゃってくれてますけど、そこまで言うんだからあなたの作ったガンプラはさぞかしお上手なんでしょうねぇ!」
そんな中凹むユッキーとリクを見て見て居られなかったか、モモが青年に噛みつくように訊いた。
おいおい失礼な、とリクとユッキーが止めに掛かろうとしてもモモの勢いに気圧されてしまい、言葉に詰まる。最後まで言わせてしまい、青年を怒らせてしまっていないか、恐る恐る二人は青年の顔を見る――
表情は怒りのようなものが一つも見受けられなかった。それどころか自信ありげにすら見えた。
「見てみるかい?」
青年が見せてくれたものは意外にもファンシーなものだった。
熊のような可愛らしい生物が大中小、庭で駆けまわっているように、遊んでいるように飾られている。
「プチッガイだ……」
リクが呟く。
ゴーシュは最初こそ何か恐ろしいものでも見せられるんじゃないかと身構えていたものの、ファンシーなものだったせいで全身から力が抜けていた。
女性陣のモモとサラにはかなり刺さったのか、目を輝かせてプチッガイたちをみていた。しかし、モモは暫くしてから疑問符を浮かべた。
「でも……これの何処が凄いの?」
「分からないのかい? このプチッガイに込められた私の愛が」
拍子抜けしたこととギャップもあってかあまり凄いようには見えない、というのがモモの本音だろうか。
しかし、青年の作品はよく見ると細部の作りまでしっかりしており、太鼓を叩くプチッガイや円陣を組んで回っているポーズが躍動感のようなものを生み出している。
「プチッガイはパーツが少ないから簡単に作れるんだけど、だからこそ逆に個性を出しにくい。でもこの作品のプチッガイは細かな表情や仕草まではっきりと個性が出ている。本当にこの世界で生きているみたいだ!」
ユッキーほど細かい感想はゴーシュには浮かばなかったが、プチッガイ一つ一つを丁寧に作っているお陰でその一つに何かしらの物語めいたものを感じることが容易に出来た。
時々目にする絵画の片隅に描かれた部分に想像を働かせられる、あの感覚に少し似ている。
「この子たち本当に幸せそう」
サラは花が咲いたような笑顔で、青年の作品を見ていた。その感想にはゴーシュも素直に頷けた。
しばらくプチッガイたちの鑑賞を楽しんでいた所で誰かの声がこの広場に木霊した。
「おーい! みんな! 今さっき耳にしたんだけど、シャフリヤールが新作のガンプラを発表するってよ!」
その声は瞬く間に人だかりが生まれ、雑多な声で溢れかえった。
「シャフリヤールが?」
「この街に来てんの?」
「マジかよ……!」
「誰だ。そのシャフトアールなる人物は」
知らない名前で湧かれているので首を傾げたゴーシュが疑問の声を上げた。同じくリクとモモ、サラも知らない様子でユッキーが仲間の様子に目を丸くした。
「シャフリヤールですよゴーシュさん。……シャフリヤールって人はGBNでも1,2を争う程のガンプラビルダーだよ。これを見て」
ユッキーはホログラム型ディスプレイを操作し写真を見せた。そこには騎士甲冑のガンダムが馬に乗り、ドラゴンを思わせる異形のマシンと戦いを繰り広げている。その写真越しから鬼気迫るものを感じた。
成程、1、2を争うというのは伊達じゃないらしい。ユッキーは興奮のあまりテンション高めの早口で説明を始める。
「これは去年のGBNビルダーズコンテストでの優勝作品! これを造ったのがシャフリヤールさんなんだ」
確かにそれだけの人間が現れればこの街が沸くのも納得の行く話だ。それにその某氏の作品がこの眼で見られるというのは嬉しい誤算だ。そこから何かを得られるかもしれない。
「こんなのを作れる人がここに来ているというのか……」
ゴーシュが感想を溢すと、水を得た魚のようにユッキーは活き活きと説明を続けた。
「まさにレジェンド級でしょ!? シャフリヤールさんのリアルは世界的なプロモデラー説が出ていて――」
「――大したことはないね」
その話を青年が間に割り入り遮った。何の恐れもなくさらっと言い放つその姿に5人が呆気に取られた。何を根拠に言っているのだろうか。余程シャフリヤールなる人物が嫌いなのだろうかと、ゴーシュは少し身構えた。
「まだまだ……愛が足りないよ」
遠い目で、すべてを悟っているように青年は言う。その様には想像できるような憎しみや嫉妬のようなものは何故か感じられなかった。
Q:「愛が足りないよ」
A:「10年早いんだよ!」
A:「何故そこで愛ッ!?」
愛ネタは置いといて(コスモスとギャバン主題歌ネタやろうと思ったけど歌詞なので危ないし)、本編の解説を。
アヤメもカタナもお互いの正体は知りません。
要するにアヤメ側からしたら邪魔者ですし、カタナ側からすればアヤメの立ち位置は敵でしかありません。……とどのつまりリアル世界では友達だけど、GBNでは互いの目的を邪魔する仇敵というおかしな状況になっている訳です。
あらやだコワイ!(ゲス顔)