天才の全力   作:あしがかり

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後半戦

 前半戦が終わり、ハーフタイムになった。

 

 無意識に青井君に注目していたのだが、前半終了間際にガタイのでかい坊主頭に絡まれていたので、何を話していたのか少し気になった。

 

 

 チームメイトの多くは意気消沈し、やる気があるようには見えなかった。最初にリードできていたのに、途中から逆転されたのがよほど響いたようだ。

 

 俺は普通に活躍できそうだし、やる気のない彼らは放っておこうと思った。

 

 そんなことを考えていたら、さっき同じチームにいた大友君達が試合をこのままで終わらせたくないということでミーティングを始めた。

 

 参加を断る理由は特にないので、俺も参加することにした。ちなみに、青井君はちょくちょくセレクションを手伝っていた金髪の女の子といちゃいちゃしている。一番話してみたいのは彼なんだけどなあ…。

 

 ただ、いちゃいちゃの結果やる気に満ち溢れているようなので結果オーライだ。最悪パスを出しまくって合格に導こうと思っていたが、その必要がないかもしれない。

 

 ミニゲームの時みたいに面白いプレーを見せてほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半もユース組が圧倒する展開が続いている。俺は自力で目立つことが出来るからいいんだが、結局このレベルでも自分のやりたいサッカーは出来ないんだな…。

 

 青井君は坊主頭から執拗にブロックされていて、力が出し切れ無いようだ。面白いプレーが見たいから邪魔しないでほしい。

 

 

 

 あ、あの当たりは酷いな。青井君が軽い呼吸困難に陥っているみたいだ。それでも続けようとする彼のガッツは素晴らしいな。周りにも、そのガッツが伝播している。これなら今までとは違ったプレーが期待できそうだ。

 

 

 

 

 

 と、思ったのもつかの間、監督からポジションコンバートの話をされた。

 

 せっかく上がったチームの士気が一瞬で転落した。カントクはどういう意図で、このタイミングに話したんだろうか。見たいのはプレーじゃなくて根性なのか?だとしたらここで活躍するのが大事かもしれないな。

 

 

 

 思いついたら即行動だ。攻めてきた坊主からボールを奪う。力が自慢のようだが、タイミングを間違えなければ体が触れることすらない。

 

 

 本当はパスをつないでスムーズにボールを運んでいきたいが、チームメイトに期待出来ないので、フィールド後半から自分で進めていく。

 

 フェイントを混ぜつつ3人を抜いたところで、後ろから坊主が戻ってきた。フェジカルに関して、こいつだけ飛びぬけている気がする。

 

 でも、冷静さをかけているのか、他のチームメイトを使って俺のスピードを減らしたりしてこない。

 

 ただのスライディングを、ボールを浮かせて俺も飛ぶことで躱した。てか、ただのセレクションで後ろからスライディングするかね。俺じゃなかったら怪我すると思うんだが…。

 

 その後も何人か抜かしていくと、ペナルティエリア内に選手が少なく、ゴールが見えたためボールを放り込む。

 

 キーパーが触れることも出来なかったボールがゴールネットを揺らしてフィニッシュ。案外簡単に決めることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールを決めたのに歓声も何も聞こえなかったため、後ろを振り向くと全員が絶句しているようだ。

 

 振り向いて少しして観客の歓声が聞こえてくる。

 

 …チームメイトが最初に喜ぶべきだと思うんだけどなあ。セレクションとはいえ、ハーフタイムに親交を深めたんだから、歓声の一つや二つ欲しかったな。

 

 何はともあれ、後半も無事に目立つことが出来たし、ポジションコンバートにも動じていないアピールが出来ただろう。

 

 あとは、青井君を合格させなければ。ハーフタイムに女の子といちゃいちゃしていたせいで話せていない。坊主にやられたわき腹が痛むようだから、ゴール前でボールを渡してあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 うおっ、びっくりした。青井君が急に大声を上げている。

 

「小林龍、あんた最高や!!」

 

「ありがとう、青井君。」

 

 俺がいろいろと考え事をしている間、彼はずっと固まっていたみたいだ。素直に褒められるのはなんだかこそばゆいな。

 

「俺も迷うのは、やめや!!」

 

 何に迷っていたのかは知らないが、ここからの青井君のプレーには期待できるのかな?

 

「頑張ってね、青井君。ミニゲームでやったようなプレーを期待してるよ。」

 

「おう、みとけ!」

 

 ゴール前で適当にボールを渡してあげようと思っていたけど、少し彼を舐めすぎていたのかもな。正直、どんなプレーをするかとても楽しみだ。

 

 彼となら、楽しいサッカーが出来るんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの青井君のプレーには力がみなぎっていた。彼のガッツに観客が拍手し、チームが鼓舞されていった。

 

 あれは俺にはできないプレーなんだろうな。俺が頑張ると周りは静かになってしまう。今までもそうだったのだから、きっとこれからもそうなるのだろう。

 

 でも、青井君が同じチームにいたら、静かになったチームメイトも元気になるんじゃないか。

 

 やっぱり青井君は合格させる必要があるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 青井君のプレーがどんどん良くなっていく。今の彼なら、俺がパスをしてもつまらない結果にならないかもしれない。

 

 そう思った俺は、また坊主からボールを奪った。坊主からボールを奪いたくなるのは、彼が好きななれないからだ。

 

 …というのは冗談で、うまい選手から奪うことで相手の士気を下げることが目的だ。

 

 またドリブル突破をされたらたまらないとばかりに、俺の進行方向に敵が集まる。

 

 つまり、コートにスペースが出来るのだ。

 

 青井君は空いたスペースに気付いてくれるだろうか。今まで誰も気づいてくれなかった、あのスペースに気付いてくれるだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …青井君。君は最高だ。

 

 敵がこっちに引き寄せられたことで出来た裏のスペース。そこに走りこんでボールをトラップするだけでトップスピードになれて、敵が一枚だけになるあのスペースに青井君は気づいてくれた。

 

 ちなみに坊主も気づいていたが、もう間に合わない。今までの俺のうっぷんを晴らすかのように、力強く飛んで行ったボールが青井君の方に飛んでいく。

 

 トラップも綺麗だし、一枚抜いて決めてくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、青井君は決めずに、更に敵を引っ張り出した。彼の独りよがりな性格ならば確実に決めに行くと思ったんだけどな。

 

 敵を引っ張って、更に出来たスペースに走りこむ選手が一人。…確か、橘君だ。青井君は橘君にパスを出し、それをボレーシュートすることでゴール。

 

 俺が想像していたよりも、さらに敵を崩してゴールを決めることが出来た。

 

 俺がパスをする前に、俺の意図をくみ取って、橘君を動かしていたのか。素晴らしいな。そのおかげで、完全に敵を崩してゴールを決めることが出来た。

 

 

 

 …でも、同時に少し残念に思うことがある。俺の想像と違った結果を生み出したというのは、今後が楽しみになるんだが…。あそこでスピードを落とすことなくトラップし、トップスピードのまま敵を躱してゴールしてくれる選手じゃなければ、この先少し使いづらい。

 

 フォワードにこだわりを持っているようだが、同じチームで戦っていくのであれば、少し足りない気がするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていても、合格しなければ本末転倒か。もう一点青井君に決めさせて、きっちり逆転してから試合を終わらせることにしよう。

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