バタフライエフェクト   作:べれしーと

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蝶の舞う音が響く


悔恨と懐古と…… 01

何時もなら起きる気にもならない平日の朝。変わらず掛け布団にくるまって俺は一日を過ごすつもりだった。俺にはもう起きる理由なんてない。何かのために動くのは無意味だと悟ったんだ。

 

(…………)

 

全てを失った。大事なものを、全て。

 

(…………)

 

何かのために奔走しても空回りしかしてこなかった。悪い結果から更に悪い結果を呼び起こして、そこからまた最悪の結果を呼び起こす。そうとも知らずに無我夢中だった俺は、どれだけ滑稽だったのか。

 

(…………)

 

俺にはもう、起きる理由なんてない。全てを失ったのだから。

 

(そう思っていた…………()()()()()()。)

 

でも。

 

それでも。

 

「あと、一回。一回だけ。」

 

一縷の望みをかけて、また馬鹿みたいに頑張ってみようと思えた。

 

「ずっとここでこのまま、ぐずぐずして終わらせていいのかよ……っ!」

 

何故そう思ったのか、理由なんて分からない。

 

「終わらせない。」

 

無意味だとしても、足掻く事に意味があると信じて。

 

「何を犠牲にしてでも、君達を守る。」

 

あの頃の笑顔を取り戻したいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田舎の小さな病院で産まれた俺は父に(のぞむ)と名付けられた。希望を持って人生を挑んでほしいとの願いからそう名付けたと父は言っていた。

 

幼少期、自分は産まれ故郷で暮らしていた。優しい母と賢い父に育てられた。一人っ子だったが、良い両親の元に産まれたのが幸いして寂しさは感じなかった。

 

そのためか自分は明るい性格になった。幼稚園では沢山友達が出来た。所謂幼馴染ってやつだ。男女別け隔てなく接していたらしく、周りの大人達からは評判が良かったと母が言っていたのを思い出す。

 

自分が九歳のとき。父の都合で家族皆が引っ越しすることになった。転勤ではない、と父も母も口を揃えて俺に言っていた。特にその事に何かを感じる事も無く、俺は産まれ故郷を去った。

 

引っ越し先の東京で暮らす事になった俺だが、転入先の小学校で独りぼっちになることは無く、むしろ人気者として名を馳せた。明るい性格のおかげだろう。親に感謝である。

 

不自由も無く自分は生きていた。趣味も充実していたし、勉強や運動能力に不平不満があった訳でも無かった。そこそこモテたし、お金にも困ってなかった。

 

そんな俺に大きな変化が訪れたのは小学校六年生、十二歳の夏の頃。趣味のカメラで撮れた写真を眺めていると、突然、周りの空間が揺れだしたのだ。水面が歪むように、亀裂が走るように。それが面白くてずっと写真を眺めていると、なんと俺は過去に戻っていたのだった。

 

子供は純粋だ。過去に戻るという不思議体験を自分はそのまま信じたのである。ドッキリや幻、幻覚等の可能性を疑いもしなかったのである。

 

そのタイムリープ現象に心奪われた俺は何度もそれを繰り返す様になった。過去に戻って、出来なかった事をやって帰って来た。凄く楽しくて、これを自分一人だけの秘密にしたかった。だから、俺はそのことを誰にも口外しなかった。

 

そのうち、俺はこの現象に法則を見つけた。

 

一つ目、戻る過去はその写真を撮った時刻、場所である。

 

二つ目、自分以外の存在も意思を持って行動する。

 

三つ目、過去に起こした行動によって元いた自分の未来が変わる事がある。

 

一と二には直ぐ気付いた。三に気付いたのは、秋の話になる。

 

詳しくは覚えていないが、確か、喧嘩を仲裁するか否かという問題だった筈だ。いじめっ子と委員長がクラス内で喧嘩を始め、非があるのはどちらなのかという裁判染みたものが始まったのだ。勿論、最初は委員長の肩を持った。いじめなんて嫌いだったから。クラスメイトの皆も同じくそうした。結果、先生はいじめっ子をガミガミと説教した。委員長は無罪放免。

 

ざまあみろという、委員長を含んだ女子達の声がボソッと聞こえた事を俺は一生忘れない。

 

過去に戻った俺はいじめっ子の肩を持った。理由なんて些細なもので、あの一言が単純に許せなかったのだ。せめて、俺だけでもこのクソ女に反発してやろうと思った。

 

するとどうだろう。ざまあみろと未来で言っていた連中は途端にいじめっ子の肩を持ち出した。望がそう言うなら確かにそうなんだろう。その声が聞こえた時、小学生ながらに世の構造というものを知った。

 

元の未来に帰ると俺は驚いた。あのいじめっ子が改心していたのだ。どうやらあの喧嘩、悪いのは委員長側だったらしい。この未来では彼女が怒られていた。

 

これからはいじめなんてしない。皆に信じてもらいたいから。いじめっ子の彼はそう言った。この言葉は何処か、社会の残酷さを表しているように思えた。

 

さて、この話、これで終わりではない。何故か俺と彼が友達になっていたのだ。

 

理由は明白なもので、いじめをしていた自分のような奴でも信じてくれたから、というものだ。

 

最初は嫌だなあ、面倒臭いなあ、と思っていたが、人生とは分からないもので。

 

こいつと俺は24歳の現在、大親友である。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

中学生時代はまあまあ楽しかった。そのまあまあというのにも理由がある。

 

小学生の頃にあった純粋さを失ったという、誰もが通るそれだ。

 

実際、小学生の頃に、あなたがいるからという理由でコロコロと意見を変える奴を見たら、誰でも純粋さなんてどこかに行くと思う。

 

だがあのいじめっ子、名前を大希と言うんだが、彼とは更に仲良くなった。

 

変に馬の合う奴で、この頃から既に自分の中で彼を親友の枠にカテゴライズしていた。

 

代わりに、俺は八方美人では無くなった。浅い交流しかなかった他の同級生達と喋らなくなったのもこの頃からだろう。

 

大希は結構良い奴だった。というかイケメンだった。容姿も性格も。

 

小学生の頃のアレが不思議に思えるレベルのイケメン。

 

訊くと、親の虐待で色んなものが溜まっていたらしい。

 

中一の春に離婚して、父に引き取られてからはよく満面の笑みを見せてくれた。

 

というか虐待していたのが母親であることに俺はびっくりしてしまった。自分の母親があんなに優しいから、特に。

 

因みにあの喧嘩騒動以来、俺は過去に行かないようにした。

 

未来が変わる可能性を知って怖くなり、使えなくなってしまったのだ。

 

だから、俺が中学生の頃に撮った写真は、他の年代と比べるととても少ない。

 

今現在、その量の少なさに親が少し悲しんでいたがそれは許してほしい。すまん。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

高校生時代。この三年間は自分の人生に於いて、良い意味でも悪い意味でも、最も激動だった。

 

高校はそこそこ賢い所に入った。元々父の影響からか自分は頭が良かったし、大希も中学ではテストでいつも学年一位を取っていた。挑戦はせず、二人で絶対に落ちないであろう高校へ共に入学した。

 

そうして先ず、中学とのある違いに俺達は驚いた。

 

(可愛い子ばっかりやーーーー!!!!!)

 

俺達は男子高校生で、思春期真っ盛り。女性には目がなかった。

 

そんなかわい子揃いの女性の中で、一番気になった生徒がいた。

 

それは、高垣楓という二年生だった。

 

いや、ヤバいよ。なんなんアレ。反則。

 

と、三時間くらい二人仲良くファミレスで話したのは懐かしい思い出だ。

 

本当に彼女は可愛くて、大希に至っては一目惚れしていた。まあ、解る。

 

思春期のアホな高校生は、女性関係の行動に関してだけ早い。

 

彼女の所属する声楽部に俺らは入った。

 

同じ狙いの男子生徒や彼女への憧れから来たであろう女生徒がうじゃうじゃいて、その人数の多さに部長は少し困っていた。微笑む高垣さんは副部長だった。

 

忽ち、この高校の声楽部は大所帯となった。

 

 

 

 

 

高垣さんの最初のイメージはミステリアスな人だった。近寄りがたい、高嶺の花。

 

しかし、声楽で彼女の事を見ていると、少し違う印象を受けた。

 

(……人見知りでは?)

 

挙動不審が目につくのだ。『あ、』とか『えっと、』とか『その、』が多いし、そもそもあまり目を見て話してくれない。

 

(これ人見知りで確定だよ。皆さん見た目に惑わされてません?)

 

「望……楓さん、マジミステリアスだよな。」

 

気づいてないよこいつ。やはり一目惚れは厄介だ。

 

「なあ、頼む。楓さんと話そうと思うと心臓の高鳴りで死んでしまう。俺の良い情報を楓さんに流しておいてくれ。」

 

……やはり一目惚れは厄介だ。

 

 

 

 

 

高垣さんの次のイメージは先に示した通り人見知りだった。挙動不審だからね。

 

だが、彼女と深く話してみると、これも違っていたことに気付かされた。

 

(…………お茶目だ。)

 

話が面白い。駄洒落が好き。笑った顔が可愛い……可愛い。

 

ミステリアスの片鱗なぞ、そこには存在していなかった。

 

(というか瞳が綺麗な色してる。群青っぽい。)

 

「声の出し方、ですか?そうですね……えっと……お腹に力を入れるだけじゃ、あまり声は出ません。他にも入れる、というか、うーんと、イメージするんです。」

 

説明下手可愛い。

 

 

 

 

 

「望、どうだった?」

 

「高垣さん可愛い。」

 

「俺の事を伝えてこいやアホ。」

 

 

 

 

 

一年生の頃はそんな感じで、高垣さんが凄い可愛い、で終わった。平和で愛しい日々だった。

 

二年生になるとそこからまた、色々と変わっていった。

 

大希が副部長になって、高垣さんが部長になった。

 

一年生のメンバーが自分達の時と比べ、あまり増えなかった。

 

高垣さんがそれを悲しんで、大希がそれを慰めた。

 

そこから彼らが仲良くなった。

 

どうしてか俺も仲良くなった。

 

三人で遊ぶようになった。

 

……どうして?

 

「大希!?俺がいたら邪魔だろ!?何してんだよ!」

 

「だって二人きりとかまだ恥ずかしいもん。」

 

「乙女かお前。気持ち悪。」

 

「酷い。」

 

 

 

 

 

そんな乙女な一目惚れアホ男のせいで、俺は面倒臭い事に巻き込まれた。

 

でも三人で遊ぶ時、高垣さんはよく笑う。だからまあ、別にいいかとも思っていたり。役得だよね俺。

 

声楽は副部長と部長がこんな人なので、円満に滞りなく一年を過ごしていた。特に夏に全国へ行けたのは嬉しかった。可愛い子がいるという不純な理由から入った声楽部だったけど、一年以上やってると愛着や信念が沸くものだ。

 

勉学も問題は無かった。ていうか出来すぎなのが逆に問題だったかもしれない。大希が中学の時と同様に学年一位を取ったのだ。

 

ここそこそこの進学校だぞ……すげえな。とかなんとか、俺は思った。大希に勉強の秘訣を訊くと恋をする事と返って来た。死ねばいいと思います。

 

一応、俺の学力も上位二割には食い込んでいるから大丈夫だと信じたい。

 

ところで、今更な事だが、高一のバレンタインの話をしようか。

 

急にどうしたと思うかもしれない。でもこの話はとても重要なんだ。

 

大希が兎に角モテた。とことんモテたのだ。

 

何あれ。チョコ十個とか初めて見たよ。しかも慣れてる感じの大希の顔も初めて見た。はは、またか。じゃねえんだよ。毎年こんなんかよ。羨望の眼差し。望だけに。

 

そして話を戻せば、二年の今もあいつはモテモテだ。よく告白されてる。いや、よくとは云っても一ヶ月から二ヶ月に一回だけど。充分に多いね。

 

俺は、まあ、高校で告白された事なんて、ないですけどね……

 

(……でも高一のバレンタインで一個だけチョコ貰ったっけ。)

 

高垣さんからの手作りを。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

こんなありきたりの平和というものは長く続かない。唐突に終わりはやってくるのだ。歴史がそう証明している。

 

高二の秋、高垣さんは殺された。




東京なのに楓さん?ってなると思うけど説明はきちんとします。
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