バタフライエフェクト   作:べれしーと

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嘲笑う声が聴こえる


失敗と萌芽と…… 02

×

 

 

 

 

 

そういえば。

 

俺はふと、いつの日かの、質問ともつかない呟きをどうしてか思い出した。

 

大希、お前は深く色んな事を考える奴だった。それが俺にどれだけの良い影響を与えてくれたことか。

 

「男女同士の友情が成立しないなんて本当かなって思うんだけど、どう?」

 

「さあ……?俺にはよく分かんねー。」

 

自分の曖昧な返答を無視して、彼は続ける。

 

「そもそもだよ。」

 

「うん。」

 

「これ、同性同士の友情なら上手くいく、なんて考えにも取れるじゃん。でもそんなの傲慢にも程があるよな。」

 

その呟きに俺はどのように返したのか。

 

もう覚えてはいない。

 

 

 

 

 

2018 5/1 16:31

 

 

 

 

 

タイムリープした俺は変わらず店の裏口奥にある控え室へ向かっていた。

 

時間が近づいていることを知らせるためである。

 

《「…………もういいよ。アンタには、失望した。」

 

「か、加蓮!」》

 

そして、あの悲劇を未然に防ぐためである。

 

奏と加蓮の終わり方があんなものでは二人とも報われない。

 

すれ違って、勘違いして、誤ったまま判断が下されるのは人との関係に於いて最も起きてはならない事象の一つだ。

 

加蓮の失敗がなかった過去にする。もしくは、失敗したとしても仲違いが発生しなかった過去にする。これが俺の任務である。

 

控え室に着いた俺は早速声をかける。

 

「二人とも。出番だ。」

 

(過去に起こされた行動には必然性を持っているものもある訳だからそこを先ず判断しねぇとな……)

 

前と同じくガタガタという音がして直ぐ、奏が出てきた。少しの沈黙の後、後ろ手にドアを閉めた彼女。

 

「…………プロデューサーさん。頼み事、していい?」

 

奏は困ったように、だけど嬉しそうにそう問うた。

 

(…………本当に、友情は理論で解決するべきなのだろうか?)

 

彼女の見せたその表情にふとそう思ってしまった。

 

「なんか、頼み事をするのに凄く嬉しそうだな。」

 

単純な質問。困ってると言うのなら何故そんなに朗らかなのか、と。

 

「そう?……ううん、そうかも。」

 

「?」

 

「うん。そうね。確かに嬉しいわ。」

 

咀嚼し、答えを返される。

 

「どうして?困ってるんだろ?」

 

俺の再度の質問に彼女は答えてくれた。

 

「だって、友だちの為にこうやって信用できる人へ頼み事が出来るなんて()()()()、初めてだから。」

 

「……」

 

「部屋の中にいる加蓮は今、緊張で足を震わせてる。止まらないよーなんて嘆いてる。」

 

言葉を続けられる。

 

「プロデューサーさんなら魔法をかけてくれそうじゃない。激励の魔法を。」

 

俺も口を開く。

 

「でも、自信を持てとか俺が言っても駄目かもしれないぞ。俺が加蓮に魔法をかけられる保証なんてないんだから。」

 

実際、自信を持て、なんて言ってさっきは失敗してしまった。二人の友情を壊してしまった。

 

と、奏に返答される。

 

「そんな()()()()()()()みたいな魔法じゃなくていいのよ。」

 

「はっ?」

 

間抜けた声が出てしまった。

 

「私が貴方に期待してるのはプロデューサーとしての激励じゃなくて、友人としての激励。」

 

少し俺は頭を悩ませる。友人としての激励?

 

「加蓮の事、好き?」

 

奏にそう訊かれる。

 

「勿論。」

 

「……私は?」

 

「当たり前だろ。好きだ。」

 

「そ、そう……」

 

なんだ。大丈夫か。

 

「えっと……私が言いたいのは、好きな人には()()()()()を重要にしながら接してあげてほしいってこと。」

 

《犯人だった。

 

先輩が犯人だった。

 

あの温厚で、優秀だった先輩が。》

 

(……何で今思い出す。止めろ。考えるな俺。)

 

浮かんだ光景を頭の中から振り払う。

 

そして直ぐ近くにいる奏へ集中する。瞳が少し潤んでいた。

 

「……頼める、かな?」

 

奏はいつもと違う、年相応の表情でそう言った。

 

(……全く。素直じゃないな。誰も彼も。)

 

「頼まれた。任せろ。」

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

奏を先に行かせ、俺は入室する。部屋の中には前と変わらずパイプ椅子に座った加蓮がいた。

 

「あ……プロデューサーじゃん。その、ごめんね。緊張しちゃってさ。ちょっとだけ待って?」

 

早口で、そわそわしながら彼女が言う。

 

貼り付けたようにしか見えないその笑顔が今の俺には悲しく映らない。

 

「加蓮。」

 

「何?」

 

「俺の事好きか。」

 

「…………は、はあ!?」

 

椅子からバッと立ち上がり目を見開く加蓮。

 

「突然何言ってるの!?す、好き!?え!?」

 

「俺は好きだ。加蓮。」

 

騒がず俺は喋る。

 

「あ……う……今は、ズルいよ……」

 

もじもじといじらしい彼女。そんな彼女に俺は詰め寄る。

 

「うぇ!?」

 

「……」

 

「あわわわ……」

 

発言を俺は止めない。彼女の両手を掴み言う。

 

「ライブで心配なんだろ。失敗しないかどうか。」

 

「……あえ?」

 

気の抜けた加蓮の声が響いた。

 

「あえ?じゃなくて。どうなんだ?」

 

「え、好きとかの話は?」

 

「俺が加蓮の事を一人の友人として応援しているって伝えたかったからその話をしただけだが。」

 

握る両手を離すことなくそう続けた。

 

すると彼女は溜息をついて残念そうな表情になった。

 

だと思ったって、おい、呆れるんじゃない。

 

そう思いながらふと見えた彼女の足に、緊張による震えは見られなかった。

 

「……まあそりゃね。心配するよ。肝心な初ステージなんだし。」

 

ぶっきらぼうに答えられる。

 

「……加蓮にとっての成功って?」

 

俺は問い掛ける。

 

「……完璧に、最良のパフォーマンスを披露すること。」

 

加蓮は答える。

 

そしてそれに俺は反駁しようとし、しかし。

 

「なーんて言うとでも思ってた?」

 

予想外の返しだった。

 

努力中毒、異常な量の自主連、熱意……

 

彼女にとって、これらは全て成功の目的を達成するためのものだと思っていた。

 

「……違うのか。」

 

「んー、昔はそうだったよ。確かに今もたまーにそう考えちゃう節はあるケド……ホントにちょっとだけ。プロデューサーさんに担当される前までは、そして奏とユニットになるまでは完全にその把握だったね。」

 

少しの独白で、彼女はこの場を支配する。

 

「完璧にやろう、絶対成功させよう。そう考えてアタシ、候補生の時はバカみたいに張り切ってた。何故ならアタシの知ってるアイドルはいつだって()()()だったから。」

 

「それに速水奏なんていう化物さえいたんだもん。強くそう思い込んじゃった。完璧こそアイドルなんだって。」

 

「ユニットするまでは奏のこと憎かったなー。だってあんなの反則じゃない?天才だよ天才。あたしと真逆だもん。だから奏への当て付けみたいにあの頃はレッスンしてた。こちとら凡才代表じゃボケー!って感じで。」

 

「そっからなんかアタシとその憎らしい速水さんでユニットになりまーす。パチパチ。ではアイドル街道行ってらっしゃい。って軽い感じでデビューして。びっくりした。」

 

「あれ?こんなのがアイドル?……みたいな。」

 

「それにユニットデビューの話、奏が出した案らしいじゃん。わざわざ有名になれる筈のソロを断ってまで。」

 

「これ今でも不思議なんだよね。まあ奏ってそういうところあるし、もう気にならないけど。」

 

「そんで不貞腐れて下向いてた目を上にスライドしたら、いかにもな新人がアタシのプロデューサーだった。」

 

「左遷を疑ったね。酷い会社だって非難したくなったよ。その時は。」

 

「でも、さっき言った通り、こっからアタシの認識が変わっていったの。」

 

「プロデューサーさんはいつも言ってた。アイドルに正解があってはならない、これは数学ではない、って。」

 

「楓さんの様子を見てるとそれに偽りはないよう思えた。」

 

「奏はいつも言ってた。ボーカルを求めるなら歌手を欲すし、ヴィジュアルを求めるならモデルを欲すし、ダンスを求めるならダンサーを欲す。アイドルの才能は少なくともこの三点の限りではない。って。」

 

「病院のテレビで見てた景色を思い出せば、それは確かだった。」

 

「自分の観念を考え直した。アタシは。」

 

「せめて初めてのライブでは失敗したくなかったから。」

 

……俺は、彼女の瞳を見据え、訊く。

 

「答えは見つかったか?」

 

彼女は、俺の瞳を見据え、言った。

 

「アタシも含めて、誰か一人でもライブを楽しいと思えなかった場合。それがアタシの思う今の()()。少なくとも()()()じゃない。」

 

(あの時の加蓮は。)

 

《「全部完璧だったよね。失敗しないだけじゃなく、教えてもらった以上の事をパフォーマンスしてみせた。ほんと、完璧。凄いよ。アタシなんかと全然違う。」》

 

(やさぐれて、心にも無い事を言っていたのか。)

 

《何故か、二人の姿が自分と先輩の関係に重なって俺には見えてしまった。》

 

(…………)

 

と、彼女が俺の手を強く握り返す。

 

意を決した、そんな目で彼女は自分を見据え直し、言った。

 

「プロデューサー、一緒なら出来るって、言ってよ。」

 

震えた、さっき消えた筈の足の震えに似た、それ。

 

その言葉に俺ははっきり返答する。

 

(…………勿論。)

 

「俺ら三人でなら、絶対出来る。楽しくて、最高の、モノクロームリリィだけのライブを。」

 

口の端を上げて笑いながら。

 

 

 

 

 

蝶の羽音が、微かに聴こえた気がした。

 

 

 

 

 

17:00

 

 

 

 

 

小さな小さなライブがまた始まった。

 

観客が数えれる程しかいない実に小さいライブだ。

 

けれども一生懸命に歌い、踊るその姿は実に大きく見えた。

 

どこか、星の瞬きに似たものを感じる。

 

一等星の輝く様な笑顔だった。

 

成功を確信した。

 

 

 

 

 

20:40

 

 

 

 

 

気づけばそこは家だった。

 

(……理論無しで案外いけるもんだな……痛……っ。)

 

ズキズキとした頭痛、多少の鼻血と共に記憶が頭脳に流入していく。

 

 

 

 

 

インストアライブはミス無しで成功を収めた。

 

喧嘩もなく、反対に二人はより仲良くなった。

 

次の日の予定を確認したりして解散、帰宅。

 

 

 

 

 

「ははっ……モノクロームリリィ、神だな……」

 

若者みたいな言葉が口から溢れた。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

そういえば。

 

俺はふと、いつの日かの、質問ともつかない呟きをどうしてか思い出した。

 

大希、お前は深く色んな事を考える奴だった。それが俺にどれだけの良い影響を与えてくれたことか。

 

「男女同士の友情が成立しないなんて本当かなって思うんだけど、どう?」

 

「さあ?俺には分かんね。」

 

自分の曖昧な返答を無視して、彼は続ける。

 

「そもそもさ。」

 

「うん。」

 

「これ、同性同士の友情なら上手くいくよなんて考えにも取れるじゃん。でもそんなの傲慢にも程があるよな。」

 

その呟きに俺はどのように返したのか。

 

もう覚えてはいない。

 

けれど。

 

けれど、()()()ならこう答えるだろう。

 

友情なんてものは、全て傲慢から出来ている、と。

 

スマホに高垣さんから送ってもらったあの写真を表示する。

 

(先輩。)

 

周りの風景がグラグラと揺れ出す。

 

(すんません。)

 

そして……

 

(俺の傲慢に付き合って下さい。)

 

 

 

 

 

2018 4/28 16:20

 

 

 

 

 

本日二度目のタイムリープが、始まった。




待たせたな。ごめんなさい。
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