バタフライエフェクト   作:べれしーと

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嘲笑う声が聴こえる


悔恨と懐古と…… 02

あまりにも突然の事だった。

 

高垣さんは運悪く通り魔に襲われ殺された。何十ヶ所も鋭利な刃物で刺されていたらしい。僅か18年の短い人生だった。

 

彼女の死という影響力は凄まじく、学校中が悲しみに明け暮れた。暗い雰囲気を常に纏っていて、まるで廃校のようだった。

 

その日から俺の周りは転落していった。

 

大希が不登校になった。恋をしていた相手が殺されたショックで、あいつは元気を失ってしまった。

 

声楽から人が去っていった。部長の死と副部長の不登校は高校生の心には重すぎる内容だった。

 

自殺者が出た。好きな人が無惨に殺されて自棄になったのだろう。自分の全く知らない誰かではあるが、尊い命が失われた。

 

学校が非難を受けるようになった。事後対応が杜撰であるという的外れな指摘を呑み込まざるを得なかったのだ。

 

彼女の死から二週間後、大希が自殺した。何故自殺に至ったかは不明で、それは服毒によるものだった。

 

転落の一途を辿る中、俺は葬式で痩せこけた大希の死体をはっきりと見た。そしてその時、固く決意した。

 

こんなクソリアル、変えてやる。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

葬式が終わって家に帰った俺は早速行動に出た。

 

スマホに入っていた画像の、高垣さんが死ぬ三時間前に撮影した、部室で三人が揃っている写真を表示する。

 

集中してそれを見詰めていると、忽ち視界が揺れだした。

 

(大希も高垣さんも救ってみせる。)

 

固い決意を胸に抱いて。

 

俺は、過去に戻った。

 

 

 

 

 

2011 10/12 17:02

 

 

 

 

 

手に持つスマホの感覚。肌に馴染む制服の布地。隣から香る爽やかな二つの匂い。

 

「どうでしょうか。上手く撮れてますか?」

 

「上手く撮れてますよ楓さん!」

 

聞き飽きた二つの声。楽しそうな、これから起こる悲劇を知らない二人の表情。

 

「……よく笑えてるよ。二人とも。」

 

本当に、よく、笑えてる。

 

「……?」

 

高垣さんが不思議そうな表情を見せた。機微に聡い人だ。

 

「俺用事あるんで!楓さん!望!んじゃまた!」

 

「おう。またな。」

 

「はい。また。」

 

ドタバタと音を立てながら走り去っていく大希。久しぶりな感じがして少し気持ち悪い。目が潤む。

 

《俺も用事あるから、帰るわ。》

 

「楓さん。話があります。時間、大丈夫ですか?」

 

さておき俺は行動する為、前とは違う選択肢を選ぶ。

 

《はい。また明日。》

 

「え、ええ……大丈夫だけど。どうしたの?」

 

すると、彼女も前とは違う選択肢を選んだ。

 

(よし。)

 

「まあ次期部長候補とかそんなところの話がしたくて。高垣さん、部活辞めちゃいましたし。」

 

全くの嘘だが仕方ない。許してくれ高垣さん。

 

「三年生ですからね。」

 

「そうですね……それで、どうです?一緒に寄り道でもしません?」

 

「……ふふ。もしかして口説きにきてます?」

 

「そうだと言ったら来てくれますか?」

 

「いいえ。」

 

「食えない人だ。」

 

「ふふ。」

 

「はあ。」

 

「…………ウソです。行きますよ、ナンパ後輩。」

 

鞄を左手に提げこっちこっちと右手で手招きする高垣さん。ニヤニヤした顔が苛立ちを誘うのと同時に、懐かしいこのやり取りに俺は嬉しさも感じた。

 

「……オッケーです駄洒落先輩。」

 

 

 

 

 

19:51

 

 

 

 

 

レトロな木彫の雰囲気が立ち込める喫茶店で時間を潰して早数時間。もうすぐ高垣さんが殺される筈の時間。

 

「あと三十分くらいいても大丈夫ですかね?」

 

理由もおかず、交渉してみる。なにがなんでもいてもらわねば。

 

「親になんて説明すればいいと思います?」

 

「彼氏と一緒でしたーとか言えばいいんじゃないすか。」

 

「……なんか、本当に口説きにきてません?」

 

「気のせい、気のせい。」

 

ジトっとした視線で見詰められる。身がすくむんで止めてほしいっす。

 

 

 

 

 

20:00

 

 

 

 

 

駐在を了承してくれた高垣さんは変わらず珈琲を嗜んでいる。異変はない。

 

 

 

 

 

20:05

 

 

 

 

 

そろそろ雨が降ってくる筈だ。もう少ししたら高垣さんを送るとしよう。

 

 

 

 

 

20:15

 

 

 

 

 

「今度こそ、帰りましょうか。高垣さん。」

 

「やっと解放されるー……」

 

「ごめんなサイエンス。」

 

「五点。」

 

「悲しい。」

 

高校生らしい、意味の無い問答と軽口を叩き合いながら店を出る。

 

高垣さんを救えた。

 

ただそれが嬉しくて、嬉しくて堪らない。

 

微笑みが隠せない。

 

良かった。これで皆が順風満帆の人生をまた過ごせる。

 

周りの風景が揺れだして、まるで映像を早送りするかのように移動していく。

 

さあ、元いた未来に戻ろう。

 

これでハッピーエンドだ。

 

 

 

 

 

10/29 7:00

 

 

 

 

 

「ふー…………て、うわ……」

 

元の未来に戻ってくると、直ぐ鼻血が出てきた。少量だったが脈絡の無さに驚いてしまう。

 

(頭もいてえな……)

 

今までのタイムリープでこんな事は起きたこと無いのに……

 

まあ、さておき、自室の机にあるティッシュを一枚手に取り鼻下を拭く。

 

今日は学校だ。行く準備をしなくては。

 

 

 

 

 

8:25

 

 

 

 

 

学校に着き、自分のクラスに入る。何処か雰囲気が暗い。

 

(……高垣さんは救えた筈、だよな。聞いてみよう。)

 

俺は近くにいたクラスメイトに話しかける。

 

「なあ、今日、雰囲気暗くね?なんかあった?」

 

すると怪訝とした表情で返答された。

 

「……いくら認めたくねえからって、そんな気丈に振る舞う必要はねえぞ。」

 

まさか、そんな。

 

「高垣さんが殺されたのか!?」

 

腹に力を込めて訊く。

 

「は?」

 

心底不思議だと言わんばかりの声色だった。

 

「ち、違うのか?」

 

 

 

 

 

「殺されたのは、大希だよ。」

 

 

 

 

 

19:14

 

 

 

 

 

ここではあの未来が消えて、何故か大希が死ぬ未来となっていた。

 

高垣さんの代わりに殺される筈だったであろう大学生の女の子が通り魔に襲われた時、見捨てられない性格なあいつが自分の身を呈してその人を守ったというのだ。

 

……前の未来でも今の未来でも死んだ。大希が運命に嫌われているかのように俺には感じられた。

 

(悲しさは感じない。)

 

自室に入り、鞄を投げ捨てる。

 

(喪失感もない。)

 

スマホを開いて再度、あの写真を表示させる。

 

(ただ、俺が必ずあいつを救ってやらねばならないという義務感があるのみ。)

 

「安心しろ大希。俺がなんとかするから。」

 

風景がぼやけていく。

 

「運命が大希を見捨てても俺は見捨てない。」

 

高垣さんと結ばれるまでは死なせないからな。覚悟しろよ色男。

 

()()()()()()()()()()。」

 

自嘲気味にそう呟いた。

 

 

 

 

 

10/12 17:02

 

 

 

 

 

手に持つスマホの感覚。肌に馴染む制服の布地。隣から香る爽やかな二つの匂い。

 

「どうでしょうか。上手く撮れてますか?」

 

「上手く撮れてますよ楓さん!」

 

やる事は単純明快。ただ二人を引き留めるだけだ。

 

(そんなに気張らなくてもいい。落ち着けよ俺。)

 

《俺用事あるんで!楓さん!望!んじゃまた!》

 

「大希、今日暇か?」

 

違和感のないように自然な会話へと持ち込むために、大希が暇ではない事を分かっているがこれを訊く。

 

「おう、暇だぞ?なんでだ?」

 

(……え?)

 

しかし返答は予想外のものだった。

 

「そ、そうか。」

 

「うん?おう。」

 

過去が変わってるのか……?

 

「どうしたんですか?下を向いて。」

 

高垣さんに心配される。いけない。

 

「いや、何でもないです。高垣さんはどうですか?暇ですか?」

 

「超暇です。フリーです。」

 

「そんで?つまりは皆して暇だから何処か行こうぜっていう認識でいいのか?」

 

大希が発言する。呼応して俺はそれに返す。

 

「ああ。三人で喫茶店でもどうかなって。」

 

あそこが絶対に安全であることは前のタイムリープで判明している。あそこに行ければ後は消化試合だ。

 

「いいですね。喫茶店に行けるなんてウキウキっさ、なんて。ふふっ。」

 

「それはちょっとキツい気が……あ、俺もオッケー。」

 

よし。

 

「早速行こうか。」

 

 

 

 

 

18:07

 

 

 

 

 

喫茶店に着いて早数十分が経つ。ここに来るまでに異変は無かった。残す懸念事項は時間のみ、だな。

 

「八時くらいまでここにいない?」

 

提案する。

 

「了解でーす!」

 

妙にテンションの高い高垣さんがそう答えた。酒でも飲んだのかこの人。まだ飲める歳じゃないけど。

 

「あー……俺、十分前くらいに出てく。」

 

おずおずとした態度で大希はそう言った。

 

「用事か?」

 

「まあ、そんなとこ。」

 

「そうか。なら丁度良いし、その時間になったら皆で一緒に帰ろうぜ。」

 

悪いが一人では帰せない。死なせてたまるか。

 

「そうですね。」

 

「……いいのか?二人でいれば別に」

 

「いいんだよ。てか、そっちの方が楽しいし。ね、高垣さん。」

 

「そうですよ。可愛い後輩二人と一緒にいる方が幸せです。」

 

「……わかった。」

 

不服そうな表情のこいつは珍しいな、なんて、俺は呑気に思った。

 

 

 

 

 

19:51

 

 

 

 

 

「そろそろ出ようか。」

 

発言する。

 

「なんか、付き合わせてるみたいで悪いな。」

 

「ドントマインドの精神で行きましょう。」

 

「へ?」

 

妙に陽気な高垣さん、やっぱりアルコールとか入ってそう。飲めない年なんだが。

 

 

 

 

 

20:00

 

 

 

 

 

訊くと、大希は家に帰るだけらしい。それが用事というのはどこかおかしく聞こえたが、それは込み入った事情があるのだろう。大希は嘘を言わない奴だ。

 

さて、それを踏まえてやる事は一つだろう。

 

「なあ、なんで地下鉄使うんだよ。俺いつもバスなんだけど。」

 

大希が言う。

 

通り魔に襲われた女の子を助けて死んだということは、つまり、その現場に出くわさなければ死ぬことはないということ。今向かっている地下鉄はバス停と真逆の方向だ。これで未来が書き変わる。

 

加えて、何かしらのイレギュラーが発生したとしても俺がいる。万が一の時は俺がなんとかすればいいのだ。

 

「気分だよ気分。それにバス使わないと死ぬ病気でもねえんだしいいだろ?」

 

「まあ、そうだけど……」

 

大希はまた、少し渋っていた。

 

 

 

 

 

20:05

 

 

 

 

 

人通りのいい場所に俺らは着いた。流石東京だ。比喩などではなく、本当に人が溢れかえっている。

 

ここまでこれば、九割九分九厘で大希も高垣さんも死なないだろう。

 

通り魔が来たとしても誰かの悲鳴ですぐさま分かるし、そもそもこの人の数で二人の個人を狙うとしたらそれはもう計画的殺人だ。そんなのは有り得ない。

 

大希も高垣さんも人に恨まれる様な人ではないのだから。

 

 

 

 

 

20:15

 

 

 

 

 

列車に揺られながら思う。

 

今度こそ、救えたのだと。

 

さあ、元いた未来に戻ろう。

 

ハッピーエンドが待っている筈だ。

 

 

 

 

 

10/30 7:10

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

元いた未来に戻ると、相も変わらず鼻血が出てきた。頭痛もする。

 

「またか……」

 

手に持つティッシュで鼻下を拭く。

 

(これで誰かが死んでたらシャレになんねえが……)

 

どうすればいいものか。

 

(…………電話だ。電話すれば直ぐに分かる。そうだ。)

 

あの二人の安否を確認するならそれが手っ取り早い。何故前は思いつかなかった。

 

ふと思い立ったその最良法を俺は急いで実行した。

 

 

 

 

 

8:15

 

 

 

 

 

結果は大成功だった。大希も高垣さんも生きていた。

 

(良かった……ほんとに、良かった。)

 

しかし運命はきちんと残酷であった。

 

通り魔が例の如く出現し、女子大生一人を殺害。犯人は未だに逃走中。

 

(油断はまだできない。)

 

タイムリープ能力があるとはいえ、何度も続けると自分の気を病ませてしまう。常日頃とこんな事を続ける気なんて更々ない。

 

(英雄志望者じゃねえからな。俺は。)

 

出来れば普通の、穏便な暮らしを過ごしていたい。そう思った。




年代に特に意味はないです。適当なので曜日云々は気にしないで下さい。
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