バタフライエフェクト   作:べれしーと

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嘲笑う声が聴こえる


悔恨と懐古と…… 03

二人を救った後は驚く程平和だった。

 

通り魔は捕まらなかったが、また襲ってくることはなかった。

 

何かしらの蟠りも残らなかった。

 

学校も部活も友達も、明るく過ごすことが出来ていた。

 

しかし変化が無かった訳ではない。

 

「楓さん成分の不足で死にそう。」

 

「キメェ事言うな。」

 

高垣さんとの付き合いが薄くなったのだ。

 

当たり前ではある。彼女は受験生だ。

 

忙しくて俺らと話す暇などないだろう。

 

話す暇などないだろう。

 

……話す暇などない、だろうか。

 

それくらいはあると、思うのだけれど。

 

 

 

 

 

2012 2/14 7:50

 

 

 

 

 

世がざわめきたつバレンタインデイ。はっきり言って自分には関係がない。

 

小さい頃は多少モテたがもうモテないのだ。モテキ過ぎ去るの早すぎワロタ。

 

比べてあいつは凄い数のチョコや告白を貰うだろう。それに困る姿を見て俺は羨ましがる。毎年の行事だ。今年もそれを行える事に喜びを覚えた。

 

(大希を救って良かったと、やはり思える。)

 

思いっきり弄ってやろう。

 

(……俺の靴箱の中になんか入ってるんですが。)

 

高校に着いた俺が脱履した靴を入れようとしたらそこにはなんと手紙が!?

 

……なんだこのテンションは。

 

(バレンタインだし果たし状ではないな。告白とか?そうすると古典的だしベタだな。可愛い。)

 

まあ、入れるとこ間違えてるんですけどね。

 

(大希の靴箱は上ですよ、っと。)

 

その手紙を大希の靴箱の中に入れる。中には既にチョコが二つと手紙が一つある。やりおる。

 

(おっちょこちょいさんだなこいつ。)

 

 

 

 

 

15:45

 

 

 

 

 

「行ってくるわ。」

 

「おう。いってら。」

 

大希と廊下で別れる。俺は家に、彼は一年の教室に向かう。

 

(高垣さん一筋だし今年も断るんだろうなあいつ。少しだけ勿体ないと思う。うん。)

 

いや人の自由だけどね?誰を好きになるかなんて。でも俺も男だからさ。思っちゃうのよ。

 

(今年も俺はなんにもなしかー。小学生の頃の名声はいずこへ……)

 

「あれ、高垣さん?何してるんですか?」

 

二年生の脱履場に高垣さんがいた。びっくりした。

 

「わざとらしいですよ望くん。これいらないんですか?」

 

その手にはチロルチョコ。……嬉しいけどさ。

 

「いります!ありがとうございます!」

 

手を差し出して受け取る。やったぜ!

 

「……嬉しいですか?」

 

「はい!男からしたら何でも嬉しいものですよ!特に高垣さんから貰うんですから最高です!」

 

「…………」

 

「……どうしたんです黙りこくっちゃって。」

 

「いえ、友チョコなのにそんな喜ばれるとは思わなくて。少し引いてます。」

 

「引かないで!」

 

 

 

 

 

19:30

 

 

 

 

 

家の中、貰ったチロルを味わって食べる。

 

「うまうま。」

 

勢いに任せてメールを送信!

 

「チロルうまうま感謝感激、っと。」

 

直ぐに返信された。

 

「苦めなの平気なんですか……平気ですよ!」

 

また返信がきた。

 

「そうなんですね、か。」

 

それは何処か突き放す様な文言に感じられて、少し寂しくなった。

 

(……たかがメールの文言にそんな意図はねえよバカか俺は。中二病かよ。)

 

高垣さんの一言一言に一喜一憂してる自分が少し気持ち悪くて、俺は風呂に入った。シャワーは色々ときれいさっぱり洗い流してくれる。

 

もうその日に携帯に触れる事はなかった。

 

何故か、怖くなったから。

 

 

 

 

 

3/2

 

 

 

 

 

高垣さんを含む三年生の卒業式の日。厳格な雰囲気が空気中を漂っていた。

 

バレンタインの日以来、高垣さんを見ていない。俺だけではなく大希もだ。

 

あいつ曰く彼氏でも出来たんじゃないか、らしい。そんなわけないと思うが。

 

今日を終えると三年生の大半とはもう会えなくなる。さようならだからな。

 

(まあ、三年の中で仲が良い人なんて高垣さんしかいないし別にそれで構わないけど。)

 

 

 

 

 

卒業式が終わり、二年生が解放された。

 

三年は同級生と色々あるだろうから高垣さんも少し後に来るだろう。

 

そう思い、俺と大希は部室で他の部員と共に彼女を含む三年生を待っていた。

 

しかしいくら経っても彼女だけ来ない。

 

どうしたものかと悩んでいると声が聞こえてきた。一年と三年の会話だった。

 

「かえちゃん?かえちゃんならもう帰ったよー?」

 

……帰った?

 

「なんか引っ越しで忙しいらしくて。」

 

「…………おい、望。行くぞ。なんか、胸騒ぎがする。」

 

引っ越しって、何で急に、

 

「望。」

 

大希に肩を掴まれる。

 

「楓の家、行くぞ。」

 

「…………分かった。行こう。」

 

意味が分からなかった。でも引っ越しをするということは、会えなくなるかもしれないということ。

 

せめて別れくらい言わせてくれよ、高垣さん。

 

靴紐が解けているのも気にせず、ただ彼女の家へ走った。

 

 

 

 

 

家に着いた時、彼女と彼女の家族はいなかった。

 

出掛けていたらしかった。

 

俺は彼女にメールを入れる。

 

引っ越しの事何で言ってくれなかったんですか、と。

 

電話は憚られた。

 

何故かは分からなかった。けど、したくなかった。

 

大希は遠慮なく電話した。が、出なかった。

 

進展は見込めなかったため、その日は帰った。

 

次の日の朝、俺の携帯に高垣さんからメールが入っていた。

 

言う必要がありますか、と。

 

言葉を失った。

 

同時に、心が痛くなった。

 

何故痛くなったかは分からなかった。

 

 

 

 

 

俺が三年になって知った事だが、高垣さんは故郷に帰ったのだという。

 

訊くと、故郷の大学に進学したらしかった。

 

その時は、何も感じなかった。

 

 

 

 

 

二年生の春休み。俺は高垣さんの連絡先とメアドを消した。

 

おかしくはない。どうせもう会えない人だ。

 

大希は保持し続けていくらしい。

 

勝手に故郷に帰った人の事なんてどうでもよかろうに。大希は優しい奴だ。

 

次に高垣さんと写っている写真を燃やした。データ類は消した。

 

おかしくはない。どうせもう会えない人だ。

 

……高垣さんの事は忘れる事にした。

 

おかしくはない。どうせもう会えない人だ。

 

ただの友達だ。そのただの友達がいなくなっただけだ。

 

この行動は、なんらおかしくはない。

 

 

 

 

 

三年生はつまらなかった。

 

特に何もなかった。

 

埋まらない日々をダラダラと過ごしていた。

 

成績は落ちた。

 

先生方に心配されたが、それも多少だ。数ヵ月すると心配なぞされなくなった。

 

大希は順調に一位を取り続けていた。

 

あの日本最高峰の大学も夢ではないとちやほやされていた。

 

俺とは対照的な大希。

 

劣等感は抱いたが、憎らしくはなかった。

 

健全な努力家を憎む程余裕が無い訳では無かったからな。

 

人望にも差が出た。

 

俺は孤立し、彼は人気者となった。

 

当然の帰結だろう。

 

彼は俺と違って素晴らしい人間なのだ。

 

一人の友達が何も知らせず何処かに行っただけで拗ねる様な人間とは違うのだ。

 

凡人は天才に傅くしかないのだ。

 

 

 

 

 

高校を卒業し、大学へ進学した。

 

彼は言わずと知れた日本一の大学へ。

 

俺はそこそこの一般的大学へと。

 

仲は切れなかった。

 

不思議と切れなかった。

 

それが少し嬉しかった。

 

彼は優しい。

 

こんな自分とも付き合ってくれるなんて。

 

やはり彼は人格者だ。素晴らしい人間なのだ。

 

 

 

 

 

大学では地味な生活を送った。

 

サークル等には入らず、バイトを多めにやった。

 

初めてのバイトは新鮮で、働く事に楽しさを覚えたのもこの時だった。

 

本を読むようになった。

 

時間がそこそこ出来るようになった、つまり暇ができた俺は、読書という安価で長続きしやすい趣味に走った。

 

また写真を撮る様になった。

 

理由は読書と同じで、猶予が出来たからだ。風景を美しく撮るため暗中模索していたのが懐かしい。

 

そしてどうしてなのか。友達が一人出来た。

 

「まーた暗い顔してるぞ☆何読んでるの?」

 

「プラトンの国家。」

 

「……?」

 

佐藤心。俺の二つ上の大学三年生。心理学部生だという。

 

「よく分からん……なんだこれは……」

 

「先輩、口調。」

 

「おっとすまねぇ☆」

 

……癖が、凄い。

 

 

 

 

 

地味ではあったが最初の二年間は楽しかった。心のおかげである。

 

特に泊まり掛けの旅行でははしゃいだ。やべぇくらいに楽しいものだった。

 

しかし心が卒業してからの二年は想像通りの退屈なものだった。

 

勉強にやる気は出なかった。

 

バイトして、本読んで、写真撮って、心や大希と遊んで。

 

単位がギリギリで死ぬかと思った。

 

 

 

 

 

大希とは違って大学院に行くつもりはなかったので俺は就職活動をしなければならなかった。

 

しかし、それはそこまで大変ではなかった。

 

狡い業だが、コネのようなものである。

 

父の就職先に行く事にしたのだ。

 

目に見える贔屓は無いだろうが、多少は融通が効くだろう。

 

思った通りだった。

 

高学歴ではなく資格もあまり持たない自分が内定を貰えたのだ。

 

つーか俺一人だけが受かった。

 

嘘だろ。父さんの息子に対する贔屓が過ぎる件について。入社後苛められたらどうすんねん。それに人事部の目は節穴なのか。俺一人っておかしいだろ。一人だけならもっと優秀な人材いたじゃん。なして俺なの。

 

これらの疑惑は解決せず、半ば強制的に俺は父の勤め先である346プロダクションのアイドルプロデューサーとして働く事になった。

 

 

 

 

 

ふと、俺は高垣さんのことを思い出してしまった。

 

自分の部屋でボーッとしてるといつも思い出してしまう彼女の事。

 

忘れることができなかった。

 

彼女は美人で、アイドルに向いている。

 

だから今彼女のことを考えてしまうのもおかしくはない………………いや、違うか。

 

本当は寂しいのだ。

 

彼女のいない数年間は空虚だった。

 

心の穴がずっと埋まらなかった。

 

……高垣さんは、自分にとって、とても大きな存在となっていたのだ。

 

加えて高校の頃に犯したあの行動は、ただの強がりだった。

 

少なからず俺も、彼女に恋心を抱いていたのだ。

 

叶わない癖に、抱いていたのだ。

 

烏滸がましくも、抱いていたのだ。

 

それに気づいたのは、研修生だった俺が、偶然にも貴女と出会った時だった。

 

俺が23歳で高垣さんが24歳の時だった。




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