2018 4/2 9:00
会社には逆らえない。モノクロームリリィの名実的台頭がプロデューサーとして一先ずの最優先事項となった。
ユニットの二人とプロジェクトルームで初めての挨拶を交わす。
「こんにちは、北条さん、速水さん。これから私が貴女方のプロデューサーです。よろしくね。」
俺の発言に続き、青いショートの髪の子が発言する。こっちが速水さんだったよな?
「えっと、私は速水奏……って、もう知ってるかしら。」
速水さんで合ってたようだ。
「ああ。プロフィールはざっとだけど目を通しておいた。」
「なら自己紹介は省いても大丈夫ね。プロデューサー、これからよろしく。」
差し伸べられた手を握る。握手だ。
微笑みを絶やさない彼女は少し大人びていた。女子高生らしくなくて、十七歳である事に未だ疑問を捨てられない。
底が見えないといえばいいのだろうか。蠱惑的なイメージが見受けられる。
喋りや態度からして彼女は感情にあまり振り回されないタイプの人だろう。
こんな若造にプロデュースされるのを知れば普通は苛立ちが先出する。初対面の時もその苛立ちが出る筈だ。
けれども彼女にはその様子がない。理由がアイドルとして危ない橋を渡らされている事に気づいていないアホだからか秘密主義を気取った大人被れだからか俺に期待しているお人好しだからかは分からないが、せめて気力がないからだとかいう理由ではないことを祈る。
さて、隣にいる茶髪の少女は先述した例に漏れず不機嫌な女子高生である。
「加蓮。彼に挨拶したら?」
速水さんが俺を見ずに横を見ている北条さんへ話しかけてくれた。
「……北条加蓮。よろしく。」
横を見たままぶっきらぼうに答えられる。分かりやすく不機嫌だなあ。速水さんとは真逆だあ。
彼女はアイドルに対する熱量なら誰にも負けないと先輩から聞いた。
憧れていたらしい。アイドルというものに。
しかし小さい頃から体が弱くて体調を壊しがちだったらしく、入院生活等の影響もあってか所属アイドルの中では最も体力がないという。
その為少し擦れたのだと。
心と体の解離で気が立つ中の左遷染みたこれだからまあ、不機嫌はしょうがないと思うけど……
一応目線くらいはこっち向けよ?
×
速水奏という女の子は天性のアイドルとしての才能がある。
ボーカル、ヴィジュアル、ダンス、どれをとっても高水準だった。
練習すればその内容を1日で覚える、自分の魅力を理解している、多種多様の人々それぞれの扱いを心得ている等々。
これが新人アイドルかと疑ってしまう程だ。
高垣さんも充分におかしいのだが、彼女は更に上をいっておかしかった。
彼女は感情を表に出さない。俺と初めて会った時の様に。
それは自分に対する絶対の自信を持っていて、尚且つ、自分の絶対的な実力を信じていたが故のものだったのだ。
表れる余裕も飄々とした態度もからかう様な誘惑も。
やはりそれが理由だったのだ。
(俺がいなくても全然やっていけそうだな。)
一ヶ月後のインストアライブが楽しみである。
対応して、北条加蓮という女の子に才能なんてものは見受けられなかった。
歌は悪い訳ではなかった。透き通るその声は武器になると確約できる。
しかし残りは全くだった。
笑顔は碌に出来ない、魅せ方は分かってない、振り付けは忘れる、踊りが固い、練習は失敗ばかり、態度が悪い、直ぐ感情的になる……
熱意だけが先立って実力がついていっていない、アイドルとして悪い例であった。
加えてよく無理をする。これが一番勘弁してほしい。
体が資本のアイドルが無理をするのは言語道断である。
それなのに彼女はひたむきに努力し続けるし、それを止めない。
絶対的な自信もなく、実力もなく、ただ抱き続けている夢と数える程しかいないファンの為一所懸命頑張る。
それが彼女だった。
俺も新人だけどプロデューサーだ、いざというときは頼ってくれな、と言うと、
「アンタを頼るなんてそんなのアタシっぽくないよ。アタシなら利用するね。信頼してないし。分かった?
挑発的な笑みで返されるのだ。
「利用出来るもんならしてみな、
「キレた。ポテトコースね。」
「すみませんでした許して下さい。」
北条さん、強い。
×
2018 4/28 9:27
今日は高垣さんのテレビ出演に関する打ち合わせが別会社で行われる。
プロダクションから徒歩三十分程度の場所にある会社だ。
これくらいの距離なら俺は歩いて行く人間である。
かのジョブズも散歩の意義を語ったように歩く事は効果的だ。
売り出しのイメージや案が浮かんでくるのも大体歩いている時だしね。散歩は神。
(…………あ、猫だ。寝てる。)
道端の影が射す草原で二匹の猫が寄り添って眠っている。真っ白な猫と真っ黒な猫。コントラストと暗い緑色が何処か異国感を出していて……イメージされるのは不思議の国のアリスみたいな西洋だろうか。心がざわつく。ただしこれは良いざわつきだ。
(可愛い。写真撮ろ。)
光と音を消して、パシャリ。
俺も写ろ。自撮りスタイルで、パシャリ。
みゆねぇに後で送っておこう。きっと喜んでくれる。
(っと、急がなきゃな。)
遅れたら会社と高垣さんまでにも迷惑かかっちまう。
14:54
150分の打ち合わせが終了して、現在その会社内にある自販機で買った珈琲を休憩室にて飲んでるとこである。
(50分くらいは無駄だったな……自社の宣伝は他所でやってもらいたい。)
近頃のテレビ業界は目に見えて衰退してきている。情報の隠蔽や操作、裏業界での画策が国民に露呈し出したからだ。
だからといって関係者まで巻き込まんでも……
(高垣さんの仕事に関する打ち合わせで宣伝とかうちの事務所をなめきってんなこの会社。)
と、珈琲を七割と少し飲んだところで、
「プロデューサー?」
ここにいる訳がない高垣さんが休憩室に入ってきた。
「な、何でここにいるんですか!?」
驚きである。その驚きで珈琲を溢してしまった。それはさておき高垣さんの今日の仕事は夕方からだ。何故昼からこんなところにいる?しかも夕方の仕事も別会社で行われるのだが?
そう思考していると。
「雑誌のインタビューでここに来たんですが……中辻さんから聞いてませんか?」
「……いえ、部長からは何も。」
なんであの人の名前がここで?というか雑誌のインタビュー?聞いてないぞ。
つーかインタビューするからこっちの会社に来て下さいってテレビはまじで傲慢だな…………
「……えいっ」
思考の中途、パシャリという音と共にフラッシュがたかれた。高垣さんに写真を撮られたらしい。
「ちょ、何するんですか!」
「ふふっ。写真を撮ったんですよ?」
ニコニコしながら俺に言う。
「そ、そんなのは分かってます!消して下さい!」
懇願。
「やーですー。夕方の仕事があるので失礼しまーす。」
それも空しく逃亡された。
(……なんで急に俺の写真なんて撮ったんだよ。)
ぱっと俺の前に現れてぱっといなくなった彼女。用件は何だったのだろうか。まさか理由も無しに俺へ会いに来るなんて事はない筈だ。
(…………)
いつのまにかこの会社に対する心の中の不満は消えていた。
代わりに、高垣さんの事を考えてしまっていた。
残っていた珈琲をちびちびと飲み、空の缶をゴミ箱に捨て、やはり彼女の事を考えながら俺は346プロへ戻った。
17:07
医療室に到着した。ノックも忘れ、ドアノブへ手を掛けて入室する。
彼女は目元を赤くしてソファーに座っていた。
「ごめんね。」
震え声は、実に弱々しかった。
数分前、仕事用として渡されたスマホが鳴った。勿論ワンコールで出る。
「はい、こちら346プ」
「プロデューサーさんですか!?」
相手は俺の言葉を遮って話してきた。失礼な奴だと思いかけたがよく聞くと聞いたことのある声だった。というかちひろさんだった。
千川ちひろ。アイドル事務の手伝いをしてくれる方だ。雑務系統も担当してくれてとても助かっている。因みに年上。
そんな彼女の焦っていて取り乱している声色は、
『望。高垣さん、殺されたんだってさ。もうこの世にいないんだってさ。』
いつの日か聴いた、あの声に似ていた。
「どうかしましたか。」
ちひろさんの返答は。
「___」
足関節捻挫。それを聞いて命に関わるモノではなかった事に安堵した。
しかし全治までの二週間は後の活動へ響かせない様にするため、絶対安静にしないといけなかった。
すると会社的且つ個人的に困る事が一つ出てくる。
『五月一日のインストアライブが崩れる事になる』のだ。
それはつまり『モノクロームリリィ』の初ライブがおじゃんになるという事を指すのだ。
そう、怪我を負ったのは、
「泣かないでくれ。君の落ち度じゃない。」
「……そうじゃないの。」
見えなかった心の底で誰よりも仲間のことを考えていた、
「加蓮に迷惑かけちゃったな、って。」
天性のアイドルとしての才能があった、速水奏という優しい少女だった。
中辻は主人公Pの上司です。アイドル部門の部長で、50代。
主人公Pは望って名前ですね。まだ23歳です。もうすぐお誕生日。結構な有能で、新人アイドルの高垣楓を半年でテレビ出演させた腕前からもその才能が分かります。それとしゅがはとみゆねえの出番はもうちと待って。
望の親友が大希くんです。大学院に通ってます。無茶苦茶頭が良くて、運動も出来て、将来が約束されてて、女性からモテて、友達も多い。こっちの方が主人公らしいですね。