バタフライエフェクト   作:べれしーと

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嘲笑う声が聴こえる


失敗と萌芽と…… 01

あの日から、先輩は会社に来なくなった。

 

全身の怪我による自宅療養という理由から、らしい。

 

出来ればそのまま一生療養していてもらいたいものだ。

 

あんな人と、俺は働きたくない。

 

善人を装って人を陥れようとした人と、一緒に過ごしたくはない。

 

可能なら、顔でさえ見たくはない。

 

本当に、失望した。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

取り敢えずの対処だろうか。先輩の担当していたユニット、ニュージェネレーションズは彼の療養中、別のプロデューサーが担当する事になった。

 

三人とも彼の事を心配していた。大丈夫かな、と。

 

良い子達だ。彼女らは優しいんだな。

 

そう思ったのと同時に俺は同情もした。

 

彼の本性を知らない事、そして、騙されている事に。

 

せめて彼女らには本質を見せないでほしいと俺は彼に向かって切に願った。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

2018 5/1 16:27

 

 

 

 

 

この世界では起こらなかったあの事件から三日後。特に何かが変化した訳でもなく通常通りにこの日が来た。インストアライブの日である。

 

先輩はまだ療養中である。この三日間でそれが当然だと思う反面、流石にやりすぎたとも思い始めていた。

 

自分勝手に失望して暴行を加えるなんて俺の方こそ人としてどうなんだと、この小さな役立たずの脳が気付いたのだ。

 

今まで先輩が人を傷つけていたとはいえ、いくらなんでも俺のこれはやりすぎではないか、と。

 

暴行を加えるなんて、しかも怪我の状態から考えて彼が行った行為の中で俺が最も酷いではないか、と。

 

罪の意識に苛まれて、俺はきちんと眠れていない。

 

枯れた涙と黒い隈で窶れている。

 

(というか、本当に先輩が犯人だったのか?)

 

よくよく考えるとおかしい点がいくつも見つかるのだ。

 

(結局、先輩がアイドルを狙っていた理由が分かっていない。)

 

あの時は失意に呑まれて肝心な事を無視してしまっていた。

 

それは先輩の、分かってるだろ、という発言だ。

 

まさか彼がタイムリープについて知っている筈がない。

 

そうでなくてもこの発言は前後の会話から考えると些か噛み合っていない様に思える。

 

で、あるならば、この分かってるだろとは一体何に対しての発言なんだ。

 

まだある。

 

(怪我の原因を訊かれた時、先輩は暈して答えたが、それは何故だ。)

 

素直に俺にやられたと言えば良かったのに先輩は意識的にその内容を暈して答えた。

 

この選択は彼にとって一ミリもメリットがない。

 

そもそも俺が先輩を痛めつけていた時、先輩は不動であった。抵抗しなかった。なすがままにされていた。

 

これもおかしい。

 

何故逃げなかったのだ。あそこでいつかのタイムリープの様に逃げていれば言い訳が効いたかもしれなかったのに。

 

(俺はあの事件を完全に分かっていなかった。それなのに、俺は、)

 

不思議な点や不可解な点が残っているこの事件。

 

先輩が療養から帰って来たら詳しく訊かなければならない。

 

そして謝らないといけない。

 

何が可能なら顔でさえ見たくはないだ。あんな人と働きたくないだ。

 

俺みたいに怒りへ身を任せて直ぐ人を殴る様な奴の方がよっぽど顔を見たくないし働きたくもない。

 

全身全霊を込めて俺は先輩に奉仕しなければならない。

 

全権利を譲渡する勢いで彼に尽くさなければならない。

 

(俺は暴力に訴えるクソ野郎だ……)

 

心底、自分の勝手さに辟易する。

 

こんな俺なんて必要ないのだから死んでしまえばいいのに。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

都内の某有名CDショップでのインストアライブ。346のアイドルがデビューする時、毎度歌唱する事になっている「お願い!シンデレラ」を本日モノクロームリリィの二人が歌う。名実共に今日がユニットのデビュー日となる。

 

二人は現在最終確認のため控え室で待機中だ。

 

(そろそろ迎えに行こう。この事は一旦おいといて、だ。)

 

この店の人通りや年齢層、購入CDジャンルの内訳等を見ながら俺は先輩の事を考えていた。

 

しかしここからは心を入れ換えろ。

 

一人のプロデューサーとして彼女達とは接しなければならないのだから。

 

(彼女達にはもうこの件は関係ないんだしな。)

 

そうだ。これは俺がクソ野郎である証明なだけで、優しく思いやりのある二人とは関係ないのだ。公私は分けろ。

 

 

 

 

 

と、歩いていると、控え室に到着した。

 

裏口の奥にそっと佇んでいる簡素な控え室だ。

 

ここから二人のシンデレラストーリーが始まるのだと思うとワクワクしてくる。

 

奏と加蓮、二人の紡ぐ物語はどんなものになるのだろうか。

 

せめて、俺と先輩みたいにはなってほしくないと思う。

 

(公私。公私の分別。)

 

駄目だ。また考えている。今は分けろ。魔法使いがこんなんでシンデレラが輝けるか。

 

「二人とも。出番だ。」

 

俺は灰色のドアから二人のいる中へ呼び掛ける。

 

ガタガタ、なんて音が少しして直ぐ、奏が出てきた。少しの沈黙の後、後ろ手にドアを閉めた彼女は俺にこう言った。

 

「…………プロデューサーさん。頼み事、していい?」

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

奏の話によると加蓮がガクブルに緊張しきって足の震えが止まらないのを嘆いていたらしい。

 

もう少ししたら行くと加蓮は言ったけどこのままだと本気を出せず終いでライブが終わりそうだし、激励宜しく、と。

 

軽い感じにそう言ってはいたが、表情を見れば奏が加蓮の事を気にしているのは丸分かりだった。全く。素直じゃないな。

 

(激励、か。)

 

先に行かせた奏が言うにはまだ自分に自信が持ちきれてないのが緊張の原因だと。

 

確かにその通りである。

 

加蓮の中毒ともいえる量の自主的なレッスンが自信の無さに起因しているのは間違いない。

 

才能が無く、周りの子の方が出来るのに選ばれた。アイドルになれた。ライブが決まった。

 

怖いのだろう。失敗が。

 

一度でも失敗したら才能のない私なんてもう這い上がることなどできない。どれだけ練習しても、努力しても、まだ心配だ。完璧を、最良を求めなきゃ。

 

なんて、思い込んでしまっているのだろう。

 

ドアを開ける。そこにはパイプ椅子に座っている加蓮の姿があった。

 

「あ……プロデューサーじゃん。その、ごめんね。緊張しちゃってさ。ちょっとだけ待って?」

 

早口で、そわそわしながら彼女が言う。

 

貼り付けたようにしか見えないその笑顔が俺を悲しくさせた。

 

「加蓮。」

 

「…………何?」

 

「……緊張してるのか?」

 

優しく問う。すると彼女ははぐらかすこともなく存外素直に答えてくれた。

 

「……えっと、緊張ていうか、心配、かな。」

 

「心配?」

 

俺も部屋の端に畳んで置いてあったパイプ椅子を組み立ててそれに座る。

 

「…………何でも最初が一番肝心、でしょ?失敗したらどうしようって。」

 

尻すぼみになっていく声には自信を感じられない。奏の予想通りである。

 

「大丈夫だ。失敗なんてしないさ。」

 

激励をかける。

 

「ずっと加蓮は頑張ってきたんだ。自分に自信を持て。自分を信じろ。心配なんて、するな。」

 

「…………そう、かな。」

 

「ああ。そうだ。加蓮なら、出来る。」

 

力強く、加蓮の目を見据えて言う。

 

自信を持ちきれていない加蓮にそうではない、君は自信を持てる程に努力してきたではないか、だから自信を持っていいんだよ、と言う。

 

激励のために言う。

 

ゆっくりと口を開いた加蓮の震えは止まっていた。

 

「二人なら、出来る?」

 

…………勿論。

 

「モノクロームリリィの二人なら、絶対出来る。」

 

口の端を上げて笑い、俺はそう言った。

 

貼り付けたようにしか見えなかった笑顔は既に消えていた。

 

 

 

 

 

17:00

 

 

 

 

 

小さな小さなライブが始まった。

 

観客が数えれる程しかいない実に小さいライブだ。

 

けれども一生懸命に歌い、踊るその姿は実に大きく見えた。

 

どこか、星の瞬きに似たものを感じた。

 

 

 

 

 

17:10

 

 

 

 

 

ライブが、終わった。

 

拍手喝采とはいかなかったが微かに手を叩く称賛の音が聴こえた。

 

奏と加蓮の二人が舞台から戻ってくる。

 

 

 

 

 

明るい壇上と対比的なその暗い顔が語る真実は、実質的なライブの失敗であった。

 

 

 

 

 

×

 

 

 

 

 

途中で一度、加蓮が転んだだけである。ただそれだけの失敗である。

 

別に進行に影響は与えなかったし奏のフォローもあって加蓮は素早く振り付けに戻れたしなんらこれからのアイドル生命に関わる様な事では無かった。

 

…………しかし加蓮にとってはあまりにショックなようだった。

 

隠れて、二人の言い合いを聞いていてそう思った。

 

「気にしないで。加蓮。あの後上手く立ち回れていたんだから。」

 

「……でも、失敗は失敗だよ。最初っから失敗しちゃったんだアタシは。」

 

「そんな、気負わないでも」

 

「……奏はさ、完璧だったね。」

 

「…………え?」

 

「全部完璧だったよね。失敗しないだけじゃなく、教えてもらった以上の事をパフォーマンスしてみせた。ほんと、完璧。凄いよ。アタシなんかと全然違う。」

 

「ど、どういう」

 

「昔っからそうだったのをアタシは覚えてる。天才だって誉めそやされてた奏と凡才以下だって馬鹿にされてたアタシ。何もしなくても一位の奏と死ぬほど頑張ってやっと二位のアタシ。……数日で完璧の奏と何ヵ月もやって失敗するアタシ!奏は期待されててアタシは期待されてなかった!」

 

「加蓮……?」

 

「ねえ、気分いい!?良いんでしょ!?自分の才能がよーく知れ渡ってくれるもんね!!上にいきやすいもんね!!」

 

「そんなことない……そ、そんなことない!」

 

「知ってるよ……アンタがアタシと一緒にユニットとしてデビューさせろってプロデューサーかそこらのお偉いさんに言ったんでしょ!?」

 

「っ……そ、そうだけどそれは!」

 

「それは……何?何があるわけ?」

 

「えと……その……」

 

「…………もういいよ。アンタには、失望した。」

 

「か、加蓮!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中で一度、加蓮が転んだだけである。ただそれだけの失敗である。

 

別に進行に影響は与えなかったし奏のフォローもあって加蓮は素早く振り付けに戻れたしなんらこれからのアイドル生命に関わる様な事では無かった。

 

しかし加蓮にとってはあまりにショックなようだった。

 

劣等感と疑惑と失敗。加えて、ユニットの圧倒的力量差。

 

多少あった称賛の音が加蓮には皮肉の様に聴こえたのだろう。

 

お前は転んでいたけどあの子は完璧だった。だから褒めてやる。と。

 

(でも、加蓮。)

 

隠れている俺の横を衣装のまま走り去っていく彼女の目には大粒の涙が浮かんでいた。

 

そして呆然自失の奏は白い肌を更に白くさせて、目を虚ろにし、独り、泣き出した。

 

何故か、二人の姿が自分と先輩の関係に重なって俺には見えてしまった。

 

(自分が信じれなかったとしても、友達は、信じていてほしかった。)

 

「俺と同じ間違いを犯しちゃ駄目なんだ。」

 

ズボンポケットのスマホを手に取る。

 

(奏の思いと加蓮の思いは相反している。互いに真逆同士だ。)

 

アルバムを開き……

 

「でもだからこそお前ら二人は最高のユニットなんだ。」

 

加蓮、気づいてるか?

 

あの速水奏って女は、お前にとって最高の友達であって最高の仲間であってそして最高のライバルなんだぜ。

 

ライバルってのは、両者が対等な場合にしか成立しねえもんだ。

 

(お前は実は無茶苦茶凄い奴なんだよ。)

 

教えてやらなきゃならない。

 

北条加蓮という女の子の凄さを。

 

「それに二人が泣いてる所も悔いを残す所もできれば見たくねえんだわ。」

 

暗く淀んでいる風景は次第に揺れだし…………

 

 

 

 

 




加蓮も奏も大好きなのになんでこんな目に合わせてるのか自分でも分からない。そして展開の雑さ。文章を書く力。足りなさすぎワロえない。
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