盛り上がるかどうかは不明。
元日本在住で現異世界在住の東洋人である
年は34歳。中身はおっさんに近い。
だが、異世界に迷い込んでからというもの年を取っていないようで、迷い込んだ18歳の時から姿が全く変わらなかった。
さて、この少年。黒髪黒目の黄色人種の典型的な日本人ではあるのだが…身長が195㎝とかなり高く、また目付きも鋭く、無愛想なのでやたらと周りに怖がられた。
幸か不幸か、本人は周囲に対して無関心なため全く気にしてはなかった。
そんな彼は当然のごとく一人孤独の道を歩んでいた。
誰の助けも必要とせず、黙々と一人で修業し、生き延び、戦う。そんなストイックさ爆裂な日々を過ごしていた。
ある日からそんな彼にも互いに信用し、信頼し合える仲間が出来たのだが、その話は長くなるのでこの辺にしておこう。
重要なのは彼はもともと一人でも生きていけたことだ。
彼は誰の助けもなく一人で何でもする能力にやたらと長けていたのである。
その彼が艦娘の世界へ迷い込んだ。
本来であれば多くの助けがなくば沈むことは必死であるはずのその世界に、だ。
だが、我道を貫くと決めどこまでも突っ切るその姿に妨害あっても迷いはなかった。
気が付けば海の上に立っていた。
周りは霧に囲まれているため少し先のものが見えない。
なのに、何故海の上に立っているか分かったのかは潮の香りがしたからだ。
「……どういうことだ?」
俺には海上に立つスキルや魔法、アイテムはない。
というかそもそも俺は魔法が使えない。
あるのは異世界を渡ったときに持っていた超人的な身体能力と異世界で培った技とこの十手くらいだろうか。
視界がゆっくりと上下する。
波はそこまで高くはない感じらしい。
いつか前に船の上で戦った時のように船体が大きく揺れる感じに似ているが、それよりも揺れる感じはない。
不思議な感覚だ……。
「…む、霧が晴れる」
霧が晴れるとともに太陽の日差しが強くなっていき、視界が広くなっていく。
早朝にたまに見られる現象に近いが、この感じはそれとはまた別の現象のようだ。
俺を中心に霧が晴れていくというのはいくらなんでも不自然だ。
恐らくなんらかの不思議な力が働いたのだと推察する。
ザザーン、ザザーン……。
猫のような高い鳴き声をあげる白い鳥が近くを通り過ぎていき、それは高く高く飛翔していった。
「…ゲームの始まりによくあるオープニング映像かよ」
これからプレイヤーのたびははじまった!
みたいなあらすじでも出てきそうだなおい。
それはともあれ、ここ海の上なんだが歩けるのか?
忍者みたいな装備は持ってねぇぞ?
少し足先を前に出して確かめてみる。
ちゃぽ…。
普通に足が沈んだんだが…。
「歩けるかと思ったら360°罠でした」
馬鹿じゃねぇの?
これが異世界の新たな試練なら、どんな拷問だよ。
俺はリアクション芸人とかじゃないんだぞ?
「もしくはあれか。近くの島まで泳げ、と?」
それこそどんな苦行だ。いつも思うが、世界に対する俺への扱いは酷い。
俺の不幸の残高はあといくつなんだ…。
とりあえず周囲に島がないか見て、近いところに移動しよう。
……………………………………………………。
まさか、前にあるあの水平線ギリギリに見えるあの島しかないだと……!?
どんな苦行だ。どう見ても三キロ以上はあるぞあの島。
今は日中でまだ見えるが泳ぐのは結構体力を使う。しかも、陸の上とは違ってそれほど進まないから1日以上は掛かるだろう。
だがこれはあくまでもただ真っ直ぐに泳ぐことだけを考慮して1日は掛かるという推察に過ぎない。
実際はもっと掛かる。潮の流れとかでどんどん流されていく可能性もある。例えば日中は真っ直ぐ進んでいるつもりでも夜中は全く別の方向に進む時すらあるということ。
厄介なのはそれだけではない。海に潜む魔物や天空からちょっかいをかけてくる生き物だってそう少なくはないだろう。
それらを考慮した場合、一体あの島に着くのにどれだけ掛かるか。
「どんな無理ゲーだよ……」
海水は体内の水分を奪う。脱水症状を起こすのは真夏の陸の上より早い時すらある。加えて俺は背中に十手を背負ってる。浮力は期待できないだろう。
それはつまり、1日すら掛からず別の意味で島に辿り着く可能性すらあるということ。
「仕方ない……」
緊急事態の案件だ。無理矢理にでもあの島に着く必要がある以上やるしかない。
どう見ても詰みの状況だ。ならば、文字通り命懸けでやるしかあるまい。
俺はさっき島を見付けるのに周囲を見回していた。
その時に見えたものは島だけじゃなく、別の黒い生き物も見付けていたのだ。
じゃあなんで無視したのかと言えば、俺が見る限りどう見ても友好そうには見えない姿をしている生き物だったからだ。
俺は今からそいつらをどうにかして引き寄せるつもりだ。それしかこの状況を奪回することは出来ないと判断した。
「分が悪い賭けだが、やるだけやってみるか」
すぅ……はぁ……すぅうううううううう
「ウォォォーーーーーーーオオッッッッ!!!!!!!」
野生の本能を解放し、鬼気迫る裂迫の咆哮を海上で轟かせる。世界に対する不満とストレス全てをぶつけるように敵意と憎悪を向けて俺は黒い生き物を睨み付ける。
平和に浸かった人間なら気付かないだろう。だが相手は野生の生き物だ。ほんの少しの敵意すら感じ取るような相手なら、この咆哮には絶対気付くはず。
やがて海を泳ぐ生き物がこちらに気付いたように進路をこちらに変えた。
最初の関門は突破した。本番はここからだ。
俺は十手を抜き放ち、いつでもガード出来るように構える。
奴がどんな攻撃を仕掛けてくるのか分からない。
こちらへ憎悪を向けて進んでくる相手を俺は全く知らないがゆえに全ての攻撃に対して備える必要がある。
体当たりとかだったら一番都合が良いんだが、どうだろうか。
鮫のように海に引きづりこんでくるような相手だったら最悪だ。海の上に泳いでいる相手だからそんな攻撃がないと思いたい。
俺が泳ぐより速い速度で近付いてくる。
割りと大きい相手のようだ。猪くらいの大きさだと思っていたが、どうやらそれ以上に大きいらしい。
これは……海の主なのだろうか。
ホラーな方の人魚かピラニアが凶暴化して進化したような感じか、サメが怨霊化して皮を剥いだような姿だった。これだけ大きいと主と言っても過言ではないだろう。
これが生き物なら焼いたら食べられるのだろうか。
どうでもいいことが頭に過る。
奴が口を開いた。
その時、突然嫌な予感がした。
殺気に憎悪と敵意、害意が乗ったものを感じた。
奴の口が光り、轟音とともに何か黒いものが凄まじい速度で急接近してきた。
俺は咄嗟に十手を傾けてそれを弾いた。
キィイイイン!!!
体が衝突したときに吹っ飛ばされた。
十手が悲鳴をあげるように高い高い音を鳴り響かせ、衝撃を手から全身へと渡らせた。
海と空がぐるぐると視界を回る。
耳には金属の高い音と風を切る音がして、触覚は衝撃で感覚が鈍った。
吹っ飛ばされるのはこれが初めてではない。
むしろ、これより強い力で吹っ飛ばされたことすらある。
タイミングを見て、腹に力入れて空中で受け身を取り、体勢を整える。
きりもみ回転中に受け身を取るのは容易ではない。
タイミングをミスれば逆さまの体勢だったり、背後を向いていたりすることもあるからだ。
ゲームのようにボタン1つで出来るほど簡単な訳じゃない。
後ろに飛ばされながら敵を見れば追撃しようとこちらへ接近しているところだった。
砲撃か。また厄介な攻撃技を持っているな…。
だが、砲撃であるなら何秒間か再装填に時間が掛かるはずだ。それに連続で撃ち続ければ熱で砲身が駄目になるからクールタイムもあるはず。
それにさっきは咄嗟に弾いて後ろに吹っ飛ばされただけでこっちはダメージを全く受けてない。
そして、俺は一度見た攻撃に対処出来ないほど弱くない。
次も砲撃が来るならこの体勢で撃たれても今度は受け流すことが出来る。だが今はそれをしない。何故なら、ガードしながら後ろにある島へ距離を稼ぎたいからだ!
ただ、やはら問題なのはここが海上だということだろうか。
こんだけ吹っ飛んでいるなら、1回目は跳ねる。
だが2回目からは勢いを殺されて海に沈むだろう。
沈む前に攻撃されてりゃ吹っ飛ぶだけの簡単なお仕事になるのだが‥そうもいかないか。
敵の方を見れば、追うことは出来ても狙いが定まってない感じがする。
なら、1回跳ねておくか。
バシャン!
海上に叩きつけられた勢いでくるくるりと縦回転し、すぐに体勢を立て直す。若干、後ろへ倒れるのが速かったせいかちょっと飛びすぎたな。
スピードが緩くなってる。そして殺気を感じる。さっきよりも近いせいか大きく見える。
極限集中。膨れ上がる嫌な予感に比例して集中力を一気に高める。
弾道を予測しつつ十手で受ける位置を微調整、両腕に力を込めて肉のクッションにし、万全の体勢を作り上げる。
轟砲。
十手の甲高い悲鳴と砲撃音で音が消える。
さらに衝撃で身体に痛みと疲労感が訪れ、一時的に身体が静止した。
五感が秒だけなくなり、止まった感覚が静止した分加速するように一気に溢れた。
轟砲と甲高い金属音、風の切る感覚がしてぐるぐる回る視界。吹っ飛ばされたのかと気付いたら、反射で手を握りしめる。十手を握る感触が分かったため落としてないことが確認でき、僅かに安心。
安堵した気持ちにそんなこと考えてる場合じゃないと空中で受け身を取れば、黒くでかい生き物が猪みたいに突撃しようと物凄い速度で急接近していた。
本能で危機を感じ取り、技を行使する。
十手を手離すと同時に回転させ、身体を地面と平行にして軸回転。
両脚で十手を絡み取り、踵落としの要領で象みたいにでかい生き物の脳天へ十手を落とす。
トリスタ式エアリアル『メテオハンマー』
無理矢理技を使って上に逃げ、衝突を避けた。
『メテオハンマー』というのはトリスタという親友が開発した技だ。本来なら武器を手放すなんて発想は俺にはないが、野郎はかなりトリッキーな動きを得意とするらしく、こう言った変則的な技を使っていた。本来、この技を使うときは敵の注意を散漫にさせてからじゃないと当たらないようだが、あれだけ分かりやすいと当てるのも楽だった。
さて、あの様子だとこっちへ追撃するのに時間が掛かりそうだ。海へと落ち行く身体で周囲を把握し、島を見付ける。
ーーそして何故か足が海の上に着いた。
あれ、おかしいな…。さっきまで足着かなかったじゃないか。なんで今になって浮力が付いてんの?
便利だなで済ませて良い事実じゃねぇーぞおい!
だが、足が着くなら話が早いことは確かだ。
俺は一歩ずつ踏み出して駆ける。大きく旋回してこっちへとやってくる黒い主は俺が駆けてくる様子に動揺した様子はない。苦し紛れの一撃はどうやらそこまで効いてないらしい。
ノンチャージじゃそんなにダメージは稼げないか。
なら今度は全力全開フルパワーで、ぶっぱなしてやる。
正面衝突、真っ向から、打ち砕く。
『メテオハンマー』は元々、身体を何度か回転させる動作が本来は必要だ。
さっき放った時も体は回転させていたが体勢を立て直すときに一度回転を止めてしまったからそこまで威力が出なかった。
だが、回転をしっかり掛けてやれば……。
黒い主の旋回が終わりこちらへと向いてきた。
こっちはダッシュに加速が掛かった。しかし、水面は摩擦が少ないせいか陸上より速くは走れない。それどころか滑ってしまいそうな感覚さえある。
まるで苔むした岩場の中を走っているようだ。
一歩踏み間違えれば顔から海へと突っ込んで行きかねない戦場の中、俺は正確に足を踏み抜いていく。
流石にこれ以上の加速は出来そうにない、ないのだが……この速度では威力が不十分だろう。
このまま行っても撥ね飛ばされる可能性がある。だがもうだいぶ速度も乗って相手もヤル気満々だ。
それに大砲を撃ってくる。その上で正面衝突すれば確実に負けるだろう。
「やるか…」
元より死を覚悟している身。接近戦に持ち込めなければどのみち助からないのだから無茶も無理も問答無用で通すしかない。
それにこの滑る地形で走り始めたんだ。簡単には止まらない。減速しても道がない以上、加速するしかあるまい。
「すぅ…フッ!」
一息で呼吸をして、息を止める。手足に神経が通いだし、熱く熱く熱を放ち始める。キィーンという徐々に加速するような音が頭に鳴り出し、意識が先行する。
人は息をすると僅かに意識が緩む。なら、その緩みを無くせばいい。そのための無呼吸による全力集中。
一瞬先の未来を見通しながら俺が踏むべき場所をピックアップしていき確実に足を乗せて駆ける。身体は熱く、手足は軽く、意識は速く平行に。世界がスローに感じ、目の前の敵の動きすら遅く感じる。
刻々と変化する環境に即座に対応し、確実に処理していく。
目の前の敵の大砲が狙いを付けた。無意識に十手を持つ手に力が入る。殺意が膨れ上がる感覚がする。敵の目が俺を捉えようとしているのが分かった。
目と目が合い、殺意が頂点に達した。俺は振り払うように十手を横に振った。
ガギン!
振るわれた十手が砲弾を弾き、確かな手応えを俺の手を通じて捉える。
ダメージなし、金属音による聴覚の一時的麻痺、収縮した腕の筋肉の疲労感、落ちる速度、ぶれる距離感、揺れる視界、赤熱する神経、暴れだす心臓。
一瞬だけのバッドステータスを感じながら十手が砲弾に当たる瞬間に視界の端に捉えた違和感を思い出した。
敵の前に僅かに見えた泡がなんだったのか。
揺れる視界が止まり、一時的に下がった集中力が回復し、開けた視界にそれが映り込んだ瞬間、俺は足元に落とし穴が開くような絶望感を感じた。
目の端に見えたのは魚雷の影だった。
このクソ忙しい時にやってくれやがる!
背筋に感じた冷たいものを全力で振り払い、歯を食い縛って針に糸を通すような精度で足を踏み抜くと同時に身体を滑らせる。
緊張の一瞬!
頭が白くなりかけ、体勢が僅かに傾く。
経験が恐怖の瞬間が過ぎたことを教え、自然と前を向く。
目の前には敵がいる。その距離はあと5、いや3歩でたどり着く。
怯んだ足の重みを敵へのヘイトで忘れさせ、気付かぬうちに恐怖で鈍化した頭をトップギアに切り替え直した。
俺は二歩踏み抜き、さらに加速する意識を感じた。
捉えた視界に敵が動揺する気配を感じ、俺は1秒後の未来を幻視した。
勝ちが見えた。
幻視した未来を辿るように俺は身体を加速させて動かす。間合いを詰めるように低く跳躍し、十手を手放して身体に回転を掛けた。回転を掛けたことで視界がぐるぐると暴れる。それなのに脳裏には3回転したあとの結果だけが見えているため全く距離感を失わなかった。
足を広げ、金属の冷たい感触を絡めとる感覚を感じながら振り向く。
「オラァアアアアアアア!!!!!」
渾身の『メテオハンマー』がバリッという地面を割り割くような轟音とともに敵の頭を撃ち抜き、真っ二つに割く。
俺は殺ったという確かな手応えを感じると共に着地を考えていなかった身体が海面を跳ねるように吹っ飛ばされた感覚へと収束されるのを感じた。
戦闘、案外書けたわ。
だけどこいつ以外で書いたことはあんまりないんだよねぇ。