海上の冒険者   作:ナレコ

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少女の目覚め、鋼の心

 あれから、色々歩いて見付かったもの。

 ペットボトルやプラスチックの残骸。元は木の船のものだったと考えられる木の舵。貝、ロープ、ボートの残骸、海中ゴーグル、ボロボロのパーカー、ワカメ、タコ、洞窟、汚い池など。

 

 なんつーか現実感ぱねぇな。夢も希望もなんもねぇ。

 ボートの残骸見たとき、希望の残骸かって思うくらい気分が落ち込んだわ。

 

 それでも、希望はある。残骸だとしても。

 ボートの残骸を見ながら決意を固める俺だった。

 

 

 

「う…うん……」

「お、そろそろか?」

 

 なんだかんだで結構時間が経った。身体も治ってるしいつ起きてもおかしくないとは思っていた。しかし、思った以上に起きないからこりゃ案外ヤバイダメージと疲労を負ってたんだなと思った。

 今、どのくらいの時間経ったのか分からない。ただ朝発見してから、日が昇り少し経っているから体感6~8時間くらいは経っているのだと思う。

 

 いつもは走ったり跳ねたり、面倒な敵から隠れたり、撒いたり、今日の晩飯サーチ&デストロイしてる俺ではあるが、人を背負ってるときくらいはゆっくり行動するよう心掛けている。

 いくら傷が治ったからとは言え元々、酷い怪我負ってたからな。またすぐ傷付けたりしたらあいつらにどやされるしな。

 

 敵がいない限りはこうしてゆっくりするのも悪くはない。実のところ俺自身も最近、酷い状態だったから急に動くのもどうなんだろうって状態だったしな。

 だから、今日は修行もしてない。

 つまり、少女がいようがいまいがゆっくりしてた。おれはそこまで女に優しい訳でもないのだ。

 

「ここは……」

「ココアはない。カカオもない」

「え、あ、だ、誰?」

「悪くいうなら世界単位で迷子の人。どこなのかはむしろ俺が聞きたい」

「なんで悪く言ったぴょん……」

 

 おっ、口調が崩れたな。初対面でこれなら上々。もうちっと話して、もうちょい砕けてもらおう。

 

「そりゃ俺は悪い人だからだな」

「自分で言うのかぴょん…」

「俺、自覚してる人。だから、問題ない」

「問題しかねーぴょん」

「そう見えるならあんたは良い人だよ」

 

 見た目13歳そこらの少女を降ろした。

 

「俺は、流瀬 鋼。冒険者をしてる」

「むつ、卯月だぴょん。冒険者ってどういう人ぴょん?」

 

 今、何か言い掛けて、慌てて変えたな。特には気にしないでおこう。

 それにしても冒険者を知らないか…。この世界には冒険者なるものはいないのか、それとも彼女が知らないだけなのか。俺は卯月に冒険者とは何かを教えた。

 

「つまり何でも屋ってことだぴょん?」

「極論そうだな。どっちかというと日雇い屋ってのが近いイメージだが、基本的にはそれで合ってるよ」

「ふーん…」

 

 卯月は穏やかな海を見る。冒険者には興味がないようだ。不思議なものだな。このくらいの年の子供なら憧れたりするものだと思ってた。もしかしたら俺の説明が下手なだけなのかもしれないが。

 

「ところでうーちゃん、お腹減ったぴょん。流瀬さん、何かないぴょん?」

「鋼でいい。干し肉ならあるがどうだ?」

 

 実は昨日、もう少し狩りに行って猪を一匹殺していたのだ。この干し肉はそのときのもの。

 ただ、干し肉はあんまり好まれない食べ物だ。何故ならあんまり美味しくないからだ。

 現に卯月はアホ毛をへにょらせて、抗議するような目をしていた。

 

「他にはないぴょん?」

「それしかないな」

「うーん、分かったぴょん。鋼、ちょうだい」

 

 渋々という表情だが、片手で干し肉を受け取る卯月。

 やはりというかあんまり美味しくなさそうな顔をしている。味はジャーキーから塩気を抜いたような味だ。俺は調味料とか持ってないからな。

 感触は堅い。人によっては骨にかじりついているような気分を味わうくらいには堅い。その上、塩気がないから独特の苦味を感じるだろう。ちなみに俺が食べた中でもまっずい干し肉があり、それを俺はこう呼んでいる。

 

 『タイヤ肉』、と。

 

 だからこそ干し肉ってのはあんまり好まれない。

 調味料があれば別だがな。塩とかハーブとかな。

 

 卯月はそんな干し肉を顔をしかめながら悪戦苦闘していた。ただこっちを向かず、海の方を向いて食べるのは何故なのだろうか。

 別にどうでもいいが。

 

 しかし、良かった。案外ヤバイ怪我負ってたからトラウマとかあるかと思ったが、問題無さそうだ。

 

 それにしても、変わった格好だな。制服の上になんだかよく分からない機械を背負っているその見た目。

 一見、おかしい装いに見えるが何故か卯月がこうして歩いていると、魔物が出るダンジョンで虫取り網を持ち、水鉄砲を背負い、冒険しようなどというあれで戦える親友を見てるような奇妙な感覚がする。

 

 なんというか常識ではマッチしないはずなのにしぐさや行動を見てると不思議とがっちりとマッチしているように見える錯覚と言えば良いのだろうか。

 変なのに変じゃない。素直に言えばそんな感想だ。

 

 そんな風に考察していると食べ終わったのかこっちを向いてきた。

 

「干し肉、ありがとぴょん…」

 

 卯月はなかなか良い奴らしい。勝手に奪って食べて不味い不味い言いながら文句を言うどっかの馬鹿とは違うようだ。

 俺は「気にするな」と言って礼を受け取った。

 

 それにしても、だ。こうして結構歩いてるが、案外大きいなこの島。

 人工物こそまだ見当たらないが、本来なら有人島と言っても不思議じゃないくらいには広いはずだ。

 なのに、それがない。

 

 まだ未発見の島なのだろうか。それとも何らかの理由で人が寄り付かないだけ? それにしては脅威と感じるものは今のところないのだが…。

 

 しばらく歩いていると、卯月がなにかを見つけてしゃがみこんだ気配がした。

 何かと思って振り向くと、卯月は貝を拾っていた。

 見た目からしてあれは二枚貝だろうか。あさりのような貝会わせになっているような種類の貝で、色は白、大きさは子供の手のひらくらいの中に真珠でも入ってそうな貝だ。それを卯月が手に持っていた。

 

「そんなの拾ってどうすんだ?」

 

 卯月は俺の質問を無視し、目を瞑ってその貝を耳に当てた。

 俺は卯月が何をしているのか全く分からなかった。

 その貝が生きてるのかどうかはそんなことをしなくても水につけて砂を吐くかどうか見れば分かるし、食べたきゃ洗って焼けばいい。俺には理解が出来ない行動だった。

 

 理解が出来ないと言えば、トリスタもそうだった。あいつは突拍子もなく、変な行動やおかしな言動をし、元日本人の転生者ゆえのネタに走ることもしばしばあった。

 卯月がそうだとは限らないが、女という生き物が良く分からない生態を持っているのは確かなことだ。男でもたまに訳分からないのが1名いるが、大方はそうだった。

 

 そんなことを考えていると突然何かに気付いたような笑みを浮かべて卯月が言った。

 

「海の音が聞こえるぴょん!」

「そうだろうな」

 

 だってここ浜辺だから。海の音が聞こえて当然だと思う。卯月はそんな俺に続けて言った。

 

「うーちゃんは知ってるぴょん。貝に耳を当てると海の音が聞こえるって」

「そうなのか」

「そうだぴょん」

 

 どこかで聞いたなそんな話。だが、それは浜辺じゃなくて車の中とか家の中でする話じゃなかっただろうか。それともマジでそんな音が聞こえるのだろうか。

 考えてみればここは異世界、世界が違えば常識も違うだろう。つまり、これは俺の認識が世界と間違っているのだろう。

 卯月はここまでで嘘は吐いていない。判断がつきにくいが、ここは卯月の常識を素直に受け取るべきだろう。とは言え、このことは後で自分で試すことにしよう。

 

「うーちゃんはこう見えても物知りなんだぴょん」

 

 ふむ、本人はどうやら物知りらしい。胸を張って堂々としている様から見ても嘘を吐いているとは思えない。

 この世界で分からないことがあれば彼女に聞くべきであろう。

 

「そうか…なら、俺が知らないことがあれば頼ってもいいだろうか」

「うーちゃんにお任せっ!ぴょん!」

 

 本当に自信満々なんだな。頼りがいがあっていい。ただし相手は子供だということを忘れるな。あまり、頼りすぎるとうざがられる可能性がある。出来るだけ自分にとって必要な知識だと思ったことを尋ねるようにしよう。

 そう思考したところで、浜辺が途切れた。

 

「岩山か…」

「登るぴょん?」

 

 浜辺が終わり、崖が見えた。近くには岩山。ところどころに木が茂り、一部分にはミカンのようなオレンジ色の果実を持った木々が見えた。

 これで、当面は猪を狩る必要もなくなったな。

 それに干し肉を作る必要すらなくなった。

 

「オレンジがあるぴょん!」

 

 あれはオレンジという果実なのか。

 卯月がはしゃいでいる様子からあれは美味しいもののようだ。そりゃ干し肉より果物の方が子供は好きだよな。

 ただ、あのオレンジは野生の果物だ。

 つまり、人が手掛けているものではない。それゆえにあのオレンジは店売りのものよりも酸っぱいか後味が苦いと思われる。それにミカン科の木には薔薇みたいなトゲがあるんだよな。柿にはないのにミカンにはある。

 

 トゲがあるで思い出したんだが、昔、贄の木なんていう赤橙色をした果物を付ける邪樹がいたんだよな。

 トレント系のモンスターで、よく斧持って伐採しに行ったっけ。かなり堅いし、仲間もいたから倒すのが大変だったなぁ…。

 

 そんな昔のことを思い出しながら、卯月を追い掛けると卯月は既にオレンジを食べて渋い顔をしていた。

 かなり酸っぱかったらしい。つまり、仮説は正しかったようだ。

 

「酸っぱいぴょん~」

「だろうな」

 

 だが、調味料としてはありかもしれない。魚を捕って火で炙り、オレンジ汁を加えれば少しはましになるだろう。

 それに、オレンジは焼けば甘くなる。

 大体のものは焼けば食えるようになる。だから俺は見た目がどんなものでも大抵焼いて食った。焼けばましな味になるものが多かったからだ。

 

 だから俺はオレンジをいくつか捕って、浜辺で拾った袋に入れた。言っておくがごみ袋ではない。パーカーを適当に切り取って大きな布にしただけだ。既にぼろぼろではあったがオレンジが6個入るくらいには使える部分があった。

 

「卯月、行くぞ」

「分かったぴょん…」

 

 美味しくもない干し肉に味直しにもならない果実でどうやらだいぶ気がまいってるらしい。

 俺は基本食えれば満足したが、相手は子供で、文明人だ。やはりそれなりに拘りはあるのだろう。

 

 若干面倒だなとは思う。だが、俺が異世界にいたときにトリスタ達とパーティー組んでた時はもっと面倒だった。

 卯月のように素直に言うことを聞いてくれる訳じゃなく、各々が好き勝手してあっち行ったりこっち行ったりした挙げ句、魔物を引き連れてきたり、罠に引っ掛かったり、谷に落ちそうになったりと散々なことがあったからだ。

 

 あれを思えばこの状況はましだ。

 だが、相手は子供で少女だ。素直だからと言って油断は出来ないだろう。

 

 島を一周する頃には新たに鉄の塊、ドラム缶が見付かった。その頃には日も暮れていたので、適当に木々を集め、焚き火を焚くことにした。

 晩御飯に焼きオレンジを作ったところ、よほど美味しかったのか卯月が作った五つ全部平らげてしまった。

 すっげぇ笑顔ではしゃいでいたので、よっぽど嬉しかったんだろうなぁとは思う。その隣で俺は森に行ったついでに見つけた蛇を丸焼きにして食べていた。

 それを見ていた卯月が若干引いていた気がするが、異世界じゃ当然だった感覚だったので、何故なのかは分からなかった。




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