バカとテストと僕たちの楽園   作:ウォーズ -IKUSA-

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こんにちはこんばんは、エクシリオンです。
今回は渚の過去回です。こんな話でもよろしければ、是非読んでください。

第15話です、どうぞ!


第15話 失ったものと得たもの

明久side

 

 

“カキーンッ!!”

 

“♪テレレッテレー♪”

 

『おめでとうございます! ホームラン賞です!!』

 

省太「しゃっ! やったぜ!」

 

サヨ「すごーい、省太くん!」

 

明久「やるね、省太♪」

 

バッティングセンターに響く快音。

今週もあっという間に過ぎて再び訪れた土曜日。僕たちは市内のスポーツランドへ遊びに来ている。

この前遊んだメンバーに渚、美波、優子さん、佐々木さんが加わっていて、中々の人数だ。

 

真夏「省太は昔からこういうの得意やからなぁ〜」

 

美波「へぇ〜、そうなのね」

 

リオ「その代わり勉強は全然ダメだったわよ?」

 

省太「それは言わないでくれリオ……」

 

明久「まあまあ、いいじゃない。今は違うんだからさ。……今度は僕の番だ」

 

“グッ”

 

省太を宥めつつ、僕もバットを構える。ピッチングマシーンからボールが放たれたとき……、

 

明久「ここだッ!!」

 

“カキーンッ!!”

 

打った打球が伸びていく。が、あと一歩のところでホームランゾーンに届かなかった。

 

優子「あーっ! 惜しい、明久くん!」

 

省太「ドンマイ、明久」

 

明久「次は狙ってみせるさ」

 

その後もしばらくの間、バッティングで快音を響かせていた。

次のアトラクションへ向かっている最中、どこからか歓声が聞こえて来る。

 

リオ「この声って、渚くんと奈子がいる方向から聞こえてこない?」

 

真夏「せやなぁ……」

 

明久「とりあえず行ってみようか?」

 

『『『『賛成ッ!!』』』』

 

声のする方向へ向かってみる。9枚のパネルをピッチングで撃ち抜くアトラクションに人集りが出来ていて、その中心に渚と横で見守る佐々木さんがいた。

ギャラリーの発言を聞く限りだと、ここまでノーミスでパネルを抜いており最後に真ん中の“5”を抜くと完全クリア、という状況らしい。

 

『『『『あと1枚、あと1枚、あと1枚!!!』』』』

 

また、このアトラクションはクリアした人自体は結構いるらしいが、ノーミスクリアは1人もいないとあってか、野次馬の盛り上がり方も相当なようだ。

 

渚「あの、集中したいので静かにしてもらえませんか?」

 

「「「「あ、すいませんでした……」」」」

 

渚「ありがとうございます(ペコッ) スゥ……」

 

野次馬が静かになり、渚が集中力を高めていく。

その姿に、僕たちも含めた全員が固唾を飲んで見守る。そして……。

 

 

 

“グッ”

 

“ドシュッ!”

 

トルネード投法から放たれた球は軌道を真っ直ぐに保ったまま、5の的を撃ち抜いた。

 

渚「ゲーム……、クリア……」

 

 

『『『『ウオォォォォッ!!!』』』』

 

ギャラリーの歓声がアトラクション内に響き渡る。同時に渚に惜しみない拍手が送られた……。

 

 

 

 

 

 

その後も一通り遊び、帰り道でのことだった。

 

渚「あー、遊んだ遊んだ☆」

 

サヨ「嬉しそうだね、渚くん♪」

 

渚「当然ッ☆」

 

明久「アレって普通にクリアするのも難しいのに、ノーミスクリアは初めて見たよ」

 

優子「そんなに難しいことなの?」

 

省太「ああ、持ち玉が12球でよ。1枚当たり9球使うと仮定した場合、ミスが3球までしか出来ない。だから1球ごとのコントロールと集中力が必要って訳だ」

 

リオ「なるほどねぇ……」

 

省太がそう説明すると、みんな渚を見て感心する。

 

奈子「それにしても、投げるときのフォームが様になっていたね。渚くんは野球をやったことがあるの?」

 

渚「あるよ。もう昔の話だけどね」

 

美波「そんなに上手いのなら、なんで辞めたのよ?」

 

渚「え……」

 

明・省「「ッ!!」」

 

渚「あ……。ああ、そのことなんだけど……。ゴメン! 急用思い出した、来週学校でね。ばいばい!!」

 

そう言って渚は走って帰って行った。

 

 

 

美波「……ねぇアキ、ウチなんか悪いことした?」

 

明久「悪気はなかったんだよね? それなら大丈夫だよ美波」

 

美波「うん……」

 

省太「明久。渚のヤツ……」

 

明久「(コクッ) まだ立ち直ってないみたいだね……」

 

真夏「なぁ。渚くん、どないしたん?」

 

渚の行動が気になった真夏ちゃんが尋ねる。

 

明久「前にも同じようなことがあってね。そのときは、中学のときにやっていたスポーツの話をしてたんだよ」

 

省太「で、今みたいに辞めた理由を聞こうとしたら、今みたいな反応になってよ。その日から俺と明久からこの話をしないことを決めたんだ」

 

明久「何とかしてあげたいけど、無理矢理聞き出すのも違うから、渚が自分から話してくれるのを待つことにしているんだよ」

 

優子「明久くん……」

 

明久「来週また渚と話してみようか。とりあえず今日はもう帰ろうよ。僕と省太でみんなを送って行くからさ」

 

渚が気がかりだったけど、今できることはないので今日のところは解散することにした。

 

 

明久side out

 

 

 

 

 

 

 

渚side

 

 

〜週明けの月曜日〜

 

 

渚「うわぁぁぁぁッ!!!」

 

『また』あの夢だ。文月学園に入学して、友達も出来て漸く忘れることができたと思ったら、未だにあの光景が浮かび上がる。

やっぱりまだ引きずっているんだなって思う。

 

 

 

渚「……よし」

 

ぼくは決心した。かつての過去と決別することを。そして、明久と省太にも言えなかった悪夢を打ち明けることを。

朝の支度を終えて朝食を食べ、玄関を飛び出す。

 

渚「行ってきまーす!」

 

しばらく歩いて、明久と省太と合流する。

 

明・省「「おはよう渚」」

 

渚「おはよッ」

 

省太「先週は大丈夫だったか?」

 

渚「心配かけさせたけど、大丈夫だよ」

 

明久「そう。でも無理はしないでね?」

 

渚「ありがとう明久、省太」

 

雑談してる内に学校に着く。今度は美波が声を掛けてくる。

 

美波「おはよっ渚。ウチ、何も知らずにあんなこと言って、ホントにゴメンね……」

 

渚「気にしないで美波。ぼくは大丈夫だから(ニコッ)」

 

こう告げると、美波は安堵の表情を見せた。それからはいつものように過ごした。

 

 

 

 

 

そしてあっという間に放課後になった。ぼくはみんなを呼び寄せた。その中には、遥祐とこのみちゃんもいる。

 

渚「みんな。今日はありがとね、集まってくれて」

 

何故呼び寄せたのか、みんなピンと来ないようだ。でも、明久と省太と遥祐は察してくれたらしい。

 

省太「渚。もういいのか?」

 

渚「うん、そろそろ話してもいいかなって思ってね……」

 

明久「言いづらいなら言ってね? 僕たちもいるからさ」

 

遥祐「(コクッ)」

 

渚「ありがとう」

 

サヨ「渚くん。話ってこの間のこと?」

 

渚「そうだよ、ぼくが何故野球を辞めたのか……。教えるね……」

 

そしてぼくは語り出した。ずっと記憶の底に閉じ込めていた過去を解き放つように。

 

 

 

 

 

 

中学生に進学した頃。ぼくは地元の中学の野球部に所属していた。小学校時代から少年野球でエースとして投げていたぼくは、1年生ながらベンチ入りを果たし、当時の3年生が引退した後はレギュラーとしてチームの主力入りを果たした。元々実力を評価してもらったのもそうだけど、そこへ至るまでの努力も惜しまなかった。監督からは期待され、同級生からは目標にされたりと充実した日々だったが、1学年上の先輩たちはそれが面白くなかったようで、よく嫌がらせを受けるようになった。

 

 

 

 

最初は話しかけても無視をする、陰口を言われたりしていて、あるときひとりの先輩から、

 

先輩1「お前調子乗りすぎでムカつくんだよ。嫌がらせやめて欲しかったらレギュラー降りろ」

 

と言われたが、その言いようが気に入らなくて、

 

渚「そんなことしてる暇があったら、練習したらどうですか? そんなんだから、たかが1年生にレギュラー取られるんですよ」

 

と返して以降、嫌がらせはより激しいものになり、プレー中もミスを装った妨害も目立つようになる。そして中学2年の夏の大会を控えていた頃、事件が起きる。

 

 

 

 

ある日の練習終了後。部室へ向かおうとすると、周りを数人に囲まれて気絶させられた。次に目が覚めたのは、倉庫と思わしき場所だった。

 

???「目が覚めたか」

 

暗くて姿がよく見えないが、声でぼくに嫌がらせをしていた先輩だとわかった。

 

渚「なんのマネですか、先輩」

 

先輩1「わかってんだろ、俺たちは次が最後の大会なんだ。渚、レギュラー降りろ。そうすりゃこの場で帰してやる」

 

渚「何度言えばわかるんですか、俺はレギュラー降りませんよ。どうしても試合に出たいなら監督に言えばいいじゃないですか?」

 

こう返すと癇に障ってしまったらしく、

 

先輩1「お前さえいなければ……!! おい、お前ら!!」

 

“ガッ!!”

 

3人がかりで腕を押さえられた。

 

先輩F「おい……、マジでやる気か……?」

 

先輩B「いくらなんでもそれはマズイって……!!」

 

先輩1「ここまで来てビビってんじゃねーよ。それにここは教師ですら殆ど出入りしないんだ。俺たちが何かしようが、外に漏れることはねぇ」

 

渚「くっ! 離せ……ッ!!」

 

どうにか逃げようと抵抗するが、押さえつけられて身動きできない。

 

先輩1「恨むなら自分を恨むんだな(ニヤリ)」

 

渚「なッ!! やめ……!!」

 

右腕に向かって無慈悲な一撃が振り下ろされる。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

“バギッ!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚『うぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

先輩1「ハハハッ! いい眺めだぜぇ、渚ぁ!!」

 

『『『…………』』』

 

⁇?「何をしている、お前たち!!」

 

先輩1「ヤバイ、逃げろッ!!」

 

先輩たちが逃げ出す中、苦しむぼくの前に現れたのは監督だった。

 

渚「うッ……、ああ……ッ」

 

監督「渚ッ、しっかりしろ! もう大丈夫だ!!」

 

監督の助けでぼくは病院で緊急搬送された。後から聞いた話だけど、ぼくが拉致されて連れて行かれるのをチームメイトが目撃していて、見つからないようにこっそりと後をつけたことで、この場所がわかったそうだ。

 

 

 

程なくしてチームメイトたちの証言と、先輩たちへの事実確認で一連の不祥事が発覚することになり、嫌がらせをしていた先輩は全員退部、夏の大会出場停止、1年間対外試合禁止という処分が下された。

 

監督も、不祥事が起きた責任を取る為に辞任することになった。

ぼくも腕の手術は成功したが、腕へのダメージが深刻な状態だったことで医師から投手復帰は無理だと告げられて、野球部を自主退部した。

 

チームメイトからは引き止められたけど、意思表示をすると理解してもらえて慰めや励ましの言葉をもらえた。それが唯一の救いだったと思う。

 

 

 

 

渚「……以上がぼくの昔話だよ。今でもたまに夢に出る」

 

『『『『…………』』』』

 

渚「ゴメンねみんな、暗い気持ちにさせて……。でも誰かに聞いて欲しかったんだ。こんな話でも聞いてくれてありがとう、少しは気が楽になったよ」

 

みんな何とも言えない表情をしていたけど、こう告げると安心したようだった。

その後解散して、残ったのはぼくと明久、省太、遥祐だけだ。

 

渚「ねぇ明久、省太、遥祐」

 

明・省・遥「「「渚?」」」

 

渚「ぼくさ、明久たちと友達になって今が本当に楽しいよ。野球を辞めたことはたまに後悔することもあるけど、あの事件が無ければみんなに会うことも無かったから、これはこれでよかったんだって思ってる」

 

省太「渚……」

 

渚「だから、これから先もよろしくね!」

 

明久「うん。僕たちの方こそよろしく♪」

 

渚「色々話したらなんかスッキリしたよ。これから遊びに行こー☆」

 

遥祐「立ち直り早いね。でもその切り替えの早さ、オレは好きだな」

 

明久「そうだね。じゃあ行こうか」

 

野球選手という夢は諦めたが、その代わりに得たものもかけがえのないものだ。今後ともこれを大事にしていきたい。今日のことはぼくにとって忘れることのない一日になるだろう。

 

 

to be continued……




どうでしたか?

今回語られた渚の過去。あの明るい立ち振る舞いは、かつてのトラウマを隠す為のものでもありました。
明久たちと出会えたことは、彼にとっての救いだったことでしょう。……私に技量がないので上手く描写できてないですが……(汗)

では、また次回お会いしましょう!

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