バカな後輩が俺に催眠アプリなんてものを使い始めたが、やはりバカはバカらしい   作:歌うたい

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やらかしに気付いた火曜日

 

 

「あのさぁ……ちょっと早苗、最近なんか調子に乗ってない? ちょームカつくんですけどぉー」

 

 

「うわ先輩、何ですかその絵に描いたみたいなイジメキャラ、少女マンガでも読んだんですか? そういう事言う時はあと二、三人くらい手下っぽいのを引き連れてですね……」

 

 

「正直自分でも鳥肌たつくらい今のキモかった自覚あっから。クオリティについてツッコミ入れるより、この台詞にこめたニュアンスとか重視して欲しい訳ですよ」

 

 

「くお……にゅら? ちょっとよく分かんないです。ままま、それじゃ気を取り直して、とりあえず次の百円インしちゃいましょー! 大丈夫です、さっきのホント惜しかったから! 次こそ絶対取れますよ先輩!」

 

 

「……いやさ、分かるよ? ゲーセン行ってUFOキャッチャーに可愛いぬいぐるみあって……まぁ俺が取ったげるパターンだろうよ。けどさ、普通違うじゃん、むしろ逆のパターンじゃんこれ」

 

 

「え、逆って何ですか?」

 

 

「だからさ、普通こう1500円くらい使ったら欲しがってる女の子が『もういいよ、無理しないで』的な発言するじゃん?」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「そこをさ、男として譲れないからってムキになってもうワンクレジット、ってのが様式美な流れよ。で、そのワンクレでなんか都合よく取れちゃうまである。いわゆる勝ちフラグ的な」

 

 

「ほえー」

 

 

「つまりさ、テンプレってあると思うんだ俺は。けどお前この状況全く逆じゃん。欲しがってんのもお前だしGOサイン出すのもお前で、取るの俺、金出すのも俺はいいとしても、お前が一番ムキになるってのはなんか違うくない?」

 

 

「え、だって早苗の為に頑張ってくれる先輩、なんか可愛くて」

 

 

「そこはぬいぐるみの可愛さ語れや、それっぽい事言えば照れると思ってんじゃないよ」

 

 

「勿論あのくまさんも可愛いに決まってるじゃないですか、何言ってるんです先輩」

 

 

さて、ここで私めの冒頭の台詞を振り返っていただきたい。

 

そう、つまりそういう事です。

 

 

「なにこいつ最近ホント生意気」

 

 

「ふふふん、いいんですかそんな事言ってぇ。使っちゃいますよ、催眠アプリ」

 

 

正直あの時の判断は失敗だったかも知れない。

 

 

「というかさ、ちょっとした疑問なんだけど」

 

 

「あいあい」

 

 

「お前さ、催眠アプリを催眠アプリってなんで認識してる訳?」

 

 

「……はい?」

 

 

何言ってんだコイツ、みたいなしらーっとした目で見られるのも、まぁ仕方ないと思う。

バカと一緒にいるとちょっとずつこっちも頭悪くなるっていうのは、こいつとの付き合いの中で学んだ経験則というやつである。

 

だから今のは説明が悪かった。

そこは素直に甘んじたい。

けど、やっぱコイツにバカとして見られるのは癪なのだ、ホントじんましん出るレベルで。

 

 

 

「……普通、催眠アプリって聞いたらね、なんかこう、聞かせた相手を眠らせるヒーリング効果のある音楽のアプリとかそっち思い浮かべるんじゃないかと」

 

 

「あー、確かに。さいみんじゅつってそういう感じしますよね。ほら、あの某国民的ゲームの技にもありますし」

 

 

「そういう事は忘れないのな。まぁいいや、んでさ……俺はふと気付いたわけよ」

 

 

「おぉ、なんかもったいぶりますね先輩」

 

 

「……気付いたってのはあれだ。お前が催眠アプリを見せ付けて来た時さ、すんげぇ際どいこと言ってたよな。『性奴隷』だの『操り人形』だのって。どっからその発想が出てきたんですかねぇ……?」

 

 

「………………あっ」

 

 

ようやく俺の言いたいこと、すなわちあの時早苗がうっかりこぼしてしまった発言ミスも思い出していただけたようで。

 

 

「操り人形はもうすっげぇ黒に近いグレーとして見逃すとしてもさぁ……性奴隷ってお前、催眠アプリ=性奴隷ってお前さぁ……」

 

 

「あ、やっそれは違うんです違うんですいや別にそういう趣味とかがある訳じゃないんですってばホントホント!」

 

 

「……男女平等がわんさか言われてるこのご時世にあんまり口うるさく言いたかないけど、流石に華の女子高生がそういうアングラなネタを漁るのはちょっと……」

 

 

「ちょ、ちょっと先輩待って! あぁっ、先輩がジリジリと遠くに! 誤解ですってば!」

 

 

「いやまぁ個人の趣味をどうこう言える筋合いなんてないとは思うよ俺も。でも、無意識だとしてもオープンしちゃダメだって、そういうのはせめて密やかに隠しとかないと。仮にも異性相手に口走るのは……」

 

 

「だ、だから……その……別に、そういう本とか集めてる訳じゃなくて、ですね……」

 

 

「……うむ」

 

 

「うぅ……じ、実は……その、兄ちゃんの部屋にあるゲーム機借りようと思った時に、ベッドの下にあるのがチラッと見えまして……」

 

 

「Oh……」

 

 

「まぁエッチな内容でしたけど、それで、その時の内容がつまり……催眠アプリ、というやつでして……」

 

 

「……あぁ、それで知ってたって訳ね。納得」

 

 

ぽむ、とわざとらしく掌に拳を置いてやれば、みるみる内に沈んでた顔がパァッと華やいでいく。

多分、これで先輩は分かってくれた、とでも思ってるんだろう。

まぁ、それはそれとしてまた新しい問題が見え隠れしてる訳だけど。

 

 

ちょっと、うかつ過ぎたなぁ。

 

 

「ところで、その催眠アプリって何ページ目くらいにあった」

 

 

「何ページ目……と、言われても、そんなページ数とか覚えてませんよ。多分、半分過ぎたくらいじゃないかなぁ……」

 

 

「ほぉう……なるほど、半分以上。なるほどねーこのムッチリムッツリが」

 

 

「へ? ちょ、何ですか先輩、いきなりひどい言い草して。若干セクハラっぽいですよ」

 

 

「まぁセクハラだろうけどさ。気付けよ早苗、今お前、兄貴の部屋にあるエロ本を少なくとも半分以上読みましたって白状したようなもんだぞ」

 

 

「えっ…………あっ、あぁっ」

 

 

「お前詐欺とか引っかかんなよ絶対。や、言ってもダメか。うーんどうしたもんかねこのアンポンタン」

 

 

「どどどどどどうしよどうしよ!! こ、このままじゃ先輩の中での早苗のイメージがとんだ淫乱にっ! ビッチにっ! 放課後の保健室にぃぃぃい!!」

 

 

「……そこでそう絶叫する辺りがまさにお前だよな」

 

 

ここがうるさいゲーセンで良かった。

近くの店員がギョッて顔してこっちみてるけど。

 

そして恐らく一番被害を負ったのは、秘蔵のエロ本の内容をそれとなく暴かれた早苗の兄ちゃんなんだろう。

 

そんな哀れな早苗兄氏を慮って、この事はそっと墓場まで持っていこうと思う。

 

このバカな後輩が、また調子に乗ったらすぐ掘り返したるけど。

 

 

 

「早苗」

 

 

「…………なんですかもう、少しそっとしといてくださいよぉ」

 

 

さて、とんだ失言でひたすらテンションをがた落ちさせるムッチリムッツリを横目に、とりあえず調子に乗った分はこれでチャラにするとして。

 

流石にやり過ぎたかなと反省の意をこめて、埋め合わせをしようと思う。

 

ポジティブな分、凹ませると面倒くさいし。

 

 

 

「次でいい加減、取れたらいいなコレ」

 

 

「……もういいですよ、無理に取らなくて。こんな、こんなバカでアイタタタな個人診療女なんて……」

 

 

「……同級生相手とかと思ったら、保健医ものかよお前の兄ちゃんマジ思春期」

 

 

けど、これで一応『勝ちフラグ』は整ったわけだから。

 

神様が空気を呼んでくれることを祈って、銀の硬貨を投入して、いざ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「なぁ、それ抱きながら帰るの恥ずかしくない?」

 

 

「……いいじゃないですか、別に」

 

 

「その年でクマのぬいぐるみ抱きしめる姿は正直考えものだと思う。せめて家帰ってからにしない? 一緒に歩いてる俺もなんか恥ずかしくなってきた」

 

 

「……家帰ってからもギュッてするんでいいです」

 

 

「あぁそう」

 

 

夕焼け空が徐々に紺碧へと移り変わる時間帯は、商店街のアーケードの人通りが多くなる。

 

だからそんな時間に口元隠すようにぬいぐるみ抱いてる女子高生は流石に目立つし、その隣の俺も流し見られるという訳で。

 

困った後輩はやっぱりぬいぐるみ一つで元通りとはいかないらしく、多分この分の埋め合わせはまた別に訪れるんだろう。

 

 

ただまぁ、そんなに知られたくなかったんなら。

 

 

「先輩」

 

 

「なに」

 

 

「キャサリンくん、大事にしますね」

 

 

「うん……うん? え、それ名前? しかもキャサリンなのに君付け?」

 

 

 

催眠アプリ使って忘れさせれば良いのにと。

 

 

そう思ったような思わなかったような、いつもより騒がしい火曜日のコト。

 

 

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