バカな後輩が俺に催眠アプリなんてものを使い始めたが、やはりバカはバカらしい   作:歌うたい

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ちゅーっと吸った水曜日

 

 

ひょっとしたら愛すべきバカこと早苗は策士かもしれない。

 

そんな考えは夏のシーズンにテレビとかで特集されるコテコテの心霊映像ばりに、信憑性のないものだってのは俺が一番よく分かってる。

 

 

けれども、『分かっているけどこの道を進まざるを得ない』って状況に追い込まれている現状を鑑みれば、嫌でもそう思いたくもなる。

 

 

メジャーなヤツだと、じゃあ俺がやるよ、からのどうぞどうぞのパターン。

あの同調圧力はなかなかキッツいものがある。

 

 

まぁ今回のケースは同調圧力というより、周りの空気を逆にぶち壊しかねないからこそ、なんだけど。

 

 

「いやー先輩、テレビで見ると結構離れてるように見えますけど、こう目の前に来ると……肩くっ付いちゃうくらい近付かないとダメみたいですねーこれ」

 

 

「……なんでそんな楽しそうなの。これどうみても罰ゲームじゃん。周りめっちゃこっちガン見してんじゃん……俺明日からここら辺歩けないんだけど」

 

 

「え、先輩……もしかしてぇ……恥ずかしがってますぅ?」

 

 

「うっざ……なにその煽り方、うざさ半端ない……つか逆にさ、お前恥ずかしくないの? 肩どころか頬までべったりくっ付かないと飲めない仕様なんだけど!?」

 

 

「あ、それはですね……ほら、メニューのここ。これ見て下さい」

 

 

「……?」

 

 

「早苗がテレビで見たやつはこっちの『バカップルジュース~青春の息吹を添えて~』ってやつだったんですよ。で、なんとですね! ここの店員さんに教えて貰ったんですけどぉ……さらに『破壊力』がパワーアップされた新メニュー『バカップルジュースでーえっくす!~寄り添う頬の熱を共に~』が今日から始まるらしいじゃあ~りませんか!!」

 

 

「なんでいっちいち高級フレンチみたいな副題付けてんだよ腹立つわ!! しかも『破壊力』ってただストローが短くなっただけじゃん! んで新メニューの方が180円(税別)高いってなんだ、手間賃のつもりかやかましいわ! あとでーえっくすじゃなくて『DX─デラックス』!!」

 

 

 

多分180円って『いっぱつ』の語呂合わせなんだろうけど、つまり一発かましたれーみたいなニュアンスなのが尚の事、腹立だしい。

 

けれど一番腹立つのは、やっぱり隣でキラッキラな笑顔振り撒きながらテーブルの上のバカップルジュースをパシャパシャ写メってるこいつである。

 

もうね、頭のネジどころか羞恥心までママの腹ん中に置いてきたんじゃないかと思うくらいだ。

 

カウンター席でこっそりこっちにスマホ向けてる女の子にピースで返す辺り、一周回って流石です。

ていうかそこは盗撮だって注意してくれホント。

 

 

「ねぇ……これマジで飲まなきゃダメ? これ飲んだら俺もうしばらく引きこもるまであるよ」

 

 

「えっ、先輩……これ飲むの、嫌なんですか?」

 

 

「なにその意外そうな顔。これ運ばれてきた時の俺のリアクション見てなかったの? 多分人生で初めてくらいの勢いでテーブルに頭ぶつけたけど? まだ俺のおでこヒリヒリしてるくらいだけど?」

 

 

「へぇー……あ、早苗に撫でて欲しいとかですか?」

 

 

「はり倒すよホント。どう考えても嫌がってただろって言ってんだよ!」

 

 

「……ふっふっふ。先輩先輩」

 

 

「なに」

 

 

「イヤよイヤよも好きのうちってヤツですよね! んもー分かってますってばぁ」

 

 

「青春ってつまりあれだよな、殴りあいの喧嘩も入ってるよな。よっしゃ河原行こうぜ早苗。先輩特製の青春の味~グーパンを頬に添えて~を味あわせてやっから」

 

 

このバッドコミュニケーションに人生初の男女平等パンチ食らわせたら、奇跡的に脳細胞活性化してくんねぇかなぁ。

 

けど、あぁうん、こいつの悪いところは話聞かない所とか忘れっぽい所とかじゃなくて。

 

 

「……ほんとに嫌なんですか?」

 

 

「だってこれ、クッソ恥ずかしいだろどう考えても!」

 

 

「……もぉ、分かりましたよ。しょうがないなぁ……じゃ、先輩。いきますよ?」

 

 

「は? え、なに?」

 

 

「ふっふっふ……先輩がイヤって言うなら仕方ないですねぇ……さぁっ、久々の出番ですよーさいみ──」

 

 

「さっ、飲もうか早苗。ほらほらスマホなんか向けてないでちゃっと飲もうちゃちゃっと。もうツッコミ疲れて喉からっからなんだよね俺」

 

 

「おっ……ぬふふぅ~……ほらぁ、先輩ホントは飲みたかったんじゃないですかぁ。イヤよイヤよも好きのうち、ってやつですね、あはは」

 

 

「はは……は、は……」

 

 

 

こういうとこだよ。

 

この喫茶店で他のお客さん達が思いっきりガン見して来るこの状況でさ、催眠アプリ、とか躊躇なく言っちゃうところでしたね。

 

多分そのままの勢いで愛の奴隷とか変なことも口走る可能性もおおいにありましたね。

 

 

さぁ大分脇道に逸れましたが、もうお分かりだろう。

 

『分かっているけどこの道を進まざるを得ない』状況がまさしくこれ。

即ち周りに対してのえっぐい爆弾発言を未然に防ぐ為には、もう……これを飲むしかないのだ。

 

間違いなく人生の黒歴史のTOP3に生涯食い込みかねないこのイベントをやんなきゃいけないのである。

 

 

「…………」

 

 

「……よい、しょと。あー……うん、確かに先輩の言うとおり、頬っぺたまでくっつきますねこれ」

 

 

「そうですね……」

 

 

「…………あうアウあうアウ」

 

 

「顎カクカクさせんなよお前マジで殴るよ!?」

 

 

「や、なんか面白そうだなって思って。それに何だか先輩に敬語使われるのちょっと気持ち悪くって」

 

 

「いや知らんから。むしろこの場面で茶々に走るお前の神経とかもう胃がムカムカすっから」

 

 

「やっぱ先輩は先輩で居てほしいってゆーかぁ……こう同じ立場に居るよりちょっと前歩いてて欲しいんですよね。分かりますか、この距離感?」

 

 

「……ねぇ、お願いだからせめて同じ時間軸歩いてくんない……?」

 

 

先を歩いて欲しいという要望はあれだ、少女漫画とかの見開き辺りでヒロイン辺りにそれとなく言われればグッと来ただろうけど、コイツに言われるとホント青筋が走る。

 

分かりやすく俺達の立ち位置を置き換えれば、暴走犬と飼い主だ。

 

毎日毎日全力疾走で42.195キロメートル走ってるようなバカ犬の先に居てくれ?

 

ははは、死ねと。

高速を越えろと。

極限をぶち破れと。

 

絶対やだわそんなん。

それならもう無駄だとわかってても躾るしかないじゃん。

 

 

「……もう良いからさっさと飲んでさっさと帰るよ。いい加減さ、周りの視線がうっとーしいってかウザイ。さっきから店長っぽい人がいったれいったれってサインずっと送ってくるし……」

 

 

「ほいほい、それじゃでーえっくす、制覇しますか!」

 

 

「……もういいよでーえっくすで」

 

 

「はむ」

 

 

「あむ」

 

 

まぁ頬もべったりだし肩もべったりだし、まぁ当たり前のようにいい匂いするのがすっげぇムカつく。

というかうんちょっと待って。

 

 

「ちゅー」

 

 

「ぢゅー」

 

 

こいつ……なんかチラチラこっち見てるし。

多分飲んでる俺が照れてるかどうかを確認したいとかそんなアホな事だろうけど。

 

ただ、問題はね、早苗がこっち見ようとする度にストローの位置が変わってさ……あの、唇の端と端がぶつかりそうなんですけど。

 

 

「ちゅーちゅー」

 

 

「ぢゅー……?」

 

 

おいちょっと待て、今明らか様に距離調節したよな?

俺が少し逸らさなかったらホント当たってたよな?

 

つかさらっと俺の腕取ってるし、胸に当たっ……挟、んでるし。

 

マジか、こいつマジか。

 

 

「……ちゅー」

 

 

「……ぢゅー」

 

 

取りに……来ている、だとォ!?

俺の右半分ファーストを、事故を装って……ッ!?

 

アホか事故で済むかこんなん。

気付きませんでしたで済ます訳ねぇだろこのムッチリムッツリめが。

 

ていうか、もう、そこまで攻めてくんなら普通に告白とかさぁ………………何の為に俺が……

 

 

「ぢゅーーッ!」

 

 

「ちゅーッ!?」

 

 

もー怒った、腹立った。

小賢しい小技使うなとか口が避けても言える立場じゃないけど、そっちがそう来るなら、こっちも本気出す。

 

男の肺活量なめんなよ!

 

多分早苗の方が肺活量全然あるけど。

 

 

「──っぷはぁ!!」

 

 

「──ぷぁっ」

 

 

「ぜぇっ……はぁっ……ひぃっ……」

 

 

「せ、先輩……大丈夫ですか? なんか虫の息って感じですけど」

 

 

「いいっ、はぁっ……からっ……げふっ、んん、は、離れろ……」

 

 

「いやいや、そんな事より水頼みましょうか? 息整えた方が」

 

 

「スゥー……フシュー……んん、ん……あのな、早苗」

 

 

「あいあい」

 

 

「胸。当たるどころか挟んでんだけど」

 

 

「えっ」

 

 

あぁやっぱり無意識だったのな。

 

ゆっくり自分の胸元を眺めて、んでまた大きな目が顔をひきつらせてる俺を映し出して。

 

 

「おっぱいくらいならいいですけど」

 

 

「……俺が困るんです」

 

 

「もー敬語はやめてくださいって」

 

 

「頼む……会話のキャッチボールして……ホント俺いま一杯一杯なんで……」

 

 

「はぁ、わかりましたけど」

 

 

「ていうかお前……さっき何しようとした」

 

 

「はえ?」

 

 

「だから……ジュース飲んでるとき、チラチラと……」

 

 

「あぁ、そうですそうです思い出しました! んもー先輩が凄い勢いでジュース飲むからうっかり忘れちゃってたじゃないですか」

 

 

「気付きませんじゃすま……え、忘れたって、は、何が?」

 

 

「ちょっとじっとしてて下さいねー……あ、取れましたよ」

 

 

「……何これ、あ、ゴミ屑……──────!!!」

 

 

「さっきから気に──うひゃぁぁあッ!? ちょ、先輩? なんでまた机に頭を……?」

 

 

あぁ、そう。

ゴミ、取ろうかどうか考えてた訳ね。

そりゃあんだけ近ければゴミに気付くわな。

 

やっべぇ、これはやべぇよマジで。

 

恥ずかし過ぎて……死にたい。

 

 

「……ははーん。なーんだ、やっぱり早苗に撫で撫でして欲しいんじゃないですか。しょうがないですねーうぇへへへ」

 

 

こいつ、前は甘やかすより甘えたいとか言ってた癖に……結局どっちでもいいんかい。

 

そんで後頭部なでて意味あんのか。

そのうぇへへっていう笑い声はデフォなのか。

 

けど……うん、もういいや。

今日はもう、帰って寝よう。

 

 

だらりと寝そべってた身体を起こし、帰るぞと一言だけ告げて。

 

 

レジの前で、すっごくニヤニヤしながら口笛鳴らした髭面の店長にメンチを切って、店を出る。

 

 

悶々とした結果、無駄にから回っただけ。

 

 

 

 

確実に黒歴史入りの水曜日。

 

 

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