バカな後輩が俺に催眠アプリなんてものを使い始めたが、やはりバカはバカらしい   作:歌うたい

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素敵な木曜日【下】

「ぜっっっったい嫌だっつってんだろ!!」

 

 

「まーまー、そんな遠慮せずに。ささ、お茶淹れましたよ爺さんや」

 

 

「なにアットホーム感作ってやがるか! というか淹れたの俺、お前運んだだけ! みかんとか持ってくんなコタツを押し入れから出そうとすんな!」

 

 

「寒い季節が近付くと、この組み合わせに神が宿る……貴方もそう思えませんか、迷える子羊よ」

 

 

「おいシスターサナエル、確かに今の俺は怯える子羊みたいなもんだけど、迷ってないから。なんだったら家までの帰り道、目を瞑りながらでも割と余裕で帰れるから!」

 

 

「ソーメン」

 

 

「それさっき食ったイカの事じゃん。いや、ていうかホント無理、俺ホンット無理だから!! マジで!」

 

 

「ふっふっふ、先輩。イヤよイヤよも……?」

 

 

「そのくだりは前やったろーが。つか嫌なもんは嫌だよアンポンタン」

 

 

「えーもう、せっかく暇潰し用に昨日借りて来たのにぃ」

 

 

「なんで昨日見なかったんだテメェこら」

 

 

「一人で見てもつまらないですしおすし。やっぱ怖がってくれる人がいないとー」

 

 

「……ほう。つまりお前は俺がこれ見る時の反応をポップコーンがわりにサクサクいきたいと? 頭ん中常時ポップコーン女が……いい度胸してんじゃん、えぇ?」

 

 

「先輩先輩」

 

 

「なんだよ、気でも変わったか?」

 

 

「サクサクじゃなくてモキュモキュじゃないですかね。いーですかーポップコーンとは食べるとーきに音が出ないよーにと作られまーしてー」

 

 

「ここぞとばかりに隅に追い詰めて拾うなや!んな事どうでもいいだろってか色々伸ばすなエセ中国人っぽいんだよ! お前のそのツッコミしながらボケを置いてくスタイルめんどくせぇんだよ!!」

 

 

「そんなつもりないアルヨ」

 

 

「あぁくそ、また基本に忠実なツッコミ所を……いや待て、さらっとDVDプレイヤーセットすんな電源入れんな!」

 

 

波乱吹き荒れる木曜日、ついに山場が来てしまった。

というより今までも大概だけど、俺からしたら多分今この時が一番ピンチです。

 

このアマ、なんでよりにもよってレンタルしたのがなんで……っ!

 

 

「先輩先輩、怖いんですかぁ?」

 

 

「怖いって言ってんだろさっきから!! ホラーはホント無理なんだよ俺! 夢に出んだよ鏡とか一週間は見れなくなんだよ常に背後が気になっちゃうんだよ!! 俺強がった覚えないんだけど?! なにそのさっきから『ビビってんのか?』『なんだと?』みたいな鉄板の流れ作ろうとする姿勢は!!」

 

 

「先輩、怖い怖いも……?」

 

 

「好きな訳あるかァァァァ!!!!」

 

 

父さん母さんあと妹、ほんと助けて。

ちょー助けて、なんか同じ血が流れてる縁でキュピピィンとか俺のピンチ察して助けて。

 

……無理ですよね分かってます。

 

 

「……実家に帰らせていただきます」

 

 

「やーいビビりビビりぃー!」

 

 

「小学生か」

 

まぁビビりなのは事実だけどさ。

 

 

「えーもぉ、良いじゃないですかちょっとくらいー……なんだったら早苗の手とか握ってて良いですから」

 

 

「そゆことじゃねぇよ!! むしろ常々何しでかすか分からない、そんな不安しか感じないヤツの手で何を安心しろと!」

 

 

「んー……じゃあどこだったら安心するんですか?」

 

 

「早苗という人間そのものからして不安要素の固まりだつってんの。パーツの良し悪しじゃねぇんだよ、根本だよ根本。つかその根本の製造元からしてこの度めでたく不安になったよホント」

 

 

無垢なおバカ使って色々仕込みやがって早苗ママめ、まだ迎えてない初対面がほんとに怖いんだよちくしょう。

 

 

「では膝枕しながら耳掃除でどーですか。鉄板ですよ鉄板」

 

 

「いやお前に俺のやわらかいとこ預ける勇気ないです。ついうっかりで鼓膜とか破られそうじゃん」

 

 

「耳かきのあの綿って絶対くすぐりようですよねあれ。耳弱い人の性感帯を存分にかきむしってやりなさいっていう作った人のメッセージですよね」

 

 

「尚のことお前に耳掃除任せれんわドアホ」

 

 

「シスターサナエルにおまかせ☆」

 

 

「お前に任せるくらいなら悪魔崇拝した方がマシだから」

 

 

キラッじゃねぇんだよエセシスター。

迷える子羊の懺悔聞いて更に迷わせるアドバイスしか言わなさそうなヤツが何言ってんだ。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「……そんなに早苗と映画見るの嫌ですか」

 

 

「……ホラーが嫌って言ってんだけど」

 

 

「……そんなに早苗とホラー映画見るの嫌ですか」

 

 

「はい」

 

 

「即答!?」

 

 

「むしろどこに迷う要素があるのか」

 

 

あーでも……コイツまた催眠アプリ言い出しそうだけどな。

ってあれ、普通に凹み出した。

 

 

「……シュ~ン」

 

 

「……」

 

 

「……ショボーン」

 

 

「…………」

 

 

うわめんどくさっ、凹みはしてるけど構ってくれたら機嫌取り戻しますよアピールめんどくさっ。

 

いやでもなぁ、俺がホラーくっそ嫌いなのはマジだしなぁ。

見てる途中で下手したら失神するだろうし、しなかったらしなかったでここから一週間が地獄だし。

 

……いや、待てよ。

 

 

見なければいいんじゃないのか、これ。

 

 

 

「……早苗」

 

 

「……なんですかLチキ先輩」

 

 

「すねてんなよ……あと俺ファミチキ派だから。で、早苗。ちょっと聞くけど」

 

 

「(なにが聞きたいのですか迷える子羊よ)」

 

 

「(今そういうのいいですシスターサナエル)」

 

 

「んで……その、だな。アイマスクと耳栓、ある?」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「…………こんなもんですかね。先輩、聞こえます?」

 

 

「……今なんか言った?」

 

 

「先輩のそういう姿見るとちょっとドキドキします」

 

 

「…………おい早苗、何かあったら手に文字書いて。これほとんど何も聞こえない」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「……先輩、鼻毛出てます」

 

 

「…………」

 

 

「……先輩。良い所を見習わせる為にひとの爪の垢を煎じて飲ませる必要性を論理的に説明してください」

 

 

「…………」

 

 

「あ、ほんとに聞こえてないっぽい」

 

 

「なんだろう、俺の見聞きしないとこでちょっとした奇跡が起きた気がする。バカが頭良い事言うみたいな」

 

 

「!?」

 

 

「……」

 

 

「……まいっか。よし、再生しよーっと。先輩、上映スタートです」

 

 

「……さいせいかいし。うん。分かったけど、せめて手か背中に文字書いて。何故にふくらはぎ」

 

 

苦肉の策だった。

というかアイマスクと耳栓があることに割とびっくりしたけども、これならまぁ、映画終わるまで音もほとんど聞こえないし目の前は真っ暗。

 

難題をやり過ごせるぞとホッと一息つきたいとこだけども、しかしやはり早苗の存在は問題になるだろう……と思ったのだが。

 

 

「……あ、予告。ふーん、泣ける映画、ふむふむ……ほーん……」

 

 

「……」

 

 

「……キスシーン激しいな……おう、女優さん脱いでる脱いでるげへへへ」

 

 

「……」

 

 

思いの外、映画に熱中しているらしい。

リビングの座布団の上にボーっと座ってるだけってのは正直、暇だけども楽っちゃ楽。

 

下手したらその内に俺寝るなこれ。

けどまぁ、今日はいつもの倍以上早苗のおバカに付き合わされた訳だし、こうして楽出来る時間はありがたい。

 

 

……なにこの介護に疲れた片親感。

 

 

「みかん食べよ……あ、先輩先輩」

 

 

「ん?……みかんたべますか……あぁ、せっかくだから貰う」

 

 

「はいはーい。んもー手間のかかる子ねー先輩はぁん。早苗が居ないとなにも出来ないんだからぁ……うぇへへへへへ」

 

 

「……なんだろう、凄くイラッとしたぞ今」

 

 

「ギクッ……なななんでもないですってば」

 

 

「……? ななな、なにもなにもないない……いやこれ絶対何かいらんこと言っただろ。動揺し過ぎだぞいくらなんでも」

 

 

「よーし落ち着け落ち着くのよ早苗。ひっひっふーひっひっふー……」

 

 

「…………」

 

 

「……ツッコミないと、しゃみしぃ……」

 

 

……何故だ。

楽出来ると思ってたのに、なんか落ち着かない。

早苗どうした、なんかあったか。

 

 

「……むきむき、と。はい先輩、あーん」

 

 

「うぷ、ん、なっ、何だ今の、何かあたったぞおい!」

 

 

「あ、落ちちゃった。はい三秒ルール、はいセーフ。もぐもぐ……んーちゅっぱい」

 

 

「さ、早苗? おいちょっと早苗! 今のなに、なんかブヨって……」

 

 

「……よし今度こそ。えーと……」

 

 

「うぉ、いきなり書くな……くちあけて、みかん……あぁ、そういう事か。いや普通に手に置けば良いだろ」

 

 

「そんなのつまんないですもーん」

 

 

「…………なんかまたイラッと来たな。え、なに……くちあけて…………チッ……むぁ」

 

 

「はいあーん」

 

 

「……んぐ……いや旨いけどこれ、なんか凄い屈辱的な感じして嫌なんだけど」

 

 

「んふ……これ楽しい。はい、もう一口」

 

 

「んぷ。え、また? スパン早ぇよお前、まだ食ったばっかだぞ」

 

 

「……あ、やば、映画見てなかった…………あれ、いつの間にか誰か死んでる………………まいっか」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「……ふぁ」

 

 

「……あ、先輩欠伸してる。ふっふっふ……寝かせるもんですか。はいあーん」

 

 

「んぁ!? んぐ、んむ……おいこら早苗。欠伸してる時に放り込むな、咳き込むだろうが…………ん、なに、ごめんちゃい……なめてんのかお前」

 

 

「なめていいんですか」

 

 

「…………」

 

 

「……ペロ」

 

 

「うひぃ!? え、おいなんだ今の! なんか今ヌメっとしたぞこら! …………え、みかんはずしちゃいました? だから放り投げんなよ……しかも中身の汁、ちょっと零れてんじゃないのかよこれ」

 

 

「…………やば、顔熱」

 

 

「早苗? おい早苗さん!? せめてティッシュで拭いてくれって。このままじゃベトベトして汚くなんだろが!」

 

 

「…………ムカッ」

 

 

「あーもう……っておい、なになに、なんか膝重……おいこら、お前勝手に人の膝を枕にすんな。そんでティッシュはやく」

 

 

「……もぐもぐはぐはぐ」

 

 

「おいねぇ、聞いてんの? スルーすんなって。おーい…………なんか怒ってないお前」

 

 

「そんなことないですもん」

 

 

「……うわ、え、今度は二の腕かよ…………そんなことないです…………ホントか?」

 

 

「……」

 

 

「……!」

 

 

なんとなく、手を早苗の頭の上に置いたら、ビクッてなった。

普段ベタベタ犬みたいにまとわりつくヤツとは思えない反応だったけども。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

なんでか知らんが怒ってるっぽい感じだったのが徐々に薄れていくのが、これまたなんでか知らんが分かってしまって。

 

あーもう、好きにしろやと深く考えるのも面倒臭くなった。

 

 

あとコイツ、時々頭もぞもぞ動かして来るのは何だ。

 

なんか、俺の手につむじ押し付けてるみたいな、脛に身体をくっつける猫みたいな。

 

 

「……」

 

 

「……んん、んー……ふぅ。いいなぁ、これ」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

時々、撫でる手を止めてぼーっとすれば、俺の膝小僧をカリカリと引っ掻く。

猫っぽい犬、犬っぽい猫、それともただの、甘えたがりか。

 

 

その度に、手を動かせば、ご満悦そうに膝小僧をポンと叩いた。

なにこの偉そうなヤツ。

 

 

けど、その度に……二の腕をきゅっと掴まれて、少し聞き慣れた五文字を記すおバカの指先。

 

 

『ステキです』

 

 

「……ふん」

 

 

「…………んー……あんまり怖くないなぁ。失敗だったかも」

 

 

早苗が感極まったり、だらしない笑顔を浮かべる時によく言うことだ。

 

最近はよく分からないときに言われることもあるし、素敵ってなんだよとも思うけど。

 

まぁいいか、と流させる、ある意味魔法みたいな言葉で。

それを言われると、何となく許してしまうのがダメな所なんだろうか。

 

 

 

「……」

 

 

「……んん」

 

 

「……(はいはい)」

 

 

「んふー」

 

 

はいまた五文字、というかコイツ、ちゃんと映画見てるのかねぇ。

 

膝の上で多分緩んだ顔をしているおバカを軽く小突きながら、何とも言えない疲れを染み込ませたタメ息が、じんわりと口から落っこちた。

 

 

 

 

 

そしてまぁ、結局映画の途中で寝落ちしたらしい早苗を部屋に担いで、ベッドに寝かせて、俺も早苗の兄ちゃんのベッドを借りる。

 

今日の疲れもあいまってぐったりと沈んでいく意識の中で思った事は、あんまりタバコの匂いが気にならないなってこと。

 

まぁそれは、俺の頬から匂ってくる柑橘系の香りのせいだろうけど。

 

 

 

顔、洗えば良かったな。

 

 

 

悪いとは思いつつ、そのまま寝息を立て、カチコチと秒針がなる部屋の扉を。

 

 

ゆっくりと開くバカが居たことを、俺は結局知らず仕舞いだった。

 

 

 

 

 

些細な素敵を見逃した、勿体のない木曜日。

 

 

 

 

 

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