バカな後輩が俺に催眠アプリなんてものを使い始めたが、やはりバカはバカらしい   作:歌うたい

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スキをつかれた金曜日

「うぁ、風つよ。あっいたいたホントに居ましたよ。先輩先輩、こんな寒いのに屋上なんかでなにしてるんです?」

 

 

「……たそがれてる」

 

 

「うぷぷ、たそがれてるって……なになになんですかぁ先輩、そんな少年マンガのクールキャラみたいなマネは似合いませんってばぁ」

 

 

「…………」

 

 

「……話、聞こうか。へっ、そんな顔すんじゃねぇよ先輩。早苗と先輩の仲じゃねぇか……」

 

 

「…………」

 

 

「……せんぱぁい、せめてリアクションとってくださいってばぁ……スルーされるとほんとさみしぃぃ……」

 

 

「……俺とお前の仲、ね」

 

 

「!! そそそそうですそうです、そうですとも! 先輩からならシスターサナエルどんな相談だって真剣にお答えしますとも! さぁさ、先輩。心を開いて、カミングアウっ、かもーん!」

 

 

「……いや別に秘密発表する訳じゃないけど……まぁ、うん。いいか、早苗……俺が昼休憩にわざわざ一人屋上でたそがれてるわけはだな」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「スゥ──」

 

 

「…………?」

 

 

「おまえのせいに決まってんだろぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 

「…………えっ?」

 

 

うん、絶対気付いてないよなこのアホは。

昨日のことはもうすっかりお忘れですかそうですか。

今朝のことまでお忘れですかそうですよね。

 

 

俺が朝、学校行きたくねぇなぁと愚痴をこぼしてた理由を聞いてきたから、懇切丁寧に教えてやったのに、川にアザラシ現れたってだけでもう忘れやがってこんにゃろうが。

 

 

 

「おまえなぁ……おまえなぁっ、今朝さんざん説明してやっただろうがよ。ちょっと珍しいマスコットがニュースに流れただけでもう忘れちったのかよこの鳥頭!」

 

 

「布団のなかで学校行きたくなーいってごろごろする先輩と見事なシンクロでしたねぇ、あの子」

 

 

「その行きたがらない理由だけピンポイントで忘れてんじゃねぇよ……お前が昨日、俺の教室まで来てっ……泊まりに来てって泣きつくからぁっ……」

 

 

「……???」

 

 

「それがなにか問題でも? みたいな顔すんな小首傾げんな! お前の発言で教室の時間が止まったの気付いてなかったのか!? 和気藹々とした昼休憩がいろいろと大惨事と化したんだぞおい」

 

 

「えーなにーお二人さんそーゆー仲なのきゃぁー……だいたーん、なんだかんだやることやってんだねあのふたりー……え、お前ら堂々とそんなこと言って大丈夫なん? なぁお前さ、俺の弁当のおかずプラスチック爆弾なんだけど卵焼きと交換しない?」

 

 

「そーだよ確か武田さん始めとした女子連中がめっちゃ盛り上がってたよ、彼女にフラれたばっかの江ノ島に至っては俺を爆殺しようとしてたよ。なんで音声だけばっちり覚えてんのお前……ここんとこ人間離れ著しいよ……」

 

 

「早苗は日々進化しております故」

 

 

「大事な要素の成長が一切見られないのはなんでですかねぇ……まぁつまりだよ、今朝教室入るなり、昨夜はお楽しみでしたねが一時的に挨拶と化してたわ。分かる か? すれ違う度にヒューッてネイティブに口笛吹かれる感じ……あの店長が量産したかと思ったわ」

 

 

「この際、左腕サイコガンに改造しちゃいます? タバコ兄ちゃんから借りてきましょうか?」

 

 

「コブラじゃねぇから。というかさ、お前の方は何もなかったの。絶対少なからずお前の教室でも話題なってるっぽいんだけど。お前のクラスの何人か真偽を確かめにこっちの教室来たんだけど。そこんとこどうよ」

 

 

「あーはい。ABCどこまで行ったのって聞かれました」

 

 

「がっつり注目の的になってんじゃんか……ちゃんと誤魔化してくれたんだろうな」

 

 

あぁ、やっぱり俺だけじゃなくこいつも大変な目に。

いや早苗の場合は自業自得だけど、というか原因元凶こいつのうかつさだけど。

 

 

 

「このたびD+になりましたって言ったら『うひょおぉぉぉぉおおお』ってクラスの皆がウェーブ起こしてました」

 

 

「でぃっ、Dぃぃ!? はぁ!? ちょ、ちょっとまてそもそもDってなんだプラスってもっとなんなんだ!? お前それ行くとこ行くどころかある種ゴールインしてるようなもんじゃないか! そしてお前のクラスの謎のテンションなんなの」

 

 

「え、でも正直に言ってって言われましたし」

 

 

「いやいやいやいや昨日ないし今までにそんな事実一切なかっただろがい! 思いっきり虚言じゃん、誤解しか生まれないぞそれ!」

 

 

「…………なんですかなんですか、早苗嘘なんかついてませんよ。本当にDよりちょい上ですし。なんならはかりますか」

 

 

そういって膨れっ面のまま、ずいっと身体を寄せる早苗。

え、なになにどういうことなの。

 

まさか学校の屋上で事に及ぼうと!?

そんな大胆だったかこいつ!?

 

……ん、はかります?

 

 

「……早苗もまぁ、恥ずかしい気持ちはありますが……嘘つきって思われるくらいならいっそ……!」

 

 

「ちょい待ち」

 

 

「ほえ?」

 

 

「……早苗、Dって何のこと?」

 

 

「……? これのサイズですけど」

 

 

…………寄せてあげんな。

 

 

「…………お前、お前さぁ……ABCってバストサイズじゃないって……どうすんだよ、完全に取り返しつかない食い違いがおきてるよそれ。なに思春期のアバンチュールな心を波立たせてんだよ……」

 

 

「貴方の心にビッグウェーブを起こすJK早苗を宜しくお願いします」

 

 

「常識を砕くやつが選挙に乗り出すな」

 

 

予想以上の大惨事に発展してることが発覚してしまい、もっとたそがれていたくなった。

 

というかほんともう帰りたい。

家引きこもりたい。

誰かたすけて。

 

最近世界の◯窓より見てると涙ホロリと出てくんだけど。

ほんと切羽詰まってきてるよ俺。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「さて先輩、話は代わりますが、先輩にいくつか質問が寄せられてきてますので、お答えして貰っていいですか」

 

 

「えっなに急に……質問ってどっから来てんだよ。そのおハガキなに。前触れもなくラジオのワンコーナー始めんなや」

 

 

しかもなに、けっこう数あんだけど。

それ全部答えんのかよ、昼休憩終わるじゃん。

 

 

「はい、それでは最初のお便り。えーと……漫才研究部所属の山田花子さんからです。『さーちゃん、例の先輩、こんにちは』……はいこんにちはー」

 

 

「『例の』先輩……? っていうかちょい待て待て。その山田花子ってお前のクラスメイトじゃないの」

 

 

「そですよ、はなちゃんには良く思い付いたっていう漫才のネタみせて貰ってます」

 

 

「最近の早苗のうざさに拍車がかかってる原因に、今ようやくたどり着いた気がする……」

 

 

「『例の先輩に質問です。さーちゃんとのネタの打ち合わせとか普段どこでやってるんですか? あと最近ツッコミの間について研究してるんですけど、例の先輩はなんでやねんのベストなタイミングはボケからコンマ何秒後くらいが良いでしょうか』」

 

 

「……いつの間にかお前と漫才組んでる事になってるのは非常に心外だけど予想以上に真面目な内容じゃん!! え、これ俺が答えなくちゃいけないのか? 謎のプレッシャー感じるんだけど」

 

 

「……カチッとな。ふむふむ、0.7秒ですね。早いなー」

 

 

「今時間はかんな! ストップウォッチどっから出した! しかもなんでやねんなんて一言も言ってねぇし……記録メモすんなこら」

 

 

「はいそれでは次いきまーす。プラモデル研究会所属の立山雪菜、通称ゆっきーなちゃんからです。えー……『接着剤をつけたパーツに思うこととかけまして、はたからみた例の先輩と早苗の関係と解きます。その心は?』」

 

 

「な、謎かけ……? なんかもう趣旨が分かんないんだが……えー……接着剤……と、はたから見た俺と、早苗…………っ」

 

 

「お、整いましたか」

 

 

「……次いこうか、早苗」

 

 

「え? 整いませんでした?」

 

 

「はい次々、あとそのゆっきーなとやらに一言いっといて」

 

 

「あ、はい。なんて?」

 

 

「……『そっとしといてくれ』って」

 

 

「……はぁ、わっかりました……うーん、でもこれどういう意味だろ……」

 

 

そのゆっきーなとやらめ、余計なお世話だ。

こっちだって一杯一杯なんだよ。

 

 

「ではでは。えーっと、今度は帰宅部を代表して中西達也くんからですね。『こんにちは、いつもお二人が仲良さそうで何よりです。益々のご発展をお祈り申し上げております』……中西くんありがとー」

 

 

「……どうも」

 

 

「『さて、話は変わりますが、例の先輩はパソコンのアプリや携帯のシステム事情に詳しいと相方さんからお伺いしてます。そこでお尋ねしますが、友達から急に身に覚えのないサイトから振り込みを命ずる内容のメールが届いたと相談されました』」

 

 

「……ん? あれ、ん?」

 

 

「『その場合、どう対処するのが一番堅実でしょうか。友達は非常に困っているようで、家族にも相談出来ないです。何か良い方法をご存知でしたら教えて下さいお願いしますホント』……うーん、なんだか大変みたいですね……って、先輩どしたんですか両手で顔を覆って」

 

 

「……うわぁ」

 

 

うわぁ……これ絶対、友達ってかうわぁどうしよ。

多分その、いかがわしいサイトでいらんことしたんだろうなぁ……中西君なにやってんの。

 

 

「先輩?」

 

 

「……無視してれば大丈夫だからって言っといて」

 

 

「えー、それ本当に大丈夫なんです?」

 

 

「大丈夫だから。余計なことせず無視してれば勝手に来なくなるからって……」

 

 

「ほほー……流石はパソコン名人。これでばっちり解決ですね!」

 

 

「……いや名人ってほどじゃないから。ちょっと色々出来るだけだから。別にそっち方面に詳しいとかじゃないからホント、ここ重要よホント」

 

 

というかさっきからまともな内容ないな。

むしろ最初の質問が一番まともな気がするし。

今のとかもう早苗関係ないじゃん。

 

これずっとこんな感じで行くの?

 

と、ふとここで早苗に異変。

 

なんというか、急にもじもじと、そんでそわそわし始めた。

え、なにどうしたのこいつ。

なんか……顔赤くなってない?

 

というかハガキの束をゴソゴソ仕舞っちゃったし

 

 

「で、では……最後の質問になります!! で、ですがその前に、先輩! 早苗の目をジーっと見てください!」

 

 

「は? え、まだハガキめっちゃ残ってたけど……」

 

 

「いいですから、はいジーっと……」

 

 

「???」

 

 

なんか良く分からんが、とりあえずそうしないと話が進まなそうなので言われた通り見つめてみる。

 

……睫毛長いし、ホント目大きいよなこいつ。

 

と、そんな折、急に目一杯のピンクが飛び出してきて。

 

えっなにこれ……とつい呆気に取られて、気付くのが遅れた。

 

ファーブルスコ、ファーブルスコ……

 

この音、この画面……

 

月曜日ぶりの、催眠アプリ……

 

 

 

「…………」

 

 

「……よしっ、これでオッケー。すーっ……ふーっ……」

 

 

…………な、なんだこの展開。

 

急に催眠アプリを起動して、一体俺に何するつもりだよこいつ。

めっちゃ顔赤いし、すんごい深呼吸してるし。

 

 

……ま、まさか。

こいつ、この意味の分からないタイミングで例のあんなことやこんなことを!?

 

いやいやまさか、いやそんなまさか。

ぐるぐるぐると、思考が絡まる。

完全に隙をつかれたせいで、考えが全然まとまらない。

 

 

そして、そんな俺を『アプリが発動してる』と誤解したままの早苗は、ぎゅっとスマートフォンを握りしめながら、真っ赤な顔で俺に問い掛ける。

 

 

「……先輩。先輩に聞きたい事があります。しょーじきに、答えて、ください……」

 

 

「……?」

 

 

え、最後の質問って……早苗ご本人からかよ。

 

いやでも、なんで催眠アプリを起動したんだ。

いっつも気になることがあれば空気も読まずに聞いてくるようなおバカの癖に。

 

 

 

 

 

「……もし、もし先輩が催眠アプリを使えるとしたら……」

 

 

……えっ

 

 

「もし、先輩が、早苗の持ってる催眠アプリを使えるとしたら…………先輩は、早苗をどうかしたいって思いますか?」

 

 

「…………ちょ、いやいや……いきなりなに言ってんのお前」

 

 

「……た、例えば……早苗にして欲しいこと、とか。なんかあったりするのかなって……『頭が良くなって欲しい』とか」

 

 

「────」

 

 

「……『俺に迷惑かけるな』とか、『俺に頼り過ぎるな』とか。『もうちょっと、おしとやかにして欲しい』とか…………ないですか。そんな事、考えた事ないですか?」

 

 

「…………」

 

 

…………なんだよそれ。

あんな事とかこんな事とかどうしたよ。

 

なに真面目な顔してんだよ。

 

お調子者のくせに、ポジティブの塊のくせに。

 

 

そんな催眠アプリの使い方、『想定してなかった』けど。

 

 

 

 

 

「……そうだな、もうちょい迷惑とか考えろとか思う時もあるよ」

 

 

「!!」

 

 

こんな一言二言くらいで涙目なんなし。

あーもう、こいつはホント、めんどくさいやつ。

 

 

 

「……何かと頼るし、一緒にいるだけで問題起こすし、家事もろくに出来ないし。正直お前将来心配なるわ」

 

 

「…………えう。そ、そですか……」

 

 

最後まで話聞かないし。

聞いても忘れるし。

 

急に訳の分からない事言い出すし。

 

 

「でもぶっちゃけおしとやかな早苗とか………………ないわー」

 

 

「…………はぇ?」

 

 

うん、想像してみた。

結果、ないわ。

おしとやかに微笑む早苗?

授業中に真面目な早苗?

 

……キモいまであるわそんなん。

 

 

「ない、もう想像するだけで誰こいつってなる。逆に明日、槍でも降ってくんじゃないのって心配なる。そんなのホラー映画より『よっぽど怖い』」

 

 

「…………そんなにですか」

 

 

「……これまだ過小表現だから」

 

 

「そんなにですか!?」

 

 

「ったりまえです。自分のアホ加減自覚しなさい」

 

 

 

 

だからまぁ、催眠アプリをもし使えるとしたら?

 

そんなのもう『とっくの昔に』結論は出てる。

 

 

 

 

「……結論。『使わない』」

 

 

「……!」

 

 

「だって操り人形なお前とか、まじで面白みの欠片もない。いらんいらん」

 

 

「……そう、ですか…………うぇへへへへ」

 

 

「褒めてな…………い、事もないか」

 

 

ほらまた、そんなだらしのない顔で笑ってさ。

やっぱりバカ犬だわ、よく分からん理由でちぎれるくらい尻尾振ってるバカ犬、うん。

 

 

「……あーもうアホくさ。それで質問終わり? ろくな質問ないなホント……というか、ちゃんとABC問題の誤解はちゃんと解いとけよお前」

 

 

「でへへへへ……先輩先輩、せんぱーい」

 

 

「……だから、話聞けよ。ホントにさ……」

 

 

その場に立ち尽くしながら、鼻の下伸ばしてにやけ面のまま、アホっぽい笑い声をあげながら。

 

見上げてくる、ものすごく嬉しそうに。

いつもみたいに人の話は右から左。

 

 

 

──キーンコーンカーンコーン

 

 

「……ほら、教室戻るよ。あとホント頼むからこれ以上余計な問題は起こすなよ。そろそろ俺のキャパも限界だからねホント」

 

 

「せんぱーい、今日の帰り、またあのゲームセンターいきましょー!」

 

 

「…………はぁ」

 

 

チャイムと同時に、寒空から逃れるべく退却開始。

さっさと帰ろうとすれば、相変わらずのにやけ面でトテトテと付いてくる。

 

付かず離れず。

いつしか馴れた距離感は、接着剤を必要としていない、今は。

 

 

 

「…………先輩」

 

 

「なに?」

 

 

「やっぱり先輩のこと、ステキだって思います」

 

 

「……あっそ」

 

 

それならいっそスキって言ってくれた方が、俺として助かるんだけどね。

 

 

さりげなく制服の裾を掴む小さな掌を、見ないふりした金曜日。

 

 

 

……どうせビビりですよ、俺は。

 

 

 

 

 

 

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