シューター指揮官とジャベリンちゃん   作:竹森

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 全4話です。
 小説を書くのは初めてなので、至らぬ点も多いかと思いますが、よろしくおねがいします。

2018/09/23追記:元々「前編」として公開していたものを1話と2話として分割しました。


1話「男ならこれ(ジャベリン)を選べ」

 初期艦。この世界の指揮官すべてが最初にする選択である。彼らは何を基準にそれを選ぶだろうか。外見や性格、声の好みだろうか。用意周到な指揮官は、事前に入手した情報を基に戦力で選ぶかもしれない。日本人だから、という理由で綾波を選ぶ指揮官もいるだろう。しかしこの物語の主人公はその何れでもなかった。

 8月4日。この日赴任したとある指揮官は、何のためらいもなく即座にジャベリンを選択した。

そんな彼の前にジャベリンが現れる。選んでくれたのが嬉しいのか、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。

 

「はじめまして、ジャベリンです!えへへ、すっごく早く選んでくれましたよね!もしかして私がタイプの女の子だったとか……ですか?」

「ああ……ジャベリン、俺はお前に運命的なものを感じている」

「ええっ!や、やだなぁ、指揮官、プロポーズはまだ早いですよぉ~」

 

 ジャベリンは槍をブンブンと振り回しながら照れる。

 

「ジャベリンの髪は紫色だから、青っぽいとも言えるよな」

「え?」

 

 槍をピタリと止め、キョトンとした表情のジャベリン。指揮官はそれに構わず話を続ける。

 

「つまり、ブルーだ。それとお前の名前をつなげるとブルージャベリンになるよな?」

「まあ、そう……なのかな……?」

「俺が非常に好きなシューティングゲームがあってな……そのゲームでブルージャベリンという機体を愛用しているんだ」

 

 呆けているジャベリンを他所に、指揮官は拳をぐっと固め熱弁する。

 

「まさか俺の愛機と同じ名前の艦がいるとは……これを運命と言わずしてなんとする!?」

「ええ……そ、そんな理由ですか?」

 

 この男、重度のシューティングゲーマーであった。

 

 

 

 

 

 ここは基地の執務室。

自己紹介を兼ね、彼は指揮官になった経緯を語っていた。彼は小さい頃から、幾多のシューティングゲームをやりこむ根っからのシューターであった。艦を率いて、敵弾をくぐり抜け敵を撃破する指揮官という仕事にシューティング的なモノを感じ、志願したのだという。そんな彼の最も好きなゲームの一つに、ブルージャベリンという機体が登場するそうな。

 

「という訳でブルージャベリン」

「ジャベリンですっ!指揮官、女の子の名前を間違えちゃうのはNGですよ?嫌われちゃいますよ?」

「失敬な、間違えたわけじゃない。愛称みたいなもんだよ」

「なんで本名より愛称の方が長いんですか!?ていうかブルージャベリンって機体の名前であってジャベリンの名前じゃないですよね!?ジャベリンにはジャベリンっていう立派な名前があるんですから、ジャベリンって呼んで欲しいんですっ!」

 

 「ジャベリン」というワードがゲシュタルト崩壊を起こす勢いでジャベリンが猛抗議する。指揮官は顎に手をやり少し思案してから

 

「ふむ、わかった。ではジャベリン」

「……抗議しておいてアレですけど、随分あっさりですね?」

「嫌がってるならやめた方がいいかなって。悪かったよ」

 

 そういって素直に頭を下げる。変な人だけど、ちょっと優しい所もあるのかもしれない。ジャベリンはそう思いホッと息をつく。

 

 

 

「これから長い付き合いになりそうだしな。よろしく頼むよ、ジャベリン」

「はいっ!よろしくお願いしますです!」

 

 二人はがっちりと固い握手を交わす。

 

「で、俺は何をすればいいんだ?」

「まずは近海で演習を受けることになってるみたいですよ」

 

 指揮官はつまらなさそうに両腕を頭の後ろで組み、椅子に体重を預けた。

 

「ああ、操作に慣れよう的な。一番つまんない所だな」

「指揮官がそれ言っちゃダメじゃないかなぁ……」

「操作がシンプルなシューティングばっかやってるせいか、アレコレ説明されるの苦手でさ。取説とか読むのめんどくさいだろ?それと同じ感覚だな」

「あ~、わかります。説明書読んでも全然頭に入ってこないですよね」

「そうそう」

「やってる内に身体が覚えるからいいんじゃないかな~って思ったり」

「そうそう」

「薬の分量とかも見ずに飲んじゃいますもん」

「そこは読んどけよ」

「手のひら返しが早すぎますよ!?」

「いや、見なくていいのと見なきゃ駄目なのの二種類があるだろ。薬はどう考えても後者じゃん」

「むーむー」

 

 特にこれと言った反論も思いつかないのか、ジャベリンは口をとがらせただうめくのみ。彼は軽く肩をすくめた。

 

「指揮官もしかしてアレですか、発砲されたら東軍に寝返っちゃうタイプの人ですか」

「何でそんな話知ってんだ」

「えっへん、ジャベリンは意外と博識なんですよ!」

「自分で意外って言うかな、フツウ。というか博識なら薬の分量くらいちゃんと」

「き、聞こえませーん」

 

 ジャベリンは耳を両手で塞いで、聞こえないフリを決め込む。それを見た指揮官は小声で呟いた。

 

「薬には副作用とかあるんだからさ。過剰摂取して何かあったら心配だろ」

 

 それを聞くやいなや、ジャベリンは手を耳から離して指揮官をつんつんしだした。

 

「何だ~心配なら心配って言えばいいのに~。指揮官も素直じゃないですよね!素直な方が女の子にモテるんですよ?」

「めっちゃ聞こえてるじゃん」

 

 

 

 

 

 一通り自己紹介が終わった二人は、とりあえず港へ向かった。

 今年の夏は暑く、太陽の光が必要以上に二人に注がれる。執務室に戻るのも面倒なので、二人して物陰の階段に座り込み、ぼーっとしながら海の彼方を眺める。波音以外は何も聞こえない。

 

「指揮官指揮官。こうしてると、なんだか世界に私達だけしかいないような気持ちになってきませんか?」

「なにそれこわい」

「いや、世界の終末的な意味じゃなくてですね」

「そうじゃなくて、ジャベリンがそう思うこと自体が」

「……ジャベリンのこと何だと思ってるんですか?」

「楽観て……じゃなくて能天……じゃなくてバ……じゃなくて何も考えてない」

「言い換える度に酷くなるのやめて!」

「冗談だよ。そういうセンチメンタルな一面もあるのが意外だな、と思ったのは本当だけど」

「ちょっと陰がある方が女の子は可愛いんですよ♪」

 

 人差し指を立て、何故かドヤ顔で語る。それは陰というより裏表のなさを強調させる、子供っぽく無邪気な笑顔であった。

 

「自分でそう言ってる時点で陰はないと思うぞ」

「そ、そんなことないもん!あるもん!」

「お前そんなに陰欲しいの?別になくたっていいだろ。明るくて元気いっぱいな娘がいたっていいじゃん」

「そ、そうですか?えへへ……じゃあなくてもいいです」

 

 途端に機嫌が良くなる。笑ったり怒ったり忙しい娘だなと思いつつ、指揮官は頬を緩める。しかし

 

「あ、そうそう。言い忘れてたんですけど、今回の演習では、ユニオン陣営のホーネットさんが相手をしてくれるみたいです」

「何、ホーネット!?」

 

 その表情はジャベリンの発言により一変する。今までになく顔が険しくなり、目が血走っている。興奮しているようでも、予想外の情報に驚愕(PANIC)しているようでもある。

 

「きゃあ!急にテンション上げないでください!ホーネットさんのこと知ってるんですか?」

「いや全く。でもホーネットってことはつまり蜂なんだろ!?そりゃテンションも上がるよ!」

「訳さないでください!艦名訳す人がどこにいるんですか!そうなったらジャベリンなんて投げ槍か槍投げになっちゃうんですけど!?」

「ジャベリン、これだけは覚えておけ。シューターの中には、蜂と鯨を見ると血が滾る層がいる」

 

 “蜂”を倒すことは、シューター、特に弾幕シューティングを好む者にとって憧れの一つであった。功績と言っても過言ではない。登山家がエベレスト登頂を目指すようなものだ。しかしジャベリンがそれを知るはずもない。熱く語る指揮官に対し、冷めた対応を取る。

 

「そこだけ聞くとちょっと変な人みたいですね」

「実際変だし」

「あ、開き直った」

「というわけでさっさと出撃しようぞ!」

「武将ですか!まだロングアイランドさんがいませんから無理です!」

「どなた?」

「旗艦を務めてくれる艦です。旗艦がいないと出撃できませんから」

「へぇーへぇーへぇー」

 

 指揮官はそう言いながら手のひらを空中で上下させる。

 

「15へぇです!」

「なんですかそれ?」

「明日使えるムダ知識を教えてもらった時の礼儀」

「へー……って旗艦はムダ知識じゃないですよ!戦闘の基本なんですから!」

「まあそれはそれとして」

「スルーされた!」

 

 指揮官は立ち上がり周囲を見渡す。誰もいない。もう一度、見逃しがないよう周囲をよく観察する。何度見ても自分とジャベリン以外はいない。

 

「演習まで後20分くらいしかないけど、大丈夫なのか?」

「ギリギリまで寮舎に引きこもるって言ってました。外にいる時間はできるだけ短くしたいとか」

「間に合うなら良いけどさ。もしかしてインドアな性格なの?」

「みたいです」

「ふーん、俺とは真逆だな」

「あれ、アウトドア派なんですか?ゲーム好きって言ってたから意外~」

「シューティングはゲーセンでやるものだと思ってるからね」

「それアウトドアじゃないです」

 

 反論された指揮官はチッチッと指を振る。

 

「でも人に趣味聞かれた時、

アウトドアを少々……ええ、体を動かす(レバー操作のこと)のが好きでして……

って言ったら心象はバッチリだぞ」

「指揮官指揮官、それ詐欺じゃないですか?」

「人聞きの悪いことを言うな。事実誤認するようにちょっと誘導しているだけだ」

「それを詐欺って言うんじゃ……」

「そういうお前はどうなんだ。何となくアウトドアが似合う感じがするけど」

「はい!ジャベリンは外で遊ぶ方が好きですよ!」

「俺と同じか」

「違います!……あっ、そうだ。指揮官はアウトドアをよくわかってないみたいですから、今度ジャベリンと一緒に遊びに行きませんか?」

「えー、すっごい疲れそう」

「そんなことないですよ!色々教えてあげますから!楽しいですから!ねっ、ねっ、ねっ」

 

 顔をグイグイと近付けるジャベリン。距離を取ろうにも、座っているので限界がある。

 

「近い近い!わかった、わかったよ。休暇が取れて、俺がやるべきシューティングが何もなくて、ゲーセンが閉まってたら、行くよ」

「条件が多いんですけど!減らして、減らして~!」

「はっはっは、シュータージョーク、シュータージョーク」

 

 その直後。演習開始5分前を告げるサイレンが鳴り響く。指揮官は寮舎のある方角を一瞥する。袖の余った服をたなびかせこちらにやってくる少女がいた。彼女がロングアイランドのようだ。それを見て彼は安堵し、出陣すべく立ち上がる。

 

「さて、行こうか」

「……」

「ジャベリン?」

 

 ジャベリンは座ったままじっとしていた。先程までとは打って変わって、借りてきた猫のように静かだ。身体は強張り、表情もどこかおどおどしている様子だった。指揮官は再び語りかける。さっきよりも少し柔らかい言い方で。

 

「ジャベリン」

「あ、す、すいません。聞いてませんでした。なんだか緊張して……」

「気にするな。そっか、お前も初陣なのか」

「さっきまでは全然気にしてなかったんですけど、サイレン聞いたら色々意識しちゃって。あはは……変ですよね、演習なのに」

「変ってこたないだろ」

 

 彼は少し目を伏せてから顔をあげ、

 

「ところで、戦闘のやり方でオートとマニュアルってのがあるらしいな」

「あ、はい。マニュアルは指揮官が指示を出して、オートは艦達の独断で、って感じです」

「じゃあマニュアルで行こうか。ほら、やっぱり自分でやりたいじゃん?俺の弾除けスキルをいっぱい見せびらかしたい」

「はぁ……」

「というわけで俺のレバーさばきに乞うご期待!」

「レバーなんてないですから……それに、ジャベリンが直接操作されるわけではないですよ?」

「ゲーマー的には、そういう設定の方が気分出るのです。だからその体で行こうじゃないか」

「まあ、いいですけど……」

「というわけで俺プレイヤーの役やるから、ジャベリン操作される役やって」

「なんですか、その漫才コントの入り方みたいなの」

「いいからいいから。頑張ってきてね」

「何か緊張感なくなっちゃうなぁ……」

 

 そうなるよう、わざとふざけたのかも知れない。しかし指揮官の真意について深く考える余裕はないようだ。またしてもサイレンが鳴り響く。演習は今まさに始まったのだ。

ジャベリンは息を大きく吸う。さっきよりも随分楽になった気がする。彼女は指揮官に笑いかけた。

 

「それじゃあ……ジャベリン、全力で行きま~す──」

「いってらー」

「──です!」

「……いってらー」

 

 台詞の途中だったのかと思いつつ、指揮官は手を振ってジャベリンを見送った。

 

 

 

続く




 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 ちなみに冒頭の8月4日という時制は「ジャベリンのボイスが差し替えられる前」、「『レイストーム』ネタ」以外に特に意味はありません。
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