西から東へまっすぐ進むのが、演習のルートだった。
すぐ進軍するのではなく、指揮官はまずジャベリンに自由に動いてもらい、それをチェックした。最初に味方の戦力を細かく分析するのが彼のやり方であった。彼は眉一つ動かさず、注意深く観察していた。しばらくしてジャベリンを呼び戻す。彼女は怪訝な顔をして尋ねた。
「進まなくていいんですか?」
「いやさ、ちょっと気になることがあったんでね」
「あ、そう言えばまだ話してませんでしたよね。ジャベリンの趣味は弁当……」
「お見合いかよ。そんなことよりだな」
「そんなことってなんですか!?もっとジャベリンに興味を持ってください!」
「曲がりなりにも演習中に自己紹介聞くわけないだろ!お前のんきか!さっき緊張してたお前はどこ行ったんだよ!」
「指揮官が変なこと言ったから、どっか行っちゃいました」
「緊張ってそんなすぐ吹っ飛ぶものなの?ま、まぁ趣味の話は戦争の後で聞くから」
「戦争終わるまで趣味の話しちゃいけないんですか!?もっと手前!もっと手前にしてください!」
「お前、欲しがりません勝つまではという名セリフを知らないのか?」
「標語でしょ、標語!なんですか、名セリフって。誰の発言ですか」
「当時の小5の女子らしいよ」
「え、そうなんですか。へぇ~、知りませんでした」
旗艦の話をした時の指揮官の真似のつもりか、手のひらを上下させている。これで合ってる?と確認するような視線を送る。指揮官がうんうんと頷くと、ジャベリンは新しいおもちゃでも見つけたみたいに、無邪気に手をパタパタとさせた。
しばらくして我に返ったジャベリンは可愛らしく小首を傾げた。
「何の話でしたっけ?」
「ああ……」
指揮官は話を元に戻そうと、コホンと一つ咳をする。
「移動速度のことを聞こうと思ったんだ。何か遅くないか?」
「そんなことないですよ?ジャベリン、駆逐艦だからむしろ早い方です」
「そうなの?」
「はい」
ジャベリンはこくんと頷く。
「この倍は欲しい」
「ジャベリンを過労死させる気ですか!?」
「それはつまり死ぬ気でやれば出来るってこと?それじゃ」
「やりません!」
ジャベリンがぶんぶんと首を振る。その度に、ポニーテールがふわふわと揺れる。
「でも2倍頑張ったら、戦闘時間も半分で済んで、結果同じ労力になるかも」
「攻撃力は変わりませんから!ぜっったい、やりません!」
「ちぇー」
そんなこんなで二人は進軍を開始した。目の前に大小様々な量産型の艦が現れ、弾を撃ってきた。移動速度を倍にすることを諦めた指揮官は、それに対し指示を出していく。
熟練のシューターとしての実力か、敵弾の軌道を読み、的確に処理していく。
「ジャベリン、そこチョン避けだ!」
「え、チョン……なんですか?」
「少し上か下に動くこと」
「ああ、チョンっと避けるってことなんですね」
最初の内は使う用語にすれ違いもあったが、次第に指示がちゃんと伝わるようになっていく。
今の所ジャベリンは全くの無傷だった。しかしそれが指揮官だけの成果でないことは、彼自身よくわかっていた。
ジャベリンもまた、弾を見切り、避けるのを得意としているようだった。それに気付いたのは、指示がやや遅れ、ジャベリンが非常に際どい弾除けをする羽目になった時のことだった。指揮官の指示は守りつつ、その上でより安全に回避出来るよう彼女は動いていた。おそらく自分なりのルートを見つけているのだと、彼は考察した。
だがやはりまだお互いに初陣、どこか不慣れな部分も見受けられる。しばらくして、ついにジャベリンに小さな敵弾が当たる。
再び戦闘を中断させ、慌ててジャベリンの元へ駆け寄る。
「すまん!被弾させちまった!」
「指揮官、私の心配してくれてるんですか?えへへ。でも、ジャベリンは平気ですよ!」
ジャベリンは小さくガッツポーズをとった。指揮官はそれを喜ぶ……わけでもなく、目を見開き、ただただ驚いていた。
「え、何で生きてるの」
「えっ」
「ありえない、何かの間違いではないのか?」
「何を言ってるのか、サッパリわかんないんですけど……」
「いやシューティングって大体1回被弾で即死じゃん?だからジャベリンもそうなのかと」
「そんな過酷な戦い嫌だなぁ」
「そうかな、普通だと思うけど」
「指揮官の常識が危ない」
指揮官はジロジロとジャベリンの全身を眺める。彼女は恥ずかしがって体をくねらせる。
「し、指揮官、恥ずかしいですよぉ」
「ううむ、被弾してもピンピンしてる……もしかしてジャベリン、実はものすごい艦だったりする?」
「褒められてるはずなのに、何故かそんな気がしません……」
「何で?」
「現実的に考えてください。一撃で沈む艦があったら役に立たないでしょ?その度に建造しなきゃいけなくなりますし。時間もお金も、いくらあっても足りなくなっちゃいます」
「…………」
指揮官はジャベリンの話を聞いているのか聞いていないのか、よくわからない呆けた表情をしていた。
「あの、指揮官?聞いてます?」
「聞いてるけど……艦が美少女化してる時点で、現実的も何もないだろと思って」
「急に正論言わないでください!微妙にメタいし、もう……って、あれ?」
突っ込んだ直後、ジャベリンは何かに気づいたように手のひらで口元を隠す。それを気にかけることもなく、指揮官は一人戦闘の方針について考えていた。
「結構耐えられるってことは、全部避ける必要はないってことか?なら大きなダメージだけ食らわないようにすれば……ん?ジャベリン?何で俺の顔をそんなに覗き込んでるんだ?」
もじもじしながら、上目遣いで指揮官の目をじっと見つめている。何か悩んでいるようにも、恥ずかしがっているようにも見えるが、指揮官に心当たりはない。
「指揮官、美少女って言いましたよね?」
「うん?」
「だから、艦のこと」
「言ったけど、それが?」
要領を得ないと言わんばかりに首をひねる。
「指揮官、着任してからほとんど私としか喋ってないですよね?ってことは、もしかして……ジャベリンのこと、美少女だと思ってるん……ですか?」
「……」
余計なことを言ってしまった。そう思い彼は指でこめかみを押さえる。
「あの、何か言ってくれると嬉しいんですけど……そうなんですか?」
「…………」
彼は何も言わず、視線をジャベリンから逸した。が、ジャベリンはトコトコと目を合わせに来た。今度は身体を回転させ視線から逃れる。その努力も虚しくジャベリンが即座に目の前までやってくる。
「指揮官、しーきーかーんーってばー」
目を逸らし続ける指揮官。しかしその度にジャベリンが視界に入り込んで来る。それが何度か続いた。傍から見ると、ジャベリンが指揮官の周りをクルクル周っているようにしか見えない。
指揮官は貝のように口を閉ざし続ける。それでもなお、ジャベリンはしつこく食い下がる。
「ねえねえ~、誰にも言いませんから!本当は、どう思ってるんですか?」
「あのな、ジャベリン」
「はい!」
ジャベリンがぴょんと一度跳ね、直立不動になる。期待感に目をキラキラさせながら指揮官をじぃっと見つめている。
「うざい」
「指揮官ひどい!言うに事欠いてうざいって!」
「うっさい!ほら、戦闘再開するから、ちゃんとやるんだぞ!」
シッシッと手を振ってジャベリンを追っ払う。彼女は何度もチラッチラッと指揮官の方を見ながら
「むー、指揮官のいけず。でも戦闘が終わったら、絶対言ってもらうもん!戦争じゃないですよ、戦闘ですからね!」
指揮官はジャベリンの発言を右から左に聞き流し、絶対言わないと心に誓った。
続く
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