シューター指揮官とジャベリンちゃん   作:竹森

3 / 4
 最初から最後までホーネット戦。
 これまでと比べかなり毛色の違う内容になっています。


3話「NO REFUGE」

 以降は特に問題もなく、順調に海域を押し進めていく。

 そろそろ終わりも近付こうかという頃、水平線の向こうに黒い姿が見えた。大きくなるにつれ、それが黒衣をまとい、長い金髪を左右で結った少女であることがわかった。少女は帽子を指先で回していたが、こちらの姿を確認すると指先で帽子を浮かせた。緩やかに軌道を描く帽子は、それが定位置であるかのように、彼女のツインテールの間に綺麗に収まった。

 

「ハロー、あなたが新米指揮官さん?私ホーネット!」

「蜂だー!」

「え、どこどこ!?刺されるのヤダ!」

 

 ホーネットが少し怯えたように周囲を見る。

 

「すみません、ホーネットさん。うちの指揮官変な人なので、スルーでお願いします」

「いやあそれほどでも」

「褒めてませーん。ほら、ちゃんと自己紹介しないと」

「そうだな。俺が指揮官だ。よろしく頼む。この槍を持ってる娘がジャベリンだ。強いぞ」

「よろしくお願いします!」

 

 そうやって会釈をする二人。それに対しホーネットはひらひらと手を振って応える。

 

「よろしくねー。それよりさ、早速やろうよ。待ちくたびれちゃった」

「ああ、俺もお前と戦うのを楽しみにしてた」

「嬉しいこと言ってくれるわね。わかった、姉ちゃん達ほどじゃないけど、私の実力見せてあげる!」

 

 そう言ってホーネットは艦載機を構える。

 

「さあ、来い!ジャベリンもよろしくな!」

「はーい!」

 

 お互い臨戦態勢に入る。手始めにホーネットが弾幕をばらまく。扇状に6つの針弾が飛んでくる。少しして同様の弾幕を、その次には同じ弾幕を2連続で繰り出す。その後暫しのクールタイムを挟み、また弾幕をばらまく。それが彼女の攻撃パターンのようだった。

 はっきり言って、非常に避けやすい弾幕だ。指揮官は物足りなさを感じていた。そこで

 

「タイム」

「今度はなんですか?」

「なになに、どうしたの?」

 

 両腕でTの字を作る指揮官を訝しむジャベリンとホーネット。

 

「ホーネット。お前の弾幕だが……薄くないか?」

「演習だもん、だいぶ手は抜いてるよ」

「折角の機会だから、お前の本当の実力が見たい」

 

 彼がそう言うと、ホーネットは白い歯を見せ不敵に笑った。

 

「へぇー、新米にしてはイキがいいね!でもいいのかな~?私、手加減は苦手だよ?」

「大丈夫だ、問題ない」

「ジャベリンは大丈夫じゃないです!」

 

 ジャベリンが口をとがらせて抗議する。ホーネットはからからと笑って

 

「平気平気。演習弾だから死にはしないって」

「そういう問題じゃないですよね、ていうか痛いものは痛いですよね」

「じゃあ今までの42倍の弾数を希望したい」

「42倍ね。……42倍?」

 

 思わず真顔になってホーネットが聞き返す。聞き間違いだろうか、そう思ったのだ。しかしそうではなかった。指揮官は頷いて

 

「正確に言うと、常時256発出し続けて欲しい」

「それ誰が避けるんですか?ジャベリンですよね?」

「いや……それはちょっと無理かな、って」

 

 ホーネットはうつむき、帽子のつばに手をやった。

 

「そもそもそんなに出せる艦いるのかな?姉ちゃんでも多分……」

「さっきも言ってたけど、姉ちゃんって?」

「ホーネットさんには、ヨークタウンさんとエンタープライズさんというお姉さんがいるんですよ。特にエンタープライズさんは最強の空母と言われていて」

「彩京か。ものすんごい早い弾撃ってきそう」

「あ、全く違う話してる気がする」

 

 ホーネットの先程までの笑顔は鳴りを潜め、少し自信を失っていた。それほどに指揮官の要求は無茶なものだった。

 

(何で、私にそんなこと求めるのかな?)

 

 彼女は一笑に付しても何ら問題のない、無茶苦茶な要求について真剣に考えていた。自分に、それが出来るのだろうか、もし出来なかったらガッカリされるだろうか、と。ホーネットにはそういう、妙に生真面目なところがあった。

 考え込んでいる彼女を見て指揮官が叫ぶ。

 

「ホーネット!俺はお前に期待しているんだ!」

「そ、そうは言うけどさ、私より姉達の方が、あなたに応えられる可能性高いと思うよ?私じゃちょっと……」

「いや!お前でなくてはならない!ホーネット(蜂)だからこそ出来ることがあると信じている!姉ではない、お前だけが、だ!」

「良いこと言ってるようで見当違いですよね、それ」

 

 ホーネットという名前に別の“蜂”を重ね合わせているだけと知っているジャベリンが冷静なツッコミをする。無論ホーネットはそんなことを知らないので、素直に指揮官の発言を受け止める。

 

「それ、本気で言ってる?」

「ああ。だから今日の演習でもお前に会うのを楽しみにしていた」

「…………」

 

 ホーネットは昔から、二人の姉と比較されて生きてきた。それに慣れすぎていたから、この指揮官の言ってることは新鮮に感じたが、同時に動揺もした。

 無論、ホーネット自身も確かな実績を上げてきた艦だ。だが、その実績は姉、特に最強と謳われるエンタープライズと常に比較された。「エンタープライズの妹」として評価されることもしばしばあった。その度に姉を誇りに思うのと、自分自身を褒めてほしいという、相反する二つの感情が混ぜこぜになり、複雑な気持ちにさせられた。

 だから、いざ自分自身を見つめられると、どう反応すれば良いのかわからなかった。喜んだ方がいいのだろうか、自信満々に接すればいいのだろうか。どう返すのが正しいのだろうか。

 

「私にしか出来ないこと、か。あなたは、本当にあると思う?」

 

 結局、さっき指揮官が言ったことを、オウムのように再確認しただけだった。もっと気の利いたことは言えないのかと、口に出してから少し後悔した。かと言って、何がベストなのかはわからない。

 それに対して指揮官はきちんと返事をした。

 

「思わないなら、こんな事は言わない」

「そっか……」

 

 嘘を言っている様子はない。指揮官はいたって真面目だった。

 ホーネットは目を閉じ、深呼吸する。

 今の自分に、この指揮官が言うような凄まじい弾幕が撃てるとは思わない。ただ、それに挑戦してみても良いかも知れない。だってここには、私に、私だけに出来る何かを期待してくれている人がいるのだから。

 彼女は目を見開いた。先程までの悩みは消え失せ、今日の天気のように、清々しい気分だった。

 

「わかったよ。それじゃ、本気で行かせてもらうからね!」

「あ、あんなに焚き付けちゃって大丈夫ですか?ホーネットさん、かなり強いんですよ?」

「出来るだけのことはする。だからジャベリン、頼むぞ。お前にだって期待してるんだ」

「指揮官……はい!頑張ります!」

 

 ジャベリンは槍を固く握りしめ、ホーネットの方を向いた。いつ指揮官から指示が来てもいいように、今まで以上に集中力を高めた。

 少ししてから、ホーネットが弾幕を張る。さっきの倍以上の針弾が飛んでくる。弾幕と弾幕の間隔も短くなっており、クールタイムもない。今まではやはり手加減していたのだと思い知らされる。

 しかし、指揮官はそれを的確に処理していく。最初はギリギリで避けていたが、段々余裕が生まれてくる。彼は経験上、弾幕の性質を把握することには長けていた。

 

「へぇやるね!」

 

 ホーネットは感心したように言う。普段戦っている相手でもここまで避ける奴は、そうはいない。

 

「これなら、どう!?」

 

 弾速が早くなる。弾幕も緩急を織り交ぜ、避けたところに被弾するよう工夫した。これがホーネットの現状出せるベストだった。

 複雑な弾幕を避ける最中、ジャベリンのバランスが崩れる。ホーネットはその隙を見逃さず、高速弾を撃ち込む。空気を切り裂かんばかりの勢いで、立て直しを図るジャベリンに迫り来る。

 

「ジャベリン、そのまま倒れ込め!」

 

 ジャベリンは一瞬戸惑いを覚えながらも、指揮官を信じ重力に身を任せる。本来立っているべき場所を弾が通り過ぎる。弾を辛うじて避けると、ジャベリンはすぐに体勢を整えた。

 

「あ、危なかった~」

「ちぇっ、今のは当たったと思ったんだけどな」

 

 悔しそうにホーネットが呟く。立て直した所に直撃するよう撃ったつもりだった。しかし指揮官はそれを弾の軌道から計算して見抜き、敢えて倒れ込ませたのだ。

 以降も同じようにジャベリンを弾幕で覆い尽くす。チャンスこそ生まれるものの、指揮官の素早く的確な指示が被弾を許さない。

 

「あー、もう!何で当たらないかな!無茶苦茶言ってくれるだけのことはあるわね!悔しい!」

 

 口ではそういいつつ、ホーネットは笑っていた。だが本人はそれに気付いていない。

 

 

 

 

 

 しばらく同じ光景が繰り返された。戦闘はまさしく膠着状態にある。ホーネットの弾幕はこの二人には通用しなかった。一方のジャベリンの打ち出す弾も、ホーネットに当たってこそいるものの、所詮は駆逐艦。決定打にはならない、かすり傷のようなものに過ぎない。

 ホーネットは考える。このまま行けば、自分が勝つ。

 ずっとジャベリンが避け続ければ、塵も積もればなんとやらで、ホーネットの体力はなくなるだろう。だがそれは現実的ではない。ダメージを受けずとも、積み重なる疲労は回避の精度を落とす。現に、ジャベリンは呼吸が乱れてきていた。だから、こちらの攻撃が当たる時が来るだろう。こちらが受けるダメージは小さいのだ。持久戦に持ち込めば、ホーネットの有利は間違いなかった。

 しかし。ホーネットは誰にも気付かれない程度に、首を左右に振った。

 

(それじゃ、つまんないわね)

 

 それで、勝ちたくない。そうホーネットは思った。指揮官が自分に寄せている期待はそういうものではないだろう。

 もっと派手に、もっと楽しく、もっと“自分らしく”、勝ちたい。この膠着状態を一変させるような、劇的な方法で。彼女はいつしか勝ち方を考えるようになっていた。

 

(“あれ“が上手く行けば、それが出来るはず……でも)

 

 “それ”は実現性が低く、切り札と言うには少々頼りなかった。実戦でもほとんど決めたことはない。だがホーネットは、今こそ“それ“を決めるべき場面だと思っていた。

 

(……何でだろう。何か、楽しいな)

 

 あれこれと考えている内に、高揚している自分に気付く。戦っていてここまで楽しくなることは、今までなかった。もちろん、勝利すること自体は嬉しい。しかし今の感じている楽しさは、それとは別の種類のように思えた。その正体は掴みきれないが、それが何に由来するかはわかっていた。

 自分に期待してくれている人がいるからだ。他の誰でもない、自分自身に。ホーネットはそれが無性に嬉しかったのだ。だから、出来ることは全てしたいと思った。勝つために戦うというよりは、自分のもっと凄いところを見てほしいと思うようになっていた。自分には、何か出来ることがあるのかも知れないと思うことが、何より楽しいのだ。

 

 ホーネットは艦載機を再び構える。その時だった。ホーネットが一瞬、まばゆい光に包まれる。彼女の持つ二つの固有スキルが同時発動したのだ。ジャベリンを巨大な爆撃機の影が包み込む。その直後、おびただしい数の弾が頭上から前からジャベリンに降り注ぐ。その濃密さは今までの比ではなく、ジャベリンからホーネットの姿がほとんど見えなくなるほどだった。

 ホーネットはそれに確かな手応えを感じていた。まさしく今出せる100%の力だった。実戦で決めたことこそ少ないが、ホーネットが全力を出せた時、敵は塵芥となるのが常であった。

 ここまで避け続け、無傷のジャベリンも流石に慌てふためく。

 

「わっ、わっ!し、ししし指揮官指揮官!どうするんですかこれ!?」

「俺の指示通りに動いてくれ!」

「わ、わかりました!」

 

 今までになく細かい指示をジャベリンに投げかける。指揮官は歯を食いしばり、冷や汗をかいていた。今や弾幕を完全に避けきれるとは言い難い状況にあった。

 ジャベリンは忠実に指示に従った。1巡目、避ける。2巡目、避ける。しかし弾がジャベリンの頬をかすめた。

 3巡目でついに被弾する。これを皮切りに、次第に被弾する回数が増えていき、合計で10回ほど被弾した。しかし、指揮官の弾幕を見切る能力と、ジャベリンの巧みな回避能力があったからこそ、これで済んだと言える。普通の敵であれば、その10倍近く被弾し、さらに実弾であれば跡形もなく沈められていたに違いない。

 

「ジャベリン、大丈夫か!?」

「な、なんとか無事です」

 

 ジャベリンの元気そうな声を聞いて彼は胸を撫で下ろした。しかしすぐに身を引き締める。次同じ攻撃をされたら、今度こそジャベリンが危ない。

 しかし、その心配は杞憂に終わった。ホーネットは何もしてこなかったのだ。何が起きたのか、指揮官は全くわかっていなかった。よくよく見てみるとホーネットは黒煙を上げ、足もがくがくと震えている。

 

「……何だ?何が起きたんだ?」

 

 指揮官は首を捻った。ジャベリンの今までの攻撃が積み重なって限界を迎えたのだろうか。

 一方のジャベリンは目に力強い輝きを宿らせ、ホーネットの方を睨みつけていた。

 ホーネットは震える手で艦載機をしまい、海面に背中からダイブした。そのまま沈んでしまうかと思ったジャベリンと指揮官が慌てて近寄る。ホーネットは海に揺られながら

 

「いやー、負けちゃったなー。本気だったのに」

 

 ホーネットはまだ経験豊かというほどではない。とは言え、新米の指揮官と艦よりはずっと、経験も実績もを積んでいるはずだ。そんな自分が負けた。本来なら恥ずべき場面かもしれない。しかし表情は悔しさを滲ませながらも、どこか晴れやかだった。

 それを見た二人は一安心した。負傷しているものの、無事なようだ。

 

「まさか、あそこまでやってくれるとは思わなかった。見切れなかったよ」

 

 彼は素直に称賛した。これが実弾であれば、あの時点で確実に負けていたし、ジャベリンも大破していただろう。演習弾だからこその勝利だ。だから指揮官は、喜びはしなかった。むしろ、ホーネットに対する敬意が勝っていた。

 

「そりゃ、私の全力だもん、そう簡単に避けられちゃ嫌だよ。……でも、あなたの望みには応えられなかったんじゃないかな?」

「いや、充分すぎるくらいだ」

「……そっか。うん、なら良かった」

 

 ホーネットは満足気に微笑む。負けたけど、良かった。

 敵の疲労を待つせこい手口ではなく、今出せる自分の全てを出し切って、あれだけ避けていたジャベリンを被弾させた。一矢報いただけで、指揮官の期待に応えられただけで、彼女は満足だった。

 指揮官はおもむろに頭を下げた。

 

「……悪かったな」

「え、何で急に謝るの?」

 

 目をぱちぱちとさせるホーネット。彼はホーネットに期待を寄せていた理由を正直に話した。

 

「なーんだ、私のことを見てたわけじゃないんだ。道理で変だなぁと思ったよ。あはは……」

 

 ホーネットは寂しそうに笑う。それは彼女の功績が、姉の名前と共に褒められた時にする笑い方だった。

それを見て指揮官は大きく首を振る。

 

「だが、今は違う。ホーネットの……何て言うのかな、潜在能力みたいなものを見せつけられた気がする。お前にしか出来ないことは、やっぱりあると思ってる、本当に。信じろと言っても難しいかも知れないが……」

 

 ホーネットはそんな彼を観察するように眺める。どう言えば信じてもらえるのかと探り探りで喋っているようだった。それは彼の誠実さとも、不器用さとも取れた。

 

「……ううん、信じるよ。だって、信じさせるだけならさっきの話する必要ないもんね」

 

 ホーネットは真面目くさる指揮官を見てニヤリと笑う。

 

「最初はジャベリンが言ってたみたいに、ちょっと変わってる人だと思ってたけど、結構素直なんだね~。バカ真面目って言うのかな?」

「褒められてるのかバカにされてるのか……」

 

 複雑な顔で首を傾げる。ホーネットはそれを見て思わず吹き出す。

 

「褒めてるに決まってるじゃん!人間素直が一番よ~」

 

 ホーネットは身体を起こした。

 

「だから指揮官のこと、信じてみる。私だけにしか出来ないことがあるって、今はそんな気がしてるから」

 

 今よりも姉との差を気にして躍起になっていた頃。長女のヨークタウンにこう言われたことがある。あなたにはあなたしか出来ないことがあるからもっと自信を持っていい、と。その時ホーネットはピンとこなかった。彼女は身内だったし、何よりあまりに優しすぎた。その言葉は嬉しかったが、自分だけが持つ”何か”があるとは信じ切れなかった。しかし今、ようやく見えてきた気がする。いや、それを探すことを決意したと言うべきか。

 ホーネットはビシッと指揮官を指差した。

 

「次はこうはいかないからね!今よりずっとずっと強くなって、絶対勝つんだから!」

 

 指揮官はにこりと笑って

 

「ああ、俺達も、簡単に負けるわけにはいかない」

「なーんか、いい雰囲気ですね?」

 

 ここまで話に入ってこなかったジャベリンが二人をジト目で見つめている。頬がぷくーっと膨らんでいる。

 

「わ、悪い。忘れてたわけじゃないんだが……」

「あはは、ごめんごめん」

 

 平謝りする二人。頬の膨らみが少ししぼむ。

 

「そんなことより!ジャベリン、最後の魚雷は効いたわよ」

「魚雷?」

「そ、最後しれっと撃ってきたの。完璧にこっちの攻撃が決まったと思ってたから、びっくりしたな~。ってあれ、指揮官の指示じゃないの?」

「そもそも俺、魚雷のこと知らないぞ」

 

 最後の雨あられのような弾幕の中で、ジャベリンは高威力の魚雷を放っていた。無論、彼女の独断だ。これだけの弾幕なら、撃った張本人も視認性が著しく落ちているとジャベリンは思っていた。故に弾幕を避けつつ、確実かつ出来るだけ多量の魚雷がヒットする角度、間合いでこっそりと放ったのだった。

 ジャベリンの読み通り、ホーネットは忍び寄る魚雷に気付かなかった。気付いたのは、命中した後だった。結果として彼女は致命傷を負ってしまったのだ。

 指揮官は合点がいくと同時に、目を丸くした。弾除けのルートを彼女なりに考えてる時も薄々感じてはいたが、かなり機転が利く性格なのではないかと本格的に思い始めていた。少なくとも、ただの明るく元気な少女ではないようだ。

 

「それならお前のお蔭で勝てたようなもんじゃないか。ありがとうな」

「そ、そんなに褒めないでくださいよ~。あれはたまたまです、たまたま!」

 

 ジャベリンは手をぶんぶん振って照れる。

 

「たまたまでも、あそこで魚雷撃つこと自体が凄いと思うわよ。お蔭で、私も今後改善しなきゃいけない点が見つかった気がする。ありがとね、ジャベリン」

「ど、どういたしまして……?」

 

 ジャベリンは戸惑っている。意外と素直に褒められるのに弱いんだろうかと指揮官は思った。

 

「さて、と。そろそろお別れだね。まだまだ話していたいけど……」

「その傷で大丈夫か?送っていくよ」

「あはは、へーきへーき。私の基地近いから。ていうか指揮官、狙ってる女の子に言うセリフみたいだよ?もしかして、そういうの慣れてるのかな~?」

「い、いや、そういうつもりじゃなくて……」

 

 やましいことがあるわけでもないのに、指揮官はつい後ずさった。

 

「あはははは、冗談だって。何か、変な感じ。戦闘中指示出してる指揮官は格好いいのに、今はすっごいからかい甲斐ある。あー、楽しい」

 

 ホーネットはひとしきり笑ってから、今度は恥ずかしそうにうつむいた。両手の人差し指をつんつんさせている。そして恐る恐る、こう切り出した。

 

「あ、あのさ。本当に、また会ってくれる?」

「……何でそんなに弱気なんだ?」

「だ、だってさ、何か心配になっちゃって。ゴメン、疑ってるわけじゃないんだけど……」

「心配するなって。さっきも言っただろ?次に会うのが楽しみだって」

 

 そう言われホーネットは、ぱあっと満面の笑みを浮かべた。そして指揮官の手を取り、ぶんぶんと上下に振る。

 

「ホント!?絶対だよ!」

「ジャベリンも、ジャベリンも!戦闘以外でもホーネットさんと会いたいなぁ」

 

 ジャベリンがそう言うと、ホーネットはやはり彼女の手を取りぶんぶんと上下に振った。

 

「あー良かった!じゃあさ、今度は姉たちに紹介させてよ」

 

 すると、何故かジャベリンが過剰に反応した。

 

「家族に紹介!?き、気が早いですよ!」

「えっ!?ち、違うわよ、そういう意味じゃなくって!」

「保護者はどなたですか?」

「ヨークタウン姉さんだけど……」

「ほらやっぱり!そういうのは段階があるんですよ!」

「そ、そういうんじゃないわよ!           ……多分」

 

 ホーネットは帽子で表情が見えないようにし、小声で呟いた。

 

「あ!今、多分って言った!言いましたよね!?聞き逃しませんよ!」

「ジャベリン、段階って何だ?」

「やだ指揮官!女の子にそんなこと言わせないでください!」

「そうだそうだー!」

「え、俺が悪いの?」

 

 先程まで演習とは思えない激戦をしていた三人は、別れるギリギリまで、そうやって賑やかに過ごした。

 

 

 

続く




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次がラストです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。