「指揮官~もっともっと褒めて~」
演習を終え、執務室に戻るまでの道すがら、ジャベリンは何度もそうおねだりした。別れる寸前にホーネットから「二人は良いコンビだね」と言われて気を良くしているのだ。
「お前は、銀河一回避に強い艦だ!」
「えへへ~。もっと違う褒め方もしてくださいよ~」
「NICE PLAY!」
「ジャパニーズ・プリーズ!」
指揮官はボケを挟みつつも、律儀にそれに付き合う。彼は戦闘を通じて、ジャベリンのことを大いに評価するようになっていた。お互い回避が得意というのも相性が良いと感じていたし、確かに良いコンビのようだ。
そんなやり取りをしている内に執務室にたどり着く。
「あれ?指揮官、何か来てますよ?」
指揮官のデスクに置かれたファックスから紙が吐き出されている。それをジャベリンが取る。最初はふむふむと言いながら読んでいたが、すぐに無口になり、顔が青ざめていく。ちょっと前までの無邪気な様子が嘘のようだった。
真後ろに立つ指揮官から彼女の表情は見えない。何も言わないジャベリンを不思議に思いつつ尋ねる。
「なんて書いてあるんだ?」
「……」
「ジャベリン?」
ジャベリンは振り向かずに囁くように答えた。
「……はい。鉄血と重桜が離反……したそうです」
「音楽性の違いかー」
「私達の敵・セイレーンへの考え方の対立が原因で……」
「?」
露骨なボケにジャベリンが乗ってこない。先程までだったら強弱は別としてツッコミが入っているはずだった。声色も、どうにも弱々しい。
不思議に思った指揮官は、ジャベリンの表情が見える位置に移動した。そして彼女の表情を見て眉をひそめた。
「レッドアクシズとして独立した、って……」
「第三勢力ってことか」
「これからどうなるんでしょう……」
普段の元気いっぱいな姿はどこへやら、ジャベリンは不安な面持ちを隠せずにいた。まだ出会って間もない指揮官でも、彼女の様子がおかしいのは一目瞭然であった。見かねた指揮官が声を掛ける。
「どうした?随分暗いじゃないか」
「お友達のニーミちゃんと綾波ちゃんが、そちらの陣営なんです。だから、もしかしたら今後、戦うことがあるかも……」
「……なるほどな」
指揮官は腕を組み、天を仰ぐ。無理もない、そう思った。全てを割り切り、友人とやり合うことが出来る性格ではないだろう。彼もそうだった。もし仮に、演習で戦ったホーネットと、血で血を洗うような戦いをすることになったら。そう考えると、彼の胸は締め付けられた。彼女とはまた戦ってみたいと思うが、そういった類のものを望んでいるわけではない。
今度は床を睨む。その間、ジャベリンは一言も発さない。
しばらく考えてから、こう切り出した。
「大体事情はわかった。要はそのレッドソックスとも戦っていくってことだろ?」
「…………」
「確かにレッドソックスは強敵だな。メジャーだし」
「…………アクシズです」
「似たようなもんじゃない?7文字中3文字同じだぞ」
「……過半数合ってないじゃないですか」
ジャベリンが乗ってきた。彼は内心ホッとし、言葉を更に重ねた。
「細かいことは気にするな。響きは似てる!似てるったら似てる!どうだ、そう言われてみると似てる気がしてくるだろ!?」
「似てませんよ……それにレッドソックスって野球チームですよね?」
「『アズールレーン』とかけて野球とときます」
「?」
「ホラ、「その心は?」って続けて」
「はぁ……その心は?」
「どちらも、たまをうたないと勝てません」
「あ、ちょっとうまい」
「フフフ……」
得意げに何故か襟元を整える指揮官。
「って、そうじゃなくって。指揮官、野球好きだったんですか?」
「いや全然。見たこともやったこともない」
「ええ……なんで野球の話振ったの、この人」
ジャベリンは呆れたように、大きく息をつく。なんだか、色々考え込んでたのが馬鹿らしくなる。
「もう、少しは真面目に考えてくださいよう」
「そんな深刻になるなって」
「そうは言いますけどね……」
「別にお先真っ暗ってわけじゃないだろ?だから、もっと明るくいこう。その方がお前っぽい」
「あ……」
(もしかして、私を元気づけようとして……?)
わざとふざけたのだろうか。そう言えば、演習開始前にガチガチになっていた時も、指揮官は変なことを言い続けていた気がする。
「今は確かに厳しい状況かもしれない。だが、それなら解決策を考えればいい。そうだろ?」
「…………」
「一見不可能に見えることでも突破口は必ずある。俺達で探していこうぜ」
「……でき、ますかね?」
「できるよ。俺達は、”いいコンビ”なんだろ?」
「……!はい!」
「R-9とフォースみたいなもんだ」
「……わかりません!」
「む……ま、まあそれはそれとして、さっき言ってた二人にもまた会える時が来るよ」
あまりにも根拠のない発言だ。しかし、ジャベリンは先程までよりも大分気が楽になっていた。そうだ、滅入っているだけじゃ何も解決しない。それに、ジャベリンは一人じゃないんだ。
指揮官は話を続ける。
「どんな地獄だろうと、活路を見出していかなくてはならない。俺はな……シューティングゲームでそれを学んだんだ」
ジャベリンは盛大にずっこけた。
「結局ゲームじゃないですか!返して!ジャベリンの感動を返してください!」
「何だと!大量に飛んでくるキューブに対応できるようになる感動が、ドリル(3万点)を大量に壊してハイスコアを更新する喜びが、お前には理解できないというのか!」
「やったことないもん!わかるわけないじゃないですか!」
「じゃあお前もシューティングをやるのだ!心配するな!お前の回避スキルがあれば何でもクリアできる!とりあえず『達人……」
人差し指でジャベリンを指しそう熱弁していたが、指揮官は急に冷静になり手を引っ込めた。
「……いや、すぐにはやめとこう」
「?どうしてですか?」
「お前と約束してたのを思い出した。そっちが先だもんな」
アウトドアの楽しさをジャベリンが教えるという約束だ。あの時彼は、適当な理由をつけ逃げているようにも見えたが、決してそうではなかったらしい。
「アウトドアかー。気分転換にもなるし、いいかもな」
「指揮官……」
「後お願いなんだけど、弁当作ってきてよ。趣味なんだろ?」
「えっ……あの時、ちゃんと聞いてたんですか?」
「まあ、一応。お前のことだし。だから一応、な」
そう言って指揮官はそっぽを向く。照れてると明言しているようなものだったが、巧妙にそれを隠す術を彼は知らなかった。ことシューティングにかけては様々な知識、テクニックを有しているが、それ以外はそうでもないようだ。
ジャベリンは嬉しかった。指揮官が自分のことを気にかけてくれること。わざとボケてなぐさめようとしてること。聞いてないようで、ちゃんと話を聞いてくれたこと。その気持ちを、彼女は言葉よりも、身体全体で表現したくなった。
「しきかーん!」
「あー、うるさいうるさい。ひっつくな……くすぐるな!やめろ、ホントやめろ!」
ジャベリンを引っ剥がそうと両手でぐいぐいと押す。しかし普通の人間が、普段戦闘をしているジャベリンに力で敵うわけもなく、離れてくれない。
「嫌です!放しません!」
「うざい!」
「本当はジャベリンのこと可愛いと思ってるくせに~。このこのー」
「な、何で覚えてんだよ!忘れろ!」
「指揮官が言ったからですー。だから忘れてあげません!」
何も知らない人には、この二人の無邪気な姿が果たしてどう見えるだろうか。仲の良い兄妹か、それとも気心の知れた友人同士か、それとも……。少なくとも戦争の真っ只中にいる上官と部下とは思わないだろう。
こんな二人が後に、様々な勝利を収め、その中途仲間になったホーネットと共にその名を海域に轟かせることになる。しかし、それはまた、別のお話……
完
「……とりあえず、戦争が終わって、地球が割れた時の対策を考えよう」
「予想がエグすぎます、指揮官!」
お後がよろしいようで……
これで終わりです。ありがとうございました。
・言い訳タイム
当初は、普通に話してるだけのジャベリンに、指揮官がシューティングネタをぶち込んでいくという漫才形式で、ホーネットとの戦闘も100字くらいで終わる予定でした。ですが読み返してみると、わからない人にはとことん意味不明な内容になっていたんですね。そこでネタを知らない人でも読み流せる範囲まで削り、色々真面目な要素を加えた結果、こんなものが出来上がりました。
なので、シューティングファンや、ジャベリンやホーネットを好きな方がこれを見てどう思うのかというのが非常に不安な所ではあります。
お一人くらい、気に入ってくださった方が、「僕たちは、(こんな話を)待っていたんだ」という方がいてくれたら、嬉しい限りです。一人だったら僕“たち“じゃないだろって話ですが、それは置いといて。
とにかく、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
・削ったネタの一部
ジャベリン「このキューブを使って新しい艦を建造しましょう!」
指揮官「ちょ、ちょっとそれ近づけないで」
ジャベリン「え?何でですか?別に危なくないですよ?」
指揮官「危ないよ!?死ぬよ!?俺らはキューブを壁にすることでしか、キューブから身を守れないんだ!」
ジャベリン「言ってる意味がわからないです!」
追記:この前久々にキューブラッシュに挑んだら普通に全機失いました。