となりの席の東風谷さん   作:平丙凡

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現役JK早苗さんが見たかったんです。



02:ちょうじん東風谷さん

《03/遊園地にて》

 

「林道くん、どうしてあなたがここにいるの?」

 

 それはこっちが聞きたいんだって。

 とりあえずいまはその言葉を呑み込んで、険しい顔をした東風谷と会話を試みる。

 それにしても彼女の服装は何というか、異質だった。

 翠色の髪はそのままに、服装は何故か神社の神職のような袴服――にしては脇だったりへそだったり露出が多い気が――を着ている。左手にはノコギリの刃のような形をした白い紙が先についた棒を持っている。どうにも遊園地に遊びに来るような服装には見えない。コスプレにしても少し趣味が悪い気がする。

 そこまで考えて、こんな寂れて錆びれた廃墟じみた遊園地に彼女がいること自体がおかしなことだという事に今更気づいた。

 もちろん、自分も例外ではなかった。

 

「なんだかって言われたら、女の子を追いかけてて、それでいつの間にか迷い込んだってだけだ」

「女の子を? 追いかけたって? ……ちょっと待ってよ、それって事案?」

「違うわ!」

 

 どちらかと言えば急によくわからないことを言い出したあの幼女のほうが犯罪者じみていたぞ。

 

「そういう東風谷はどうなんだ。さっきの空中浮遊といいその服装といい意味がわからん。どういうことなんだよ?」

「うっ、見られてた……」

 

 小声。さっきバッチリ目合ってましたね。

 

「こんな廃墟に一体何の用で……」

「―――! 危ない、伏せて!」

「えっ?」

 

 突然叫び立つ東風谷。その瞬間だった。振り向いた自分の後方から、とてつもない速度で飛んでくる“何か”を見た。

 

「うわっ!」

 

 咄嗟になにがなんだか分からないまましゃがんで避ける。それと同時に東風谷の「はぁっ!」という声が聞こえる。金属音、甲高く鈍い落下音。

 ゆっくり起き上がると、先程の高速移動物体は東風谷があの紙がついた木の棒で弾き落とされていた。

 

「な、東風谷お前……なんだよそれ!?」

「説明は後で! 今は逃げる、さもなきゃ死にますよ!」

「それは勘弁だ!」

 

 東風谷に左手を引きずられて走る。その間にも先ほどみたいな物体が息つく間もなく飛ばされてきている。精度が低いらしくさほど脅威ではない。それでもいくつかはこちらな飛んで来るのだが、東風谷がフルスイングで弾きまくる。

 

「はぁっ! せいっ、やあっ!!」

 

 およそ木の棒とは思えない剛強さでいくつもの物体を弾き飛ばしていく。一体なんだその強さは。なんだこの奇怪な状況は。

 

「キリがない……()()()()()! 林道くん!」

「えっ、ええっ!?」

 

 嘘だろう。いや事実だ現実だ。東風谷が自分の身体をグイッと引き寄せて腰から抱え込んだと思うと、自分の身体は()()()()()()()

 いや正確には自分じゃない。自分を抱えた東風谷が浮いているんだ。そのまま着々と地面から離れていき、とうとう離陸と言って差し支えないほどの高度まで上昇した。

 

「ーーーーーーーー!」

 

 獣の鳴き声。同時に飛んでくるあの物体。自分の視線の先――今にも落ちそうな観覧車の上、何かがいる。さっきから飛ばしてくるのはあいつか。

 

「――風よ、哮ろ!」

 

 東風谷が木の棒を振るう。すると何故か、風がその方向に流れるように集まり進んで、一つの意思を持つ塊になったかのように物体を押し出していく。――その様まさに、風の爆弾。

 ……なんてこった。東風谷がなんか腕振ったら風が生きてるみたいに怪物めがけて吹き出した。

 

「今のうちに行きますよ!」

 

 速度を上げ、どこかへと飛んでいく東風谷と文字通り腰巾着な自分。

 ――オイオイオイ、もしかしたら自分は、自分で思っている以上におかしなことに巻き込まれてるんじゃないか?

 

 

 ◇◇

 

《04/となりの彼女のカミングアウト》

 

 大飛翔から数十分。東風谷の腰元で生きた心地の全くしなかったフライトを終え、自分は久方ぶりに地面へと足をつけた。

 

「し、死ぬかと思った……」

「ホントですよ! 全く、あそこから咄嗟に退避できたから良かったものを、何でいたんですか! あんなところに」

 

 空中飛行後のグロッキーで四つん這いになってみにくくカッコ悪く地面にへばりつく自分に容赦なく非難を浴びせてくる東風谷。

 

「そんなこと言われたって……」

「あら、何か言いたいことが?」

「いえなんでもないです」

 

 穏やかとは程遠い冷たすぎる笑顔で東風谷は自分の言葉を遮った。なんだよそれ怖い。今までの彼女からは想像もできなかった一面だった。

 

「びっくりした……突然走りこんでくる人が来たと思ったらクラスメイトだし、なんかやけに堂々としてるし……そんな人だとは思わなかった」

 

 それは非難してるのか単に驚いてるだけなのかのどちらかで自分の心の傷つき方が変わるんだけど。まあどっちにせよよくは思われてないはずだな、これは。

 

「いや、自分だって驚いてるよ。あの東風谷がよくわかんない力で怪物と戦ってたなんてさ」

「私は……こんなこと、周りに言うわけないじゃないですか」

「そりゃそうだ。信じられるわけない。見られたら大変だよ」

「そうですよ。()()()大変なんですって」

 

 すなわち、自分のことである。自分は故意ではないが東風谷のあの姿を見た。それは、東風谷が回避したいことそのまんまだった。

 

「林道くん、あなたは私の秘密を見てしまった。それが何のことかわかりますよね?」

「わかんないな。……空飛んだこととか、意味不明に強い木の棒のことなんて」

「全く…………ちょっと付いてきてください。誤解されても困るので」

 

 露骨にため息混じりに東風谷は言うと、自分に背を向けてどこかへと歩いていく。

 ――そういえばここはどこだろう。どうにも今更すぎる疑問が浮かび上がる。

 自分が這っていた手をついていた場所は石畳。周りは背の高い大樹で囲まれていて、東風谷が歩く先には小さな家、その少し横には豪勢すぎる神殿のような建物。極め付けは、自分の背後の大きな鳥居。

 東風谷に連れられて降ろされたのは神社だった。なんともまあ、不思議体験にはおあつらえ向きな絶好のロケーションだ。

 

 東風谷が小さな家の戸を開ける。そこは平凡な一般家庭と同じ玄関。

 

「ここは?」

「私の家。さ、上がってください。少し話をしましょう。お茶くらいは出しますから」

 

 連れられたお茶の間は、なんとも質素というか、平凡、庶民的なものだった。こたつにみかん、床に置かれた雑誌や新聞。生活感をこれでもかと主張してくるそれらが、さっきまでのことを夢の中の出来事のように思わせてくる。

 

「どうぞ」

 

 コトン。東風谷がキッチンからコービーカップを二つ持ってきた。甘い匂いのするホットココアだ。

 

「お茶を出すって言いましたけど、ココアで良いですよね」

「アレは決まり文句みたいなやつでしょ。そう言えば、そこで真面目にお茶を出す人は信用していいってさ。言葉を額面通りに受け取っても大丈夫な人らしい」

「じゃあ私は信用ならない人間ってことになるかな?」

「秋の寒い日にココアを出す人は他人の気遣いができる優しい人だと思う」

 

 寒さに凍えた身体にあったかなココアがしみるしみる。いやぁ、心が穏やかになるね。

 

「あらうれしい。じゃあこたつの電源つけます?」

「そこまでじゃない。というかいま十一月じゃないか。まだこたつを出すには早いと思うんだけど」

「うちには寒がりさんがいるんです」

「誰それ」

「私だよ」

「ホント?」

「ウソ。今ここにはいませんけど、その方です」

「へぇ」

 

 閑話休題。

 出されたココアを半分ほど飲んでまったりした後、不意に東風谷が話を始めた。

 

「この町に伝わる伝説、知ってますか?」

「んーと、『ミシャグジさま』とか? 『諏訪大戦』の話もあるか……。色々あったよな」

 

 補足すると、『ミシャグジさま』はここ諏訪町に伝わる古来の土地神さまのこと。なんでも祟りにまつわる怖い神様らしい。

『諏訪大戦』というのは、日本書紀なんかに出てくる神様が諏訪にやってきて侵略しようとするけど、諏訪に住んでいた神様に抵抗されて戦争する話。結末は確か闘いに負けて、支配されちゃって終わったような。

 

「結構詳しいですね。じゃあ、その話のどちらにも関わってくる『諏訪神さま』は?」

「『諏訪神さま』……さっきの話のどちらにも出てくる『ミシャグジさま』の異名で……確か、諏訪神って名で実際に祀ってる神社があるんだったか」

「はい。実際に今でも、この町で祀られています」

「あれ……もしかして」

「もうわかりますよね。そうです。()()()()がその『諏訪神』を祀る神社、守矢神社そして私は守や神社に生まれた……えっとその、生まれたんです」

 

 なるほど、神社生まれのKさんってわけか。

 

「へぇ。つまり神社の家に生まれたから空を飛んだら不思議な力を使えたりしたってわけか――ウソだろマジで?」

「うーん、フィフティーフィフティー?」

「なんでソコ微妙なのさ」

「説明すると長くなるんです」

 

 ――つまり、設定過多なんですよ。

 東風谷はそう言ってこの話の先を話そうとはしなかった。

 

「じゃあ、あの怪物は何。そんでもって、東風谷は何をしていた?」

 

 そう切り出すと、東風谷は顔色を変え、自分を見る。先ほどまでの気の抜けた雰囲気は去り、そこには緊迫が充満している。

 

「……その前に林道くん。あなたは、妖怪やその類の存在を信じる?」

「それっぽいのはさっき見た。なんだ東風谷。あの怪物は本当に妖怪で、キミがやってることに関係があるのか?」

「知りたいんですか?」

「見てしまった。忘れられるわけも無いし、知らないふりも出来ない」

 

 腹芸が出来るほど器用な人間ではないと自分はよく自分のことをわかってるつもりだ。だから知りたいことは知りたいし、理解したいと思ってる。……それがもし、知らない方がいいことだとしたって。

 

「――じゃあ、今から私の言うこと、信じてくれる?」

「え?」

 

 そう言った東風谷の声音は、どこか切実だった。まるで願うように、乞うように。とても悲しげに。

 

「……わかった」

 

 ほんとは全然わかってなんかいないんだけど、思わず頷いてしまった。

 そして、そのままそこが分岐点だった。

 

 

 

「―――私、神様なんですよ」

 

 かくして、自分は隣の席の少女の衝撃的カミングアウトを耳にするのだった。

 

 

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