悠然とした足取りでハドラーはポップ達に近づいた。
無論警戒はしているのだろう、歩いているだけなのに圧力が重くのしかかる。
しかしそれに不快さを感じないのは何故だろう?
倒れているポップは不思議に感じる。だってその気配の仕方が、アバンに似ているからだ。
片や勇者で片や魔王、宿敵同士の者達が同じ気配だなんて。
「そんで、お前さんはこいつの策略止めにわざわざ本陣からおこしなすったってか?」
ポップの戸惑いをよそに、マトリフが尋ねる。
「久しいな妖怪じじい、人間の癖にまだ生きているのか。
先程も言った通りだ、流石に貴様も呆けたか。」
「けっ!抜かせ、そんじゃあそいつはお前の指図じゃなくかってに来たのか。」
昔の自分が知っているハドラーならば、勝手をした部下は見殺しにするか自ら殺すかをしていたのに、今は腕一本で済ませようとしてやがる。
-三流魔王-昔は本人にも面と向かって言ったのだ。
実力があるだけで中身が全くともなっていないと、だが今はどうだ?
「何故そのようなまどろっこしい事をせねばならん、戦場で会えばいやでも戦う。
その時に討てばいい話ではないか。」-魔王-らしい答えをさらりと言ってきた!
「ポップ!小屋の中のティファに伝えておけ、下手な策略を止められずに迷惑をかけたとな。」・・・・・・はぁ⁉
こいつが・・虫けらと評していた人間に、それも勇者の身内に謝罪って何だそれは!!
策略は確かに褒められたものではないが、今は大戦中だぞ!!こいつは一体何を考えているのだ!
こんな事であ奴の中での俺の評価が下げられては困る。
マトリフの内心で驚愕の嵐が吹き荒れているように、ハドラーも内心で大焦りだ。
-やっぱり駄目駄目なままでしたか!こんの三流魔王が!!!-とか言われたら困る!!
それは絶対に嫌だ!自分はさっさとティファと戦いたい!それも手加減することなくバキバキに!!
その為には評価を勝手に下げられて戦う相手とみなされなくなるのは大変に困るのだ!そうだ!!
「ザボエラよ、自力で帰れるな。」
「・・しかし・・」-ギロリ-
「ひぃ!分かりました!!!」-ルーラ-
ザボエラは帰ったな。
「ポップ、伝言はいい。直接自分であ奴に言う、小屋に入らせてもらうぞ。」
レベルアップをした自分を見てティファがどう評するのか気になる。
ティファに会うのは地底魔城以来だ。少し楽しくなってきたし、妖怪じじいは放って置こう。
「・・・・・・はぁ!待てよハドラー!!!!!」
あり得ない事だらけのオンパレードの上に、こいつは更に何言ってやがる?
「小屋に入るってどういうつもりだ!!何考えてやがる!!」
「別に危害を加える気は全くない、ティファだけ起こして詫びるだけだ。別によかろう。」
「伝言はきっちし伝えてやるからお前も帰れ!!」
打倒魔王軍を掲げている勇者一行の者としては大問題な発言なのは承知だが、今ティファが小屋にいない事を言う訳にはいかない。
この様子だと探し出して合いそうな気が・・いや絶対に草の根分けても会おうとしそうだ!!
「・・嫌に邪魔をするがさっきも言ったように俺は今日は攻めに来たわけではないぞ。」
「んな事言ってんじゃねえ!!何でお前はいつもそこまでティファにこだわんだよ!
デルムリン島でこき下ろされたことをまだ根に持ってんのかよ!!ちょっと口が悪かっただけだろうがよ!」
「・・うるさい奴だな・・」
ハドラーは頭をがりがりと掻きながらポップに呆れている。
あいつの事を全く分かっていない、ティファを少し口が悪いだけで済ますとは。
それにデルムリン島でのことなぞとっくに気にしていないのに。
「いいからさっさと許可をしろ!すぐに済む!!」
「そもそもなんで俺に許可求めてんだよ!」
「無許可で入ればあ奴がうるさいだろう。」-人様の家に勝手に入るな!!-とか・・魔王のダンジョンは土足で踏み荒らされても誰も責めないのに・・まあ地上を蹂躙しているのだからお互い様なのだろうか。
「またティファネタか・・誰が許可するか!!」
「何だとポップ!図に乗るな!!」
埒もない事を考えつつも、ポップとぎゃんぎゃん口論する羽目になったその時
「ちょっと待てよハドラー。」
ポップとハドラーが声の主を見ると、真剣な瞳をしたマトリフが「今お前をこの場で倒すぞ。」
宣言をした。
倒す?今この妖怪じじいは確かにそういったが、「マトリフ、何度も言わせるな。俺は本当に戦いに来たわけではない、未だとてあ奴に会ったらすぐに帰るつもりだ。」
「だからだよ。」
「何だと?」
「今のお前さんが昔のお前さんと全く違うから倒すんだよ。」
何なんだよ、どうしたらあの三流魔王がこんな一流魔王になれちまったんだよ!!
昔のハドラーならば先程の策略を自分で考えて実行をするか、勝手をした部下を敵の眼前であっても処刑していた。
なのに腕一本で終わらせて、あまつさえ敵に詫びてほしいと人間の子供に伝言を託そうとまでしたのだ!
人間なぞ碌に見ておらず、アバン一行以外は虫以下とさげすんで侮っていた奴がだ!
かつては傲慢であり力があるだけで慢心が多く、それ故に隙も大きかった。
なのに今は口論している最中でさえ自分に対して気配をきちんと配っているって!隙が全く見当たらずに力量が段違いに跳ね上がっちまっている!!
ただ強い者だけではなく、中身も貫禄も付随しちまって風格も上がり、自分の目から見ても最早一流魔王としか評しようがない!!
はっきりと言えば別人だ、それに先ほどからハドラーはしきりに-ティファ-に逢いたがっている。倒すべき勇者と正々堂々というでなく、その妹相手にって・・まさか!
ティファが嬢ちゃんなら、嬢ちゃんは昔坊やに-勇者の心構え-を説いていた。
ポップがティファがデルムリン島でハドラー相手に何か言ったといっていたが!
まさかこいつ相手に-魔王とは・・-とか言ったんじゃねえだろうな⁉
だとしたら最悪だ!!坊やは正しく一流の勇者になったと風の噂で聞こえて大喜びをして年代物のワインを開けて一人で祝いをしたが、こいつが一流魔王になってもちっとも嬉しくねえぞ!!どう責任とんだよ嬢ちゃん!まだ後ろには大魔王が控えてるんだぞ!!
最早内心で泣けてくる、自分の宝物の一人が魔王軍の戦力を強化しちまうだなんて!!
会ったら絶対に説教の雷落としてやる!
大魔導士・マトリフの嘆きで今宵はここまで。
百歳の百戦錬磨のマトリフを内心であってもここまで追い込めるところが主人公の力です。
マ「そんな力いらねえぞ――――!!!!」
以上マトリフ導士の叫びでした。