ハドラーが退き小屋の中も落ち着いた深夜に、マトリフは-嬢ちゃん-の話しをした。
相手はダイでもポップでもなくヒュンケルを相手に。
ハドラーが去った後ダイとポップは魔力負荷で体内が傷ついたマトリフを急いで小屋に運び込み、眠っている仲間全員を起して事態を説明した。
「おのれ!ザボエラめ!!」
やはり一番にクロコダインが怒りに燃えた。
あのバルジ島で取り逃がさなければ良かったと臍を噛んで。
「ハドラーも策略で来たのか?」
ひとしきりクロコダインに怒らせた後、ヒュンケルが不思議そうに尋ねる。
バルジ島で会ったハドラーからは考えつかない、そもそも倒したはずだ。
まあ何度来ても倒せばいいかと思うのだが。
「いや、あいつはザボエラ止めに来たって。」
一通りの説明の後にマトリフがここに来た用件を話した。
ポップ達の助けになる物がないかとアバンから預かった古い物をあさったら、アバンの書が出てきた。
地の章は技の・海の章は魔法と闘気技の・空の章は心の書と、アバンの教えが詰まったものだと。
渡されたダイは早速それの書を読み始めた。
そこには今の自分達の悩みや辛さを見越したように、助言が書き記されていた。
アバン先生とはどこまでも凄い人だ、この場にはもういないのに自分達を教え導いてくれる。
久方ぶりの師の温かく優しく力強い教えに触れて、ダイ・ポップ・ヒュンケルは涙がこぼれそうになり、レオナは何かを決意し、会った事のないメルルとクロコダインをも虜にした素晴らしき書だ。
「師匠、届けてくれてありがとう。」
ポップが代表してお礼をして、さあみんなで休もうとしたところにヒュンケルが待ったをかけた。
別室でダイ・ポップ・マトリフに聞きたい事があると。
「ハドラーはザボエラを止めに来た後何をしようとした。」
三人を別室に連れ込んだヒュンケルは直球で聞いた。
今のハドラーが弱った敵と戦う真似をするとは思えない、ならば何故戦闘になったのか疑問が残る。
「いや・・その・・・」
「当ててやろうか、ハドラーがティファに会おうとしたかその類の事を言ってお前が止めようとしてか?」
「なんで・・」
「バルジ島で散々ティファの事を聞いていたあいつが、今日に限って気にしない訳がない。
それに隠していたわけではないが、あいつはティファと地底魔城で会って・・」
「何だって!!それ本当かよヒュンケル!」
「ヒュンケル!その時ティファなにもされなかった⁉」
兄二人は寝耳に水状態で物凄く驚いてヒュンケルの言葉を遮って詰め寄った。
「・・・・俺の捕虜だからと見逃していた。とにかく、あの二人は奇妙な縁が出来てしまっている。
注意した方がいい。」
「そんな縁!!俺がぶった切ってやる!!!」
この件に関してはポップよりもダイの方がブチ切れた。妹に近づく悪い物はすべて自分が排除するつもりだ。
ヒュンケルとしては注意喚起だけのつもりが、ダイを宥めすかす事になりぐったりとした。
まさかダイがここまで妹に過保護とは・・-あの件-は今は黙っておいた方が賢明だ。
そう思っていたのだが、あの件の事はダイとポップを寝るように言って、自分だけ残るようにと言ったマトリフに白状させられた。
「そのティファって奴は、地底魔城でハドラーと少しの口論で済んだのかい。」
ヒュンケルの少しの間の不自然さであっさりと勘づかれてしまった。
それ以上の事があっただろうと。
流石は元先生のお仲間、隠し通せんか。
どうしたものか、ヒュンケルは今本気で悩んでいる。
自分は-人間-の弱さをよく知っている。
今の一行は皆がティファの良さを知っているからいいが、この先ティファの言動に恐れをなす者が出てこないとも限らない。
まさか丸腰の娘が、捕虜の身で堂々と魔王を倒します宣言をしたといっていいものかどうか、しかしそこはまだ何とかなるだろう。
勇敢を超えた無謀だと、それでも勇者一行の者として賞賛をされる道がないでもないが、今日バランに言った事の数々の事はどうすべきか。
あの場には自分達とバランしかいなかったからよかったものの、ティファをよく知らない他者が聞けばどうなるか。
おそらくティファは気のふれた者として幽閉をされかねない!
何故ならば愛した者が人間以外でもいいとはまだ常識の範囲内だが、-魔王- -大魔王-
であってもいいという考えを持って、それを口に出してしまったのだ。
平時ならばまだおかしな者として放って終われても、今はその者達が最大の敵なのだ。
それなのにその二人を愛の対象のたとえに使っては、下手をしたらティファを人類の敵だという輩も出かねない。
人間は弱く、困難から目を背けるために迫害をする者もいる。
その者達の目に留まりそうなことをティファがしてしまっているのに気が付いているのは自分とおそらくはレオナ姫だけかもしれない。
ダイとポップがティファの事を話して笑っているたびに複雑そうな顔をしていた。
国を守る王族の身としては、ティファをどう扱うべきか戸惑っている印象を受けた。
ただのレオナとしては、思い人の妹で共に戦った仲間として受け入れられても、王女レオナとしては決めかねているようだ。
そのティファの事を、先生が信頼をしていたマトリフ師に相談をすることにした。
こいつは、えれえ事になっちまっている。
ヒュンケルは自分との戦いの始まりから地底魔城での口論と-倒します宣言-までを全て話し、終えた後今回の一件の事を全て話した。
自分が見て聞いて感じた事の全てを。
「ティファに少々自重を促した方が良いのでしょうか。」
自分はティファの温かさをよく知っている。その温もりに自身が救われたからだ、クロコダイン諸共に。
その事も話したが、しかしティファの考えは大半の人間にとっては異質なものなのもよく知っている。
嬢ちゃんの奴!あの後どう育ちやがった!!
実力があるのは出会ったころから分かっていた!あの強さを鍛え続けていれば、更に力量が上がった事も容易に想像が出来る。
だがしかし、あの子はとても臆病な子供だった。
力があるから世界に嫌われるのではないかと、怯えて実力を隠していた子が!!
それを全てひっくり返すようなことをし続け、クロコダインとヒュンケルの心を救い、バランの十二年間の憎しみを取り払ったとは。
自分も嬢ちゃんの事をよく知っている、仲間の為にその身をボロボロにしてしまう優しすぎる子なのを。
だからこそヒュンケルの話を聞いて驚いても、次第に胸にすとんと収まりがつく。
嬢ちゃんらしいと。だが世間の者は?
-おじさんは私が怖くないの?-
不意に五年前の嬢ちゃんの問いが耳に蘇る。
このままでは、かつて嬢ちゃんの言った通りになってしまう!自重を促すべきか?
それもあるが、分からない事がある。
世界に怯えていたあの子供が何をきっかけにここまで強くなったのか。
その事が引っ掛かり、思考をうまくまとめられない。
百戦錬磨で通り、あらゆる悩み事を相談されてきた自分が何てざまだ。
本当に嬢ちゃんには振り回されまくる。
「マトリフ師、これは俺がティファから貰った言葉の中で特に大切にしている言葉ですが。」
思い悩むマトリフに、ヒュンケルが話の続きをした。ティファのすばらしさを知って欲しくて。
「世界は酷過ぎも弱すぎもしません。」それは!
「案外しぶとくて強いのです。」その言葉は、俺が嬢ちゃんに贈った言葉。
「これは俺とクロコダイン、そしてバランを助けるとティファが決めた時に贈ってくれた言葉です。」
-だから大丈夫、機会はたった一度でも償う道を歩きましょう。私も共に行きます-
その言葉に、敵で大罪を犯した自分達三人の心は確かに救われたのだと。
嬢ちゃん!そうか!!俺のあの時の言葉を信じてくれて胸に刻み込んで今の嬢ちゃんに・・あの星空の下で自分が言った言葉を信じて続けてくれて、力・知識をどんどんと蓄えて、温かい心も共に育てて種族どころか敵でも悲しんでいる者がいれば助けようとする、そんな-滅茶苦茶-な子に育ったのか、世界を信じてくれて。
幼いころの主人公の心に植えられた種が芽吹いて、今の主人公になっています。