勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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珍しい人の視点です。


親って奴は

ティファの話を聞き終えたマトリフは我知らずに涙がこぼれた。

自分はあの言葉をさして信じてはいなかった。

世界の大半が酷き事が多いのを知っているから。

だが、贈られた嬢ちゃんは信じてその道を歩んでくれている。

それでは今のティファの心を育てたのは、紛れもなく自分ではないか!

今聞いたとてつもなく、そしてとても素晴らしいティファを世に送り出した。

自分が嬢ちゃんの心の親だと思うと嬉しくなる。

満天の星空の下、小さなティファを抱き上げてあやしたあの情景が思い浮かぶ。

 

-何でノヴァに言ったの!!-

バジリスクの一件の真実を包み隠さずにノヴァに話した自分に激怒をしていた。

世界を今一つ信じていなかったあの幼子が、今や世界を愛して助けようとしてくれている。

-おじさん!-あの笑顔が目に浮かぶ。

自分が落とした種が芽吹き、育って大きくなり、そして今に繋がっている。

 

会いたい、今すぐに会って全ての事を受け入れて抱きしめたい。

いつしか涙は消えて、自然と笑みが浮かぶ。

 

「マトリフ師、もしやあなたはティファをご存知なのでは?」

どう見ても今のマトリフからはそうとしか思えない。

バラン達同様に、あちこち旅回りのような事をしていたティファと出会っているのではないかと。

「ん・・いや、俺の知っている嬢ちゃんがお前達の言うティファかどうか分からんが、似たような子を知っている。」あの時はネイと名乗っていたからな。

「ネイ、ですか。」

ネイとは、誰でもあって誰でもないという意味だったはずだとヒュンケルは首をかしげる。

 

「ああ、ティファって奴に似たネイの話をしてやる。」

そしてヒュンケルに語った、自分の知る限りの嬢ちゃんの全てを。

ヒュンケルならばいい気がした。話して七つの頃から並外れた嬢ちゃんの話からティファだと分かっても、他の誰よりもすぐに受け入れそうな気がする。

-そうですか-と言って、己の胸に仕舞い込んでくれると。

この一行の誰か一人にでも、ティファの全てを知って欲しいと願って。

 

案の定だった。自分の話した嬢ちゃんの凄さや、嬢ちゃんがティファだと気が付いても、ほんの少しだけ目を丸くしたきりで驚きも怖れもせずに、聞き終わった後に小さな声で、

「そうですか。」と一つ言ったきり、何も聞いてこなかった。

「お前さんは怖くはないのかよ。」ヒュンケルを試すことにした。

 

「何がです?」

ヒュンケルは昔、マトリフがティファに同じ事を聞かれた時のマトリフと同じ反応をした。

ティファの何を怖がるのだと。

「小さい頃からそんなとんでもない強さと、並み以上じゃあ片付かねえ知識力を持ってんだぞ。」そういう意味ではよく坊やが嬢ちゃんとの仲を続けられると感心すると言っていて気が付く。

子供の頃ならばともかく、今のノヴァは大人たちの常識の中にいる。

ならば当時のティファがどれほど世間の常識から乖離されているのか気が付いるはずなのに、来る手紙にはいつかティファと自分と三人で焼き菓子を食べたいと必ず書かれている。

 

ある意味ノヴァも世間とはかけ離れた者なのかもしれない、それはこのヒュンケルも同様のようだ。

当時からの実力と万能薬の発案そしてティファに贈った言葉、全てを話してもティファを怖れていない。

「それらがそのまま育ち、今の素晴らしいティファになってくれたのでしょう。

マトリフ師、俺はこの一行を代表して礼を言います。

―貴方の嬢ちゃん-に素晴らしい言葉を贈ってくれたことに感謝をする。」

ティファに贈ったマトリフの言葉が、巡り巡って自分達の心を救ってくれた事も含めて。不思議な縁が、この世界を少しづつ善き方向に導いてくれると信じて。

ヒュンケルはティファだと分かっても嬢ちゃんと言った、貴方の嬢ちゃんと。

ティファは一行の仲間、しかし-嬢ちゃん-はマトリフがただ一人大切にしている者だと。

「ヒュンケル、ありがとよ・・」自分の心情を分かってくれて。

「いいえ。」ヒュンケルはマトリフの礼にくすぐったそうに笑う。

自分もティファを大切な女(ひと)なのだから、何となくマトリフの気持ちが分かっただけだと。

 

しかし自重を促すことともう一つ!二人は頭を痛める、ハドラーの一件は本気でかなり不味い!!

倒します宣言をした事により、宿敵の勇者よりも目を付けられるだなんて!!!

しかしだ、自分達がこんなにやきもきしても当の本人が今のハドラーを見ていそいそと戦いの準備をし始めるのが目に浮かんでしまう。

一流魔王になりました!倒させていただきますと張り切って。

 

 

嬢ちゃんの奴、素晴らしいこのまま育ってくれたがそれ以外の変な部分もきっちりと育ってやがる。

昔からそういった変さははちらほらあったが、ここまでになるとは。

良さは真っ直ぐ育ったが、その角度が世間様の者とは違う斜め四十五度の角度で突っ走って育ってしまったような。

そう思うとため息をつけばいいのか、笑って見守るべきか悩むところだ。

いつだって嬢ちゃんに振り回される。

だがそれでもいい、-愛娘-に振り回されるのは、いつの世の時代の父親はそんなものだろう。




マトリフさんの視点でしまります。

ポップの心の師がまぞっほであるように、主人公の心の師は紛れもなくマトリフさんです。

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