勇者一行の楽しき休日
バラン戦の次の日には、ヒュンケルも入れた全員がマトリフの洞穴に強制連・・もといご招待をされた。
朝一で叩き起こされてナバラとメルルも巻き添えを食って。
「お前らの面倒くらい見るのは簡単だ。フォルケン王にも許可貰ってんぞ、ついでにお姫さんの事も伝えておいた。」
お年寄りの朝は大体早い、日の出前に起きてあれやこれやの事をあらかた済ましてから全員を拉致っても元気な百歳じいさんなマトリフであった。
最初は徹底的な回復を図った。
回復呪文の使い過ぎでは体の自己修復機能を衰退させてしまう、そこで万能薬の出番だ。
表面は治っているのでそれぞれにあった飲み薬を微調整しながら作って三食毎回飲ませる。
さて飯はどうするかと考えていれば、三賢者のエイミが調理器具と食材を旅人の袋に入れて張り切った顔をしてやってきた。
「皆さんのお食事はお任せください!」瞳を煌めかせて張り切っている御様子。
エイミならば料理や家事全般が出来、バルジ島の一件で一行とマトリフとも顔見知りであり、城に帰ったレオナが早速手配をしてくれた。
「本当はご自身で来てダイ君に食べてもらいたかったようですが。」
-お姫様って・・-ぽつりとこぼしたことをダイに告げれば、ダイは嬉しそうに顔が緩む。将来は毎日手作り食べたいな~とルンルン気分。
ちょっとむかっ腹が立ったのは内緒なポップであり、周りは温かい目で二人の関係を見守る事とあいなった。
さてこれから昼食をと言うところに、ダイの肩に鳩がとまった。
「あ!ティファの鳩、足にリングついてる。」
「何が届いたんだダイ。」
「ちょっと待ってよポップ。」
急かすポップを止めつつ、ダイは鳩の足についているリングと手紙をとり、先に手紙を読む。
ダイ兄達へ、鳩は無事に届きましたか?
兄に渡した鳩さんが辿り着く魔具を渡したのは昔の事なので心配です。
さてこちらは薬づくりに勤しんでいますが、料理をしていないと料理人とは言えません。
せめて昼食は鳩さんで届けさせていただきます。
朝と晩くらいは自分達で作るように。
リングの中には寝袋も入っています ティファより
手紙を読んだ二人はすぐにテーブルの上を片付けてリングの中身を出した。
寝袋は三つに、大人がゆうに三人は被れる毛布が入っていた。
三つはダイ・ポップ・ヒュンケルで、毛布はクロコダインのようだ。
そしてお目当てのランチボックスがひい~ふう~みい~よっつもある。
それぞれに野菜だけのサンドイッチ、肉だけのサンドイッチ、卵とレタスのサンドイッチと、もう一つはクッキーとアメ一袋が入っていた!
ランチボックスの中にも手紙が入っていた。
取り急ぎ作ったものなので、凝ったものは出来ません。
リクエストや入用なものがあれば鳩さんに手紙を付けて送ってください。
出来れば近況と、どなたか食事を一緒に食べる方の人数が分かれば助かります。
もしも大人の方がいればすぐに言ってください、お酒も入れさせていただきます。
紅茶の時と同じく、温かい手紙が疲れ果てたダイ達の胸を温めてくれる。
「ティファのサンドイッチ!いただきます!!」
「うんめえ~パンも手作りなのかな?」
「うむ、この肉入りがなんとも言えんな。」
「・・・アメか・・」
「ほ~ん、うめえじゃねえか。」
男四人は単純に喜んだが、張り切ってきたエイミは複雑だ。
「エイミさんもどうぞ、美味しいんだよ。」
「沢山あるからみんなで食おうぜ。」
その複雑な思いもダイ達の天真爛漫さには勝てずに、夕食の手伝いをすることにしてお相伴に預かるのが日課になった。
その日の昼食を食べて、ナバラとメルルはテランの帰途についた。
「アメがもっとあれば・・」
「酒は頼めるか?」
「えっと、おっさんが酒で、ヒュンケル・・アメ沢山ある気がすんだがな。」
それぞれの注文をとっているポップが胡乱な目つきでヒュンケルを見る。
形は手作りでごつごつとした小石のようだが、十粒以上はありそうだ。
それでももっと欲しいって食べ過ぎじゃね?
「・・・駄目か?」
あ―――、物凄く強くて頼りになる兄貴弟子が、たかがアメ如きで捨てられた子犬のような目をしないでくれ!!色々と切なくなるから!
色々と負けたポップは返信にアメを書き込めば、次の日同じ量と注意書きが届いた。
曰く、一日で食べきらないように。
この量を一日ってとヒュンケル以外は注意書きに呆れたが、「駄目なのか。」
悲し気に言ったヒュンケルに戦慄が走った。
言われなければ食べたのかこの男は!!
元魔王軍にして氷の如くと言われた魔剣戦士は、完全にお亡くなりあそばしたのだった。
今はティファと一行をこよなく愛し、同じくらいにアバン先生との思い出が詰まったアメを愛して、頼れるちょっとずれて面白いアバンの長兄に生まれ変わっている。
そんな一行とマトリフは賑やかではないが穏やかな日が流れた。
その穏やかな日にも騒ぎが起こった。
三日目にマトリフが苦し気にして咳き込み、血が少し混じっていたのだ。
鳩を返す少し前なのでポップは急いで手紙を書いた。
-俺の魔法の師匠が血を吐いた!超高齢で三日前にも魔力負荷で血を吐いている。
何か薬ねえか!!-
祈るような思いで鳩を出せば、日が傾く前に戻ってきた。
足には手紙と緑のリングが付けられて。
症状の進行がどのくらいかまでは分かりませんが、魔力負荷であるならば内臓がかなり弱り、高齢であるならばそのまま養生されることなく高度な魔法を使い続ければ、早晩その方は死んでしまいます。
少なくとも三日は薬を毎食飲ませて安静にして、十日間は禁酒をさせてください。
「師匠!!今すぐこの薬飲んでくれ~!!」
手紙を読んだポップは青褪めて、ベッドに横たわっているマトリフの下にすっ飛んで行った。
「何だ~寝ている人間をいきなり叩き起こしやがって!」
悪態をつくが、どこか声に張りがないマトリフの声にポップは泣きそうになる。
「これ、料理をいつも届けてくれるティファからだ。」
「こいつは薬か、何でティファって奴は俺の体調の事を知ってんだよ。」タイミング良すぎだろうと、渡された薬瓶を眺めながら訝しむ。
水晶かなにかで覗き見てんのか?
「俺が頼んだんだよ、ハドラーの時も師匠血を吐いただろ。
あいつの薬だからきっと効く、頼むから飲んでくれ。
それにもうこの前みたいな無茶しねえでくれよ・・・俺が強くなって師匠の分も頑張るから!」だから死なないでほしい、アバン先生のように。
「そうかよ、んじゃありがたく貰うぜ。」
涙ぐむポップを見て、色々と察したマトリフはすぐに薬を飲む。
嬢ちゃん印の薬なら間違いはなく、飲むことでポップが考えている不安を消し飛ばせるなら安いもんだが「まっず!!!」本気で不味い!あの嬢ちゃん!この中に何入れやがった!!
良薬は口にとはこのことで、もう無茶しないでおこうと誓うマトリフであった。
その様子をヒュンケルは椅子に座りながら見るともなく見ていた。
師匠を楽させてやる、ポップの言葉が胸に響く。
自分はとうとう先生に苦労ばかり掛けて終わってしまった。
せめてアバンの長兄として、この一行を楽させてやりたい。その為にも体をしっかりと治さなければならない。
動けない間はアバンの書を読み過ごした。
地の章をダイと交代で読み、ポップは海の章と、マトリフに許可を貰って呪文書を読み漁る。
-スクルト- -バイキルト-に興味を持ち、全快をしたら契約呪文を試すつもりだ。
誰も死なせないためにも、使える手数はどんどん増やしていく。
その為に判断力・観察力を上げるためにマトリフと連日問答をしている。
戦いの状況をマトリフが出し、素早くポップが対処方法を答える。
少しの判断材料から一瞬の思考で最良の答えを見つけるのは並大抵ではなく、問答の時はマトリフは決してポップを甘やかさなかった。
少しでも間違っていれば喝を飛ばして、傍から聞いても泣きたくなる気迫だが、ポップはめげることなく喰らいつく。
マトリフもこの一行の無事の為に心を鬼にしてくれているのを感じるから。
一行がどうしても勝てない時はと聞かれた時、ポップは迷いなく答えた
とっとと逃げて再起を図る。
死んでしまっては元も子もないのだと自信満々に。
その答えを是とも非とも言わずに、マトリフは無言でベッドから降りてポップに近づいた。
基本問答はマトリフの部屋で、マトリフがベッドの上で身を起し、その近くにポップが座っているのだが、間違っても言葉がとんでくるだけなのになんだろうと思っていれば、
マトリフに頭をくしゃくしゃと撫でまわされた。
上を見ればにかりと良い笑顔の師匠の顔があった。
「へへ・・」
ポップは嬉しくなる。無言であっても、師匠が褒めてくれたと。
「皆さんご飯です!」
問答でお腹がすいているところにご飯の号令がかかり、ポップもすぐに向かった。
テーブルの上には今日もティファの手作りと弁当と、エイミさんが作ってくれたスープとサラダがある。
「パンお代わりある?」
「スープお代わり!」
「それは酒を・・」
「駄目だって!」
賑やかな食卓に怒声が一つ。
「少なくとも十日は禁酒させてくれってティファの手紙にあっただろう。」
問答の時と違って、酒は駄目だとポップがマトリフに怒ったのだ。
「・・分かったよ!」たく嬢ちゃんめ!手紙いいから本人が来やがれってんだよ!!」
「ふふふ。」
「何だよダイ、何笑ってやがる。」
「いやだってさ、ティファって凄いね。マトリフさんに言うこと聞かせちゃうんだもん。」
「・・・・薬の礼だ。」
マトリフのどこか照れた顔がさらにおかしく、食卓は今日も笑いで溢れかえるのだった。
原作とどんどん変わっていく一行でした。
ヒュンケルをいじるアイテムがアメなので、ちょくちょくと出すのを目論んでいます。
追記 呪文の間違えの指摘をいつもしてくださるななみん様に感謝です。