よろしくお願いします。
バランとの激突から早十日が経った。
全員の傷も最早癒え、ダイもクロコダインと共に模擬戦をしたら・・えらいことになった。
ライデインを自在に操り、トベルーラも習得をして完全に浮かれたダイは遺憾なく右手の拳の紋章を発揮して、空から落ちる惨事である。
「・・・・普通は大惨事じゃね?」
まっとう神経のポップは弟弟子の頑丈さにほとほと呆れた。
自分だったらペッちゃんこだろ。
「酷いよポップ!もっと他に言うことないの⁉」
「あ~お大事に?」
「なんでそこで疑問形なのさ!!」
そんもの、唾つけとけば治りそうだからだ。
そばで見ていたマトリフだとて、お義理で包帯を巻いたが薬はつけていない。
相手を務めていたクロコダインも、見物していたヒュンケルも心配している気配とてない。
ようはそういうことだ。
「・・みんな冷たい・・」
傷はいたくないのに心が痛くてダイはべそをかく。
ここにティファがいたら慰めてくれるのに、妹に会いたいよ~。
ポップは自分の頭をガシガシとかいてため息をつく。
ここ二日間、ダイは事あるごとにティファに会いたがる。
ハドラーが会いたがっていることを心配しているだけではなく、やれ一緒に寝たいだの、ギュッとしたいだの、こいつは重度のシスコンか?
確かにティファは愛らしくて可愛いが、こいつ妹離れできるのだろうか。
そんなダイは一時横に置いておいて、今回の要因対策の話し合いをマトリフ・クロコダイン・ヒュンケルを交えて話し合った。
原因は直ぐに分かる。
ダイの力が強くなった分、加減が難しくなった事だ。
こればかりはダイに戦いまくってもらって感覚を自力でつかんでもらうしかない。
もう一つの問題の方に四人は頭を痛める。
使える武器がない、ヒュンケルの魔剣もダイの一撃必殺の技に耐え切れずにボロボロと崩れ去る有様。
あれは大魔王が太鼓判を押していた魔装だったのに。
頭を痛めているところに希望の光が差し込んだ。
「今覇者の剣がロモスの武闘大会の景品で出されておるぞ。」
この一行に欠かせなくなってきたパプニカの困った発明家の名をほしいままにしているバダックの知らせに、ポップは目をむき落ち込んでいるダイの首をひっつかんで挨拶もそこそこにルーラで旅立った。
「あいつは、落ち着きのねぇ。」
「まぁ元気なのはいいことだ。」
「そうだな、ダイも随分と元気になった。」
「そうですの~、ダイ君の笑顔が戻ってきましたの~。」
弟子の粗忽さに呆れるマトリフを、クロコダインたちは思い思いに擁護する。
ダイは父親と戦った事に心を痛め、ポップはそんな弟弟子を心配しこの場にいないティファの事も心配をしどおしていた。
二人は隠していたつもりでも、大人たちには手に取るようにわかっていた。
殊更明るく振舞うダイを、躍起になって新呪文を身に着けようとしていたポップをずっと案じていたが、あの様子ならば大丈夫だろう。
ダイは吹っ切れたような本当の笑い顔を見せ始め、ポップは今朝から心が浮き立っていた。
その浮き立っていた理由は昨日の夕刻メルルが来たことによる。
バラン戦の後、体調を崩したフォルケン王の看病をしていたメルルがポップを訪ねてきた。
体調を持ち直したフォルケン王からの言付けともたらされた大量の回復薬の他に、
「ポップさん・・その・・良ければ使ってください・・」
ポップの為にメルルが縫った魔法使い用の服だった。
色も落ち着いた黄緑で、新しい靴もついていた。
「・・こいつを・・俺に・・」
「はい・・その・・気に入らなければ・・・」
「使う!大事に使う!!」
生まれて初めてメルルは男性を好ましいと思った、いわば遅い初恋である。
今まではこの力のせいで相手の嫌なところも透けてみえ、恋心を抱く前に幻滅をしてしまい終わっていた。
それを消してくれたのがこの一行であり、初恋の相手がポップとなった。
ダイの一行は全員が良い人達だ。
王女のレオナも、自分とナバラを取り込んで政治利用しようと気もなく、クロコダインとヒュンケルも、過去を打ち明けられても恐ろしいと思えなかった。
むしろこのような立派な人たちが、魔王軍にいたことこそが間違いなのだと思えるほど澄んだ心が分かる。
それにポップは、少々お調子者で臆病な心があるのも感じたが、その臆病さを上回る勇気を見せてくれる。
それが元で自己犠牲をしてしまい、心が張り裂けるかと思った。
自分をもっと大事にしてほしい、そう願って寝る間を惜しんで作った服を宝物のように喜んでくれるポップを愛おしく思う。
ポップもまたメルルを好ましく思っている、両思いになるのは時間の問題だと大人組は微笑ましく見ていた。
その服にそでを通して、にかにかしていてもマトリフはからかわなかった。
戦いは一時の事、その先の幸福を目指してほしいと常々思っていたからだ。
可愛い愛弟子の恋の成就を祈るほどに。
「さて、俺もそろそろ行くとするか。」
ポップ達の心配はもういらないだろうと、早くに回復を終えていたヒュンケルはさっさと旅支度を始める。
本当ならば、傷が癒えた時点で槍の魔装を使いこなせるようになるべく旅立つべきだったのだが、弟弟子たちが心配で長逗留をしてしまったが後悔はない。
二人の笑顔が見れたのだから。
「俺も甘くなったか・・」
「今のお前の方が俺としては好ましいがな。」
かつては氷の如くといわれていた魔剣戦士よりもずっといい。
「世辞を言っても何も出んぞクロコダイン。」
かつての同僚に面と言われると照れ臭くなる。
「行ってくる、肩に乗れべほ。」
その言葉から逃げるように相棒となったベホイミスライムのべほを肩に乗せてそそくさと行ってしまった。
アバンの書は置いていき、マントと槍の魔装だけを持って。
「俺にはまだ重いものだ。」
自身の過ちで師を殺そうとし、兄妹弟子達を手にかけようとした自分が許せないでいるヒュンケルにとって、師の言葉と思いが詰まったアバンの書は様々な意味で重いのだと。
「行って、しまわれましたね。」
その背を見送ることしかできなかったエイミはそっと呟く。
かつて自国を攻めてきた隊長、エイミはヒュンケルに魅かれる思いを止められずにいる。
自らの罪から逃げず償いという茨の道を自ら突き進み、それでも優しい心を失っていないヒュンケルに。
「うむ、あの御仁ならばもう大丈夫じゃろう。」
バダックもまたヒュンケルに悪い感情を持っていない。
攻められて、幾人かの戦友を殺された恨みは確かにあるが、それでもバジル島での命がけの働きを知っており、テランでの出来事もレオナ姫より聞いている。
そして自らの罪をレオナ姫に告白をした時も立ち会っている。
クロコダインと共に、極刑になるのも厭わずに。
あの正義感の塊のアポロとても、ヒュンケルを嫌うことが出来なかったほどの澄んだ心の持ち主。
それだけに償いのためにがむしゃらに無茶な戦いをしないかと案じていたが、マトリフの洞穴での過ごし方を見て丈夫だろうと確信を得てほっとする。
-いつかあなたたちに笑いかけてくれる人たちがきっと現れます-
ヒュンケルの事を話しているエイミとバダックを見て、クロコダインはティファの言葉を思い出す。
自分達は許されるべきではないといった言葉に対するティファの答えだ。
(いつか、友をか・・)
恋人に・家族になろうという者も現れるだろうて言っていたが、少なくとも友は出来そうだと心が明るくなる。
こいつらも随分といい面になったと、安心をしてベッドで休もうとしたマトリフは足を止めた。
なんとヒュンケルが戻ってきたのだ。
「どうしたヒュンケル、矢張りアバンの書を持っていくのか?」
「いや、忘れ物をした。」
ものすごい真剣な顔をしてヒュンケルは鍋窯が置いてある棚を探し始めた。
アバンの書よりも大切なものとは果たして「あった!!」
棚から机に探索を変えたヒュンケルの手にあったのはアメの入った袋だった。
物凄い表情と気配を発していただけに、探し物がアメってどうなんだろう。
それも亡き師の伝授の書よりもだ。
「・・・・ヒュンケルよ・・」
万感の思いを込めて、クロコダインは呆れてがっくりとした全員を代表してヒュンケルの名を呼んだ。
「これはただのアメではないんだぞクロコダイン。ティファ特製、キズ薬にもなるアメなんだぞ!」
六日目にアメが最後の一つになってあわやダイ達と争奪戦になりかけた時に、ティファから送られてきた自分専用のアメだ。
中にホイミ草が練りこまれており-修行で無茶をしないでください-
ティファのメッセージも入っている大事なアメを全く分かっていないとヒュンケルは憤慨をしつつも、アメを一つ口に入れればたちどころに上機嫌である。
「では行ってくる。」
・・・色々と様になっているのが、口にアメが入っていては全て台無しであるのを分かっているのだろうか。
「・・行ってこい・・」二度と忘れ物をしてくれるな。
さっきのしみじみとした思いを返してほしい。
「あの御仁は、優しいだけではなく面白い方じゃの。」
「・・そうですね。」
バダックとエイミも呆気にとられたようだ。
昔、いやつい最近までは本当に氷の如くと言われていた同僚の様変わりに、いいのか悪いのかとため息しか出ない。
「・・・・ティファの影響か・・」あのとんでもない娘の荒療治と言えそうな説得が、ヒュンケルを様々な意味で変えてしまったのだろうか。
「クロコダイン殿、ティファというんは確か・・」
「ああ、この一行の料理人の・・」
「ふむ、面白い職業を作ったお人か。儂も会ってみたいの。」
「・・素晴らしい人物ではあるのだが少々並外れているところがある。
それでもいい子なのです。」
「ふふ、会うのがますます楽しみじゃな。」
今のクロコダイン達の会話と、ヒュンケルの態度にエイミの心は痛くなる。
滅多に感情を表に出さないヒュンケルが、時折出すのは決まって-ティファ-が絡んでいる。
勇者一行の料理人を称しているティファとはいったいどんな-大人の女性-だろうと、エイミは完全に勘違いをしてしまっている。
様々に忙しいレオナが、ティファの事をきちんと周りに伝えなかったことが原因である。
それにより、エイミは本人に会うまで誤解による胸の痛みを覚えるのだった。
シリアスが続かない一行のと相成りました。
これからは週一のペースで上げられればと思います。