ロモスでの出来事は散々な目にあった。
武闘大会は魔王軍・ザボエラの息子ザムザの罠であり、そもそも賞品である覇者の剣は真っ赤な偽物。
「本物はハドラー様の手にある。」
超魔生物とやらになって自分たちに挑みかかり、敗れて死に掛けてもデータをザボエラに送ったザムザが満足そうに言った。
ザムザはハドラーを敬愛している数少ない魔王軍の中での忠臣であり、あのザボエラを慕っている出来た息子だった。
その思いはポップにも伝わった。
ハドラーはまだ分からないでもない、なにせ魔族の長だからだ。
しかしザボエラは違うだろう!!
「それでも・・私の父だ・・」
ポップの言葉にザムザはそっと呟く。
愛しみを込めて。
こいつを助けてえ!
「ポップ・・」
それはダイも同じであり、二人は-とあること-を実行した。
武闘大会は罠だったが、悪いことばかりではなかった。
なんとマァムと再会できたのだ、同門という大ネズミのモンスター・チウというのもいたが。
たった半月でマァムは劇的に変わっていた。
物凄く女性的な変化を遂げていたのだ。
綺麗な桃色の髪を美しく結い上げ、動きやすさ重視の武闘家の服が彼女の美しさをより強調している。
「きれいだよマァム!」
「凄く綺麗になったな。」
ダイ達は再会の挨拶もそこそこに手放しでマァムに褒め言葉の雨を降らせて、彼女を大いに照れさせた。
それを同門のチウは面白くない。
せっかく仲良くなった美しい人が、自分の知らない者達と仲良くしているのはむっとする。
わざと間に入ったが、ダイとポップに微笑ましげにされて終わってしまいそれもまた子ども扱いをされているようで腹が立った。
歯牙にもかけられていないようで悔しいことこの上ない。
ダイ達にはそんなつもりがなくともだ。
バラン戦というあらゆる意味での激闘・死闘を潜り抜け、ハドラー騒ぎだのを経験して心のありようも成長した二人にとって、チウの焼きもちは可愛いものであり心がほっこりとする余裕が生まれただけであり他意はない。
マァムもなんとなく二人の様々な成長を感じ取りうれしくなる。
二人とも強くなった、一行全員が強くならないと-守る―ことは出来ない。
世界を-彼女-を守るためにも。
その為にこの半月の間、自分でも尋常ではないと自覚するほどの猛特訓をしてとうとう師から-最終奥義-を伝授された。
「マァムちゃんなら使いこなせるよ。」
まだ早いのではという自分に、師はからりと笑って授けてくれた。
武闘大会は直ぐに罠で大混乱。
幸い出られなかったダイ・ポップ・チウが観覧していたロモス王と観客たちを事無く逃がして戦いが始まった。
マァム達を閉じ込めた檻はダイの闘気もポップの魔法も効かなかったが、中にいる―ゴースト君-の
「この檻生きている。」をきっかけにチウが外から自分の手足を丸めて突っ込んだ・窮鼠包包拳なる体当たりをして檻に胃液を吐かせる事に成功をして少しだけ檻をこじ開けさせることが出来た。
予選では短い手足で筋肉ムキムキのゴメスという男に、一発も入れることが出来ずに敗退をして落ち込んでいるところにダイとポップが声をかけてきた・
「君だけの技があるはずだよ、俺と同じくらい頑丈そうな体をしているんだからさ。」
「見栄を張って恰好つけた技だそうとすっからだろう。勿体ねぇぞ、せっかくの頑丈そうな体が。」
ダイは優しく、ポップは発破をかけるように強めであるが、二人は本気でチウに合いそうな技を考え始めてアドバイスをし始めた。
言われたときは突っぱねてはみたものの、二人の真剣な様子にチウも少しずつダイ達の言葉に耳を傾けて頭の中で思い描い始めた。
モンスターの自分に本気で向き合ってくれた変わった二人の言葉を。
そして辿り着いた技がマァムの助けになれたと心の中で感謝をした・・面と向かって言えないが。
それらを見聞きしていたゴースト君ことブロキーナ老師は大会が始まる前に帰ろうかとした。
弟子二人が心配で布を被って付いてきたものの、いらぬ世話だった。
まあ成長を見ていくかと残ったのがダイ達全員にとっては幸運だったと言えよう。
チウのファインプレーとマァムの新必殺技・閃華裂光拳がさく裂し、人質がいなくなったダイは超魔生物になったザムザを撃破したが、当初の目的の武器はどうすればいいのか振出しに戻った。
「世界会議?」
バダックの発した聞きなれない言葉に、レオナに会いに来たダイ達は首をひねる。
マァムと成り行きで仲間になったチウを伴って城に来たダイ達に、レオナ姫は世界会議の準備で忙しい旨をバダックに告げられた。
パプニカも無事とはいえその中でも魔王軍の脅威を肌で感じた国であり、このまま各国がバラバラで戦っていては駄目なのだと思い知らされている。
勇者一行が来てくれなければ、不死騎団に蹂躙されたか、フレイザードに滅ぼされているかしたのだと。
その恐れは各国にも当てはまるはずだ。
今は無事であっても、明日もそうだという保証はどこにもない。
そうならない為にも今ある地上の無事な王国の王達が一堂に会して魔王軍対策を話し合うのだと。
パプニカの誘いにいち早く賛成をしたロモスとテランの王達が到着していることも告げられ、ダイ達はさっそくロモスのシナナ王から訪ねる。
「おう!ダイ君達元気そうじゃのう!!」
相変わらず元気で気さくな王様に三人は嬉しくなり、初めての王族対面でガチガチになっていたチウの心を軽くしてくれる。
ひとしきり話をした後、ポップは意を決してクロコダインの現状を話し始めた。
「簡単に許されるものではないのは分かっています!」それでも、償うクロコダインを知ってほしくて。
いかに心強い味方となり、優しくて立派な武人であるかを懸命に。
ロモス王ならわかってくれる気がして。
「・・パプニカのレオナ姫が・・」
シナナ王としては複雑な気持ちで最後までポップの話を遮ることなく聞いた。
自国を攻めた獣王が世界の希望たる勇者一行の助けをしており、この国の姫が同じように攻めてきたもう一人の魔王軍の軍団長ともども限定的とは言え許しの裁可をしていたとあっては。
「少し時間をくれぬか?なに、悪いようにはせんぞ。」
心中を押し隠し、にっこりと笑うシナナ王の言葉にダイ達はホッとして辞去した。
「ちょっとポップ!いきなり言うからひやひやしたわよ。」
「いやさ・・ロモス王様に本当のこと知ってほしくてよ。」
部屋から出てそうそう、マァムに睨まれたポップは冷や汗をかきながら弁明をし、
「そうだよね、クロコダインもヒュンケルも俺達の大切な仲間なんだよ。」
ダイの言葉に助けられてテラン王のもとへ向かった。
道々クロコダイン達の話に驚いたチウに説明をしながら。
以外にもチウはすんなりと二人を受け入れた。
実際に会っていないが、マァムさんと好きになり始めたダイ達が言うなら悪い者たちではないのだろうと。
チウの思考は単純であり、そのせいか物事を歪みなく見抜く目がある。
物心ついたころから森で一人で生きてきて、人間から迫害をされてきたせいか人を見る目は確かである。
それ故に師のブロキーナを敬愛しマァムが好きでダイ達にも心を開き始め、ポップが必死になって話していたクロコダイン達との出会いも楽しみになっていた。
その様子をダイ達は嬉しく思うが、少々変わったものが一行に入ったようだ。
それがチウの-器-が大きいのだと、ダイ達は直ぐに知ることとなる。
サクサクと鍛冶屋も出したかったのですが、今夜はここまでです