生まれ故郷の森の中は落ち着く。
家を出た時は二度と戻るものかと思ってたのに、「いいところですねポップさん。」
わずか二年で帰ってきてた、それも自分の親友にして勇者一行の仲間たちと気になる少女を伴ってとは想像すらしたことがなかった。
武器屋の商売にも鍛冶にもなじめず、頑固おやじの反発をして小さな村で一生を終わりたくなくて、一目惚れしたアバン先生にくっついてた自分が今の自分を見たらどう思うだろう?
勇者と共に、魔界の名工と呼ばれた伝説にも近い人物に剣づくりを頼んでるだなんて。
ファーストコンタクトでは気難しい人物に思えた。
チウはともかく、ダイを一目見て人の子ではないと瞬時に見抜くところなんて一筋縄ではいかない凄い人だと。
予想通り一度目は断られたが、ダイがくらいついて真魔剛竜剣の話を出した時の名工のヒートアップ差にドン引いた。
あの剣を叩き折ったのが自信作のものだというのが余程嬉しかったらしい。
「作ってやる!ただし材料は自分たちで持ってこい!!」
常人だったらそれ一生無理だろうフラグだが、ダイの家に材料が鎮座していた。
「「ちょっと行ってきます!」」
ポップはダイを引っ担ぐようにして、ダイは慌てずにきちんと挨拶をして実家にゴーをした。
「・・・礼儀正しい奴らだな・・」
こういう場合は挨拶なく行っても腹は立てる気はなかったのだが、そういえば魔族の俺にきちんと名乗って挨拶してきたし。
「勇者をしているダイです。」
「武闘家のマァムです。」
「占いを生業にしているメルルです。」
「チウといいます。」
大ネズミが挨拶をしていた、まあジャンクの息子だけ反応が遅かったが名乗ったし。
こいつらはそんじょそこらの大人顔負けだな。
剣を作ってやりたいと本気で思うほどに。
「すぐに行くけど俺たち元気ですよブラスさん。」
「そうか、体には気を付けるんじゃぞポップ君。」
島に着いたダイは、ブラスへの挨拶もそこそこに家の中にかっとんでいった。
ロモスのシナナ王からもらった覇者の冠は自分とティファの寝室の窓辺の机の上に飾ってあるはずだと。
一目散に家に行ったダイの代わりにブラスへの説明と挨拶はポップがしている。
帰って早々元気一杯のダイを見れたとブラスは喜んでいるが、気がかりがある。
「ポップ君や、そのティファは元気にしておるかの?」
明るくて元気一杯な子だが、ダイよりも無理をしてしまうティファが案じられる。
その思いはポップにも分かる、いや分かるようになってしまった。
ティファは見かけ通りの子では決してない。
表面で明るくとも、心の中で無理をしているのが。
「ブラスさん、あいつは俺たちが守ります。どんなことをしてもきっと。」
ティファの心がもう傷つかなくて済むように。
「そうか、頼めるかのポップ君。」
「はい。」
ポップの心情を嬉しく思い、ブラスは涙ぐみながらポップの右手を両手で包みポップも左手を添えて明日の思いに応えているとき「あったよポップ!!」
空まで突き抜けそうな元気なダイの声が二人を面食らわせてくすくすと笑わせた。
元気一杯の兄妹だ。
そのダイを伴ってパプニカの王城にいるシナナ王の快諾を取り付け、ロン・ベルクに材料を渡した後はダイ以外は外に追い出されてまったりとしている。
「あのさ・・その・・服・・ありがとな・・」
「いえ!・・お役に立てればと思って・・・」
ポップは地面に足を投げ出して座りながら赤くなった鼻をかきながら服のお礼をし、その隣にちょこんと座っているメルルも赤面をしながら小声で応えている。
双方顔を合わせずポップは明後日の方向を、メルルは恥ずかしくて逃げだしそうになる体を牛を握りしめて耐えつつもうつむいてしまっている。
双方がお互いを意識しているのが傍から見れば丸分かりである。
「あいつが本当に勇者一行の魔法使いか・・あいつあんたたちに迷惑かけてねえか?」
いつの時代のどこの世界の親はいつまでも子供は頼りないままの例にもれず、ジャンクも心配をする。
馬鹿息子と評しているポップの現在の活躍を聞けばぶっ飛ぶだろう。
自己犠牲呪文の事を聞いたらあらゆる手段を使って止めようとするだろうが。
「ポップは一行の頼れる魔法使いです。彼の作戦でいつも助けられているんですよ。」
親の心配ほどではないと柔らかく笑いながらマァムはジャンクの心配を拭っている。
マァムもポップがメガンテを仕掛けたことを全く知らない。
「あいつにいらない心配かけたくねえ!」
ポップがダイに頼み込んでその話題は一切しないことにしたからだ。
最初会ったときは自分も優しげな顔に少々不安を持ったものだが、王城決戦でもなんでかんだと間に合って体を張って仲間を守る勇気をきちんと持っている。
「そうか・・そうなのか。」自分の心配なぞいらないほどに成長をしたのかと一抹の寂しさを覚えつつも、たくましく成長するポップが誇らしくなる。
なにかでかい事をしてほしかった訳ではない、ただ飽き性で性根がふらふらしていた息子に歯がゆさを覚えていただけなのだが。
「あいつの事を頼むよ。」
ポップとメルルらから少し離れたところで休憩をしているジャンク達は、二人の事を微笑ましく見つめながら親交を深めていく。
怖い頑固おやじがいるとポップは言っていたが、いい父親ではないか。
父さんと会ったらすぐに仲良くなりそうね、大戦が終わったらロモスの実家に招待しようかしら。
お外はまったりのんびりキャッキャウフフをしそうだが、小屋の中は圧がかかって普通の者ならばぺしゃんこになりかねない。
ロン・ベルクとしては、長年追究してきた真魔剛竜剣を叩き折ったという天地がひっくり返る大事件を起こしてくれた奴の剣が作れるのだ。
自分の命削ってでも最高傑作を作ってやる!
その心意気を肌で感じているダイも真剣な面持ちで応えてなんじゃこりゃな圧が生まれたのであった。
「あのロン・ベルクさん・・」
「・・・どうした。」
ダイに完全にあった剣を作るべく、ダイの利き手である右手を見続けるロン・ベルクに声をかける。
「あのさ、物凄い剣作ってくれるんだよね。」
「・・そうだ。」
「そしたら俺は、お礼としてロン・ベルクさんに何を返せばいいの?」
ほう!若いのに大したものだこいつは。
てっきり金の話が出るかと思ったんだがな。
昔はそうでもなかったが、今の奴らは何でもかんでも金で片付けようとしてきやがる。
それよりも大切な心意気などが廃れ始めているご時世に、中身も中々見どころのあるやつだ。
「金は要らん、お前が俺の作った剣を存分に振るってくれればそれでいい。」
それこそが鍛冶屋冥利に尽きるというものだ。
「分かった!俺は剣に恥じない力をもっと身に着けるよ!!ありがとうロン・ベルクさん。」
・・・・本当に今時なんて気持ちの良い奴なんだこいつは!大魔王には頼まれた分の鈍ら仕事しかしなかったが!こいつのには俺の半生で培った鍛冶屋魂をすべて総動員してやる!!
ダイの天真爛漫さに完全に虜になったロン・ベルクであった。
何やらミストバーンが聞きつけたら、主を愚弄していたのかとぶちぎれそうなセリフで終わります。
お金よりも心意気
ティファが常々言っている事がダイにもしみ込んだのでした。