主人公不在ですが主人公の影響力はは健在です。
世界会議の段取りは大変だったがそこそこに順調であった。
病の床にいるとはいえいまだに力の衰えを見せない父の助言があったのが大きいが、大国ベンガーナの王と、騎士国家リンガイアの王を引っ張り出すことに成功したのだから。
だが運命の女神は残酷だ、魔王軍それもあり得ない大規模な攻勢を仕掛けてきたのだから!!
「ふん!あのようなもの図体がでかいだけの事!!アキーム!我が国の火力を見せてやれ!」
湾より侵入せんとする巨大な城を見てもベンガーナのクルテマッカ七世は不遜に言い放ち、すぐさま警備にあたっている自国の軍団長に命を飛ばす。
大砲と軍艦の威力を他国と魔王軍に見せつけるために。
その攻撃は確かに凄まじいものではあった。
並みの敵であれば総攻撃のもとに砕け散っているであろう・・そう-並の者-であればだ。
砲撃の一斉攻撃の煙で見えないが、その威力に会場警備にあたっていたクロコダインは舌を巻いた。
ポップ達が出かけた後にバダックに頼まれ警備役をしていたところにギルドメイン山脈から姿を消した鬼岩城を見た時は心底驚いた。
それを一国の武力で鎮圧せよという命令の方にもっと驚き、無謀であると戦車を駆り出そうとするアキームを止めようとしたが「私は王の命に従う武人だ。」と言われては止められなかった。
魔王軍を相手にと思ったのだがしかしあの威力ならば。
海に大量の岩石が落ちている、もしかしたら仕留められるやもしれない。
それは浅はかな考えであった。
大砲の威力で霧が晴れてそこに映った光景は、勝ちを確信して高笑いをしているクルテマッカを・もしやと希望を見ていた各国の王とレオナを・淡い期待を抱いていたクロコダインを完全に打ちのめすものだった。
大砲は鬼岩城の表面の岩を砕いたにすぎず、中の-本体-は無傷であった!
「馬鹿どもが、鬼岩城の真の姿を晒しおって。」
鬼岩城の肩当たり浮遊しているミストが冷たく呟く。
人間の浅知恵で作った武器が、バーン様の作りしこの鬼岩城に傷一つ付けられるわけはないのだ。
「姫さん!!」
「ごめんレオナ!遅くなったわ。」
「皆様ご無事ですか!」
「あれが敵・・」
バルコニーにて魔王軍の脅威に打ち震えていた王達のもとに、ルーラの着地音と共に力強い声がした。
「遅くなっちまって悪かったな姫さん、もう大丈夫だ。」
巨大な動く城を目の当たりにしても、ヘラりと笑うポップが頼もしく映る。
「レオナ・・ここは・・」
「人間どもに告げる!!」
ここは危険だとマァムが言う前に、なんと敵の参謀から通告があった。
何を言う気だ?普通ならば降伏宣言だろうが誰が従う「降伏すら許さん!!!」って違うのかい!
「お前達はバーン様にたてつく害虫だ!」・・んだと・・
「お前達に許されるのは虫けらの如く踏みつぶされ、断末魔の声をバーン様にお聞かせすることのみ!!以上だ!」
それは降伏すら許さない苛烈な通告だった。
誰もが敵の巨大さとミストの言葉に青褪めたが「けっ!誰がそんなもんに従うってんだよ。」
「そうね、元から降伏なんてするつもりなんてないわよ。」
「「勝って勝利の雄たけびを聞かせてやらあ・やるわよ!!」」
勇者一行の者にしてアバンの弟子たちは顔を上げて堂々と言い放つ。
その様はまさしく勇者一行にふさわしい威風堂々としたものであり、人々に希望を与えるに足る姿であった。
「ちょっくら行ってくるは、メルルはここで姫さんたちと。チウは小屋で打ち合わせたとおりにな。」
「・・分かった・・でも!僕も戦うんだからな!!」
「ポップさん達もお気をつけて・・」
ダイの剣作りが佳境に入ったころ、メルルが邪悪な意思を感じ取りポップ達は鬼岩城騒動を知ることが出来た。
メルルの水晶に映された鬼岩城は見ているだけでも怖気たつものであり、今すぐに自分達が行かなければいけない。
「早くいかないと!!」
当然ダイが飛び出そうとした。
魔王軍を撃破しなければならないのと、攻撃を受けようとしているのがパプニカだからだ。
最愛の女性が危機に瀕しているときに、居ても立っても居られない。
しかし「お前は残れ!!」
ポップの待ったが入った。
「そんなポップ!こんな時に何言って・・」
「こんな時だからこそお前には剣が必要なんだ!!素手の攻撃じゃすぐに限界が来る、魔法もすぐに空っぽになっちまう。」
ダイがそれらをすべて制御して戦えるのならば別だが、闘気も魔力も放出をして底をつきては戦えない。
「それは!でも!!」「ダイ!」
どうしても行こうとするダイの両肩をつかみ、ポップは真剣な表情でダイを見据える。
「お前はなんのために戦うんだ!」
それはかつて臆病で戦えなくなった自分に言われたティファからの言葉。
今それを無謀な戦いに行こうとするダイに問う。
お前は一体何のために戦うのだ、ただ愛する女性の為だけに無謀な戦いをするのかと。
「俺は・・俺は!守りたいから!レオナやじっちゃんやポップ達がいるこの世界を守りたいんだ!」
自分の大好きな者たちがいるこの世界を守るために戦うんだ。
「なら、守るための剣がお前にいるだろう。」
ポップは弟弟子の答えに、笑って頭を撫でて諭す。守るための力が必要なのだと。
「ロン・ベルクさん、親父、あと頼むわ。」
「・・行ってこい・・終わったら一度帰って来いよ。」
馬鹿息子が戦う男の顔をしている、もはや止められないのだとジャンクは胸の中で涙を流す。
戦いに全く無縁だった息子が、世界のためにと言うのをどうして止められよう。
ジャンクが心の中で嘆くが、ロン・ベルクはポップに感心していた。
あの若さで戦う理由を他者に問うとは、ジャンクは馬鹿息子がいるといっていたがどうしていっぱしの男じゃねえかよ。
並の大人では一生かかっても言わないであろう言葉を口にしたポップを、それを受け止め答えるダイを、どう戦うか話すマァム・チウを本気で気に入った!
死ぬんじゃねえぞ!剣は絶対に間に合わせてやる!!
鍛冶屋魂をヒートアップをしたロン・ベルクの思いは露知らず、ダイ達はある問題にぶち当たった。
「これってティファに知らせた方がいいのかな・・」
妹の性格上、後から知らされたら怒る気しかしない。
「何言ってんだよダイ!あいつは今は休業中・・」-タンタン-
知らせない方向に持っていこうとしたポップの言葉を遮るように、小屋の窓ガラスが叩かれる音がした。
まさかティファか!!
いいタイミングできすぎじゃね⁉
恐れ戦いたが、窓にいたのは鳩だった。
本人様ではなくティファの鳩かよ、拍子抜けしたぜ。
鳩を中にいれて足の筒の手紙を取りつつぶちぶちと言っていたポップであったが、手紙を読み終えて真っ青になった。
「ティファには知らせちゃ駄目よダイ。」
「分かった、休ませないと・・」
「もう遅いぞお前達。」
「「へ⁉」」
内緒で行こうと案を練っているマァムとダイに、ポップは青い顔をしながら無駄宣言を放つ。
「もう何かあったんじゃねえかって嗅ぎ付けられてるわ・・」
「「げ!!」」手紙の内容は
例の件は何とかなりましたが、私は医者にも僧侶にも転職した覚えはありませんよ。
行い自体はよい事ですがよくよく考えてから行動してください。
それでこのようなことがあったという事は当然何かありましたよね、包隠さず白状なさい!
誰か大怪我はしていませんか、死に掛けていませんか?
敵の大攻勢前の前触れでしたか?
かくして後日分かった時にはポップ兄にした小一時間した説教のものを百倍にして落とされる覚悟をなさい。
よくよく考えて返信をお願いします。
ティファより
追記 嘘ついた時には今後は自分で調べて勝手に戦いに出ますのであしからず。
読み上げた後は小屋は静まり返ったがそれは一瞬の事。
「ポップ!きちんと知らせよう!!いやだよ俺おっかないよ!」ティファの説教受けるくらいならば、武器なしで魔王軍と戦う方がましである!
「あの説教の百倍・・」マァムも明後日の方向を死んだ目で見つめる。
ポップにされた説教は傍で見ていても恐ろしかった。
ロモス王がダイ達を船で送ってくれた際、どうしてもパプニカに行かねばならない行商人がおり、薬草をポップ達に売ろうとしてきた。
「あれば便利です。」笑って全部買おうとしたティファに、おまけで安くしてもらえばと冗談で言ったポップにティファは般若の形相でポップに説教をした。
「お金を稼いだこともない子供が口を出すんじゃありません!!」
「このご時世に命を懸けて商いをしている方に対して何という事を!!」etc.
あの時のティファは怖かった!あれされるくらいならば自分だってダイ同様で、単騎で敵に突っ込んでいく方がましである!!
「それに最後のがきいたわ・・」勝手に調べて戦場に出ます。
冗談じゃない!今後ティファは戦わせない方向で一行の考えはまとまってきているのだ!
・・ため息しか出ない。
「どうする?」
「けど嘘は・・」
「でも・・」
ジャンクとチウはその光景を不思議そうに見る。
先程までとてつもなく頼もしく見えた三人が手紙一つで狼狽するなんて、ティファという人はとてつもなく怖い人なんだろうか?
ティファを知っているメルルも首をひねる。
ティファさんは優しさの塊のような人なのに、ポップさんたちはどうしてそこまで。
三人の討議結果折衷案が出されて急いでポップがしたためる。
巨大な敵がパプニカに向かっている、そちらは自分達で足止めをする。
今ダイの剣を作っているさなかでもうすぐ出来上がる。キメラの翼が切れちまったからティファはダイをガルーダでパプニカに連れてきてほしい
何があっても大丈夫なようにとティファから五枚のキメラの翼を渡されており、武器の材料であちこち行った際に使わせてもらったがまだ二枚残っている。
そこをあえて切れたといい、ダイの事を頼んだのはティファが戦場に来るのを遅らせるため。
ダイが剣を持てばティファは回復一手の裏方に回せる。
様々な策を練ってパプニカに向かった。
ダイには焦らず剣に集中すること、作る工程前にロン・ベルクから剣が強くなるかどうかはの気持ち一つだとがっつり言われている。
意思のある強靭な剣にするためにも、ダイお前が必要なのだと。
「俺達は連携して戦うスタイルが一番合ってる。ばらけて戦うのは得策じゃねえ。」
テキパキとポップは進めていき、チウには避難係を言いつけた。
「そんな!僕だって戦える!!」弱いお荷物扱いはごめんだ!
「チウ、パプニカには結構モンスター達が暮らしてるみてえなんだ。パニックで逃げて、ケガしちまう奴らが出ちまわないように安全に逃がしてやってくれ。
それが出来るのは同じモンスターのお前だけにしかできないだろ。」
パニックになっても、同族が力強く指示を出してくれればそれだけで少しは落ち着いて逃げられるはずだ。
「敵が来なさそうな広いところに逃がしてやってくれ、戦いは後だ。」
「分かった・・任せて!」
ポップの頼みを引き受けたチウに、ポップはにかりと笑ってチウの頭をくしゃくしゃにする。
「無理はするなよ、命は簡単に懸けるもんじゃねえ。」-置いて行かないで!!-
ティファの言葉が頭によみがえる。
「メルルは・・」「はい、傷ついた方たちを治させていただきます。」
「おう、頼む。」これで全部か?誰も死なせねえためにできることは。
戦うために、死なないための策を準備をしてパプニカに来たポップ達にとって、ミストの最後通告は恐れるものではなかったのだ。
その場にいなくとも濃い主人公です。