魔王軍の料理人は誰でしょう?
おのれ!なぜ鬼岩城が沈んだのだ!!
ミストの心中は焦りよりも怒りが強く、もしも周りに誰かいたならば怒気だけで殺せそうなほどの殺気に満ちた怒気を発している。
幸い上空で一人しかいないので哀れな被害者は出ずに済んでいる。
「・・・シャドー、ラングの間に不具合は?」
「は!ございませんミストバーン様!!」
「鎧を生み出し鬼岩城からの頭部から出せ。」腕を伝わせれば上陸は出来る。
泥に埋もれ戦力は激減したが、それでも十分すぎる程の戦力ある。
気を取り直したミストはパプニカを滅ぼす算段に修正を加えて指示を出してから-捕獲-に向かった。
狙いはヒュンケルただ一人!アレは自分の所有物だ!!
む!来たか!!
元・師の殺気を感じ、ヒュンケルは鎧を相手にしつつ上空に目を向ける。
大魔王の命を絶対としているミストバーンが、鬼岩城一つ駄目になったくらいで諦めるはずがないとは思っていたが、早々に来るとは。
「闘魔傀儡掌!!」成程!自分をとらえに来たか!!
誰が魔王軍に戻るものか!
「おおっ!!!」-カァーン!!-
「なん!!」
ミストの放った暗黒闘気の糸は、ヒュンケルの肉体に届く前に消滅をした。
同じ技を使っての相殺ならばミストも驚愕はしなかったが、ヒュンケルは傀儡掌を使ったのではない。
光の闘気を高めて消滅をさせたのだ。
つい最近まで暗黒闘気にどっぷりと漬かり、師と世界を呪い続けてきた男がだ!
「ミストバーン!俺は最早二度と暗黒闘気を使うことはない!!魔王軍に戻るつもりも毛頭ない!」
バラン戦より十日間、体を休めつつも体内で光の闘気を練り続けていた。
ダイ達と共に光の道を歩み続けるためにも、ティファとの約定を守るためにも。
-幸せも探してあげてください-
償う道以外を指示してくれたあの心優しき少女との誓いを思うだけで心が光で満たされる。
それを暗黒闘如きで穢させはしない、決して!
ヒュンケルめ!ならば消耗戦を強いるだけの話だ!
いかにヒュンケルとても、無尽蔵に闘気があるわけもなくほかの一行もまた然り!
上空よりのミストバーンの攻撃、地上よりのさまよう鎧の猛攻に次第に一行も押され始め遂にヒュンケルがミストの傀儡掌に捕らえられた。
「・・最後に聞いておく、戻る気は?」
普段寡黙を押し通すミストの精一杯の問い。
ヒュンケルや元同僚のクロコダインからすれば槍が降るのではないかという珍事であるが、答えは決まっている!
「断る!俺は・・俺達は光の道を歩くと決めたんだ!!」
それは自分のみならずクロコダインの分の答えも入れた返答。
力強く、誇り高い戦士の心の底からの叫びであった。
「・・そうか・・」
ミストの静かな声が、いっそ不気味であった。
ヒュンケルを助けようとポップ達が駆け付けようとしても、鎧の他にミストの影の軍団が行く手を阻み近づけず、ミストの声で一層焦りが増す!
戻る気がないならば・・捕らえて心を壊して傀儡とするのみ!!
大魔王様のための道具と・・・「ちょっと待ったぁぁぁ!!!!」⁻ドッガ!!!-
なんだ⁉
ミストが暗黒闘気の糸を強化してヒュンケルを絞め落とそうとしたその時、ミストの遥か上空より大音声が聞こえたかと思いきや、声と同時に物凄い衝撃音があたりに響いた。
大音声を発した声の主は上空落下の速度を殺さずそのままの勢いで正確にミストの後頭部にけりを入れてミストを落とし、蹴った反動で無事だった時計塔に向かい建物を鋼の剣で斬っていき、斬った残骸をミストが着地した地点に容赦なく蹴って残骸の雨を降らせていく。
通常の地面ならばミストも難なく対処できただろうが地面はまたもや脆いものに変えられて、足場はなくなり残骸もろとも埋め立てをくらった。
それは一瞬の出来事であり、引き起こした者は鋼の剣を左肩に担ぎつつゆっくりとヒュンケル達の下へと歩いている。
黒い長い髪をポニーテールに結いつつも左右の耳横に一房たらし、黒縁の大きな眼鏡の奥の瞳はゆったりとした笑みを浮かべている少女。
「遅くなって申し訳ありません、ただいま戻りました。」勇者一行の料理人・ティファの帰還であった。
「ティファ!!」
まだ敵の隊長であるミストを倒したわけではないが、やはり嬉しさが勝ってしまってマァムは笑顔でティファに駆け寄っていく。
ずっと会いたかった、辛い修行も仲間とティファの笑顔を思い浮かべれば耐えられた。
その笑顔を間近で見たくなるのは無理からぬことであったのかもしれない。
「お久しぶりですマァムさん。」
応えてくれる柔らかい声が、自分に向けられる優しい笑顔が今までの苦労全てが報われ、今負った傷ですら癒されてしまうほどの心地よさを感じさせてくれる。
う~ん、マァムさんきれいになったな。
「今度買い物に行きましょう。ドレスの一着でもプレゼントさせてください。
きっと似合いますよ。」
「やだティファったら!」
照れて頬に両手当てて振り乱すところなんて絶景だ。
私が男だったら速攻で告白する魅力だな~。
「からかわないの!」
「いやいや~。」
女子二人はきゃいきゃいと盛り上がり、これって大丈夫なのかとチウは心配をする。
いくら大量の瓦礫で埋めたとはいえ、あいつはそう簡単にやつけられそうには見えなかった!
あれっていいのかと一行の男たちに声を掛けようとチウが振り返れば、男達も何やら話し合いではなく言い合いをしていた。
「何故ティファがこの場にいるのだ!!作戦をきちんと伝えなかったのか!」
「俺はきちんと伝えたぞヒュンケル!!」
「ならばなぜティファがこの場にいるのだポップ!!」
「おっさんまで疑うのかよ!!」
ここって戦場だよね?命懸けの場だよね?
なのにマァムさんもポップもほかの二人もさっきまでの凄い闘志が感じられない。
力は感じるので戦闘態勢は解いてないのが分かるがなんでだろう?
分かりやすいのが気負いがなくなったような。
あ、マァムさんと女の子がこっちに来た。
「初めまして、新しいお仲間ですか?」
「あ!はい!!」
「私は勇者ダイの一行で料理人をしているティファと言います。」
料理人?そんな職業あったかな。
「よろしくお願いしますね。」
あ!挨拶は返さないと!!
「僕はチウと言います!!・・よろしくです・・」
「チウ君ですか、共に頑張りましょう。」
この人、優しい人だ。
担いでいた剣を鞘に仕舞い、⁻右手-で自分に握手を求めている。
利き手が左手なのに、わざわざ僕に合わせてくれているみたいだ・・でもなんで僕の利き手が分かったんだろう?
「チウ君の右手の腕の方が少しだけ太目だからです。」利き手は普段使うので反対側よりも少し太いのでわかったのだと笑って自分の疑問に答えてくれる。
強くて優しい人だこの人は!
さてチウ君と無事に挨拶を交わせたのはいいんだけど、ポップ兄達何してんだろ?
戦場で何やら言い合いって不味いでしょ。
「あの~・・」おしゃべり終わりを言おうとしたら―ギロリ!!-なんかすんごい目で睨まれた!
「なんでお前がここにいんだよティファ!!戦場は俺たちに任せろって詳しく書いただろう!!」
「作戦通り動け!」
「今からでも王城に引っ込んでいろ!」・・・・みんなが過保護に・・
「ティファ。」
あ、マァムさんもいい笑顔。
「私もクロコダインの言うことに賛成よ、王城に行ってね?」
慈愛の笑顔できっぱりと言われてしまった。
「すみません、作戦は伝えられて戦場の上空で待機していたのですがヒュンケルの宣言に嬉しくなってしまって。ですがダイに・・」
「貴様らぁぁぁ!!!!」
あ、ミスト出てきた。
ポップ達も警戒は解いてはいなかったのですぐさま臨戦態勢に入る。
衝撃を受けた時は驚いた、着地して迎撃しようとしたのに地面が泥状化をして埋まったのにはさらに驚いた。
しかしだ!ばっちりと聞こえてきたこいつらの会話は一体何なんだ!!
ここは戦場なのに何を呑気に挨拶交わしてる!!自分を虚仮にしているのかあの化け物娘は!
ミストにとって現時点でのティファの評価は化け物娘である。
何が恐ろしいかというとこういったところだ。
戦場の殺伐とした空気を一瞬にして変えてしまい、戦いの場を壊すものなぞ見た事も聞いたこともない!
人の心のうちにするりと入ってくるものなぞ自軍にとっては危険だ!!
しかも勇者一行の者のくせに不意打ち紛いをしおって!
前者はミストのティファへの評価だが、後半は完全いちゃもんに近い。
上空をきちんと警戒していれば高高度よりの攻撃も感知してよけられる範囲内だった。
だがヒュンケル捕獲を邪魔された恨みと、バランの一件で完全にロックオンした敵なぞいちゃもんでも構わん!!
「こ・・」「初めまして!」抗議しようとしたら声を掛けられた⁉しかもにっこりと笑っている!
「私は勇者ダイの一行で料理人をしているティファと申します。お見受けしたところ魔影参謀・ミストバーン殿ですね?」礼儀正しく挨拶された!
「先程は不意打ち紛いをしてしまい申し訳ありません。」謝罪までしてきた!!
「ですがヒュンケル達はお返ししません!この二人は私達の掛け替えのない仲間です!
光の道を行く二人の邪魔はさせません!!」
ヒュンケルの力強い宣言聞いて嬉しくて戦場出てきたんだから、私もやれることやろう。
返しません宣言だ!!
「それに!!」自慢できることあるもんね。
「魔王軍よりも私の料理の方が断然美味しいと宣言します!」
素材や香辛料は、地上の方が圧倒的にいいはずだ。
それ等をふんだんに使った料理の方が勝つ!古来より胃袋つかんだ方が勝つって相場は決まってる!!
「まあ料理をしたことのない貴方に言ってもなんですがね~。」にっこりと笑って言い切ってやった。
ティファのへんてこな宣言に味方一同本気で扱けそうになった。
挨拶と謝罪までは真っ当だったのに!今料理自慢している場合か!!
見てみれば案の定言われたミストバーンがプルプルと震えている。
「小娘!!」
言わんこっちゃない!敵だってあんなこと言われたら馬鹿にされたと怒る・・
「私がどれほど苦労をしてヒュンケルに食わせてきたと思っている!!」はぁ⁉
あんの小娘め!食に興味なく、小食で偏食のヒュンケルの体を頑丈なものとすべく、一体どれほど試行錯誤をして食わせて今の体に作り上げた事か!
「そいつが不死騎団に行くまで毎日食べさせたのは私だ!!」あんな小娘が料理人を名乗るなぞ小賢しい!料理の年季が違うわ!!
そのミストの告白に一番の衝撃を受けたのは、食べさせてもらっていた当人ヒュンケルであったりする。
戦場においての心構えを一行の中で一番持っているはずのヒュンケルが、口をぽかんと開けてミストを信じられないものを見る目で見続けていた。
「しっかりとしろヒュンケル!」
「正気に戻れ!!」
ポップ達も衝撃をくらったが懸命に心を立て直してヒュンケルに必死に声を掛けて正気付かせようとしている。
今のヒュンケルが攻撃をくらってしまってはひとたまりもない!
「あの~・・」
なんだティファ!頼むからこれ以上変なこと言うなよ!
「もしかして・・大魔王のお食事も・・」
「無論私だ!!」主の料理を他者に任せるものか!!
・・・・・・マジかい・・ミストが料理ってない!
クールなようでいて激情家なのは知ってるけれど!これって知りたくなかったような微妙なところだ。
ヒュンケルも知りたくなかっただろうな~、ポップ兄たちの呼びかけにもフリーズ起こしてる。
しかしだ。
「申し訳ありません、よく知りもしないのに間違ったことを言ってしまって。」
きちんとお詫びは言わないとね。
正解はミストバーンでした。
暗黒闘気の塊がどうして料理できるかのお話はおいおい入れていきます。