誰だか知らないけれどやってくれたね、おかげでミストの衣の裾が破けちゃったじゃないか。
氷の雨が降りやむと同時にキルは一気に上空に駆け上がったが降らせたであろう者は見当たらなかった。
キルが予想したよりも超上空からであり、間一髪のところでノヴァは死神と出会わずに済めたが、キルは憎しみを込めた瞳で虚空を睨みつける。
あのミストの白い衣は、主より賜ったものだと一度だけミスト自身が話してくれた。
滅多なことでは自分にも話さず、軽く十年はだんまりのミストが少しばかりの感情の色を乗せていた。
良かったねと言ってあげれば、短い返事だったがどこか照れたような初々しさがあり可愛い親友だと向こう半年はほっこりとしたものだ。
その衣に傷をつけたのもさることながら、
キルはゆっくりと降りながら思案する。
どうもお嬢ちゃんは今の襲撃者に心当たりがあるようだ。
攻撃に勇者一行の者たちも戸惑っていたのに、お嬢ちゃんだけがどこか懐かしむような表情を浮かべていたのが気に食わない。
まるで大切なものと再会できたような表情だったな。
「お嬢ちゃん?」
「・・・なんでしょうか?」
降りてきたキルは、いら立ちを隠さずにいるのでそれがポップ達を益々警戒をしてティファを守るように囲んでいるが、キルは構わずティファに平然と話しかける。
「今氷を降らせた奴に心当たりあるよね、誰?」
なんかとんでもなくシンプルイズザベストな問いをしてきた。
核心まんま突いてきてるって、キルって物凄く知略派だ。
だてに暗躍人やってないやつだから本気で気をつけよう。
「さて、誰だったのでしょうね~。」
感心したからって正直に情報教えてやるいわれないもんね。
ポップ兄達にも教えていないノヴァ情報渡すなんてするわけないもん。
惚けとこ。実際見て確信したわけじゃないから嘘は言ってないもんねだ。
ふ~ん~とぼけるんだ。
ちょっと可愛くないな~今のお嬢ちゃんは。
ティファが心当たりある?
もしかしてバランたちと会ったみたいに、昔会ったやつか?
本当にティファが今言った通り誰か分からないのかのポップとしては見当がつかない。
ティファはとにかくわからないことが多すぎる。
先程敵の大幹部と追撃戦をしていたというのにけろりとしているという事は、まだまだ本気を出していないからだ。
敵の大の力・知識・交友関係どれ一つをとっても謎である。
雪白という伝説のヒヒイロカネの武器とても。
どう手に入れたのか、ダイに聞いても知らないと返ってきた。
そもそも所持している事自体もだ。
いつかティファが自身が何もかもを話してくれるのを待つしかないかと、待つ寂しさがポップの心を冷え込まさせる。
戦いのさなかでの致命傷ともいうべき油断であった。
ヒュン
「な!」
「ティファ⁉」
「どう・・して!!」
それはポップが油断せずとも防ぎようのなかったこと。
悪い子には少々お仕置きが必要だね~。
「ミスト~、あの子を僕たちのお城にご招待しちゃった♪いいよね?」
ティファが立っていた地面の空間に穴をあけ、ティファを亜空間から魔王軍への本拠地へと堕とした。
無論地下には結界が常時貼られているのでお嬢ちゃんが傷つくと困るので大地の方に転移させた。
彼の頼み事もこれで叶った。
わざわざ一行の誰かを挑発して連れていく必要もないし・
「シ~ユ~♪」
キルは左手をミストの腰に回して亜空間で本拠地に戻っていった。
ティファが消えたことで狼狽している一行に冷たい嘲りの言葉を放って。
さ~て~お嬢ちゃんびっくりしてるだろうな~。
ここどこですかとか、可愛い怒った声が聞けるかな~。
ここどこ?冷たい大地だ、死の・・大地?
堕とされたときは驚いたけど、着地は失敗しなかった。
キルが空間使いだって知ってるからいいけれど・・ここ嫌だ。
寒い・・何か・・・冷たいものが入ってくる・・
これは‥‥いや!嫌だ!!入らないで!!!
「いやぁぁぁぁあ!!」
嫌だ!入ってくるな!!違う自分は!自分は・・・
「お嬢ちゃん⁉」
「・・・・」
死の大地へと帰ってきて、ティファとゆっくりと会えると楽しみにしていたキルが見たものは、錯乱しているティファの姿があった。
「違う!殺したくなんてなかった!!」
「・・見捨てて‥ごめんなさい!!御免なさい!!」
「いや・・入ってくるなぁぁぁぁぁ!」
両手で頭を押さえて膝をつき、髪を振り乱しているティファの姿が。
「・・・こうなったか・・」
「ミスト!?」
ミストは今のティファの状況を正しく理解した。
ここに死の大地、瘴気がたちこめる場所
瘴気は人の体力を奪い苦しめ、時にそのもの者が心に隠している傷を暴き出して責めさいなむ
どうやらティファは何故か肉体的なダメージは全くないが、精神を著しく傷つけられているようだ。
いや・・殺したくなかった・・見捨てたくなかった・・・・戦いなんて!
お前が殺した・お前は見捨てた・お前は知っていたのに止めなかった!全て!
見捨てた、母さんをあの三人を大戦の犠牲者を・・・鬼岩城襲撃も・・・
知ってたのに死なせた・・・自分の罪・・
「・・・ファ・・」
大義のために見殺した人殺し
「・・ィファ・」
こんなのが勇者一行の者?薄汚れた自分なんて!!
「ティファ!!!」
誰?なんでそんなに自分の事を必死に呼んでるの?こんな薄汚れた自分の名を・・・
「起きぬか戯けが!!!」・・・・ハドラー?
何だこやつのこの様は!
確かにミストバーンとキルバーンにダイかティファをと頼んでみたが、何故戦ってもいないティファが死ぬような苦しみを受けている⁉
「…あ・・・う・・ハド・・ラー・・」
なんでこの人が必死の形相で私の事呼んでるの?貴方魔王で私勇者の妹だよ?
ティファが来た時点でハドラーは地上に飛び出た。
まだ超魔生物にはなっておらず、ティファかダイが来た時に変身をする予定だった。
己はまた一段と高みに上ったのだと見せつけるために。
しかしそんな考えは苦しみもがくティファを見て消し飛んだ。
おろついているだけで進路をふさぐ邪魔なキルバーンを横に吹っ飛ばし、考える前に抱きかかえて名を呼び続けてようやく正気付いたようだ。
「わ・・たし・・どう・・!」
ハドラー⁉不味い!!近すぎる!!距離・・・・つ!
正気付いたティファは当然ハドラーから距離を取ったが、すぐにハドラーのもとに戻ってきた。
「・・・・・お久しぶりです・・」
「・・ああ・・・」
赤くなって挨拶してきたがどうしたのだこやつは?
「・・ここ出たいです・・」
「ふん!のこのこと来たものを帰す・・」
「他はともかくここは嫌です!!」なんだと?
「貴方のそばを離れるとまた心に黒いものが入ってくるんです!!!」・・なんだそれは?
「・・僕が説明するね二人とも・・」
どこか憮然としたキルが話を進める役を買って出た。
自分達が何かしたのではないかと、ハドラーか喰い殺しそうな目でこちらを見ているので誤解を解く為に。
羨ましいんだけどハドラー君!
僕もお嬢ちゃんを抱っこしたかった!!
心はしくしく泣いて嫉妬で満ち溢れてもきちんと説明をしてあげた。
「・・・はぁ~・・」
深いため息をハドラーは吐き出した。
こ奴は・・
キルの説明でハドラーはある考えにたどり着いた・・辿り着いてしまった。
力が強いのみで戦いに全く向いていないものだ。
「それで、何故こやつは俺の側から離れない?」
「きっと君の今の強さが無意識に瘴気を払っているんだよ。」
つまるところ無意識にティファを守っているに他ならないのだと、彼は気づいているのだろうか?
今夜はここまでです。
追記
瘴気の特性は作者オリジナルです