「痛い!御免なさいダイ兄!!」
兄がガルーダに乗って、死の大地に来たときは本気でぶっ飛んだ。
だってどうやって私の居所が分かったの?
敵の本拠地に単身乗り込む云々吹き飛ばすこと言ってくれたよ。
「だってティファの気配がこっちからしたから。」
どうして分かったのかハドラーの腕の中で呆然と呟いた私の疑問に答えてくれたダイ兄の愛が正直重い。
そして目つきが相当やばい!
笑っているようでいて全く目が笑ってない!!
ここから私を返せのなんだのの激突になる前にダイ兄のところへぶん投げられた!!
投げたのはダイ兄の出現に目をぱちくりとしていたハドラーではなく、私を返す気が全くないキルでは当然なく、ミストの傀儡掌で放り投げられた。
「ちょっとミスト!!」
当然キルは抗議するが撃沈された。
「その二人を早々に死の大地より返すようにとのバーン様のお言葉だ。」
何よりも優先するべき主の言葉を伝えられたキルもすごすごと引き下がってくれた。
「お嬢ちゃん、次に会う時まで眼鏡は僕が預かって・・」
「今すぐに返してくれないと、貴方が私に渡した包みをそのまま燃やしますよ。」
なんかとんでもない約束させらそうになったので脅しをかけたら眼鏡をこちらに投げつつ、、
「やめて!アレは君の事を思いながら一針ずつ丁寧に縫ったんだよ⁉」
なんか聞いたらイケナイ答えが返ってきた。
それってつまり、大幹部キルが私の為に手造りを?
ちょっと・・かなり嬉しいと思ったらいけないきもする。
でも嬉しい気持ちは消えてくれない。
乙女な思考にはまっている腕の中の妹の顔を自分に向けてダイはにっこりと笑って告げた。
「ティファ、あの包みならきちんと燃やしたよ。」
灰も残らないくらいにね。
そっから私は急いでガルーダにダイ兄ごと乗って逃げました!
だってキルがダイ兄の言葉聞いたとたんに殺気の塊化したんだもん!!
後の残されたキルは追撃して勇者をどう殺そうか算段するも、親友に見透かされて強制連行で地中の本拠地に戻され、ハドラーは様々な意味に頭痛を起こしながらも戻っていった。
死の大地にあるはずのない金のマジックリングが落ちているのにも、その様子を悪魔の目玉越しに見ていた策略老人の思惑にも気が付かずに。
ガルーダにパプニカ王城への直行はさせかった。
パプニカの城が見えるところでダイ兄が降りるようにガルーダに言ったからだ。
力の強くなったダイ兄のいう事をガルーダは素直に聞いて降りちゃった。
神獣よりも竜の騎士の方が上位なのかなと思ってなんだろうと降りたら、ダイ兄が私の手の甲に噛んできた!
手の甲から腕に、腕から首筋に、耳に頬に露出しているティファの肌を蹂躙するように、罰を与えるように。
「御免なさい!ダイ兄御免なさい!!」
今回は自分から引き起こしたわけでは決してないが、それでも兄は心配をして怒っている。
「許して・・お兄ちゃん・・」
暴れるのもやめて、くったりと力を抜いて自分に身を任せた妹の態度でようやく許す気になった。
動く巨大な城のところまでティファが降ろしてくれた。
剣が出来てキメラの翼でパプニカに向かおうとロン・ベルクの小屋を出てすぐに両肩をガルーダにつかまれ、そのまま城の肩口まで行けたのは幸運だ。
何故かパプニカの大地が泥と化して動く城を飲み込んでいたのだから。
自分一人だったらどうやって辿り着く考えるのに時間を潰してしまっていたのが自分でも分かるからだ。
中に入って中心地で剣に闘気を遺憾なく載せて大地斬を放ったら真っ二つに斬れたのには自分だって驚いた。
世界最強をと言っていたロン・ベルクさんの言葉に嘘はなかったんだ。
切った後にレオナを安心させようと剣を高々と掲げた後に力はいらなくなってしばらく休んでポップ達の方に行けば、ポップ達が取り乱していた。
ティファがいない、どこを探せば、その言葉で俺には十分わかった。
ティファに言った通り、ティファは直ぐに攫われてしまう。
だから俺のそばを離れたら駄目だと言ったのに。
「ポップ、俺がティファを連れて帰る。」
「でもダイ!どこを・・」
「俺には分かるよ、ティファの居るところ。」
居場所の名前なんてどうだっていい、北西の方にきっといる。
ガルーダが深いまなざしで俺を見ている。
ティファを助けられるかと。
無論助けられる、ティファを守るのは兄である自分だ。
ティファが渡されたという敵からの小包を完全に灰にしてからガルーダに方向を伝えて行った先には、冷たい空気の大地とあり得ない光景が広がっていた。
なんでティファは魔王の腕の中にいるんだ!!
ライデインで威嚇をしてから降りた後は、何故か敵からティファを返された。
放り投げられたのには腹が立つが、返してくれたのだから別にいい。
ハドラーもいるが、ティファの安全が優先だ。
道化の男が何か俺に怒ったようだがどうでもいい。
妹をきちんと叱らないといけない。
そしてティファに罰を与えたダイは反省をした妹に満足をして、そのままくったりとしたティファをガルーダに乗せてポップ達の下へと再び戻るのだった。
勇者が満足をしている一方で、宿敵の魔王は釈然としなかった。
あの後念願かなって御簾越しではない主との対面が叶った。
細い体の老人だったが漏れ出る気配や言葉の端々から位の高さを思い知り、自分なぞ到底勝てない器の大きさも見せつけられて嬉しくなってもだ。
主となるものが仕えるに足るものと知れるのが、これ程自分に喜びを与えてくれるとは正直驚いているが。
命を救われ、力を与えられたが心のどこかではいつか自分が大魔王の居る位置に座ってやると野望がなかったわけではない。
御簾越しや声だけからも圧倒的な力を感じてもだ。
そんな野望なぞ消し去るほどの主に出会えて嬉しかったが、心の中に刺さった棘が喜びに水を差す。
ティファのあの嘆きは、涙は何を意味しているのか。
大地に充満した瘴気によって心の傷を晒されたのは分かるが、何に謝り見捨てたといっていたのか。
最大の敵である自分に縋りついた手の小ささ、抱いた体の軽さの感触がいらぬ思考を自分にさせて苛立たさせる。
「ハドラー様、ご報告です。」
「・・・何事だ。」
城にいる数少ない見張りに思考を破られた。
「は、妖魔司教ザボエラ様が死の大地の地上部に勇者一行の者の落としたものを見つけたようで罠を仕掛けると言われて地上に行かれました。」
「・・・・こちらで対処する。バーン様にはあとで俺から説明をする。」
ザボエラめ、功を焦るか・・愚か者が。
落とし物とはあ奴の物だ。
脳裏には、マジックリング一つの為に敵がひしめいている地底魔城を爆走していたとんでもない娘の姿が浮かんでいる。
先程大魔王より下賜された物をさっそく使うか。
「其方は不服か?余が勇者達を見逃したのが。」
ハドラーとの謁見を終えて、太陽の下でワインを楽しんでいたバーンが背後に立っているミストに不意に声を掛ける。
ミストには自分の若き肉体を預けて半ば同化している状態であり、ミストの思考が流れてくるときがある。
大概は自分の命をいかに果たすかと腐心していてくれる心地よいものだが、今はティファを無傷で返したこと珍しく不満のようだ。
ダイはともかく、ティファは脅威だ。
ダイの強さは竜の騎士の子によるものでありある程度は想像の範囲内で収まるが、ティファは違う!
強さ云々ではなく、存在自体が危険だと。
何故そう考えるのだと言われても説明はつかないが、あれはきっと主の最大の障害となる。
それでも「バーン様の御心のままに。」
何かあった時は自分が対処するべきであり、主の命は絶対だとこたえを返す。
「あの娘が厄介なのには間違えはない、其方が正しい。」
ミストの返答にバーンはさらに言葉を紡ぐ。
「実力が全く読めん。」
あの場でティファ達を倒しきれると言えなかった。
神獣ガルーダが現れたからには、逃げに入るダイ達を追うのは容易な事ではない。
そこまでの労力を費やす事態でもないので引き取らせた。
どのみち自分が出れば敵になりえないとの事実があったればこそ、面白いものを見せてくれたティファを褒美として見逃した。
頑なで普段は自分を全く出さないミストの様々な面を引きずり出し、本心が全く読めないキルも同様で、宿敵のハドラーにしがみついた驚くべき娘を。
それともう一つ、「ミストよ、-五年前-の騒動の事であの娘には聞かねばならないことがある。」
地上全てを一斉破壊をする準備は八割以上整った。
そんな最中にあの大騒動が再び蒸し返されては作戦の支障となりかねない。
天上を、地上を諸共に破壊しつくす為にも、憂いとなる可能性がほんの僅かにでもなるならば小石にも気を配らねばならない。
それぞれの思惑は奇しくも全てティファの事である。
ティファは文字通り、大魔王バーンにすら目をつけられたのだった
主人公は様々な意味で登場人物達を翻弄して行きます。