遅いな、ティファの性格ならば敵対行為をしに行ったわけではないヒムをさっさと返すと踏んだのだが当てが外れたか?
-斬ります!-地底魔上でザボエラを斬ると宣言をしていたあ奴の目は本気だった。
目の前に当人がいたと知っていたら、おそらくあれはザボエラを殺そうとしただろう。
たとえ敵だったヒュンケルや魔王の俺が止めようとしても、己の持てるすべての力を使って喉笛に喰らいついていたであろう姿が容易に想像がつく。
ザボエラの件に関しては自分が出ていくべきであったか?先程妙な別れ方が気になって行くのを躊躇ったのは間違いであっただろうか。
-戦いたくなんてない!-
一方ではザボエラの様な者を殺すのに躊躇いはなく、一方で戦いを疎む・・矛盾した心を抱えているとは相変わらずあれは読めん。
情に厚いのならば何故アバンを死に物狂いで助けようとしなかった?
情が薄いのならば何故戦いあった直後の敵であったクロコダインの名誉を本気で守ろうとする?
あれは謎の塊だ。一生自分なんぞには解けそうにもない。そもそもあれは・・
「・・君」
自分と戦いたがってみたり、戦いを極力しないようにしたりと・・
「ハドラー君!」五月蠅い死神だ。
人の考え事の邪魔をしおって!
「何事だキルバーン、今は自由に過ごしてよいと先程バーン様からお言葉を賜ったばかりだぞ。」
暇ならばミストバーンにでも相手してもらってこい。
「そのバーン様が君を呼んでいるの、早く来てよ。」
「何?それをさっさと言わぬか。」
「・・・呼びかけ無視したくせに酷くない?」
・・せせこましい奴だ、ミストバーンにでも愚痴って来い。
ある意味この二人の関係も謎だ。片や寡黙・堅物が具現化したようなミストバーン。片や軽佻浮薄を具現化したようなキルバーン。この二人の関係を成り立たせているのは共にバーン様への忠義だけかと思えばそうでもない。
それは先程のティファへの言葉でも分かる。
-僕はミストとバーン様以外はどうだっていい。緑も太陽もその辺の路傍の石ころと同じだよ-
そう、優先順位がバーン様よりもミストバーンを先に持ってきたという事はキルバーンは軽佻浮薄な輩ではないのだろうか?
・・・それがなくとも変態ではあるがな。幼女相手に何をやっているのだこやつは。服の贈り物をしたというだけでもあり得ないのに手づから作りましたってないぞ普通!
そんな輩に目をつけられたティファが本気で気の毒になる。さっさと本気でぶつかり合い、変態の毒牙にかかる前にあの世に逃がしてやりたくなる。
あれは知識はありそうだが低俗な知識はなさそうだ。純真無垢、あれに用意されたような言葉だ。
誰であれ立場関係なく心の通じ合うものには平気で話をしていつの間にやら相手の心の内に入ってくる。
踏み荒らすのではなくゆったりとした心地を相手に与える赤子かあれは?
つらつら考え事をしながらハドラーはキルの案内に従いバーンの下へと歩を進める。
時折キルがちらちらと視線を送っているのに全く気が付かずに。
ハドラーにはいくつか悪癖がある。力任せの傲慢さや慢心、敵への侮りなど。少し前であったならば魔王らしからぬ小心者の策略が上がっただろうが今のハドラーにはその考えが浮かぶことすらないので勘定に入らないが、もう一つある。思考の海に漂うと周囲が一切入らなくなることだ。
ハドラー君今僕に殺される心配とかしないのかな?
自分は立場上は軍にとって役に立たないやつを処分する死神だよ?少し前だったら自分と二人で居る時はピリピリしていたのが嘘みたい。
折角超魔生物になったのにお嬢ちゃんにお披露目しようとして魔族のままだったのが、あんなことになってお披露目しそこなってまだ魔族の肉体のままなのに、それでも風格・実力は本物の魔王であり自分を魅了している。
自分は確かにオートドールの人形だが、自分に埋められた-動力炉-は魔界産の物。
少しは魔の者と呼べる部分が、彼の魔王の力に魅かれているのだろうか?それはそれで楽しい。退屈でミストとバーン様しかいなかった自分の人生が、今最も楽しい時間だ。
願わくば
「バーン様、ハドラー君をお連れしました。」
お嬢ちゃんも手に入れて、自分を入れた五人でいつまでも過ごしたいな~♪
「何事がございましたか。」
片膝をついてバーンに礼を取ったハドラーは直ぐに用向きを尋ねる。本来ならば主から言い出すのを待つのが礼儀だが、ヒムを迎えに行くかどうかヤキモキしているので時間が惜しいとサクサクと話をすすめたい。
「・・見てみよ。」
自分への返答は主の不機嫌な声と、目の前に水鏡が出されたことで返ってきた。
力のあるほんの一握りの魔族のみが使える水鏡は水晶のように遠くを映し水晶以上の大きさと鮮明さで見ることが出来る、今では伝説級の魔術だが驚くべきはそこじゃない!!
なんだこの映像は⁉
「そうなんだよ!ハドラー様ってすんげえ良い人なんだよ!!」
「そうですよ!あの人はまさしく一流の魔王なのですよ!」
なんでヒムとティファが自分を褒めながらきゃいきゃいとしているのだ!
しかも二人がいるのは何処だ!緑が見えているという事は死の大地では断じてない!ヒムは一体どこで何をしている!!
いや~ヒムがこんなに良い奴だなんて思わなかった。左胸貫いたときは本気でビビこいた。無関係で生まれたばかりのヒム殺してたら私本気でハドラーにお手打ちされても文句言えんもん。
パルプンテに掛けられたかというほどパニック起こした私にビシビシ声かけてくれて落ち着かせてくれたのが凄かった。
というのがティファのヒムへの第一印象であったが、こいつ本当に戦うものかとヒムはティファを疑った。
「いいから落ち着け!俺は禁呪生命体だから通常の生物よりも頑丈にできているんだよ。ああ、慌てて抜こうとするなよ。お前は動かずにそのままでいろ。俺が後ろに下がるから。いいからいい加減に泣き止め!!」
下手に動かれて中の核に傷がつかないように指示出ししながら下がったよ。敵のこいつに指示だしするっておかしくね?
「ほんとに・・本当に申し訳ありません!!私勇者一行のものでティファと言います!この償いはどうすれば!」
「・・・あんな、俺がこの場にいるって意味分かってんのか?」
「はい!ここは死の大地で魔王軍の本拠地と推察しています。そんな場所に居る貴方は・・」
「そうだ、俺も魔王軍のもんだよ。俺の名前はヒム、魔軍司令官ハドラー様の親衛隊のポーン・ヒムだ。」
こう聞いたら流石に俺から距離とんだろうとヒムは考えた。
その考えは間違っていない。ただし、一般的な考えを持った者に対しての正しい考えであって生憎とティファには通用しない正しさだ。
ティファはヒムから距離を取ることなく、ヒムの後ろで蹲ったまま気絶しているザボエラを指さした。
「ヒムですか、察するに貴方はあそこのダニ野郎を持って帰って来いとハドラーに言われましたか。」
距離とるどころか普通に話しかけてきた!
「ハドラーは優しいですね、自分の許可とらずに勝手に軍動かしたあんな奴助けるなんて。」
・・こいつは・・そうだよ!ハドラー様は優しいんだよ!!
そう叫んだヒムをティファはまじまじと見て、何を思ったのか無言で素早くロープをマジックリングからだして一瞬でザボエラをぐるぐる巻きにして放り出し、抗議しようとしたヒムをガルーダで掻っ攫った。
「手前!どういう・・」
「そうなんですよ!」「はぁ⁉」
「ハドラーは優しい凄い人なんですよ!!」
自分を死の大地の向い側のカール王国のサババに降ろした変な奴は、急に敵の軍司令褒めてきた!普通ならふざけんなと戦闘開始してもおかしくはないのだがヒムもある意味ティファと同じく普通ではなかった。
「そうなんだよ!あの人はすげえ良い人なんだよ!」
生まれた瞬間からハドラー様大好きっ子だったりする!
「生まれたばかりの俺にすぐに名前つけてくれたんだぜ!」
「あのじじい死に掛けてもいいからすぐに戻るように俺を送り出してくれたんだぜ!」
もう大好きハドラー様のマシンガントークである。
「そうなんですか!先程私もハドラーと戦うかと思ったのですが、私が万全の状態でないからと無傷で返してくれたんですよ!敵の私を!」
「あの人は最早一流どころか超一流の魔王です!」
「ヒムは良い上司に恵まれましたね~。」
そのヒムにティファも負けていなかったのは良いのだろうか⁉
いいわけない!お前は勇者一行の者だろう!!何をヒムと一緒になって自分を褒めまくっているのだ!・・・如何・・頭痛くなってきた・・
「行って事態の収拾に努めよ。」
自分の自由時間を潰したのはティファか・・・心なしかバーン様のお声が疲れて聞こえるのは気のせいだろうか?気のせいであってほしい。
バーン様の左に控えているキルバーンは面白くなさそうな気配を出して水鏡見て、右にいるミストバーンは気配を殺してはいるが手が震えているのはみなかったことにしよう・・ヒムの馬鹿者をさっさと連れ戻さねば!
主人公の能力欄に魔王軍をぶん回すというスキルを入れるべきか
水鏡は筆者オリジナルです。
前回主人公は死の大地の瘴気影響を受けたので、今回は闘気を極限まで薄くした膜状にして体を覆って保護したので影響なしでした。