勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

120 / 535
主人公が知ったら驚くことばかり

追記・タイトルを変えました


争奪戦⁉

実に実入りの多い忘れ物取りだったな~。

ルンルン気分で私ティファは只今秘密基地にガルーダともどもご帰還中です。

私は気分ルンルンだけど、乗せてくれているガルーダの気配が真剣におっかないです。なにせ敵と分かっているヒムを引っさらって、戦うではなく楽しく話し込んでいた私に相当おこのようなのです。

さっきから眉間に皺寄せてむっつりと怒ってますオーラを発してひしひしと私に反省してんのかと無言の圧力掛けてくる。下手したらダイ兄にチクりそうなので後でガルーダに全力で謝って内緒にしてもらわないと私の人権が風前の灯火だよ、監禁へのカウントダウン鳴っちゃうのは本気で勘弁だからね。

・・・・私とお兄ちゃんて勇者とその妹のはずだよね?

 

ティファが埒もない自業自得なことを悩んでいる時、ヒムはきちんとハドラーに言われた仕事を果たしながらご機嫌である。

ハドラーが水鏡越しに自分達に怒っているなぞ露も考えず、そもそも思い浮かぶはずもないのだが、ティファは何かを感じたのだろうかみぃ!とか可愛い声を出してびくりとして急いでヒムに帰るように進言をし出した。

「これはキメラの翼です。貴方なら使い方わかりますよね。これを使ってすぐに死の大地に帰ってハドラーからの命を果たした方がいいですよ。」

「・・・急にどうした?」

「いえ!果てしなく気のせいかもしれませんが怒っている気配がするのです!!」しかもなんだか身に覚えがあるような怒気だ!

 

野生児のダイと共に育ったティファも野生児であり、そんじょそこらの者よりも第六感が発達しており、故に水鏡越しのハドラーの怒りを感じ取り間一髪のところで二人揃って魔王ハドラーからの大目玉を回避してみせて難を逃れられる事に成功。

「ちょっと待て。」

ティファに帰りの方法を受け取ったヒムも、ハドラーからの最後に言われた指令をはたりと思い出す。

「ハドラー様からの伝言だ。」これ伝えておかないと本気で俺ハドラー様に怒られちまう。ザボエラを連れ戻すのは本当におまけで、自分の今回のメインはこっちである。

「近いうちに俺を入れたハドラー様の親衛隊が、お前達勇者御一行様に挨拶に行くって伝えておけって。」

「貴方を入れた・・・そうですか、彼がそんなことを。」

行こうとしたのティファは振り返り、驚いた顔をヒムに向ける。

 

まさかハドラーから-ふるいします宣言-がこようとは。

自分は知識で知っているからおおよその相手の動きが分かるが、今回は違う。ハドラー本人から自分達が直に相手をすると宣言をしてきたのだ。包み隠すことなく堂々と。

言わなくても敵から宣言することなどないこの世界では誰もとやかくも誹ることもないだろうに、本隊ぶつけに行くぞと言ってくるとは。

変われば変わるものだな。自分の知って・・違うな、私はこの世界のハドラーを本当の意味で知ってはいないのだろう。そろそろ知識だなんて言っていないで彼自身や周りの事をきちんと見ないと手痛い目に合う。

それでも笑みが止められない。彼の、ハドラーの急成長が嬉しくて。

今のヒムを見ればおおよその事は分かっても、本当のところは分からないものだ。

禁呪生命体は術者の影響を受けて生まれてくる。

数か月前の彼から生まれていたらフレイザードみたいな奴が生まれていたんだろうけど、ヒムはきちんとした戦士だ。

礼儀もあり、何より相手を思いやる心を持っている。ハドラーから私が敵だってきちんと教わってから来ただろうに、やらかした事で半泣きした私に自分は大丈夫だと言い続けてくれた。

フレイザードだったら半泣きした私をしめしめと殺して手柄顔でハドラーに報告するんだろうな~とか想像つく。

でもヒムは違う。ようはそういう事だ。

「んだよ、急にニマニマして気持ち悪いぞ。」

「・・少しは女性に対しての口の利き方も勉強しておいた方がいいですよ?今のは男友達相手にはよくても女性に対してはアウトですよ。」

「あんな、さっき俺は禁呪生命体だって言ったろ?」

「それでも男よりの方だと思いますよ。禁呪生命体にも男よりと女性よりがいると思います。」ヒムの上司になるのはハドラーとクイーン・アルビナスがいるもんね。間違いなくアルビナスは-彼女-と呼んで差し支えないだろう。

「伝言確かに承りしたと、貴方の-キング-にお伝えください。」

この場合のキングはあいつじゃない。物語の後半に出てくるおバカで屑キャラキング・マキシマムでは断じてない。

ヒムのキングは唯一人。

「分かった、お前の伝言はハドラー様に必ず伝える。」ハドラー唯一人だ。

「お願いします。」ヒムと話しているのは本当に楽しい。でも楽しいだけじゃいけない。

「ヒム、戦場で会ったならば敵であるあなたにも容赦はしません。」

今は戦場でないからハドラーの事できゃいきゃいと楽しく話せても、戦場で会えば全力で叩きのめす。

「へぇ~、お前が戦うってか。」

 

確かにこいつは強い。なにせ素手でオリハルコン製の自分のボディーをあっさりと貫いてあまつさえ貫いた本人の手は無傷ときている。ある意味で出鱈目な奴だ。

そして面白い!こいつぜってえ自分の手でぶっ潰してぇ!

「手加減なんかすっかよ、俺の手でくたばらせてやるぜ!」

 

ふ~ん、そうきたか。

芯もしっかりとした戦士だヒムは。

「ではその日にお会いしましょう。」

「あ・・お・・おう・・」

あれ?今さっきの威勢どうしたんだろう?なんか面食らった顔してる。まいっか。

「帰ろうガルーダ。」

「・・・・・・・・・」

うぎゃ、ガルーダがめちゃおこだ。

 

怒ったガルーダは射殺しそうな瞳を背に乗せたティファではなく、ヒムに向けてから全速力で超上空を一路目指した。

ティファは呑気に秘密部屋に直行しようというが、冗談ではない!

もしもこいつが尾行してきたら、あるいは方角から大切なティファの場所が万が一漏れらと思うとぞっとする。ただでさえティファは大戦始まって物騒な世の中になったというのに相も変わらずに単独行動しているのに、そっちの警戒を全くしないのに頭が痛くなる!

しかもこんな得体のしれない敵ときゃいきゃいとして何をしている!

しかしティファは可愛い、なので元凶を睨んだ自分は間違ってない!・・はずだ!

 

そんなガルーダの思惑は丸っと無視して、ヒムは先程のティファの顔を脳内で何度も再現している。

ではその日にお会いしましょうか・・なんだよあの可愛い面した笑顔は!いきなり反則だろう⁉

戦う顔した奴が一転してあんな可愛い顔しやがって!!・・・ぶっ潰しても半殺しで持ち帰ったら戦利品で通してくんないかな?

ダイが聞きつけたら間違いなくヒムはお亡くなりあそばすような思考をしながらルンルン気分で死の大地に泳いで帰った。

自分には無限の体力があり、死の大地は目視できる距離なので泳いで帰る。

折角ティファがくれたんだ、使いのが勿体ない。

よしんば海のモンスター達に出会ってもオリハルコン製の自分をどうこうできる奴はいないだろう。マーマン出てこようが、シーサーペント出てこようが海馬出てこようが歯牙にもかけない。

ティファは例外中の例外だ。

ものの五分で泳ぎ切るという驚異のタイムを叩きだし、気絶したまま縛られて仰向けになっているザボエラを引っ担いで死の大地の地下に戻りザボエラを牢屋にさっさかとぶち込んでハドラーの下へと急いで戻った。

ティファとお喋りしていた事も、これからしようとしているティファお持ち帰り計画を考えている事も悪びれずに。

 

「ねぇねぇ君~。」

「あ~~~っ!」なんだ!急いでるのにいきなり甘ったるい声が自分を呼び止めやがって!

振り向いても暗いく長い通路しかなく、気のせいかと行こうとした矢先に通路から手が生えてきやがった!きっも!!

「やぁ~こんにちは、ハドラー君の新しい部下君♪」

「・・んだてめぇは?」

雰囲気も身に着けているもの全部も怪しさ満載な奴が何の用だ?ハドラー様の知り合いだったらやばいから返事くれえはしておくか。

「君、お嬢ちゃんから何か受け取ったでしょう?」

「はぁ!お嬢ちゃん?」

「あぁ、君が会ったティファっていう子を僕はお嬢ちゃんて呼んでるんだよ。

あらためて初めましてハドラーの部下君。僕はキルバーン、バーン様直属の部下でハドラー君の同僚だよ。」

ハドラーが聞いたら間違いなく変態に同僚呼ばわりされたくないわと怒鳴るところだが、何も知らないヒムはキルバーンの言葉を額面どおりに受け取る。

気にくわなさそうな奴だがきちんと相手しないといけないなと。

「それで、俺に何の用が?」

「さっきも言った通り、お嬢ちゃんが君に渡したものみせてよ。」

「・・・なんであんたに。」

「ふふ、だって僕はおじょう・・」

「ヒム!!」

 

キルバーンがヒムに迫って、ティファから貰ったキメラの翼を取り上げようとする前にハドラーがしびれを切らして迎えに来た。

何故か怒り心頭でヒムを迎えに行こうとした矢先にティファのほうからヒムに帰るように促したのが水鏡を消す寸前に映り、バーンも興味を惹かれたのか継続をしてヒムが泳いで死の大地に戻るところまでみていたのだ。

当然ヒムがティファからキメラの翼を渡されたのも知られている。

ハドラーは頭痛と眩暈がし、ミストはあの小娘やはり八つ裂きにと再び誓ったが、キルだけは二人とは違う思いが生じていた。

それは嫉妬。自分はティファと碌にお喋りもしていないのに、生まれてすぐのヒムが楽しくお喋りしてあまつキメラの翼プレゼントってどういう事⁉

僕なんて贈り物したら憎き勇者に灰にされたんだよ⁉お嬢ちゃんに先に目をつけて一番に愛しているのにこの差は一体何!

嫉妬に駆られてキメラの翼を取り上げようとしたがハドラーに邪魔をされ、キルはその日から数日間はミストにべったりとしてミストにうざがられてもめげずに機嫌を直した。

 

ヒムもヒムで迎えに来てくれたとハドラーにわんころのように付いて行き、案内をされた部屋で新たな親衛隊がいたので早速自己紹介をして礼儀正しいとハドラーに褒められてテンションマックス。

その勢いでおねだりしてみた。

「ハドラー様!!勇者と戦う時は俺ティファと戦っていいすか!!!」ぜってえ勝って持ち帰るんだ!

「・・・・ティファとか?」

「はい!いいすっか?」

 

驚いた、まさかこやつもティファと戦いたがるとは。

自分も今や宿敵の勇者よりもティファと戦いたいという気持ちの方が圧倒的に上回っている。軍の司令官しては大問題で、魔王としても間違っている気がするがそれでも!戦士としてあやつと本気で戦いたいというのが本音だ。

最早世界征服には興味がない。あれだけ追い求めていた激情は、今やこの力のすべてをティファにぶつけ、本気のティファを引きずり出したうえで勝つことに向かっている。

だが自分の命の恩人であるバーンへの忠誠も同じくらいにある。

全てに勝ち、自分が興味がなくとも主の望みを世界の征服を成し遂げる。

だが、ヒムの望みも無下には出来ない。

「ヒム!戦いは遊びではないのですよ!!」

「うっせえ!俺は本気だ!!」

自分の副司令官のクイーン・アルビナスの説教に、自分の主張を曲げずに挑むような目をしている。

本来ならばクイーンに逆らうはずのないポーンがだ。

どうやらヒムは自分に似すぎたようだ。ならば止めるだけ無駄だろう。自分だとて止まるつもりは毛頭なく、ならば他者を止める権利なぞないからだ。

「ヒム、許可をする。ティファを倒せるならばやって見せよ。」

ヒムに倒されるならばそれまでの奴だ。

「いいんすね。」

許可を得たヒムはにやりと笑う。望みの答えは貰った。あとは出撃する日が待ち遠しい。

 

 

 

 

「ミスト、今させている作業は後如何ほどかかる。」

「はっ、魔界よりの報告によれば一両日中には終わるかと。」

「ならば明日の夜、其方とキルで使者をせよ。」

「・・・・私も・・」

「珍しいな、余の言葉に不服か?」

水鏡を消し、キルもハドラーも去った玉座の間ではバーンとミストが打ち合わせをする。

-五年前の大混乱-の張本人に、あれは何かを知って仕掛けて策略か、百万が一の偶然かを聞き出すための大仕掛けを。

地上と憎き天界を消滅させるこの土壇場で、再びあの大混乱が引き起こされたらと思うとぞっとする。

ハドラーに話さずに、バーンは水面下で五年前の大混乱を引き起こした者をずっと探し続けていた。

魔界の敵対勢力、それもヴェルザーを真っ先に疑ったが何度調べさせても白だった。

第一かの暴竜ならばまだるっこしいことはしないだろうと、落ち着いた数年後に思い直して他をあたらせたが芳しくなく、遂先日疑わしきものを見つけた!其れも本当に偶然にだ!

「万が一にも取り逃がさぬように万全を期していけ。」

「・・・・直接連れ帰ればよろしいかと。」

ふむ、ミストとキルが行けばそれも可能であろうが却下だ。

「あれが白状するものに見えるか?」拷問をしたところで何もしゃべるまい。

精神力も強い、自分の-術-も通じまい。

「ああいう手合いには周りを巻き込んだ手段が有効だ。」

己一人の事ならば痛痒も感じないだろうが、他者を守ろうとする性質を利用すればいい。その為の準備も明日には整う。

明日という日が楽しみだと、魔界の神は生まれて初めて思ったのかもしれない。




もてるのかストーカーが増えたのかは皆様のご想像にお任せをします。

魔界の神様は如何なる事を張り巡らせているのかは今は内緒です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。