勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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薬とは薬にも毒にも・・




「そちらの方が重傷だぞ!連れてこい!!」

「ホイミ草ありったけ貰ってこい!消毒液・包帯も全然足りねえぞ!!」

「僧侶・賢者の手が足りん!!」

 

鬼岩城襲来からまだ一時間と経っていないパプニカ城内は野戦病院として半ばパニック状態と化している。

何故か泥で敵本隊の鬼岩城が上陸をせずに大惨事の難を逃れたとはいえ多数の重傷者は出ている。敵上陸を阻止せんと果敢にも海上にて撃破もしくは足止めをしようとしたベンガーナの戦艦は発砲と同時に鬼岩城の腕一つで撃沈をされ、幸いにも艦を任されていた船長が先のハドラー大戦の生き残りであったことが功を奏し、無理な徹底抗戦を選ばずに命を大事にの退艦命令を素早く伝達をさせて乗組員の命を繋げることに成功。

それでも波間に漂う内に、船の残骸との激突・マーマンなどの海洋モンスター達による攻撃などのせいで多数のけが人を出すことまでは免れなかった。

 

 

陸にてはさまよう鎧の他にもシャドー・ゴーストなどのモンスター達が暴れまわり、精神力の弱い兵たちに取り付き同士討ちをさせた。

普段から共に訓練をし、時に競い合い時にモンスター討伐などで互いの背中を預けあう同僚をおいそれと斬りかかれる猛者はおらず、神官・僧侶達による浄化がない間に迷いながら戦った結果瀕死の重傷者まで出す始末。

 

各国も勇者一行の活躍を目にし、耳にしていても決して対策・準備を怠っていたわけではない。

現にベンガーナは国家予算で開発をした虎の子の軍艦と戦車隊を引っ張り出し、リンガイアも猛将バウスン本人は自国防衛に残したが、彼が一から育てた王国騎士団を連れての会議だった。

それらを蹴散らした魔王軍の方が上手であり、勇者ダイが鬼岩城を叩き切ったとはいえその脅威は王達のみならず襲撃を受けた側、関わったもの全ての者達に焼き付けられ恐怖を否が応でも植え付けられてしまった。

魔王軍、何するものぞと意気込んでいた心をへし折られるほどに。

 

それでも悲しみに暮れ・恐怖に慄いて立ち止まっているものばかりではない。

王達は国は関係なく全ての負傷者を城内か協会の大広間などに収容して医師・僧侶・賢者たちを重症患者の下に走らせているが手が足りなさすぎる。

 

回復役たちも懸命に働いている。なんと勇者一行からも武闘家・マァムと占い師・メルルも城内の回復役の一端を担っている。

「そちらの方を止血している間にホイミを掛けます!」

「この腕は折れているだけね、添え木を・・ない⁉なら椅子でも壊して持ってきなさい!!」

そしてなんと驚きの人物が回復役となっていた!

「べほ!まだいけるか?無茶は・・」

「べほ!!-やるからさっさと連れてきて!!-」

「べほ・・分かった・・無理はするなよ。」

ベホイミスライムのべほも奮闘をしている。手伝いを申し出た時、マァム・メルルは諸手を挙げて歓迎をされたがべほはそうもいかなかった。

なんとなればこの国はハドラー大戦時には魔王軍本拠地の目の前という不幸中の不幸と呼ばれていた国で、今また敵からの大進撃を受けたばかりであり、当然正体不明のモンスターなぞニコニコと受け入れられるはずもない。

それでも手伝えたのはヒュンケルの説得と、偶々通りがかったアポロが聞きつけ事態を把握したアポロの許可の下べほも回復役に入り込めた。

自分は戦えない、それでもできることはあるんだ!!

この半月間自分もダイやティファ、そして今相棒のヒュンケルと共に勇者一行をしている。

誰かを助けたいというダイやティファ達のような心構えは残念ながら自分にはもてそうにもない。それでも目の前の苦しんでいる人たちを助けたい!

そのサポートをポップ・チウ・クロコダインも入り、ヒュンケルは次々と回復呪文を受けた重傷者たちを奥の部屋に連れて行き戻っていく。

城中のありったけのシーツ・毛布を敷き回復呪文を受けたとはいえ骨折の手当て、治しきれなかった表面上の火傷・傷などを見ていく。誰一人死なせないためにも。

 

 

それでも運なく死に向かっているものは確実に居る。

「アキーム隊長・・最早この者の手足を切断するより他は・・」

「分かっている!それでも・・」

ヒュンケル達の動いている場所とは反対の城の裏の一角に四阿がありもっとも重篤な者たちが運び込まれた。

勇者一行に見せる事を憚るようにひっそりと。

彼ら十分に世界のために働いていてくれている。ならばせめて戦いの傷跡の悲惨さを目に触れさせずにするのがせめて自分達に出来る精一杯の礼ではないかと考えて。

 

今この場は大国ベンガーナの隊長のアキームが任されている。

死線を超えてきたアキームは今追い詰められている。これが敵の撃破ならば何も躊躇する事無く進めるが、兵たちの命を救うために手足の切断を下すのにはその倍以上の決断力を要する。

退役した軍人達にも手足がない者もおりさして珍しい事ではない。寧ろ命を手足で買えたのだと笑っているものも来るくらいだが、この世界において手足切断は一種賭けのようなものだ。

斬った個所から腐り、それが元で死んでしまうもの。あるいは斬った場所の血が止まらず

に出血死してしまうもの、痛みのショックで死んでしまうなどリスクが高すぎる。

 

切り口から菌が入り壊死させるというのは突き止めたが、それを回避する方法が分からない。

斬って出血をさせても止める方法が分からない。

斬るときに痛みを回避させるにはラリホーマがあるが、使えるものが限られておりこの場にはいない!

どうすればいい・・イチかバチか・・

「アキーム隊長!勇者ダイ様より薬の差し入れが!」

「・・勇者ダイから?」

あの一行には僧侶から転向した武闘家のマァムがいたはずだが、彼女は薬を作っている余裕は・・

「受け取った医師によればマジックリングを三つ受け取り、その中身を確認をして説明文を読んだところ奇跡の薬・万能薬とのよし!!」

「なんだと⁉」

報告を受け取ったアキームは今度こそ本気で驚きを発した。

リンガイアを発祥の地としたその新薬は、一般人よりも軍部の人間たちからの支持を圧倒的に受けている。

なんとなれば平和の世とはいえ常に死の隣り合わせの任務に就くこともある兵士たちは常に命を守る確率を上げんと薬の類にまで気を使っている。

そんな中カールと比肩する騎士団国家の、それもリンガイア王国史上最年少の天才騎士団長の名をほしいままにしている猛将・バウスンの一粒種ノヴァが公表をした万能薬は各国の軍から奇跡の薬とまで呼ばれるに至った。

既存の薬よりも圧倒的に治りが早く、それに後遺症も全くない!

今までは治ったとはいえ中には数日後体調を崩して亡くなるものも出ていたが、同じような者を治しても後遺症は今のところは零という実績がある。

その奇跡の薬の作り方を自国で秘匿する事無く全世界の学会に発表をしたノヴァは勇者というよりも聖人扱いをされて困っているのはまた別の話だが、今回ダイによってもたらされた薬のマジックリンクは三つ。

中にはそれぞれの効能のラベルが張られた小瓶と、説明書が一枚づつ入っていた。

 

一つは緑で中身は斬撃・火傷・骨折用の三つの飲み薬と。

これはマァムたちがいる表の治療の方で使用されている。

残った二つのリングは赤と黒。中身を調べた医師は即刻裏のこの治療院に持っていくように指示をされたと伝令の兵が説明をした。

早速アキーム達が中身を調べると、なぜこの二つがこの場に持ってこられたのかを理解した。

手紙にはこう綴られていた。

もしもこの薬が入用な時はおそらく手足の切断をしなければならない瀕死の患者がいるという事。

赤のリングには痛みを感じさせさなくする強力な感覚麻痺薬と切断した後の処置の仕方のメモ書きが入っていた。

「各自にすぐに飲ませて治療に当たらせよ、腕のいい兵を表から即刻引っ張ってこい。それとメラでいいから火炎呪文を使えるものを。」

メモには切断の際斬る剣は火であぶり消毒をする事、切断をする腕に止血の為の縄をきつく巻いて血止めをする事を。

そして最後には切断後は直ぐに断面を大動脈諸共焼きつぶし、細菌感染と失血死を防ぐことが肝心であると書かれていた。

「アキーム隊長・・彼らの手を借りては・・・」

兵よりも腕の確かな戦士ヒュンケル、的確に呪文を使える魔法使いポップに助けを乞うてはどうかと進言を伝令は進言をするが却下をし、斬り役はアキームとなり彼は自軍を入れた総勢百五十七人の手足を切断をして治療を終えることが出来た。

途中で焼きつぶしただけでは出血が止まることのなかった者もいたが、メモ書きには予めそういった事態にも言及されており、糸を通し玉結びをしていた針を熱湯につけて消毒をし、血が出てもあわてずに動脈にさして玉止めで留めて何度も巻き付け止血をしている。

幸いにも失敗はなく、黒のリングの中身は使われることはなかった。

 

「・・・・願わくばこの薬が使われることがない事を願おう・・」

治療をすべて終えたのは夜半頃。少しでも休んでほしいとの副官からの嘆願に折れたアキームは赤のマジックリングはその場に残したが黒のリングは自分が持ち出し、与えられた野戦用の個人テントの中で重い体を横たえながらぽつりと漏らす。自分の手のひらにある黒いリングを見据えながら。

これの中身は確かに万能薬と言えよう。ただし人々の希望となる奇跡の万能薬では決してない。それでも戦場においては確かに必要となりえる場面があるのもまた事実だ!

そしてその時にはこの薬は真価を発揮するだろう。飲ませる者にとっては苛まれるだろうが、飲む側としては祝福の薬として・・・・忌まわしいこの薬を一体誰が製作をしたのだろう?あの緑と赤の中身は希望の薬であったのに、作った人物はこのくすりを作っている時どのようなことを考えながら作ったのかが全く分からない。

慈悲深くも怜悧な・・考えを・・・・持つ・・・

 

 

リングを握りしめながらもアキームは眠りの底に落ちる。どのような過酷な任務・訓練にも耐えてきた屈強な兵とても、強大な敵の襲来から同僚たちの死の隣り合わせの治療は精神的にも肉体的にも追い込み短い眠りの底へと押しやられた。

意識を落としながらもアキームは願うことをやめない。この-死の薬-が使われる日が金輪際来ないことを。

 




原作では勇者一行の活躍のみが書かれていましたが、筆者は裏方の努力を書いてみることにしました。

主人公の作る薬はまさしく万能薬なのです。


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