勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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生きてました


秘密部屋の秘密①

テラン王国とベンガーナ王国の国境は広大な森が広がっている。

そこは自然の宝庫であると同時にグリズリー、スライム、一角ウサギ、バジリスク等の大なり小なりのモンスターの住処であり余程の事がない限り足を踏み入れる者は少ない。

 

その少ない者の中に一体のガルーダとその背にいる一人の少女が入っている。

モンスターはお友達になれる、ここはお友達と貴重な手つかず薬草の群生の宝庫だとルンルンで秘密基地を作ったティファであった。

 

人を惑わし沼地に誘う精霊とももれなくお友達であり、天然温泉が出る洞窟という優良物件を精霊達に紹介をされてノリノリで改装をして立派な秘密基地が出来上がった。

 

入口はそのままで剣の修行~と鼻歌うたいながら中をガリごり抉り出して二十畳ほどの広さにしてから家具を設置。

パンを焼く竈を作り、壁には薬草を入れるタンスを作り、いつかお客様も来るかもしれないとベッドは二つ設置をしている。

複数人きてもマジックリングにベッドが五つ入っているので大丈夫。

入口にはただの崖にしか見えないように細工を施し長期使わない時には大岩で蓋をする徹底ぶりで出来て五年経っても中は一度として荒らされたことはない。

そもそも森のモンスター及び精霊たちとティファは早い段階からお友達になっているのでティファの大切な場所を荒らすものはおらず、人間も森の奥深くまで入ってくるものがいるのはいない。

 

だからこのご時世であっても魔族がゆっくり休めるのだ~。

「具合はどうですかザムザさん。」

「貴女と-父君-のおかげですっかりと良くなりました、ありがとうございますティファさん。」

「いえいえ、私はポップ兄達の頼みごとを果たしたまでですよ。」

「・・・そうですね、あのような卑劣な策をした私を生かそうとしてくれた彼等には本当に感謝をしてもしきれない。

私はこのご恩を返したいのです。」

うん、本当にポップ兄達凄いよ。

でもね、いきなりザムザ助けてくれってぶっこまれた時には本気で驚いてぶっ飛んだけどね。

モンスター筒に入れられて、手紙一つでざっくりとした説明しかないのを見た時には本気で兄達をシバきたおしたくなったよ、うん。

 

会った経緯とされた罠と、-それでもこいつはザボエラには勿体ないほどの良い奴なんだ!助けてくれティファ―

 

その一言だけってどうなんだろう。

まぁダイ兄に持たせてた生命力と体力を回復させる特化系統の万能薬を使えばザボエラの中途半端な超魔生物もどきの反動位は回復させられるけど。

だからってなんも知らんはずの妹にやっばい敵送って助けてくださいは普通しないと思う。

確か原作のザムザも嫌いじゃないけど、転生者しか分からんような状況に無茶ぶりしないでよまったく!

 

色々と考えながらも結局ティファは手紙を読んだ後すぐにザムザをモンスター筒から出して助けており、ザムザはその事を一生背負う恩だと感じているので結果オーライかもしれない。

何故ならザムザは魔法薬に通じた博士号まで修めているからだ。

 

「こちらに戻られたのは持っていかれた薬のストックが無くなりましたか。」

「そうなんです、大量に作って大丈夫だと思ったんですが見積甘かったようです。」

「・・・申し訳ない・・」

「ザムザさん・・あなたはもう・・・」

「いえ、私も大勢の人間と地上のモンスター達を直接手を下さなかったとはいえ殺戮する手助けをしていたのです。」

知らなかったから、人間の優しさを、命の本当の重みを。

 

ザムザは苦しそうに告白をするが、すぐさま微笑む。

自分の罪悪感で目の前の優しい少女が心を痛めるのは本意ではない。

 

「あの方よりのご伝言です。

貴女と兄君に約束した通り人間と戦う事はしないと。」

「そうですか、伝言をありがとうございます。父はいつ出立を?」

「貴女が行かれてすぐに。元気に出て行ったのだからもう大丈夫だろうと安堵されて笑いながら行かれました。」

「・・父さんたら・・」

「優しいお方です。貴女も兄君達も父君バラン様も。」

 

この人本当にあのザボエラのご子息様?

笑顔がめっちゃ透き通ってるんですけど、実は実子ではなく貰い子とかどっかからか攫ってきたんじゃないよね?

実験用にしようとしたけど頭いいから親子だってだまくらかして。

そんな考え浮かぶほどザムザさんは優しい人だ。

 

しかし父さん旅立ったか、十日間で体の傷は全回復したし、ちょこちょこ出ていた微熱もザムザさんのおかげで治って良かった。

私はこの十日、ザムザさんが送られてくるまでずっと父さんとの二人暮らしを満喫してた。

 

小屋でダイ兄達と分かれてすぐさま・・・・は父さんを追えなかった。

思ったよりも私の精神ズタボロで、ガルーダに見抜かれて速攻でデルムリン島の修行洞窟に放り込まれた。

そこはかつては修行の場で、終了した後も中でどれほど過ごしても外は五分しか経たない機能は失われずに私と神獣ガルーダしか入れないようになっている。

 

「-悲しいのならば泣け-」

 

ガルーダも近頃は私が呼べば聞こえる距離にいるせいで今回の父さんたちとの戦いを知っている。

戦った相手と私の関係も。

多くは言わないガルーダのぶっきらぼうな優しさに崩されて、張っていた心の糸が切れて私は泣いた。

泣く資格がないのは分かっている、こうなる未来が来るのを知っていたのに止められなかった、止めようとしなかった自分の罪は自分が良く分かってる。

あまりにも原作を変えすぎればどんな動きになるのか予想できないで、神様たちと進めている-計画-に支障が出てくるのが分からなかったから怖くて手をつけずに逃げ出したんだ。

あの三人よりも、計画をとったのだ私は。

 

それでもあの三人に生きていて欲しかった、テランの村の人達と笑いあう三人を見たくて説得しようとした気持ちは嘘でなくて、どうにもできなかったのは悔しくて悲しくて痛くて、耐え切れなくてガルーダにしがみついて泣いて・・気が付いたら眠って、自然と私の目が覚めるまでガルーダは私を包み込んで待っててくれた。

まるで雛鳥を包むように羽で柔らかく、何もかもから守ろうとしてくれる親鳥のように。

 

泣いたらいくらか心が回復できた。

あの三人の命を救えなかったことを悔やんで立ち止まったら、私は本当に最低な者でしかない。

罪は罪、それでも進むと決めてガルーダに飛んでもらって父さんを探しに島を出る。

島にいるじいちゃんには会わずに。

 

「いた!ガルーダ降りて。」

どこかに身を隠して見つけるの難しいかと覚悟してたら、テランの回復の泉に行く道の途中で倒れているのを発見。

 

父さんの特技の中に行き倒れでもあるのだろうか?母さんと出会った時も行き倒れがきっかけだよね。

来る途中で三人の亡骸を埋めようと寄ったらあるべき場所に三人の遺体はなくて、探しに来た父さんは行き倒れの重体で不可解な事だらけだけども考えている暇なし。

とにかく手当てしないと。

 

秘密部屋のベッドに父さん寝かせ斬撃と骨折用の薬を塗って、体力回復を飲ませたあたりで父さんの熱が一気に上がる。

身体中が熱いのに皮膚は乾いて汗をかく様子がない。

血もだいぶ流して水分も全くとってない状態ではいくら父さんが竜の騎士であっても不味い。

竜の騎士であっても血も流れれば病気にもなり、放っておけば死んでしまう。

大量の経口補水液もどきを作って、父さんの頭を抱え起こしてゆっくりと時間をかけてとってもらう。

熱と同時に意識の混濁も始まったせいかコップからは飲めなくなったから私に口移しで。

父さん唇も熱くて体が燃えるようなのにカチカチと震えてる。

これホントに不味い!

熱を下げようにも氷なんてここにはない!冬でないから少し離れた湖に氷があるはずもなく、私はヒャドを使えない。

ガルーダでオーザムまで行けば、あるかもしれないけれど離れたくないしあっという間に足りなくなるのは明らかで、往復したくもない。

昔、前の人生で本で読んだことを試してみる。

 

父さんのズボンを脱がせて下履きも脱がせて、私も何も身に着けないで上からあるだけの毛布を掛けて父さんと素肌を合わせる。

横向けにして細いけど自分の足も父さんの足の間に絡ませて体を密着させる。

しばらくは燃えるような息をカチカチと吐いていたけど、数十分したら震えは止まって息遣いも少し穏やかになって少しづつ額にうっすらと汗をかきはじめる。

 

一時間後にはぐっしょりとかいて毛布の中に持ち込んだタオルでせっせと拭ってたら、父さんの目がうっすらと開いた。

 

「・・ラ・・」

熱い息と一緒に何かを呟いたと思ったら、私の体を強く抱きしめる。

まるで逃がさないように閉じ込めるように。

 

「ソ・・アラ・・・やっと見つけ・・・」

 

途中で力尽きて眠ってしまったけど言いたいことはきちんと伝わる。

私を母さんと見間違えて、母さんだと思って喜んだんだ父さんは。

 

私は・・・本当に罪深い。

母さんを見殺しにして三人も助けなくてなんて奴だと罵倒してやりたい。

 

だけどね、止まるわけにはいかないんだよ。

だから前に進む。

 

ティファのすすり泣く声を聞いたガルーダは何も言わずに先程のデルムリン島の洞窟のように竜の親子を翼で包み込む。

父とガルーダの温もりに、ティファもいつしか眠りにつく。前に進む力を取り戻すために。




主人公サイドのテラン激突後のお話です。

今後のフラグをチラホラと入れていければと思います。

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