勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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父親って・・


秘密部屋の秘密➁

          「ティファ――――?!!!!!」

 

うんむ~?眠いのに~なんだか大絶叫でたたき起こされた・・二度寝したい。

 

ティファの秘密部屋の朝はバランの物凄い大絶叫で始まった。

 

何故ここにティファがいて!しかも裸で私と一緒に寝ているのだ!!

それも私も下履き一枚しかないのは何故だ!

 

最早突っ込みどころしかない状況に驚いた。

バランは目が覚めて意識がはっきりとして慌てて起きようとし、隣にいる素っ裸でくぅくぅ寝ている娘を目にして大絶叫を発してしまった。

どんな強敵・見た目化け物のような敵を散々相手にしてきても動じたことがないのに我が娘相手だといつもこうなるのは何故なんだ。

 

確かに自分はティファの父親である。赤子の頃はソアラを手伝ってディーノとティファのお風呂を手伝いもしたが!いきなり十二歳の少女に成長した娘の裸を見せられれば驚く!

 

・・くぁっとあくびをしながら瞼をこすっているのがまた愛らしい・・・我が娘が可愛すぎるだろう!

生んでくれて本当に感謝するぞソアラ!

 

 

えっと、何百面相してんだろう父さんは。

頭をバリバリとかきながらティファは胡乱な眼差しを父に投げつける。

 

いきなり絶叫で人叩き起こしたと思ったら私の事見たら顔赤くして笑って急に天井見上げてうっすらと泣き始めちゃったのどうすべき?

まぁいいや、お脈拝見。脈は少し遅めでも力強いから体力つける方向で、若干熱あるけれどまぁいいや。

 

我が娘は優しい、どうやら私の身体チェックをしてくれているようだ。

熱がどうとか言っているが、どうやら私は熱を出していたようだ。

そうか!私の熱を下げるためにティファはその小さな体で私を癒そうと一晩掛けて・・・裸でいたのはその為か。

この子はなんと天使のような子なのだ。

 

寝ぼけながらも診察をして、終えた後天使のような子だと評されたティファはバランをそのまま湯の中にぶん投げた。

 

傷は薬で表面上は全て治ってそこそこ体力もありそうなので湯船の中で丸洗いしても問題ない。

そんな理由で湯の中にぶん投げられたバランはティファの良い子さにうっとりとしていたため、何が起きたか分からずに対処し損ねて頭から湯の中に突っ込んでしまった。

 

あまりの出来事に抗議しようとしたが、後からあかすりタオルと石鹸をもって入ってきたティファに、流石に一緒風呂はどうなのだと上がろうとしたところを万力の力で右腕を掴まれ

「おとなしく丸洗いされなさい!!!」

まったく仕方がない人だとばかりに怒鳴られ理不尽な雷を落とされフリーズ起こした隙にバランは全身くまなく隅々まで洗われてしまった。

 

なんとなれば体力を消耗しているところに-竜の血-を散々使って体力回復の泉に辿りつく前に行き倒れたバランと、数時間の体力回復後に父と共にぐっすりと眠って体力満タンのティファとでは歴然の差があり、お風呂戦争の軍配はティファに上がったのは当然の事だった。

 

父親としての威厳と尊厳の全てもこそげおとされたとバランはしくしくと泣きたくなる。

予定では今頃は親子そろって魔王軍となって世界の人間すべてを滅ぼす計画を練っていたはずなのに。

そこは失敗してよかったと今は思うが、流石にこの状況は無いだろうと頭が痛い。

 

 

なんか父さんが鬱陶しいと思うのはあれかな?私反抗期になっちゃって父さんの洋服と一緒に洗濯しないでよお母さんの世界なのだろうか?

父さん騎士としては一流なんだろうけど父親としては新米さんか。

それも仕方が無い事だけど。

 

右往左往して落ち込む父をそっとしておいて、近くにバスタオルと着替えを置いた後は何も言わずに朝食の支度をする。

そんなティファの様子に観念したのかバランも湯から上がりタオルを使って着替えた。

なぜ男物の服が一式揃っているのだと絶叫したくなるのを我慢しながら。

 

野菜をくたくたに煮て擂り潰し、塩と胡椒で味つけたスープとさらに混ぜ合わせ即席の流動食を作り、ベッドに二人で腰を下ろし、スープの入ったマグをバランに渡してティファもゆっくりと飲み始める。

渡されて戸惑ったバランもティファが飲み始めるのを見て口にした。

ジャガイモをふんだんに入れたので自然のとろみもつき、ニンジン・玉ねぎ・根セロリの優しい味がバランの弱った体にもしみ込むほどの美味しさであった。

これ程の美味な食事をしたのはいつ以来か?

幼少期はひたすらに、自らの運命を知りヴェルザーと死闘の間も幼少期と同じく生きるためで、魔王軍にいたころは栄養補給の為で味など気にもかけなかった。

ソアラの料理は・・・味こそひどかったが心から美味しいと思った。愛しい妻が、自分の為にひたむきに作ってくれたのだから。

その時の幸福を思い、涙を流しながらバランはゆっくりとスープを味合う。

 

飲んでくれた、体を治すには食事が一番の基本だ。

 

バランがスープを飲んでくれるかティファは内心でやきもきしながらスープを渡して平然とした風を装って率先して飲んで、つられるようにスープを飲み始めた父に安堵する。

少しずつでいい、父さんときちんと家族に戻りたい。

この洞窟では何もしなくていい、ただ心ゆくまで休んで。

 

スープを飲み干すと同時にうつらうつらとし始めたバランの手からマグをそっと受け取り、ゆっくと寝台に寝かせ布団をかけながらティファは優しい手つきでバランの頭を撫でる。

 

生涯の半分を戦いと復讐に捧げ、安息の時期が一年足らずしかなかった父の境遇に思いを馳せてティファは祈りにも似た言葉をバランに投げる。

 

「おやすみなさい父さん。」もうゆっくりと休んでいいんだよ。 




親子にしてあげたい

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