兄の膝の上であっても鬼岩城戦での出来事を余すことなくティファは聞いた。
一行全員の活躍を聞きたいと言えば照れ臭くて活躍をしていないと固辞したポップ達に微笑み、ならばどう考えて動いたのか知りたいのだとさらに言えばお互いの活躍をそれぞれに言い始めて大いに盛り上がりを見せた。
特にポップの指揮能力はさらに増しており、如何に冷静で頼もしかったかをメルルを筆頭にいダイもマァムもチウとても賛辞を惜しまずポップを大いに照れさせた。
みんなそれぞれ成長をしている、ポップ兄がその筆頭か。
少々臆病なところがあってもそれを圧倒してもおつりがくるほどの勇気の持ち主の兄が、マトリフ老師に死ぬ気で師事をしていて原作と同じ成長速度であるとは思っていなかったが予想以上。
それに負けまいとして皆も強くなる道をひた走る。まるで灯火のようだポップ兄は。
勇者一行がひた走る道を照らす力強い炎。ポップ兄ますますカッコよくなってる。
誰がどう動きどう考えどう動いたかの他に、特筆すべきはやはりメルルの能力だ。それをもってして自分達は鬼岩城戦に行けたのだとポップの手放しの讃辞にメルルを赤くさせたのにほっこりとした空気が流れる。
一行の動きにティファは一つ一つを褒めながらお茶をのんびりとすすり、その姿はまるで生徒を褒めている先生のようだとエイミとバダックは思ったのだった。
お茶会をしているさなか、不意に扉が叩かれた音がしたのでエイミが立ち上がり扉を開けるとアポロの姿があった。
「どうしたのアポロ?」
たしか今アポロはレオナと共に王族会議に出席をしているはずだが。
「ダイ君と、料理人のティファさんはいるか?」
「ええ・・」
エイミの返事に失礼しますと声を掛けて部屋に入ったアポロは直ぐに料理人のティファを探した。
ダイは扉の真正面におりすぐに見つかったのだが、もう一人の料理人のティファと思しき女性が見つけられずエイミに尋ねようとしたが
「初めまして。」
自分の下から声がした。
「初めてお目に掛ります、私が勇者一行の料理人のティファと言います。」
にっこりと笑って挨拶をしてきたのが自分の胸元までしかない女の子⁉
エイミやバダック殿が話していた料理人のティファと全然イメージが違う!
・・・・・何この人?
ティファのイメージが全く違うとフリーズ起こしたアポロは固まってしまい、返事をし損ねている事に対して次第にティファが苛立った。
もう少しと待ってみてやったのに挨拶返し無し。
「・・礼儀知らず。」-パタン-
へ?
気が付けばアポロは気が付けば部屋の外に出されて扉を絞められてしまった後だった。
柔らかい手が少しだけ自分をおした感触が後から来たという事は自分は追い出されたのか⁉
「おいティファ!」
ポップが何かを言いかけたがやめにした。ティファの表情から察するに相当怒っているようだ。
テーブルに着いたティファは今度はダイの膝には戻らず新たに自分でお茶を淹れて啜りはじめたが、ダイも何故戻ってこないかなどを言わずに黙ってティファを見守る。
ティファは静かだが瞳の黒色がしんとして冷たくなっている。
あれは妹が相当不機嫌な時の兆候で、下手に突つけばどんな目に合わせられるかわかない怖いティファの時だ。
こういう時はそっとしておくべきであると長年双子をしているダイはよく知っており、他のメンバーも何かを察したのかアポロを追い出した事を聞くに聞けない状態となった。
チウとメルルも怒らせたときのティファの怖さが分かり、鬼岩城戦前のティファからの手紙で何故ダイ達があれ程狼狽えたのか分かってしまい、ティファは怒らせてはいけないと学習をした。
礼儀はある程度の経験がないと身に付かないが、アポロはどう見てもいい年をした大人だ。
自分の見た目に、勝手に想像していたイメージが違うからと驚いてうかつに礼節を忘れていましたで通る年齢ではない。あの人確かパプニカの三賢者の筆頭だよね?
-温室育ち-
あのアポロは戦うスキルがあっても経験はないようで、愚か者は戦場に連れて行っても役に立ちそうもない。
うちの一行のみんなの爪の垢を飲まそうかな?・・・面倒そうだから放っておこう、
ティファの中でのアポロの第一印象は最悪な形で始まった。
お茶を飲み始めて気分が落ち着いたと思ったらまたノック。
今度誰が来たかと思ったら、三賢者の最後の一人のマリンさん来ちゃったよ。
物凄く困った顔で、折角の花の顔が台無しだ。
エイミさんと同じくお茶に誘ってあげようかな?
「私は三賢者の一人でマリンです。料理人のティファさんは?」
またかい、今日はよく呼ばれる日だ。極端な日は人に会うことが全くない日もあることが珍しくない。
むしろ自分に用事があると訪ねてくる人の方が稀なんだよね。
「私です、始めてお目に掛ります。」
次から次へと少しうるさいという内心はばっちりと押し隠したティファはきちんとマリンに挨拶を返す。
感情と礼儀は別であり、先程のアポロのような無様は死んでもしたくない。
「先程は三賢者の一人が無礼をしました、あのものは・・」
「お待ちくださいマリンさん。」
マリンの口上を無礼を承知でティファが途中で遮る。
あの人自分の不始末を他人の、それも女性にさせようっても?馬鹿でしょ。
如何に気まずく入り辛くなったからって自分で来い!
そんな意味をオブラートで包みマリンをアポロの下へと返した。
「いかに私が年端のいかないものであろうとも先程の方がご自分から説明しに来るべきでしょう。
謝罪が欲しい訳ではなくきちんとした挨拶と何をしに来られたかの説明義務があるはずです。
何か私に御用がおありのようでしたが、お話は先程の方からのみ承りたく思いますのでよろしくお願いします。」
「・・分かりました、少しお待ちください。」
にっこりと笑いつつも言うたびに圧を掛けるティファにマリンは折れてアポロを呼びに行くと詫びて部屋を出た。
耳のいいチウとダイの耳に、猛ダッシュで部屋から遠ざかる駆け足の音が入ってきた。
エイミとバダックはティファの対応の仕方に驚いた。
城勤めの相手に臆することなく、初対面であってもなぁなぁで済ませない貴族か官僚の対応を見ているようだ。
「ねぇティファ、不味くない?」
アポロと面識があり、パプニカに多少世話になっているのにいいのかとダイがティファに聞いてみる。
「不味くありません。あの方は何かしら重要な御用がおありだったのでしょう。」
激戦後の休んでいる一行の下に物見遊山気分で来る人には見えんかったもん。
「そんな重要ごとを言い遣われた人が挨拶の一つもできないという方がよっぽど問題です。
あの方はこの部屋に来られる程の高い地位におられるようなので尚更最低限の礼儀は守っていただきます。
話はそこからですよ。」
なかなか手きびしい対応に、エイミはさらに驚いたがバダックは納得をした。どう考えてもあれはアポロの手落ちだからだ。
三度の来訪でようやくアポロは不手際を詫びたうえできちんと挨拶をしたところ、ティファも再び名乗り短気を起こして申し訳ないと詫びて来たのでアポロはようやく用向きをティファ伝えられるとほっとした。
「実は勇者ダイと料理人のティファに、各国の王が至急会いたいと仰せつかりました。
お二人ともそのままでよいのですぐに私についてきてください。」
王達に会う
それは一向にとってはまさに青天の霹靂であった。
レオナ姫も姫で王女であるが、彼女も最早一行の仲間でありそれにどこか王族らしからぬところがあり自分達に近い身内だと勘定しているので王族云々は最早明後日の方向にいる。
だが各国の王といわれれば、鬼岩城戦での功績が認められて何かしらの褒賞が与えられるのだろうか?
今までは国からの支援など皆無であり、これを機に援助をしてくれれば楽になるとポップなどは心の中で滂沱の涙を流して喜んだがティファの顔が浮かない表情をしていた。
「呼ばれたのは私と勇者ダイだけですか?」
「その通りです、王達が待っているのでお早く・・」
「お断りします。」
「なんだと断るだと!!」
ティファの返答に各国の王、特にベンガーナのクルテマッカ王が驚きと共に怒り狂った。
昨日の出来事で天狗になったか!
早朝よりの世界会議の再会の最中に、勇者ダイ達の仲間がこのパプニカ王城に入った方がもたらされ、一行の料理人のティファと名乗るものは誰かと問われたレオナがダイの妹である事を告げた。
ダイ達を自国の勇者一行に認定したロモス王は当然ダイの妹の存在など知らなかったので驚き、フォルケン王も当代の竜の騎士が二人どころか三人もいるのかと驚愕をした。
その二人の驚きをレオナは納得する。自分だとて十日前までダイに妹がいるなんて全く知らなかったからだ。
そんな驚きとは無縁のクルテマッカから提案がなされた。
「ではその二人を呼んで昨日の戦いの褒賞を与えてはどうだ?勇者とその妹ならば体裁は整うだろう。」
昨日の大活躍を見て何の褒賞を与えないのは不味いだろうが、全員と会うとなると元魔王のメンバーとも会うことになる。
昨日はその事を散々な形でレオナ達に言ってしまった手前、手の平を返すような真似をしたくないクルテマッカの思惑満載な提案であった。
勇者ダイだけを呼べば露骨に元魔王のメンバーに会いたくないと言っているようなものだが、-一行の代表-として二人を選んだのだとしえておけば問題は無いだろう。
その案の思惑を知ってか知らずか満場一致で可決され、レオナは会議室の前に護衛として控えていたアポロに早速二人を呼びに行かせたが、アポロの不幸はレオナがティファの名前と職業だけで、きちんと素性まで言及をしなかったことだが誰もレオナを攻めまい。
世界会議開催だけでも大仕事なのに、開催してみればワンマン王に癖のある王もいて、進まない会議の途中で絶体絶命の襲撃に、撃退しても怪我人の救護と被災者たちへの救援物資送りと炊き出しと被害状況調査とやること山積み。
ほぼ一睡もできない肉体的にも精神的にもギリギリなところに料理人のティファの素性など勘定からこぼれてしまっても仕方がない。
そんなところに料理人のティファが謁見拒否ってどういう事⁉
あの子は礼儀正しく、ダイ君と違って常識・良識とかが大丈夫そうだったのに!
「畏れ多いと恐縮してしまったのですか?」お願いだからそうだと言ってちょうだいアポロ!!
そうだ、強いと言ってもなんとなれば少年少女の一行であり、恐縮してしまったのならば優しく諭してやろうとクルテマッカを筆頭に思い始めたのだが、レオナの願いも虚しくアポロはそうではないと言ったのでぶち壊しになった。
ティファは強い意志を持って言ったのだ。
「一行全員で謁見することを許可されない限りお断りします。」
クルドマッカ王様の言葉遣いが難しい