勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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決戦前のほのぼの


王城決戦⁉➁

「と、いうのが一行と王達が会う理由の()()です。」

 

ティファの追加の言葉に、一同は残りの二割はもっとすごい深謀遠慮が秘められていたのかと身構えた。

一体ティファはどれだけの事を考えて動いているのだろうか。

 

       「私の自慢の一行を王様たちに自慢したいのです!」

 

はぁ⁉

 

「だって勿体ないじゃないですか!こんなにすんごい一行をただの食わず嫌いで見逃すなんてもう犯罪ですよ犯罪。私なんて世界中に向かって勇者ダイの一行は凄いんだぞと叫んじゃいたいくらいなんですよ!そんな一行を是非知っていただかないと!!」

 

・・・先程とは全く違う変なことをにっこにこ顔で何言っちゃってるのティファは!

バダックとエイミとチウは呆然としただけだが、ティファのある意味の凄さも知っている兄を筆頭に、世界の中心で一行の凄さを自慢しながら叫びあげるティファの姿が浮かんでしまいがっくりとした。

そして気が付けば大笑いをしていた。

 

「なんで笑ってるんですか?」

ティファはまじめに言ったつもりのようで、何故笑われているのかと小首をかしげているのがまたいいと更に笑いが増していく。

 

「いいのいいの、ティファはそのまんまでいてくれればいいから。」

「そうだぜ、やっぱお前はこうでなくちゃ。」

 

兄二人は妹が可愛くて仕方がないと、笑いながら頭をくしゃくしゃと撫でまわす。

 

「そうよ、ポップの言う通りティファはそのまんまでいてくれればいいのよ。」

「ティファさんは素敵な方なのです。」

 

マァムもメルルも笑いすぎて出てくる涙をぬぐいながらティファの側による。

二人は昨日より重症者の手当てをし、怪我人の多さとその悲惨性に心がまいりかけていた。

如何に救えたとはいえ、充満する呻き声と漂う血の匂いが体に染み付いたような錯覚を起こすような地獄絵図と化した場面を明け方に夢に見て飛び起きてしまうほどに。

その暗さを、ティファのあの笑顔が吹き飛ばしてくれた。自分達を自慢の一行なのだ、宝物なのだと力強く言って満面の笑みを浮かべるティファは太陽のようだ。

 

暗い場所から自分達を導いてくれる光を守りたいと思うのはヒュンケルとクロコダインも同じであり、慈しみの眼差しをティファに注ぐ。

 

大笑いがひと段落をしたのを見計らい、ティファが身支度の道具をマジックリングから出し全員に配り始めた。

 

「いつか王様たちに謁見する日が来ると思って用意させていただきました!」

 

満面の笑みで張り切って出されたものは

 

「全員分の歯磨きコップと、この磨き粉を使ってください。

ダイ兄とチウ君はこのブラシで髪を整えて、ポップ兄はロッドをこの磨き粉と柔らかい布で磨いてね。

クロコダインはアックスはさんでるベルトの新品をご用意しました。ベルト交換後にポップ兄が使った粉と布でアックスを拭いてあげてください。」

他にもヒュンケルには今着ている服と同じデザインであっても半そでではなく長袖を着て旅人のマントを脱ぐように指摘をし、マァムも武闘家とはいえ女の子らしいアクセサリ―があってもいいのではと銀の平打ちに桃の花をあしらったかんざしを、メルルも普段着から占い師らしさを損なわないワインレッド色のロングスカートに黒のサッシュベルトを渡す。

一生に一度の晴れ舞台。この日を想定して一行を離れている時にベンガーナのデパートに足繁く通って集めていった物を渡してテキパキと指示を出す。

 

ティファの言葉に一行は直ぐに従い、流石にメルルは隣の部屋に着替えに行った。

ポップとダイは直ぐに身支度が終わり、ヒュンケルも部屋の隅で上着を取り換えただけで終わったのでダイ達と同じくチウの身支度の手伝いに自然と入った。

チウは普段から水浴びをしていて清潔を保ってはいるが、長く伸びた毛はあちこちからまっているので先端からゆっくりとほぐす様にブラシをかけてやらないと抜けてしまうので慎重に進めていく。

 

「その・・ごめんなさい・・」

 

真っ赤になりながらお礼を言うチウに大したことではないと男三人は優しくいいながら身支度を手伝い、戻ってきたメルルにポップはブラシを置いてメルルの下にすっ飛んでく。

 

「その・・よく似合うよ・・」

「・・・どうも・・」

 

ロングドレスがメルルの可憐さを一際輝かせながらも、生来の神秘性を失わない姿に見惚れたポップもチウと同様に赤くなりながらメルルを褒め称え、メルルも蚊の鳴くような声で俯きながらもどうにか返事をかえす。

 

ポップの抜けた場所を支度を終えたマァムが入り、かんざしが良く似合うとこれまたダイとチウ・ヒュンケルに褒められ矢張りマァムも赤くさせた。

 

なんとも良き一行じゃ、儂もダイ君達全員を是非見てほしいと思うの~。

 

老兵の心も打つその光景を見ていれば、ついついと袖口が引っ張られた。

何事かと引っ張られている方を見てみればティファがいた。

 

「料理人殿、どうかなされたかの?」

 

一行に向けていた時とは違った真剣な顔に、バダックは何事かと小声で尋ねる。

 

「エイミさんとバダックさんには謝罪を致したく、もちろん後程レオナ姫様にはむろんですが、恩あるパプニカ一国に泥を掛けるような真似をしてしまい申し訳もありません。」

 

アポロとマリンに厳しく接した事もそうだが、王達の呼び出しを断ったことでレオナ姫の顔に泥を塗ったことを詫びる。

 

「一行全員が良くしていただいている身で、後ろ足で砂を掛ける真似を・・」

「料理人殿。」

 

その謝罪をバダックが途中で止めた。

 

「貴女の判断はすべて正しい、間違っていないのですじゃぞ。

ですから謝罪はこれだけでもう充分、レオナ姫には後程儂から料理人殿のお考えを伝えておきますぞ。ですから顔をお上げなされ。」

 

アポロに厳しく当たったのはティファがアポロの地位を一瞬で見抜き、一軍の将に足るものかを見て、見限った結果であるとバダックは考えている。

 

これから厳しき戦いが待っている時に、甘さの残ったものが死んでしまわないようにと厳しく当たったのだろうと。

エイミにもその考えが良く分かり、ティファの謝罪を快く受けたところに折よくアポロが謁見の許可が出た旨を伝えに来た。

「アポロ。」

 

直ぐに一行を連れて行こうとするアポロにエイミが待ったをかけた。

 

「アポロ、今回の謁見に私・・ううん、三賢者全員が入れないか姫様に許可を貰ってきてほしいの。」

「それは・・いきなりだな。」

「無理を言っているのは承知しているの。でもお願いアポロ、今後の私達には絶対に必要な事なの。」

「分かった、みなさん少々お待ちを。」

 

エイミの急な提案に戸惑いながらも何事かを決断をしたエイミの真剣な表情を見たアポロは再び単身で会議室のレオナ姫の下に向かった。

 

エイミの行動にバダックも驚き何事かと尋ねたがエイミは答えなかった。

 

 

ティファさんの考えは私達では決して言えない、考えたこともない。

 

自分達は確かに魔法のエキスパートで三賢者と呼ばれこそすれ、この一行のように戦場の最前線で戦ったことはなく、人々の危急も救ったことがない。

そんな今の自分達がティファの言ったような自軍の致死率が上がる要因とその対策・誰であっても手を携えて戦い抜き、その先にある平和を謳歌するためにも王達に会うのはその第一歩でしかないのだという壮大な考えを持てるはずもない。

 

自分はティファの外見に驚き先のアポロのように礼を失してしまい、偶々来たポップに助けられただけ。その場の判断を冷静に下し動くという初歩的な事さえできなかった自分が恥ずかしくなるばかりだ。

自分よりも年若いティファは戦場に出て戦い人々を救い、その場におらずとも料理と手紙で一行の心を癒せてしまえる人だ。

 

今も王族の謁見にピリピリしている中ティファだけがのんびりとした表情で身だしなみのチェックをしながら柔らかい声掛けをして一行を和ませている。

 

「ダイ兄達は折角ですから輝聖石が見えるように表に出した方がいいですよ。なんとなれば晴れ舞台なのですから。」

「メルルさんに似合って良かったです。」

「チウ君、大丈夫ですよ。スマイル・スマイル。」

 

ノック音と共にアポロが再び入り、この際バダックも同伴してよい旨を伝えていよいよ謁見と相成った。

 

見てきちんと学びたい。ティファさんがどのような事を王達に言うのか聞くだけでも勉強になるはずだ。

おそらく王達と話すのはティファさんがするはずだ。今も入る順番と挨拶の仕方を歩きながらもダイ達に教えている。

 

「料理人は一番最後で、褒賞の話が出たら任せてもらってもいいですか?」

「別にいいけどティファ何か欲しいものあるの?」

「俺も別にいいぜ。」

「任せるわ。でも何か欲しいものがあるの?」

 

最後のマァムの質問にティファは難問を問われたがごとく難しい顔をする。

 

「まぁ、ちょっと難しいかな?」

「ティファが何かを欲しがるとは珍しいな。」

「おやクロコダイン、私こう見えても強欲なのですよ?」

「あら、ちっともそうは見えませんよ。」

「そうですよ、ティファさんに強欲なんて言葉は似合いません。」

「ふっふっふ、メルルさん・チウ君、狼だって時には羊の皮を被っているものなのですよ!」

 

悪っぽく言ったティファであったが・・・羊の皮を被ったティファが全員の脳何にポンと浮かび、愛らしい声でメェ~と鳴く声までばっちりと聞こえてきてしまった!

一行は先程よりも大きな声で笑いだし、さしものヒュンケルも大爆笑してしまった。

羊の皮を被ったティファの姿はあらゆる意味で凄く、エイミとバダックもダメージを食って笑いをこらえるのに精一杯の状態に陥り、ティファは本人は憮然とした顔で一行を注意するも効果はなく、不思議そうにしているアポロのそろそろ着きますよコールが言われるまで笑いどうしであった。




主人公の欲しいものとは果たして

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