勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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主人公の欲しいものは・・


王城決戦⁉③

扉を叩く音に王達はようやく来たかと少々疲れている。

朝一の会議から始まり、謁見断る無礼な者の怒りから次はこの国の三賢者の同席許可願などバタバタとしていい加減クルテマッカもくたびれているところに待ち人の料理人が到着をした。

 

もしも今までの功績で天狗になっているのであれば罪を断じ、道理の分かっていない子ならば叱責する気満々だ。

 

レオナはティファならば何か意図があるのだと読んでおり、穏健なシナナ王とフォルケン王はティファの言い分ももっともだと頷いて、怒ったのは短気で有名なクルテマッカ王と武の国として有名なリンガイアのアーデルハイド王の両名。

一体会議はどんなことが起きるのか予測不能な流れとなってしまい、レオナは何度も心の中でため息をついていたりする。

 

入室許可を出し、真っ先に入ってきたのは勇者ダイ。

しっかりとした声で堂々と名乗りを上げて中央の程よい距離で止まり、魔法使いポップ・武闘家マァム・戦士ヒュンケル・戦士クロコダイン・戦士見習チウ・占い師メルル。

どうやらお待ちかねの料理人の登場は最後のようだ。

 

ふぅ~ん、なかなか広い部屋で窓が大きいからかなり明るいお部屋だ。

 

円卓会議してるかと思ったら長い・・なんだろう?審査委員会の人が面接するみたいな長いテーブルに王様たち座ってる。

 

真ん中がこの国のレオナ姫で順当だけど、隣に座ってるのベンガーナの王様だ。

反対側の黒髪長髪の偉丈夫の人は-原作-では見た事ない。という事は助かったリンガイアの王様かな?

そのお隣がロモス王で、ベンガーナ王の隣がフォルケン王か。

それぞれの座っているテーブルの位置関係から見るに、パプニカは開催国だからって顔を立てて中央にいて、ベンガーナとリンガイアが今この世界で力のある国なんだ。

 

てことは、私の欲しいものの為にはベンガーナ辺りを攻略しておく必要ありと。

 

ダイ達の挨拶時に必要な情報をサクサクと得たティファは、自分の番となっても()()()()()()()()()()()を崩さずにゆっくりと前に進む。

 

「先程は王達の行為を無に帰すような不敬な行為を働き大変申し訳ありませんでした。」

 

一行の前に歩を進め、中央で歩みを止めたティファは優雅に右手を胸に当てながら謝罪を始める。

 

「またそのようなことを言った者にも寛大なお心を示され謁見願を許可していただいたことに感謝の念が絶えません。」

 

謝罪と共に感謝の言葉を添えて深々と頭を下げる。

 

「初めてお目に掛ります、私は勇者ダイの妹で一行の料理人をしているティファと申します。」

 

目の前にいる少女は何者だ?先程謁見を断ってきた無礼者と同一人物とはとても思えん!

礼儀正しく優雅ささえ感じさせるこの少女が料理人のティファとは!

立ち位置から見て、どうやらこの少女が一行の代表として話を引き受けるようだが。

 

「君が料理人じゃったのか。」

ロモスのシナナ王が早速人懐こい笑みを浮かべて話しかける。

「お久しぶりでございますロモス王、あの折はろくな挨拶も述べずに旅たったことをお許しください。

この場をお借りしまして勇者ダイ一行をお認め下さり有難く。」

「いやいあ、戦い厳しき時に礼じゃのなんじゃのは不要じゃ。それに君達にはそれだけの実力があり、此度も儂が見込んだとおりに・・」ウォッフォン!

 

お互いに長話になりそうなのをクルテマッカが咳払いで遮る。

時間は有用であり、今この時にも魔王軍は動いているのだからサクサクと進めたい。

決して自分が短気だからでは断じてない。

 

「レオナ姫よ、要件に入ってはいかがかな?」

「そうですね、勇者一行の皆さんを呼んだのは他でもありません、この度と今までの功績を称えて褒賞を・・」

 

しまった、シナナ王様お話ししやすいからついつい話し込もうとしちゃった。失敗・失敗。

それでも会議しきっているのは予想通り実質ベンガーナ王か。

欲しいものの為にも腹芸・化かしあい頑張ろう。

 

レオナが褒賞を送ることを伝え終わった時、ティファは発言許可をレオナに求めて許可をされると更に一歩前に出た。

 

「先程は王達に一行の者達と会っていただきたく、些か強引に此度の事は全て一行の手柄のように伝えてしまいましたがそれは間違いなのです。」

「なに、間違いとは?」

 

ティファの発言にクルテマッカがいち早く食いついた。

先程より行動は、全て一行の手柄を誇示したいがためだと思っていたのだが違うのだろうか?

 

「はい、此度の混乱であっても魔法使いポップが人々を避難させられたのは、各国の兵の皆様方がポップを若輩者がと侮ることなく指示に従ってくださったことで滞りなく避難させることが出来たのです。

それをして一行の者達は十全の力を出し切ることが出来たのです。

また人のみならず、逃げ込んだモンスター達を差別される事無く保護していただけたからこそ後ろを気にせずに目の前の敵に集中することが出来ました。

また勇者ダイが敵の本体の中に侵入を果たして撃破できたのは間違いなくベンガーナ軍の方々が敵の本体を暴いてくださったからです。それがなければ長引き一行を含めた全員が苦境に陥っていたやも知れません。」

 

あれがなければ本当に手間取って危なかったかもしれない。

 

「そして一行の占い師メルルの知らせがあったとはいえ、間に合うことが出来たのは敵の巨大さにも怯まず逃げずに踏みとどまって戦われた兵や騎士の皆様方のおかげなのです。」

 

鬼岩城を前にしたら兵も騎士も一般の人と変わらないのに逃げなかったのは勇気ある行為だ。

 

お茶を飲みながら聞いた話でも、各国の兵達の手際の良さ、如何に果敢に戦っていたかなどの話もポップ兄達から沢山聞こえてきた。

これ無視して今回の一件を私達だけの手柄でございなんて言ったら馬鹿でしょ。

 

王達は心底本気で驚きを隠せなかった。

礼儀正しいだけの子供ではなく、観察力・考え方・手柄の評価の心得、どれ一つとっても子供らしくなく、まるで自国の官僚と話しているような錯覚さえ引き起こさせる。

 

自分達の戦力では戦の役には立たないのかと内心では忸怩たる自分達の思いを知ってか知らずか、褒賞を与える側から思いがけなく励まされて面映ゆくもなる。

「それはそれとして、敵の撃退をしたのはまさしくそなた達なのだ。」

 

クルテマッカの声からも刺々しさが完全に無くなり、優しい声で褒美は何が良いと問われて、ティファも少し困った顔で笑いベンガーナ王に目を向ける。

 

その困った笑い顔にどこか見覚えあるとクルテマッカは首をひねる。

そうだ、あの顔は先の大戦の褒美は何がいいと-勇者アバン-に問うた時の笑みだ!

大戦が終わりずいぶん経った後、各国を回って自国に来た情報を得て宿屋に兵を向かわせて強引に登城させた時に見た笑みだ。

 

あの時は褒美は二の次で自国に仕官をしてほしかったのだが、今のティファのように困った笑みを浮かべていた。

黒縁眼鏡をかけて。

 

「料理人よ!その眼鏡まさか先の勇者アバンのものか!!」

 

クルテマッカの興奮した発言に、シナナ王達もようやく気が付いた。

今ティファがしている不釣り合いな黒縁眼鏡が元々-誰-のものだったかを。

 

「其方はアバンの弟子か?」

そこから導き出された答えをクルテマッカはティファに問う。

その眼鏡は亡き師の形見であり、ティファはアバンの弟子なのかと。

「いいえ王よ、私は彼の人の弟子ではありません。」

自分は違うと答えた後、爆弾発言が落とされた。

 

「彼の方の弟子は、勇者ダイ・魔法使いポップ・武闘家マァム・そして。」最後の一人は

  

         「アバンの長兄は()()()()()()()です。」

 

何だと⁉

 

ティファの言葉に会議室が一気に沸騰をした。

戦士ヒュンケルといえば、元とはいえ魔王軍に与した世界の大罪人ではないか。

その罪人が選りにもよってあの勇者アバンの弟子だと!

 

激高したクルテマッカは椅子から立ち上がりまじまじとヒュンケルを見つめる。

こちらの威嚇をものともせずに、静かに見返す紫の瞳は穏やかであり本当にこの者が元魔王軍の軍団長だったのかと疑いたくもなる程の青年だった。そして胸元にあるのは世に名高いアバン手作りの輝聖石か!

そしてもう一人の裏切り者と言われているクロコダインに目を向けてもヒュンケル同様の穏やかな雰囲気をしていた。

 

「王達よ。」

 

ティファの静かな声が、ざわつく会議室に凛と響く。

 

「確かにヒュンケルはアバンの弟子でありながら一度は闇に落ち道を踏み外し人類の敵となりました。

しかし過日ある戦いにおいて一行に敗れ、闇にいる愚かしさを知り、その後の戦いにおいて一行を助けてレオナ姫の命をも救いました。

そのレオナ姫より裁可を下され償う道を歩くことを指し示していただき、今はその道を歩いている途上なのです。

昨日の戦いの最中、敵の大幹部より軍に戻ることを強要され命を脅かされながらも彼は光の道を歩くのだと宣言をしたのです。

故に各国の王達も、寛大なお心で何卒この者達が償う道を歩く許可を。この者達の償いがどの様なものであるのか長い目で見ていただきたくお許しを。」

 

一言の下に言いきった後、ティファは深々と頭を下げ、後ろにいるダイ達も泣きそうな表情で無言ながらも王達に願った。

ヒュンケルもクロコダインも最早自分達の大切な仲間なのだと。

 

 

「レオナ姫、元軍団長であったヒュンケルとクロコダインを許したというのは?」

「はい・・料理人ティファの言う通り、償う道を歩くことを条件に。」

 

これもティファの思惑の一つだろうか?

まさか眼鏡一つで複雑で込み入ったあの浜辺での裁可話を引っ張り出されるとは思ってもみなかった。

 

レオナはティファの手腕に舌を巻く。

これでヒュンケル達が勇者一行の後押しを、パプニカの公的認可なのだと確約をされたのだから。

しかしティファにとってはこれはまだまだ序章であり、褒賞話前の下準備がようやく終わったに過ぎない。

 

クルテマッカは落ち着きを取り戻して席に座り直し、レオナ姫以外の王達と協議に入る。

両名をこのままなし崩しではなく、自分達公認の下で勇者一行として認めるか否かを。

 

その答えは時間がかかるかと思っていたティファの思惑とは裏腹に案外すんなりと出た。

王達にとっては罪人が野に放たれるよりも、ダイ達と共に最前線で戦ってもらう方が建設的で見張らなくて済むからだ。

とは言えどのような思惑なのかはティファには関係ない、公認が取れたという事実が大切。

以外と王達のヒュンケル達に対する心象が悪くないことを指しているからだ。

 

「今後も一行のために働くと?」

ヒュンケルへの問いはリンガイアのアーデルハイド王から出た。

物事をまっすぐ射貫く力強い瞳に気を持っていかれそうになりながらもヒュンケルとクロコダインは恥じることなく顔を上げてしっかりとアーデルハイド王の瞳を見て答える。

 

「はっ、それが世界に対する償う道となると」

「我ら両名はこの素晴らしき一行を命を賭して守り抜き」

「「ともに世界を守りたく存じます!」」ピクリ

 

・・・命を賭したらだめでしょ!

 

周りを感動させるヒュンケル達の発言だが、一人だけティファが怒りの気配を漏らしてしまい、百戦錬磨のヒュンケルとクロコダインだけがそのことに気が付き冷や汗を流す。

 

今のはものの例えであり、実際は石にかじりついてでも死ぬ気はないのだときちんと話さねば!そうでないと説教の雷が・・それこそバランのギガデイン並みの恐ろしいものがティファより降ってくる!

 

ヒュンケル達の宣言は、ロモス・テランのみならずベンガーナもリンガイアからも概ね良好な反応を返されこれで一息つける。

 

さて矢張りそれはそれ、褒賞は褒賞と話は続く。

 

だが肝心の褒賞の話に入ると途端にティファの歯切れが悪くなる。

「あります・・ロモス王とレオナ姫に少々無心の義が・・しかし少し難しい事かと・・」

「言ってみよ。」

「・・いただければ我ら一行の者達はそれを励みにして一層働きが出来るものなのですが。」

 

聞いたクルテマッカは次第に苛立ってきた。

欲しいものがあればいうだけ言えばよいものを!それをいいか悪いかの判断をするのは自分達である!四の五の言わずにサッサというがいい!

 

「料理人よ!欲しきものがあれば言ってみよ!それがそなたたちの力となり世界の助けとなるならばベンガーナは反対をせん!!」

 

言った!!ベンガーナ王は確かに反対しないって言った!もうその言葉撤回させないんだからね!

 

「では!改めましてロモス王とレオナ姫にお願いがございます。」

「なんでしょう?」

「うむ、言ってみなさい。」

「はい、パプニカには戦士ヒュンケルと獣王クロコダインに償いの道を示し許した旨を今この場にて書式にしていただき、ロモスには大戦終了時の宣言を自国民でされるときに、獣王クロコダインの功績をもって罪を許す旨を発表していただく事を書類にしたためていただきたくよろしくお願いします!!」

本命はこれだ!さあこの褒賞通してください!!

 

何だと⁉なんというとんでもない事を言うのだこの娘は!

財貨でも武器供給の類でもなく、とんでもない要求を突き付けてくるとは!!

ティファの褒賞要求に会議室はハチの巣をつついた騒ぎになった。

 

パプニカのレオナ姫がヒュンケル達を許した経緯も知っているために敢えて口出しはしなかった。

それは口頭だけの口約束だからであり、正式な書類はなく何か不都合が起これば容易に反故出来る事だからだとふんだからだ。

 

冗談でない!この二通の書類は-少し難しい-どころものではない!

この場には王のみならず各国の重臣たちも随行員として同席しており、この場で成されたことは全て公のものとなる。

その場で今言ったような書類を作成してしまえば世界の大罪人を各国の王達が許したのだと公認したことになり、それを不都合だからと大戦後に反故しようものならばきっと勇者たちが騒ぎ出し、救国の勇者達を騙したのかと民衆たちも騒ぐだろう。

 

世界の大罪人を許すかどうかを今この場で答えを出せというのか!

財貨を欲するよりも大それたことを抜かしおって!

 

反対をしたいが自分は口出しをしないと言ってしまった自分のうかつな発言に、クルテマッカは臍を噛む。

先程なぜ自分は短気を起こしてしまったのだ!




褒賞の行方はどうなるか

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