勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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なんかのフラグたてのような


王城決戦⁉最終章➁

武人肌の熱い人だと一目で感じた。

それこそクロコダインを若くして情熱的にしたらこんな感じなんだろう。

それでも私はアキームさんの感謝の言葉の嵐を全部受け止める。

()()()()()()()()きちんと教えてくれたことに感謝をして。

 

良い事は、あの戦いでの死者が誰もいなかったこと。みんなぎりぎりで助かった事。

 

あんな大規模な、それこそ自分達が想像していた事を遥かに超えた戦いで死者が出なかったのは奇跡に近い。

あの神の加護のような地上がいきなり泥状化する事態がなければ確実に数百人の犠牲は出ていた。

その神の加護のようなことがあっても、料理人のティファの薬の支援がなければ傷が元で大勢のものの命が失われていたのだとアキームはティファの手を両手で惜しい抱き涙ながらに感謝の言葉を述べ続ける。

 

他の者にとってはアキームの言葉は全て良きことと受け取るだろうがティファは違った。

 

「沢山の人の・・手・足が・・」

 

それはぽつりとした一言で現れた。

 

その言葉はとても小さく、それでも確かに聞こえた言葉にアキームは延々と述べていた言葉を止めてティファの顔を見れば泣いていた。

 

そんなに大勢の人達が、これから先一生涯の傷を負ってしまった!

私・・自分達だけの褒賞を考えててその人達の事全く考えてなかった!

 

ずるい・汚い・最低だ!

 

薬を届けただけで人々を救った気になった己の心根の低さに唾棄し、傷ついた者たちのこれからの苦難に思いがいき苦しくなる。

 

だから・・戦なんて嫌いなんだ・・

 

人が訳もなく傷つき、最悪死ぬか助かっても一生涯の傷を負ってしまう戦なんて大嫌いだ。

 

・・完全に子供の理屈かもしれない、甘いだけの戯言かもしれない

だって自分はこの大戦のある程度を知っていても世の人に警告をしなかった。

しても相手にされないどころか早々に魔王軍に目を付けられると困るからという自己保身の為に。

 

全ての事に対し、申し訳なくなりティファは悲しみと悔恨の思いで涙を流す。

まるで迷子の子供のように。

 

「料理人殿。」

 

その涙を、アキームは美しいと思った。

他者の為にここまで心を砕く少女が愛しいとさえ思う。

まだ年端もいかなく、もしかしたら自分の年の半分もない少女に心惹かれ、片膝をついて少女と同じ目線になり微笑みかける。

 

「料理人殿、我らは兵士はその任に付いたときから命を失うかもしれない覚悟を背負っているのです。

此度の戦いでも彼らは誰一人として背中の傷はなかった。」

 

それはすなわち誰一人としてあの強大なる敵に怯んで逃げなかったことを意味する。

 

「我らは人々を守る盾であり敵を打ち破る剣なのです。嘆かずに褒めてやってください、その身を掛けて大勢を守りし彼らを。」

 

アキームはごく普通の事を言っているに過ぎない。この世界において死はすぐそこにある身近なもので、死を免れたことは幸運である。その為に手・足が欠損し、本人が一時嘆くことがあっても、ティファのように涙を流して悲しむ者はいない。

その証拠にダイ達も悲しい顔こそすれ心優しいマァム・メルル共にティファのように泣いてはいない。

 

それでもティファはそれを飲み込むことが出来ない。

この世界において、ティファの考えこそが異質。

それは甘い戯言・子供の考えだと捉えられる考えだが、実際に彼らの手足を斬って治療をしたアキームの冷え切った心を温めてくれた。

 

生き残らせるためとはいえ大勢の部下や同僚・他国の兵達の日常を潰す行為に百戦錬磨のアキームの心にも暗い影を落とそうとしていた。

明け方近く眠れたが、夢の中でも死に瀕した者の手足を斬り続ける夢に飛び起きた。

夢の中の斬られた者の恨みの言葉が耳について離れなかった。

そんな中一筋の光のような知らせが飛び込んできた。

 

勇者一行の料理人のティファが、新たな薬と真新しい包帯と大量の毛布を差し入れてくれたことを。

未明にやってきた奇妙な少女は名乗り、昨日と同じようなマジックリングを大量において行き、勇者一行の名を聞いた若い兵たちが昨日の自分達の不甲斐無さをこぼした時に料理人が吠え上げたという。

 

昨日の勝利は勇者一行だけの勝利にあらず!

前線で逃げずに留まり、大勢のパプニカの人々の為に命を掛けた貴方方がいたおかげなのです!

何故そのことを誇らないのです!

貴方方は勇者一行やこの国の人々に感謝されこそすれ俯く理由がどこにあるというのですか!!

 

その言葉にその場にいたもの、伝え聞いた自分達の心を救ってくれた。

料理人は未明に来たという。それは王城に赴き仲間に会う事よりも自分達を優先して見舞ってくれたのだ。

見ず知らずの自分達のみを案じてくれて、そして肩を落とした自分達に力強くも優しい言葉で叱責をしてくれた料理人に礼をしたくて礼節も手続きも全て吹っ飛ばして会いに来た料理人のティファは、とても小さく心優しい少女だった。

 

あの言葉と同じなのです、我らは大勢を守り抜いたことを誇りに思います。

だから泣かないでほしいのです。

 

常のアキームを知るクルテマッカは少しばかり驚くが無理からぬことだと思った。

極限の状態を救ってくれた相手が、これほどまでに心優しき少女だとは思っても見ず、全武人達が惚れ込んでもおかしくは無いだろうと。

歳など関係ない、その心に惚れてしまったのだろう。

 

そんなアキームにほっこりとした視線はたった一つで、残りは見ないようにしながら真っ赤になる意外と純なエイミや朴念仁のアポロ等や、大人の対応で見ない振りをしてくれている王達の他に、殺気を込めた視線が三つ!

 

背中がぞくりとしたアキームは首がそこまで回るのかというほどの曲げ方をしてその視線の先を見た!それでもティファの手を離さなかったのはすごい事だ。

しかしその凄い行いが、妹愛してますの兄と妹可愛いぞの兄とティファを慕いまくっているアバンの長兄の怒りをさらに買う羽目になった。

 

お礼を言うのは別にいい、しかしだ!いつまで手を握っている!!甘い雰囲気なんて出してるこいつは消してもいいよね、文句ないよね!

 

「ティファ、いつまで男の人の手を握ってるの?」

 

ダイは注意という名の警告を妹に発する。さっさと解かないとお仕置きだよ?

 

目も笑い、もの柔らかく言っているが兄の怖さをよく知っている妹は騙されない。

騙されないが、今回はティファは首をかしげて怒っている男性三人をつぶらな瞳でじっと見る。

 

なんでみんな怒ってるの?

 

無言の純粋な問いに、野郎一同はがっくりとした。

天真爛漫なダイでもアキームがティファに一目惚れしたのに気が付いたのに、なんで秋波送られた当人が全く気付かないんだ?

 

まぁいいか、つまるところティファはアキームを何とも思っていないのだからとダイ達は気を取り直して妹にこっちに帰ってくるように促す。

そろそろ謁見をを終えて、全員で休みたい。

 

「勇者一行、特にダイ君達に尋ねたいことがある。」

 

その休みの願いに待ったが入った。

入れたのはテラン国のフォルケン王で、とても真剣な表情を浮かべていた。

 

なんだろうフォルケン王様が・・私達・・ダイ兄に尋ねたいことってまさか!!

 

普段温厚で有名なフォルケン王が、ここまで厳しい表情を浮かべて勇者ダイに尋ねたいことは一つしかない!

 

フォルケン王の考えに辿りついたティファは、アキームの手を解きフォルケン王の言葉を止めようとしたが間に合わなかった。

 

「先のテランの戦いにおいて、攻めてきた魔王軍団長がそなた達の父だというのは事実であるか?」

・・・最悪だ




戦いとは違う主人公の受難は続きます。

この場をお借りして竜聖炎武さんに感謝を述べさせていただきます。

筆者はベンガーナの王をクルドマッカだと思い表記してきましたが、原作ではクルテマッカが正しいとのご指摘を受けました。

これまで違和感を感じた方や、ずっと間違いを指摘したいと思っていた方たちもおられると思います。

原作の設定を変えないようにしてきましたが、魔法表記や人名間違いなど幾度も表記してしまいながらも応援してくださる皆様方に感謝とお詫びを述べさせていただきます。

これからも注意していきますが、誤ったことがあればご指摘をいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

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