何をどこまで言っていいものか。
無論父さんの素性と母さんの素性。これに関しては母さんの事はヒュンケルが生前のラーハルトから聞かされていたから情報はあると言える。
魔王ハドラーの時に何をしていたのかもこれもラーハルトが教えてくれたで大丈夫。
問題は、私と父さんたちが幼少期の私とどう絡んだかをどこまで話せばいいんだろう。
父さんが魔王軍落ちした理由と、あの三人が人間を憎悪した理由は話せる自信があっても・・あの人たちの出会いは・・
「なんと!竜の騎士とはそのような凄き者なのか!!」
「なぜその様な者が魔王軍になど・・」
父さんに対しての予備知識としてフォルケン王様が父さんの正体と竜の騎士について王様達にレクチャーしてくれてるみたい。
「兄・・皆・・いってくるね・・」
言ってくるのか、行ってくるのか・・
足取りは軽く、心は重い。だってこれからするのはたんなる説明なんかじゃない。
この場にいる人・この世界の大半の人達はきっと知らない、私はこれから自分の罪を辿りに行くんだ。
それは果てしなく長く壮大で途方もない話
ティファは父親の正体とその使命故にハドラー大戦と時を同じくして起こった魔界での騒乱の話から始めた。
-竜の騎士バラン-が戦った相手は、時折迷宮に眠っている古文書にちょくちょく出てくる冥竜王・ヴェルザーであり、もしかしたら今戦っている大魔王バーンと同等の力の持ち主かもしれないことも紹介をして。
強大な敵を相手に五年もの歳月をほぼ一人で戦い抜き、遂には天界の力を得て封印したことを。
倒したのではないのかというクルテマッカにティファはきちんと補足を入れた。
彼の冥竜王は死しても輪廻の輪を素早くくぐり、何度でも冥竜王として復活できることが古文書に記されていたと。故に倒しきれず、封印が精一杯だったのだろうと。
文字通り戦いに明け暮れた瀕死の男を救ったのが運命の女性となるアルキード国王女ソアラであり、得られた幸福とその後の非業の最後の顛末までをティファは声を震わさないように話した。
聞くうちに優しきシナナ王は無論、クルテマッカの瞳にもうっすらと涙が滲み始めた。
命をかけて戦いし一人の男の、その時の無残な結果を思うとどれ程の無念であったか。
守った人間たちから感謝されるどころか理不尽な疑惑も迫害も、どれほど心を踏みにじられたのだろうかと思うだけで申し訳ない気持ちが湧き起こる。
竜の騎士は地上を守ったが、愛する女性と子供たちと引き裂かれた。
最愛の妻は自分を庇い死んでしまい、子等は嵐の中行方不明となり、人間に絶望した竜の騎士は血を吐くがごとく人間なぞ守るのではなかったと叫び上げて魔道に堕ちてしまった。
彼の竜の騎士を魔王軍に堕とした責任の一端が人間にあるのだと、神にでも言われればその通りだとしか言えない業の深い話であった。
いたい・・いたいよ・・・でも・・まだぜんぶじゃない・・
父バランの半生を話しただけでティファは胸が潰れる思いがする。
何時かの様に、父の半生を自分は見捨てたのだと思い知らされる。それでもまだ全部を話しきったわけではない。
竜の騎士と同じく許されるわけではないとティファは前振りをしながら、あのテラン戦で分かったガルダンディ―達の半生から話していく。
彼等だとて元から魔王軍にいたわけではなく、ガルダンディ―とボラホーン・ルードは人間との土地争いが原因で一族全てを殺されてしまったことを、ラーハルトは半魔故に幼き頃に人間達から迫害を受けて死にそうにまでなったことを。
それぞれが竜の騎士バランに助けられ魔王軍に入ったことを。
「それでも・・あの三人は私とリュート村の子供達に好意を持ってくれたのです。」
ガルダンディ―なぞは村の女の子のニーナに、魔王軍の襲来を詳しくでなくとも情報を漏らして村の誰かが他国に出ていって巻き添えを食わないようにと警告を発するほどに。
そう・・あの人たちは・・・本当はやさしくて・・・だから・・はなさないと・・
「もうよい!」
ティファがガルダンディ―達との出会いを、彼らが本当はどれ程優しくリュート村の人々を大切に思っていたのかを語ろうとしたその時、鋭い声が話を止めるように割り込んできた。
「リンガイア王・・」
止めたのは今までの全てに口を挟まなかったリンガイアのアーデルハイド王だった。
「料理人のティファよ、そなたの話はよく分かった。彼の騎士がなぜ魔道になぞ堕ちてしまったのか。
私は勇者ダイと料理人のティファ両名の父親である竜の騎士バランに、ヒュンケルとクロコダインに対してロモス・パプニカ両国が与えたような許しの猶予を与えてもよいと考えるが他の王達はどうか?」
結論を早急に出す様に促すアーデルハイド王の言葉に、いち早く返答をしたのはパプニカのレオナ姫であり、ロモスのシナナも、ベンガーナのクルテマッカも続くように許しを口にした。
バランの話はそれ程までに凄絶であり、彼の魔王軍入りの一端を担ってしまった同族としては、裁く権利が自分達にあるのかと思わされるほどだった。
そのバランが先の戦いで二度と人間と戦わないと言ったというのはまさしく僥倖である。
己の罪を償う道をヒュンケル達同様に行くというのならば、自分達が口を差し挟める権利もないのだと口に出して言いたいほどであった。
だが自分達にも守るべき国があり民達がいる。
その守るべき者達を脅威に晒した大罪人をそこまで手放しで言うわけにはいかず、許しの機会を与えるというのが精一杯であった。
占領されたカール程ではないにしろ、パプニカ・ロモスの様に攻められた国の王が許しを与えたのだからと追従する形となったが、それでも許しを出せたことに王達は何処かホッとした気分になれた。
もしもアーデルハイドが今の話を聞いても許しの言葉を発しなければティファ達の願いは永遠にかなわなかっただろう。
ヒュンケル達同様に、許しの機会を与えられたとポップ達は先程の様に泣き笑いしながらダイを揉みくちゃにして喜び、すぐにティファの下に駆け寄ろうとした。
ティファの望みがこれですべて叶った、否!思いもよらない願いが叶えられたのをきっとぐしゃぐしゃに泣きながら喜んでいるだろうと考えたポップが走り出そうとした矢先にまたもや止めが入った。
「料理人のティファは先程まで居た部屋に戻るように、残りの勇者一行は会議室に残ることを提案する。
よろしいかなテラン・フォルケン王よ。」
アーデルハイドは提案を何故か世界会議主催国のパプニカや、主導権を握っているベンガーナでなく、ダイ達を勇者一行に認定したロモスでもなくテランのフォルケン王に提案の同意を求めた。
それを受けたフォルケン王は沈痛な面持ちでアーデルハイドに了を応え、残りの三か国に頭を深々と下げティファを下がらせる事を頼み込んだ。
自分が良かれと思い仕出かした事の愚かしさを呪いながら。
キツネにつままれた思いがするが、両王の真剣な提案をレオナ達も受けティファに下がり、ダイ達に残るように命じた。
その時のティファの顔は俯いていて分からなかったが一礼をして部屋を出る時、何故か一行を避けるように遠回りをして別の扉から出て行った。
よろけるように・・まるで逃げるように足早に去っていったのは何故なんだ。
ダイ達はティファの異変を察して心配になり、後を追いたいが話があると残されてヤキモキとする。
一体ティファに何が起こったのか?先程まであれ程ヒュンケル達の事で喜んでいたのに。
ダイ達はアーデルハイドが何のために自分達を残したのか全く分からず、レオナたちもアーデルハイドとフォルケンの考えが分からずに困惑をしている。
少しして開かれたアーデルハイドから出たのは意外な一言であった。
「料理人のティファは勇者一行から離脱させ、故郷であるデルムリン島に返した方がよいのではないか?」
いたい・・いたいよ・・・ごめんなさい!たおして・・・そんなことしかできなくて・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・
許しは貰えど、罪は重くのしかかり
今夜はここまで