王達から謁見終了の許可を得たダイ達は走って待機していた部屋へと戻っていった。
会議室に残った王達やレオナ姫は沈痛な面持ちでその足音を聞く。
何故、どうして彼女ばかりが苦難を背負い込まなければならないのか理不尽さに憤りながら。
部屋に着いたダイ達が見たものは、泣いた跡が残るティファの寝顔だった。
泣き疲れ眠っている。辛くても笑い、自分達には決して泣き顔を見せないティファ。
強くなんてない、ティファは決して強くなんてない。
ただ強者の振りをしている女の子だと思い知らされる。
「馬鹿・・ティファの馬鹿・・」
たった一人で何もかもを背負おうとする妹に、ダイは泣きながら手を握ることしかできない。
起きた時のティファは-いつも通り-にしようとするのが目に浮かぶ。
笑って、料理を用意してくれて、なにくれとなく自分達の面倒を見てくれる-料理人-として。
辛い心なんてないようにしようとするティファ。
それでもティファを一行から抜け出させる事が出来ない。
リンガイアはカールと並び、多くの優秀な武人・騎士達を擁している武の国。
その国の王たるアーデルハイドからすればティファの今の姿は戦士として映らなかった。
如何に親しき者であっても世に仇なす敵に変わりはなく、魔王軍を打ち倒すことこそが勇者一行の本懐である。
それを割り切れずに戦いからずいぶん経っても心に影を落としている今のティファは危険な状態だ。
本来の強さで今は戦場で活躍できていたとしても、心の影に引きずられいずれ命を落としかねない危うさが見て取れた。
「今ならばまだ間に合おう、あの者は戦いには全く向かん。故郷のデルムリン島に帰すべきだ。」
それはかつてバラン戦後にクロコダインが感じた事と全く同じことをアーデルハイドが今再びダイ達に指摘をし、ティファを島に帰すように忠告をする。
勇者一行の者を魔王軍が見逃さないという危険も考慮して騎士団の中から出せるだけの精鋭達を選りすぐり、今この場で各国の王達と護衛の協議をしても良いとまで言ってくれた。
テラン王も忸怩たる面持ちでクルテマッカとシナナ王に協力要請を持ちかける。
自分はただ、ダイ達の親子関係と料理人の知り合いが魔王軍であっても、一行に二心なく世界を助けるために戦っている事を証明させてあげたかっただけだった。
それがティファの心を土足で踏みにじり、傷を再びこじ開けるようなことになろうとは思ってもみなかった。
心の傷を抉られながらも、ティファは気丈にも泣かずにこらえようとしていた。周りに気がつかれないように。
その証拠に後ろにいたダイ達は無論の事、前にいたレオナ・クルテマッカ・シナナ達は気が付かなかった。
数多の戦士たちを見てきたアーデルハイドと、かつて己の失策に心の苦しみを味わい今でもティファと同じ心の痛みを抱えているフォルケンだけが、微かなティファの変化に気付けた。
このままではこの子供は死んでしまう。良き心を持ち、優しさにあふれたこの娘を死なせないためにも一行から離脱させるべきだ。
レオナもアーデルハイドの言っている事に納得をした。
ティファは確かに強い。それは先のテラン戦を目の前で見ていたのだからよく知っている。
だがそこで見たのは力だけではなく、ティファの心が傷ついていくさまも見ている。
どうして忘れていたのだろう、あの時の悲痛な叫び声をあげていたティファを。
涙を流していたあの時のティファの事を。
その傷にアーデルハイドが気が付きティファの事を守ってくれると素晴らしい提案をしている。
アーデルハイドとフォルケンの提案をレオナ達は了承をするとダイ達に伝えようとしたが、ダイ達の様子も変わっていた。
「どうしたのですか勇者ダイ。」
俯き何かを堪えようとしているダイ達の姿は先程のティファと重なった。
「姫さん・・もうその手は使えねぇんだよ。」
レオナに声を掛けられたダイの代わりにポップが代わりに返答をする。
「ティファはもうデルムリン島に帰してやれねえんだよ。この大戦の決着がつくまで。」
ポップの返答はレオナ達にとっては意外であった。
ティファがバラン達との話をしている時、一人で退出をした時、全てにおいてティファの一挙手一投足を案じて見ていたダイ達ならばこの提案を喜んで受けると考えていたからだ。
エイミやバダックも、ダイ達がいかにティファの事を思い愛しているかを知っているだけに、ポップの言ったことが信じられなかった。
ダイ達だとて王達の提案を受けたかった。
如何にティファが嫌だと言ってもこの場の総意であると押し切りデルムリン島に帰したいと。
「それは料理人を戦力として考えての事か。」
ティファの心が弱いと言っても腕は一流の戦士である事には変わりなく抜けられるのは確かに痛手だ。
ならば自国の氷の勇者ノヴァを付けようとアーデルハイドが提案をしようとしたその前に、ポップはため息のような声でそれは違うと否定をした。
「戦力を考えての事じゃありません。」
強さならばダイとヒュンケルがおり、作戦・魔法は自分がいる。
武闘家マァムもクロコダインも強さを確実に付けておりそして今は各国の戦う者達が一丸となって魔王軍に立ち向かおうとしている。
その為に戦力の心配はしていない。
それでもティファを帰せないのには訳がある。それも深刻かつ解決できない事。
それはティファがティファとしてあり続けたせいだ。
ポップの謎かけのような言葉に周囲はいよいよもって疑問が深まりざわめきが増していく。
言ったポップ本人だとて、他の者が同じようなことを言えば何だそれはと一笑に付しそうな訳だ。
その者がその者であり続ける事は生きている限り当たり前であり、戦いから抜け出せない理由と全く結びつかない。
それでも、これはティファだからこそ起こってしまった理由なのだ。
自分達もテラン戦直後にはティファを島に帰そうという話が出たが、ティファは一行が危機になれば察して飛び出してきかねない。
実の父で地上最強の竜の騎士と分かってもバランに一歩も引かずに戦い抜き、鬼岩城戦が起きた時もティファは少しの情報から敵の襲来を予感をして伝書鳩を送ってきた程だ。
それを考えるだけでもティファを戦場から遠ざけることは難しい。何よりティファ本人が承知しないだろう。
仮に嫌がるティファをルーラでデルムリン島に連れ帰ったとしても、ティファは自分の力で島を出ていける。
空飛ぶ靴を取り上げ育ての親のブラスにティファにキメラの翼を渡さないように言っても、ガルーダという大型鳥獣モンスターがいる。
幼き頃より共にあるせいか、ティファが頼まないとティファと同じくモンスターの言葉を解し仲良くなれるダイですらも背に乗せないガルーダはティファの言う事しか聞くことはない。
おそらく自分達がティファの為だと言ってもティファ本人が本気で頼み込めばガルーダはティファを乗せてきてしまうだろう。ティファの切なる願いをかなえるために。
皆を守りたい
自分の知らないところで一行の者が傷つき、自身は安全なところで守られている事をティファはそれこそ泣きながら怒り、絶対に言う事を聞かないと怒鳴り上げる姿が目に浮かぶ。
ならば自分達がさらに強くなり、ティファがいなくても大丈夫なのだと、怪我を追おうとも生きて勝ち残れるのだと証明してティファが安心をしたとしても、矢張りデルムリン島に帰すことが出来ない。
ティファ自身が島に帰っていいと言ったとしてもだ。
長くなりましたので今宵はここまで。
この場をお借りして、新規の方の感想から誤字の酷さを指摘され、改めて誤字報告をまじめに見たところ自分でも驚くほど酷い有様でした。
真面目に一つずつ直させていただき、半分ほど終わりもう半分も早急に直させていただきます。
あらためて誤字の酷さにも我慢をして読んでくださる皆様に感謝させていただきたいと思います。
読みやすくなったと思いますので、読み返していただければ幸いです。